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013. 身体能力強化魔法

「――なぁミルフィ、これはなんて書いてあるん?」

「じょ、じょー、へ、き、ほ、しゅー……」


「ほなこれは?」

「あ、し、ば、く、み……」


 

 適当にピックアップした仕事は、ルシュガルの城壁補修や、建築足場の組立だった。

 収入の良い仕事を探すと、建築や土木関係といった肉体労働系が多い。


「身体能力強化魔法が使われへんと、話にすらならへんな……」


 他に収入が良い仕事と言えばモノノケとの駆除や、犯罪者の逮捕といった危険度の高い仕事ばかり。

 治安維持のため、憲兵から冒険者に向けて、定期的に駆除依頼があったり、お尋ね者のビラが配布されていた。


 ビラを適当に受け取るも、これらは、武器まで必要になる。

 今のクシードには到底無理な話だ。


 

「ランチタイムにでもしようか」



 午前中の軽作業を終え、シーブンファーブン近場の公園で昼食をとるクシードとミルフィ。


 公園では家族連れや運動を楽しむ人々に溢れていた。

 

 ルシュガル近郊の首都圏は、ロクエティアによる戦火は届いておらず、平和だ。


 のどかな日常が広がる光景をミルフィは静かに見つめ、サンドイッチを黙々と食べていた。


 代読してもらっている新聞や街の噂話によると、ロクエティアの侵攻は着々と進んでいるらしい。

 今はまだ遠い話だが、いつこの街が戦場になるとも限らない。



 ミルフィはどういった心境なのだろうか。


 彼女の実家は戦地の近くだ。

 未だに護衛は見つからず、クシードもグリスタの装備ができないまま。


 このまま時間が経過していくのだろうか。

 漠然とした不安感を感じる……。



 そんな昼下がりのこと――。




「――ねぇパパ! おにごっこしよ!」



 クシードのぼんやりとした視線の先には、親子のほほえましい姿が目に映った。


 しかし、そこは魔法が当たり前に存在する異世界。


 その子供は2〜3メートルものジャンプを繰り返しながら、遊具を蹴って駆け回っていた。

 高所から華麗にバック宙で飛び降り、着地と同時に地面を蹴って加速する。

 尋常ではない動きだ。


 身体能力強化魔法を使いこなしているな……。


「はい、捕まえた!」

「パパずるいー! グリスタ使ってずっと身体能力強化してるー!」


「そんなこと無いって!」

「うそつきー! 俺にもグリスタ買ってよー!」


 ただ親子が遊んでいるだけだが、とんでもない発見だ。

 

 グリスタ無しでも、身体能力強化魔法が使える。

 確実とは言えないが、できるかもしれない。


 クシードはすぐにミルフィからスナッチで魔力を貰い、インテグレイションを発動した。


 やり方は、ナノマシンスーツの身体能力強化と同じ要領だろうか……。

 

 分からない。

 だが、やってみなくては。

 

 クシードは、走力強化をイメージした。


 力強く一歩を踏み出す――。



「!」


 世界が一瞬、スローモーションになったかのような錯覚を覚えた。


 風を切る。

 身体が軽い。

 

 まるで、音を置き去りにしたようなこの感覚。

 


 僅か数歩。

 ミルフィの姿が一気に遠くなっていた。



「できてるやん……」


 思わず漏れた驚愕の声。

 身体能力強化魔法ができている。


 グリスタ無しでも、スナッチで得た魔力を使って身体能力強化魔法が使える。



「ミルフィーーッ!!」


 すごい発見だ。


「オレ、魔法が使えたでぇぇーーーッ!!」


 この感動を伝えたい。

 

 クシードは、ミルフィの元へ駆け寄る。

 ところが、彼女は背を向けてしまった。


 なぜここで、他人のフリをするのだろうか。


 

「オレ、やっと魔法が使えるように――」

 

 ミルフィは身体を小さくしながら、走り去っていった。

 

「……?」


 クシードもまた、公園の人々から奇異の目を向けられていることに気づく。


 それもそのはず。

 この世界では、魔法は使えて当たり前なのだから……。


 

◆◆◆



「ごめんな。ミルフィ」


 シーブンファーブンのコミュニケーションスペースへと逃げ込み、クシードは気まずそうに謝る。


 “気にしてないよ”と彼女は首を横に振った。

 だが、耳と尻尾は微妙にしょんぼり気味だ。


 

「でも大きな一歩やったで。精度上げて完璧にすれば、仕事の幅が広がるで!」

「ぅん……」


 前向きな話をしているのに、彼女の反応が薄い。

 

 ……あぁ、そうだ。


「仕事の幅が広がれば、人脈も増えるやん!? 護衛も見つかる可能性が高まるんやで!」

「……!」


 ミルフィの耳はピンッと立つ。

 分かりやすくて良いな。

 

「よっしゃ! ほな、午後からも仕事頑張るで――ッ!」



 午後からの仕事はいつもお世話になっている図書館での本の返却作業。

 

 単純労働で単価は安い。

 それゆえに人気は低いのか、半ば常設に近い状態で募集している。

 

 逆を言えば仕事が無い時は、この業務に従事することが日課となっていた――。




 

 身体能力強化魔法の訓練も兼ねて、本の返却作業に勤しむ。

 そして終業時間が近づいた。

 

「――ゴメン、クシードさん、ミルフィさん。これから残業って頼めるかな?」


 いつもの担当者が初めて残業を要求してきた。

 

 新刊を納めるため、不人気作や破損本を抜く作業があるためスタッフは残業するらしい。

 この時間も利用して返却本の収納も進めたいそうだ。


「メシ付きで、賃金5倍になりますよ!」

「いいよ! 夕食は準備するし、賃金は3割増ね!」


「5倍ッ!」

「3割ッ!」


 条件は合わないが、どのみち帰っても寝るだけ。


 だが、いつもお世話になっているため無下にはできないな。


「ミルフィはやんの?」

「ぅん……!」


「ありがとう! クシードさん! ミルフィさん!」



 

 ◆◆◆



「――お疲れでしたー!」


 時刻は21:00を過ぎていた。

 残業証明書を受け取り、2人は帰路に着く。


 ふと空を見上げれば、無数の星が煌めいていた。

 夜空の向こうが見えそうなくらい澄んでいる。


 

「宿まで地味に遠いし、ショートカットでもしてこうか?」


 コクリと頷くミルフィ。


 図書館はルシュガルの中心街から少し離れた場所にある。

 街灯に導かれて路地を進んだ。


 

「……」



 周囲の建物はあれど、どれも暗い。


 裏道だがオフィス街。

 昼間は活気があるのだが、夜になると雰囲気は一変している。


 その証拠にクシードの足取りは早くなっていた。

 

 ――月夜に紛れて蠢く気配。


 クシードはミルフィの背中に手を添え、大通りへ導こうとした――。



「おいおい、今ごろ天国は大騒ぎだぜ」

「ホントだな。こんなにもカワイイ2人の天使がここにいるなんてよぉ〜」


 是非とも使いたくなるナンパのセリフが飛ぶ。

 

 背後にはニヤニヤと笑う3人の男がいた。

 薄暗く、人気の少ない路地で声をかけてくるなど、只者ではない。


「走るで! ミル――」


 逃げようとした瞬間、ミルフィの腕はすでに男に捕まれていた。


 男たちの笑い声が不気味に響く――。

お読みいただき、ありがとうございます


続きは、1月2日の22:00に更新いたします

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