015.暴漢②
対峙する男たちとの距離は、踏み込み3〜4歩といったところ。
相手は戦いの素人。
しかし、魔法で身体能力を強化して攻撃してくるため油断ならない。
――ナノマシンスーツや銃があれば楽勝。
だが、丸腰と覚えたての不慣れな魔法が、どこまで通用するかわからない。
幸い、男たちは高い跳躍力を見て、明らかに警戒している。
攻めるなら、今しかない――。
クシードは即座にミルフィからスナッチで魔力を補い、疾走。
左右へ素早く軌道を逸らしながら、一気に間合いを詰めた。
「――ッ!」
男の1人が腰に手を伸ばした。
何かを隠し持っている……、ナイフだろうか。
クシードは腰に手を添えた男へ狙いを定めた。
蹴りを放つ。
その瞬間、もう片方の男に標的を切り替えた。
――フェイント。
それに、ただの撹乱ではない。
「――ハァッ!」
クシードの脚は、男の顎を鋭く打ち上げた。
「う、ぐぅぅぅ……」
急所への一撃。
男は悶絶し、怯んだ。
――ダメだ、浅い。
身体能力強化魔法の出力が足りなかったのか、決定力に欠ける。
「調子に乗んなぁぁぁ!!」
蹴り出した脚を掴まれた。
クシードの身体は宙を舞う。
――しまっ……。
――ズドンッ、と鈍い音が響き、石畳の路盤を叩きつけられた。
「ガハッ……」
衝撃で路面は割れた。
全身を駆け巡る鈍痛。
視界が白くチラつき、思考が霞む。
だめだ……、身体が……。
冷たい汗が全身を包んだ。
「痛えかぁ? じきにキモチよくしてやっからな」
「そうだぜ、仲良くしようぜ」
息切れした声で男たちは、嘲笑いながらゆっくりクシードに近づく。
――やはりコイツらは戦いの素人だ。
全身がビリビリと痛むが、動けないわけではない。
勝機はある。
クシードは地面を叩いて、瞬時に跳ね起きた。
「――なッ!」
男たちが反応するその前。
足音から相手の位置を頼りに、拳を突き上げた。
股間へ向けた、渾身の左ストレート。
「がぁぶぇぇぇ……」
身体能力強化魔法の効果を乗せた一撃は、男を吹き飛ばした。
男は嗚咽をあげながら、地面をのたうち回る。
――あと1人。
残った男を睨む。
コイツは、ナイフを隠し持っている可能性がある。
クシードは一瞬で背後へ回った。
「クソ女がッ!」
警戒した男は、距離を取る。
「てめぇは殺してやるッ!」
男は腰に手を回す。
しかし、そこにあるはずの物が無いことに気づくと、戸惑いの表情を見せた。
「これやろ? 探してんのは?」
クシードの手にはナイフ。
背後に回った瞬間、奪われていたのだ。
男の目が驚愕に染まる。
「な、なにィィィー、いつの間に……ッ!」
「さてさて、オレは優しいんやで〜」
ゆっくりと、クシードは男にナイフを向けた。
「誰も見てへんし選ばせたるわ」
「な……、何をだよ」
「死ぬか、それとも殺されるかや!」
「ひぃぃ!」
クシードの眼光は月夜に冷たく光る。
殺気。
男の腰は引け、膝がガクガクと震えていた。
「殺される覚悟があるから、殺す言うたんやんなぁーーッ!?」
「お、お、俺はぁぁぁーーーッ!!」
クシードが距離を詰めた瞬間、男は逃げ出した。
「オイッ! 忘れモンやッ!」
持ったナイフを投げる。
「ぐわぁぁぁ!」
美しく放物線を描き、ナイフは男の太腿に突き刺さった。
「……フゥゥゥーーー……」
クシードは肩で深く、荒い息を吐く。
地面に叩きつけられる瞬間、身体能力強化魔法で背面を強化していた。
ダメージは軽減できている。
だが、気を緩めると全身がじわんじわんと軋む……。
「……危なかった」
勝ててよかったと、ようやく安堵した瞬間――。
「せ、せ、背中……」
ミルフィは震える声で、クシードの服の裾を引っ張っていた。
「どうなってる? ちゃんとある?」
背中の感覚はある。
服はボロボロに破れ、擦り傷が痛々しい。
だが、重傷とまではいかない。
ミルフィが涙ぐみながら回復魔法を発動した。
「ありがとう」
ひんやりとした優しい光が傷を塞いでいく。
これでようやく、全てが終わった。
「さて、オレのお気に入りの服、ボロボロにしたんやから、わかってんな?」
クシードは地面と添い寝している男たちを蹴り、追撃する。
ジャケットの裏ポケットと、腰ベルトに財布を発見した。
「領収書はいらんやろ!?」
◆◆◆
「――背が高いので、かなりお似合いですよ!」
確かにこのミニ丈のワンピースは可愛い。
「デニムショートスタイルも可愛いですぅ!」
「髪の毛ハーフアップにしたらどんなもんですか?」
「あぁ! その髪型でも可愛いぃ〜」
髪を結えばショートパンツスタイルもいい感じだ――。
暴漢に襲われた翌日。
服を新調するため、クシードたちは服屋へやって来ていた。
姿見鏡で試着姿を確認する。
鏡越しには、コーヌ族と呼ばれる女性は豊満なバストが特徴的な種族の店員と、ミルフィというこれまた豊満なバストの2人が映っている。
いくらコーデは可愛くても、何も無い平な胸に劣等感を覚え――
……って、違う違う。
「あの、すいません。メンズライクの服って無いですか?」
「えー、せっかくスタイル良いのに勿体無いですよ?」
女性店員は不満げな顔をしながら、メンズライクの服をいくつか用意した。
「これやな!」
クシードが選んだのは、黒のスリムパンツと濃い赤色のショートポンチョ。
西部劇の映画に出て来たガンマンみたいでカッコいい。
「……かゎぃくなぃ……」
「なんやてッ!?」
ミルフィは何か小さく呟いたため聞き直すも、プイッとそっぽを向く。
女性店員もとても残念そうにしていた。
見た目は女でも、一応男なんだから男性らしい服を着させてくれよ……。
装いを新たに、仕事探しのためシーブンファーブンへと向かった――。
「――にしても、昨日は散々やったなぁ」
隣にいたミルフィはコクリと頷く。
しかし、どこか表情は暗い。
無理もない。
暴漢に襲われ恐怖を味わったのだ。
一見、平和に見える街でも、人気の無い夜道はやはり危険である。
「……銃さえあれば、もっと楽勝やったかもしれへんなぁ」
クシードはぼやくように呟く。
確かに、元の世界の唯一の武器、2丁拳銃“ウォード&グローサ”には弾薬がまだ残っているが、補給ができない。
いざと言う時に残しているため、今はただの飾りだ。
ところが――。
「……銃……?」
何か心当たりがあるのか、ミルフィの憂いな表情が一変する。そしてそのまま、急いでシーブンファーブンの外へと走っていった。
「えっ……? 何かあったん?」
本当によく分からない女だ――。




