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披露ショー

ちょっと頑張った

 シガ議長以外の周囲の反応も様々だった。初めはざわめきが起こり、意外にも賛同らしき声も確認出来る。だが、もちろん疑念の声もあがった。それを代表して意見をあげたのはカオルの良き理解者であるハジメであった。

「ウォルト人とフィアー人が差別なく平和に楽しめる園、それは現社長の掲げる理想でもある。そういう意味ではカオル、お前さんの提案は間違っちゃいない」

 ハジメのよく通るその声には、賛同の声こそないものの頷いている者もいれば口を挟もうとしている者もいる。口を挟もうとしている者の存在に気づいたハジメはそうはさせまいと言葉を続ける。

「だが、それはあくまでも理想だ。差別なく平和に楽しめるは対外的にも掲げてはいるがな、それだけでウチは誹謗中傷を受けている事をわかって言ってるのか?差別をよしとしないというだけで中傷されるっていうのに、推進する?現実は見えているんだろうな?現実から目をそむけてやいまいな?」

 カオルはハジメの言う事はもっともだと思うが反論せずにいられなかった。

「でも、間違いなく時代は変わってきています。ただそれを後押しするもう一声、もう一風が今この星には足りない気がします。別に大それた改革をしようなんて思ってはいません。中傷もあるでしょうけど、絶対賞賛の声だってあるはずです。今まで10年もいてほとんど何もしてこなかった私が今こんな提案をしているのも先日、園内で素敵な2組の恋人に出会ったから。まだ若いウォルト人とフィアー人の2人でしたがどちらの組の自分たちは恋人なんだと胸を張っていました。そしてフレール遊園は面倒くさい事を言う人達がいなくて安心して遊べると誉めても下さいました」

 シガ議長はカオルとハジメの議論を黙って聞いているが、その表情からは何を考えているか読み取れない。他の社員たちはハジメが他の誰にも口を挟ませないというその意図を感じ取ったのか、やはり2人の成り行きを黙って見守っている。

「ふむ……いい話だな。褒めて下さったか、光栄だし、社長も喜ぶだろう。で、具体的にどう変えていくつもりだ?アイデアはあるのか?熱意だけじゃどうにもならん、それぐらいに大きな話だ。中傷を受けるのはカオル…お前じゃないんだ。クレーム対応スタッフが苦労する事になる、それはわかっているな?」

「それは…承知はしています。皆さんにご迷惑をおかけする事になるかもしれない事ぐらいはもちろんわかっています」

「ハジメちゃん、オレは苦情中傷なんて気にしないぜ?」

 声をあげたのは正にクレーム対応を行っている社員、フィアー人のバナであった。

「中傷はともかく苦情は気にしろ」

 カオルとハジメの議論は黙って聞いていたシガ議長だが、クレーム対応係が苦情を気にしないとの発言はさすがに見過ごせなかったのか面白くもなさそうに声をあげる。

「あ、いや、それは言葉の綾で」

 ばつが悪そうに頭をかきながらバスは訂正する。

「正当な苦情であればもちろんしっかり聞き上に伝えてますって。でもま、大体が下らん中傷ですがね。とにかくオレはカオルちゃんの提案に賛成だ」

「バナさん、ありがとうございます」

「それでアイデアはあるのかと聞いているんだが…」

 バスが横入りした事で話が横にそれてしまったため改めてハジメが問う。と、そこへ威勢のいい声がかかる。

「下らない議論、今日はどう?」

 一見するとフィアー人に見紛いそうなそのウォルト人は遅刻してやってきた社長のアルトであった。

「珍しく下らなくない議論になってます。今、カオルとハジメがやりあってる」

 シガ議長が社長に説明を始めると、アルトは「へぇ」と興味を示す。

「カオルがこの園を建て直すには他の遊園地やテーマパークと差別化が必要だ、そしてそれはウォルト人とフィアー人の友好を推進するというテーマで運営するのはどうかとそんなアイデアを出し、ハジメが現実的な面から反論をしています」

 シガのその言葉にアルトは少し考える。

「へぇ、いいじゃない!カオル、アイデアはあるの、アイデアは。推進するって簡単に言うけど」

 社長は多くの社員の予想通り、好反応を示した、ただ問題はアイデアだ。推進すると言っても何をすれば推進になるのか。強引なところがあり理想を追うところはあっても決して無能な社長ではない。売り上げが落ちているとはいえ、それは時代の流れともいえる。それだけにどれだけ社長好みの方向であってもまともな施策が無いのであれば即却下となるのは目に見えていた。カオルにしても、まずは推進するという方向性を定めたかっただけでまともなアイデアらしきアイデアは、ウォルト人とフィアー人とで来場した場合に割引サービスをしてはどうかとその程度のもので、これでは社長を満足させられる気もしなかった。

「あ、その…フィアー人向けにう、ウォルト溝の披露ショーを開催するとか…どうでしょう」

 カオルは思わず口走ってしまった。あの若いフィアー人とウォルト人の恋人たち、いや、ウォルト人が語った突拍子もないアイデアを。

「ウォルト溝を…いいね、面白いよ、面白い!」

 アルト社長はあまりのアイデアに思わず笑ってしまっていた。が、会議室は困惑の感情に包まれていた。


 ウォルト溝、それはウォルト人の股間に走る一筋の溝である。その外見は地球人女性の陰裂に似てはいるがそれは決して性的な部位ではない。ウォルト人もフィアー人も性別は存在せず、それは決して性器、生殖器の類ではなく、他人に見せる、見られる事はタブー視はされてはいない。タブー視はされていないが、地球人の感覚でいえばうら若き乙女の鼻毛の生えた鼻の穴…その程度にはプライバシーある部位であり、それを見られる事はやはり乙女が鼻の穴の中を覗き込まれるのと同じ程度には羞恥がある。もっとも幼い頃にはそういった羞恥心も無く9歳ころからそういった羞恥の感情が芽生え始めるようである。

 ウォルト溝とは何か溝の内部がどうなっているかはまた別の話となる。


 積極的に見せあう部位ではなく、羞恥心以前の問題として公衆の場で裸になる事が許されるかどうかという問題もある。とはいえ、カオルがフィアー人向けと発言した通り、フィアー人にとってはウォルト溝とは伝説に伝わる芸術なのである。

 ウォルト人同士であっても積極的に見せあうことがない部位である以上、10年前まで隷属していたフィアー人がウォルト溝を目にする機会などあるわけもなく都市伝説かのような扱いを受けていた。フィアー人がウォルト溝を見た場合、ウォルト人が見た場合とは違い、とても美しく芸術的に見える、それは感動を呼び込むほどであると伝わっていた。おそらくは差別のあるい時代からその伝説を確かめたものもいるのだろうが、それが公的に発表されるわけもなく、差別撤廃から10年経過した今も「フィアー人から見たウォルト溝」とはどういうものなのかは謎に包まれたままだ。


「確かにそりゃあフィアー人は喜んで来場するかもなぁ。伝説に伝わるウォルト溝、それをショーで見れるとなれば」

 バナは楽しそうに言うが、それを否定すべくシガ議長が言う。

「だが、それはフィアー人向けの施策だ。ウォルト人との友好と何の関係がある」

「でも、議長だってフィアー人なんだし、興味はあるでしょ?」

 議長より年下だというのに社長は議長をからかうように笑う。

「ま、まぁ、50年以上生きてきて未だに見た事はないからな…あ、うむ…いや、そんな個人的事情はどうでもいいでしょう!」

 いつも硬いシガ議長のあまり見ない一面を見てしまった社員たちは笑っていいのかどうかもわからずにいた。そこに救いを出すかのようにハジメが話題を議長からカオルへと戻していた。

「カオル。そんなショーの開催を認めさせるのは難しいだろうが、認められたとして一体そのショーに誰が参加すると思う?」

「え……えっと……」

 カオルが答えに詰まっているとアルト社長が代わりに答える。

「カオルがショーに出るかい?カオルは私から見ても可愛いからね、十分に客は呼べると思うけど。あ、私は勘弁ね。社長自らショーに参加とか、話題にはなりそうだけどさ」

「わ、私ですか?」

 自分から出したアイデアだ。確かにそんなショーに出たがるウォルト人がいるだろうかと思う。まずは自分の身体を差し出さないといけないんだろうか?と真剣に悩んでいる。

「ま、ムリだよね。ウォルト溝披露ショーとかとんでもなさすぎてアイデアは面白いんだけどねぇ」

「カオルちゃんのウォルト溝見せてもらえるショーなら是非見たいけどな」

 セクハラという概念は無い星だが、明らかに問題発言をするバナをシガ議長は睨みつける。


「ただカオルの提案は私にとっては理想的なんだ。ウォルト溝披露ショーぐらいぶっとんだアイデアも今のフレール遊園には必要かもしれないとも思う。また独断で悪いけど、いっつも同じつまらない会議してもしょうがない。この方向性で来月の会議に向けて皆はアイデアを考えて欲しい」

 社長がそう言うと社員たちは「はい!」と返事をしてそれぞれ会議室を後にしていった。


「あの、ハジメさんありがとうございました。率先して反論ぶつけてくれたんですよね?」

「お?わかってくれてたか。カオルは人気あるんでまあそんなに厳しい事言ってくるヤツもいないだろうけど、絶対ないとも限らなかったからな。とはいえ、あの反論自体は有功だ。現実として世間からの反発は当然考えらえる」

「まあ、そうですね。でも、少なくともバナさんは中傷なんて気にしないって言ってくれたし、頑張ってみたいと思います」

「披露ショーの練習をか?」

 にやりと笑いながら言うハジメ。

「違います!披露ショーの練習なんてしません!…でも言い出した私が率先してやってみるべきなのかな?」

「冗談だって。ま、オレもいろいろアイデアを練ってみるから」

「ありがとうございます!」

 カオルは深くお辞儀をしたのだった。

ウォルト溝披露ショーは、ウォルト溝は性的ではないとどれだけ主張しようが位置と形状がアレなんで、R18でないと描けるわけもない。

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