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2 アメの溺愛




☆雨side☆



 望愛と別れ、自分の家のキッチンに戻ってきた僕。

 胸キュンに心臓が攻撃され、平常心ではいられない。


 僕は大丈夫だった?

 望愛好みの優しくて気品あふれる王子様を、演じきれていた?


 焦げそうなほど熱い頬。

 両手で隠しながら

 『僕の心の荒波を、穏やかにしてよ!』

 懇願しながら壁にもたれ、ズズズと床にしゃがみ込む。



 今朝の望愛もほんと可愛すぎ///

 清らかな泉に住む天使なの?

 それとも人間の姿にされた可愛い子リス?


 僕が作ったドーナツをモグモグ食べている姿を見たら『僕の指ごと食べてね』って、言っちゃいそうになったし。


 望愛が…望愛が…望愛が…

 可愛い…可愛い…可愛い…


 天使でも子リスでもいい。

 24時間、僕だけの隣にいてくれないかな。


 そしたら望愛の頭をナデナデして、優しく抱きしめて、甘い言葉攻めで僕に溺れさせるのに。



 変態チックな妄想が止まらない僕は、雨宮あめみや そう

 今日から高校3年生。


 望愛が大好きな童話の王子様になるのが目標。

 子供の頃から『気品あふれる優雅な王子様』を目指してはいる。

 ……ものの、気を抜くと全然ダメ。


 望愛への欲望に支配され、変態チックな発言をこぼしてしまう残念な奴です。

 メンタルは弱すぎだから、あんまり僕をイジメないでね。


 僕とは真逆。

 メンタルがダイアモンド並みに強くてキラキラで、悪魔系イケメンなのはムッチー。

 さっき望愛とランニングに行った細マッチョね。


 僕の親友けん恋のライバルで、本名は『鞭光(むちみつ) (しょう)』って言うんだけど。


 翔と蒼の響きが似すぎ。

 望愛に呼ばれるたびに、二人で振り向いちゃう頃があって、煩わしさをなくすため今はお互い苗字呼び。

 僕は翔のことを『ムッチー』って呼んでいる。


 凛々しくて男らしくて俺様で、ほんわかタイプの僕と正反対の魅力をこれでもかってほど振りまいているんだけど、これが無自覚なんだよね。


 女子にキャーキャー言われまくってるのに

 『俺に近寄るな!』って、ピシャッと言い放っちゃうんだもん。

 そりゃ女子も『男らしい』ってキュンキュンしちゃうでしょ。

 自分がワイルドイケメンだって気づいてない、無自覚なダーク王子様です。



 僕もムッチーも子供の頃から望愛が好き。

 でもその気持ちを伝えない同盟を交わしている。

 望愛が高校を卒業するまでは。

 兄代わりでいるために。


 それが、望愛の兄・優木(ジョー)のお墓の前で僕たちが誓った、中2の時の約束だから。




 僕の両親は仕事で海外に行ったっきり。

 この家に住むんでいるのは僕1人だけ。

 だから朝ごはんは望愛とムッチーと3人で食べている。


 僕の可愛い望愛。

 もうすぐ僕の家に来ちゃうよね。

 うわっ、どうしよう……



 キッチンにしゃがみ込んだままの僕。

 心臓の爆音が鳴りやまないから困る。

 だってだって今日は、待ちに待った解禁日だから。



 望愛の大好きなコーンスープを温め直す。

 ダイニングテーブルに3人分の料理をズラリ。

 朝食の準備はバッチリ。

 ほ~っと一息ついた時、玄関チャイムが鳴り響いた。



 再び乱れだす僕の心臓。

 やばい、来ちゃったよ。

 ついにこの時間が///


 僕は大丈夫?

 優雅な王子様でいられるかな?


 大好きな子を前に暴走しないか、ドキドキのまま玄関に。

 深呼吸をしてドアノブに手をかけた。


 開いたドアから恥ずかしそうに微笑んだのは、望愛。

 しかも初お披露目の高校の制服姿で。



 桜色のセーラー服をまとう望愛。

 うわああぁぁ!!

 妄想以上にキュートすぎ!!

 自分の意志で僕に襲われに来たの?

 逃げるなら今だよ今!


 変態モード突入で誤作動を始めてしまった脳。

 自分の脳なのに、冷却ボタンがどこかわからない。


「雨ちゃん……見すぎ……」


 うわっ、恥じらい望愛。

 可愛さ盛りすぎでしょ。


「恥ずかしいから、じーって見ないでよ……」


 顔が真っ赤で、僕から視線をそらし肩をすぼめてソワソワしていて


「見ないでってば!」


 テレと必死のごちゃ混ぜ感が、望愛の魅力を倍増させる輝きを放っている。


『こんな可愛すぎる望愛を、高校なんかに行かせたくない!』


『僕の家に閉じ込めておきたい』


 いきすぎたストーカー願望がモクモクと僕の脳を支配しはじめちゃったんだけど……


 って、ダメダメ!

 望愛好みの王子様になりきらなきゃ!


 子供の頃から繰り返し唱えてきた言葉を、頭の中で繰り返し


「高校の制服、望愛にお似合いだよ」


 優雅な笑みを顔にはりつけ、望愛の頭を優しくなでたのに


「ムチムチな私に、こんな可愛い制服が似合うはずない」だって。


 望愛はスカートの裾を握りしめ、悲しそうにうつむくだけ。

 僕の褒め言葉を全く信じていない。



 どうしてここまで自己肯定感が低い子に育っちゃったんだろう。

 僕からの愛情不足かも。

 兄代わりとして不安になりながらも、僕の口元はニヤついてしまう。


 だって最大の恋のライバル『ムッチー』よりも先に、望愛のセーラー服姿を拝めたんだから!



 僕とムッチーの間で交わされている

 『恋の抜け駆け禁止条約』


 今回は偶然で、たまたまで、不可抗力で、ムッチーが髪をセットしてる間に、望愛がセーラー服姿で我が家に来てくれただけのこと。


 ごめんねムッチー、望愛の制服姿を先に堪能しちゃって。

 あとで甘々のドーナツを口に突っ込んであげるから許してね。


 な~んて浮かれながら、心の中で謝ってみたものの


「むち君は……まだ……だよね?」


 僕の敏感センサーに引っかかった、望愛の挙動不審な態度。

 

 肩をすぼめて瞳を左右に泳がせているけれど

 望愛の態度、おかしくない?

 ランニング中、ムッチーと何かあった?

 疑いの目で見つめれば見つめるほど、望愛の顔が恥ずかしそうに歪んでいって


「まだだけどどうかした?」


「な、なっな、なんでもないからね!」


 顔と手を異常なほどブンブン振っていて


「ほんとだから……ね、ね!」


 意味不明な念押しまで追加されたから、僕は確信してしまった。


 『望愛とムッチーの間に何かあったな』って。


 

 望愛の赤面状態から察すると恋愛絡み。

 抑えきれない恋心を怒鳴りでごまかしちゃう、ムッチーのことだ。

 好きのバロメーターが振り切れて、理性が吹っ飛び、ランニング中に抱きしめちゃった?


 いやいや……

 自分から抱きしめ行為なんて、ムッチーにはハードルが高すぎか。


 ランニング前によろけた望愛をムッチーが支えた時だって


 『こ……これは、じ…じ…事故だからな!』


 恋愛経験ゼロの小学生ですか?ってほど、ムッチーは取り乱していたし。


 そっかそっか。

 その時の抱き着き事故のことを、望愛は引きずっているってことね。

 僕の望愛はウブで純粋すぎ、可愛すぎ。


 ムッチーも僕と交わした『抜け駆け禁止条約』に違反をしていない。

 ペナルティ無しで許してあげよう。


 なんて余裕の笑みを浮かべていたのに、望愛から理解に苦しむ質問が。


「雨ちゃんだったら……雨ちゃんだったらだよ……」


「何?」


「好きでもない人と……キス……できる……?」


「……へ?」


「キスって……気持ちがなくても……できるものなのかなぁ……?」



 頬にかかるウエーブ髪を指に巻きつけながら、恥ずかしそうに呟いた望愛。


 それって……


 ある疑惑がうかんで、僕は優雅な王子様ではいられない。

 目を見開き口も開けっぱなし。

 見るも無残なアホ顔を、大好きな子に晒していると思う。



 待って、なにその質問!

 キス?

 誰と誰の話し?


 まさか……

 望愛とムッチー?


「と……友達の、話しだからねっ」


 オーバーに両手を振る望愛を見て、疑惑が確信に変わった。

 僕の表情筋が絶望感でストン。

 目の焦点も合わず、視界もボケボケのまま僕はぼそり。


「僕は好きな人としか……キス……できないけど……」


「そ、そうだよね。雨ちゃんって一途っぽいもんね」


 その通りだよ。

 幼いころからの初恋は、今もこじらせながら継続中なんだよ。

 その相手が望愛だってこと、鈍感姫には気づかれてないみたいだけど。


「雨ちゃん、変なこと聞いちゃってほんとにごめんね」


 手をばたつかせながら、何かを必死で隠そうとする望愛。


 絶望感がジリジリと襲い掛かかってくる。

 その時、エプロンのポケットに入れっぱなしのスマホが震えた。


 画面には僕の心を惑わす根源『鞭光 翔(むちみつ しょう)』の文字が。


 無視したい。

 でもバイブの音は望愛にも聞こえているはず。

 何事もなかったように取りつくろおう。


 僕はなんとか微笑んでスマホを耳に当てた。


「もしもしムッチー?」


 ん?

 まさかの無言電話?


「あれ、僕の声聞こえてる?」


「アメ…………ごめん…………」


「えっ?」



 子供の頃から謝罪を知らない俺様悪魔王子なのに……ムッチーがごめんって……


 あまりの衝撃に、見開いたままの僕の目が閉じようとしてくれない。



「いらない……朝ごはん……」


 ムッチーの自信なさげな震えヴォイスが、僕の心を不安色に染めあげていく。


「アハハ、ムッチーどうした? 全力で走りすぎてお腹が痛くなっちゃった? 朝から体を鍛えるのはほどほどにね」


 敢えて笑い声を入れ、冗談っぽくツッコんだのに


「そういうんじゃない……マジでごめんな……アメ……」


 絶対俺様主義のムッチーに弱々しく謝られてしまった。しかも2回も。


「姉貴に用を押しつけられた、学校先に行ってて。じゃあな」


 勢いで喋りきったムッチーが、慌てたように僕との通信を切ってきた。

 僕の心にザラついた痛みが広がってしまう。



 今の『ごめん』って何に対して?

 僕が作った朝ごはんを、食べないこと?

 ジョーの墓の前で誓った抜け駆け条約を破った、懺悔(ざんげ)



 ムッチーと望愛がキスをしたってことだよね?

 だから望愛もムッチーも態度がおかしいんだよね?



「今の電話はむち君から?」


 望愛の声にハッとして、瞬時に王子様スマイルを顔にペタリ。


「ムッチーね朝ごはんはいらないんだって」


「そっか、じゃあ今日は雨ちゃんと二人だけで朝ご飯だね」


 ホッとした様子の望愛。

 いつもならここで『望愛と二人きりなんて、神様とムッチーに大感謝だよ』と、愛情込め込めなジョークを平気で飛ばせるのに、今の僕にそんな余裕は1ミリもない。


「望愛ごめん。お皿に盛りつけるから、朝ごはんは自分の家で食べてくれる?」


 僕は情けない逃げ道を選んだ。


「春休み中にやるように言われてた歴史の課題、すっかり忘れてたんだ。今からやらないと間に合わなくて」


 誤魔化せているかわからないレベルの言い訳を、なんとか紡ぐ。


「料理はあとで望愛の家に届けるから、ごめんね」


 僕は苦しまぎれの笑顔で顔をゆがませると、家の玄関から大好きな子を追い出してしまいました。



 






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