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011.インテグレイション

 “強奪(スナッチ)

 相手から魔力をひったくるように奪うテクニック。


 “ヴィスタ”

 家電や水道などの生活設備機器へ、電池のように組み込まれている魔石。

 正式名称は、生活魔石(ヴィー・クリスタル)



 “グリスタ”

 人間が装備することで身体能力を強化したり、魔法を行使できるようになる魔石。

 正式名称は、業務魔石(グリモア・クリスタル)


 これら聞き慣れない専門用語は異世界では常識。

 だが、クシードにとっては未知の概念である――。



 朝の宿屋。


「さて、今日はグリスタよりも、スナッチのやり方を教えてほしいな」


 クシードが宿泊している部屋にて、彼とミルフィは向き合っていた。


 スナッチは、冒険者業を実施していく上で必要不可欠なスキルである。これを取得しなければ、まともに仕事もこなせない。

 


「ででで、では……」


 ミルフィはゴクリと生唾を飲み、緊張した面持ちでスケッチブックを開いた。

 予め書いておいた内容を読み上げる。


 

 ミルフィ直伝によるスナッチ。

 やり方は――


 ①まず、魔力を感じる

 ②魔力を感じたものに向けて腕を伸ばす

 ③そうするとムワッする

 ④これをガッとすると、キュウーッとなる

 ⑤それをシューッとして

 ⑥いい感じにクッとやればOK!


「んな説明で分かるか! このボケェェェェ!!!」

 

「………………ッ!」


 ミルフィの耳はピクリと動き、目をしばたたかせる。

 唇をぎゅっと噛みしめ、涙を堪えるようにしていた。

 

「ごめん。言い過ぎたわ……」


 説明があまりにも感覚的すぎる。

 つい声を荒げてしまったが、ミルフィに悪気はない。


 しかし、このスナッチというテクニック、①からかなり難易度が高すぎる……。

 

 ほぼ手探り状態で、クシードはスナッチとグリスタを装備する練習を続けた――。



 


 ――数日が過ぎた頃。

 

「アレ? なんやこれ?」


 読書に耽るミルフィに向けて、何気なく手を伸ばした瞬間……。

 クシードの手のひらに、ムワッとした感覚が走った。

 それを、ガッと掴み取る。

 すると、キュウーッと吸い付く。

 すかさず、シューっと手繰り寄せた。

 これを、いい感じにクッとすると……。


「あっ! なんかを羽織った感覚がする!」


 見えないヴェールでも羽織ったかのような不思議な感覚だ。


 これがスナッチを成功させた状態だろうか。

 

「なぁ、ミルフィ! ここからどうしたらええの?」

「ぐぐぐグイッ、グイグイッ、グイッ……」


 ミルフィは嬉しそうに尻尾を立てて、ボールを手動式の空気入れで膨らませるようなジェスチャーを見せた。

 

「だから分からへんねんッ!!!」


 やっぱり伝え方が感覚的。


 クシードが叫ぶと、ミルフィの耳と尻尾はすっかり萎えていた。


「ごめんな……」


 彼女はプィっと顔を背ける。


 ツッコミへの耐性が少しはついたのか、“せっかく教えたんにー!”と言った感じで拗ねているな。

 

 しかし、どうしたものか。

 スナッチで得た魔力の活用方法を見据えていなかった。

 

 

「――あれ?」


 何かを纏っていた感覚が引くように消えた。

 これはもしや、魔力が消えたのか。


「い……、いいいんて、インテ、グレっしょ……ッ!」

「急になんやねん?」

 

 またミルフィが知らない言葉を口にした――。



 


「――インテグレイション?」

 

 この知らない言葉の正体である。


 自身の魔力と、外部から取り入れた魔力を合わせる“統合(インテグレイション)”を行うテクニックだそうだ。

 これにより、初めて魔法を発動させることができるとのこと。


 ちなみに外部からの魔力とは、スナッチから奪ったり、グリスタから供給する魔力のことらしい。


 ただ、このインテグレイションは魔法を発動させるための単なるスタンバイ状態。


 そう。

 まだ魔法が使えない。

 

 何というか、魔法を使うのはやはり複雑だ。

 あまりに回りくどい。


 それに比べてナノマシンスーツなら、一瞬で身体能力を強化できる。


 異世界は一筋縄ではいかないな……。


 

 

◆◆◆



 スナッチの練習を始めてさらに数日が経過。

 

 奪う魔力は、奪われる側もあまり気づかない量である。これを利用し、クシードは仕事の合間、通行人相手にこっそりと練習をしていた。


 ば、バレなきゃ多分大丈夫だ――。


 

「……だいぶ上手くなったやろ?」

「ぅん……!」


 ドヤ顔のクシードに、ミルフィの口が思わず綻ぶ。

 ここ数日で、10回中7回は成功するようになっていた。

 しかし、この成功率ではダメだ。

 この世界では魔法は、老若男女、誰でも使えて当たり前。スナッチもインテグレイションも100%の成功率でなければならない。


 好きな時ではなく、“いかなる時でも”だ。


 

 それと、射程距離があることが判明した。

 

 初めは2メートルほどだったが、今では4〜5メートルまで距離が伸びた。

 部屋の大きさの都合上、これ以上距離は伸びないが、さらなる成長の余地がある。


 

 だが問題は――。


「インテグレイションが中々できひんなぁ」


 スナッチは上達している。

 肝心のインテグレイションは1度も成功していない。


 異世界人だからか、と疑念を抱くも、スナッチはできている。逆に、ここまで来てできないのは変だ。

 

「なぁ、ミルフィ。インテグレイションのコツって何かないんかな?」


 しかし、彼女の答えは変わらない。

 グイグイっという言葉と、空気入れのジェスチャーで説明する。


 ――やっぱりわからない。


 スナッチ、インテグレイション、そして魔法の発動は子供でもできるそうだ。

 

 そのためか、伝授方法は親から子が普通。


 彼女も、家庭の味のように感覚で覚えてきたのだろう。

 マニュアルなんて存在しないに違いない。


 だからこそ、彼女の説明はすべて擬音で構成されているのかもしれない。


「とにかく練習あるのみやな!」



 コミュ障が説明するため、もはや伝統ある職人技にまで昇華している気がするが、気のせいにしておこう。

 

 できると信じて諦めないのが重要だ――。

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