4 ムチの恋心
☆ムチside☆
「なぁジョー、オマエから見て俺ってどうよ」
俺を毛嫌いしているのがはっきりわかる望愛に、思いきり拒絶されたのはついさきほど。
そのままフラフラ歩いて、ジョーの墓に来たけれど
「オマエも思ってるよな。こんな情けない男なんかに妹を任せられないって」
墓石につぶやく自分の弱々しい声が耳にリターンし、ため息が止まらない。
俺だってわかっているんだ。
もし俺が望愛の兄だったら、睨んで怒鳴って自分の気持ちをコントロールできないガキ悪魔みたいな男に、妹を渡さないって。
「オマエの妹にキスしちゃってごめん……」
今朝、ジャージ姿で息切らしながらはぁはぁ言ってる望愛がすげー可愛くて
『自分のペースで走っちゃダメかな?』
真ん丸な瞳を不安げに揺らして、上目遣いで見つめられたから、俺の中で何かが『うわっ!』ってなって……
自然体の可愛さの放出、やめてくれない??
マジで可愛すぎ///
浮ついた感情に頭の中が支配されまくって……
「暴走……止められなかった……」
あ~もう!
なんで俺はこんな深く一人の女にハマりきってるわけ?
俺が初めて望愛を見た時は「なんかイモっぽい」って恋愛対象からあっさり除外したのに。
小6の時、俺は望愛の家の隣に引っ越してきた。
家族で優木家に引っ越しの挨拶に。
髪がぼさぼさの望愛が玄関先に立った時なんか
『俺のテリトリーにこの女が踏み込んできたら、銃乱射で排除だな』
当時はまっていたゲームに例えて、すっげー酷いことを思ったくせに。
それから3日後のこと、恋の乱射撃を受けたのは俺の方だった。
その日は昼までには帰るって母さんに伝えて、近所をブラブラしてたのに、案の定、家までの道がわからなくなった俺。
諦めモード。
わからないものはわからない。
公園のドーム型滑り台の下にあるトンネルの中で、情けなく縮こまっていると
『わぁ、むち君だぁ~』
トンネルを覗き込んできたのは、隣の家に住む二つ下の望愛だった。
道に迷ったなんて誰にも知られたくない。
でも家には帰りたくて
「暗くなる前に家まで帰るぞ! おい奴隷、俺の前を歩け!」
酷い言葉を怒鳴るように言い放ち、望愛の後ろをついていったおかげで家まで帰れたんだけど……
家の周辺を探していた母さんが、心配顔で駆けてきて
「昼に帰るって言ったでしょ、道に迷ったの?」
俺の両肩を掴んで聞いてきたから
『はぁ~、やっぱバレてるじゃん』
って、すっげー恥ずかしくなった時、俺を庇うように望愛が言ったんだ。
『むち君、私と遊んでくれてたんだよ。帰りたくないって私がワガママ言っちゃったから。むち君ママ、ごめんなさい』って。
俺をかばうために嘘をついて、謝ってる望愛に絶句。
こんなガキにフォローされてんの?
俺ってダッサ。
プライドの塊でできた自分が無性に情けなくて
「むち君、また遊んでね~」
笑顔で俺に手を振って家に入って行く望愛が、無性に可愛く見えて、天使にしか見えなくて。
それからの俺はもうダメ。
完全に望愛に沼りっぱなし。
ジョーの家に遊びに行くのにも望愛目当て。
好きなんて感情は、恥ずかしくて表には出せない。
思いっきりイジメていたぶることで、隠し愛情表現ってやつをしてきたつもりだったけれど、望愛を見れば見るほど思い知らされた。
望愛が瞳に熱を込めて見つめる相手は、俺じゃない。
王子様みたいに優しい雨宮蒼の方。
俺はさらに怖い悪魔になりきって、望愛をいたぶり続けることしかできなくて、そんなことをしているうちに望愛の兄、譲が亡くなった。
ジョーさ、俺が望愛を好きだって気づいてた?
今の俺はどうしたらいいと思うよ。
アメにも大地って奴にも、望愛のこと取られたくないんだけど……