七瀬望結との結託
窓から差し込む朝の日差し、冷たい風に打たれ小鳥や森があくびをする、海のさざめ「パッパラッパ!!!パッパラッパ!!!パッパラッパパッパパー!!!!!」
「うるせぇえええええええええ!!!!」バッ
美しい自然の音色が人工物に破壊されていく、時代の変化とは恐ろしいものである。
「俺が昨日オルゴールの奴に設定してたのはどうなってんだよこれぇ!!」
「いやぁ、ご主人は男の子ですからね、足りないと思ったので気を利かせて変更してあげましたよ。」
「いらぬ気遣いありがとうねぇええ!!お礼にお風呂入れてあげるよ!!」
「私防水ですよ?」
「無駄に金掛けやがって...」
穏やかな起床はこいつが存在している限りは出来そうにはない、レスキューハンマーで叩く汚れた熱水に長時間浸けるNTR作品を連続視聴させる、ベストを尽くしたはずだが破壊は不可能だった、無駄に高性能である。
ヨッピーとこれからについて話をしながら歯を磨き朝食の準備を始める。
ピンポ~ン
「ん?誰だ?、宅配なんて頼んでないよな」
俺は身に覚えのない呼び出しに頭を傾けながらもモニターに近づく。
「はーいなんでしょう...って!」
「あっ!廉くんおはよう!昨日も見たけどここ凄いね!」
「え?何お前?どうしたんだ?」
「えっとね!親友って一緒に登下校するでしょ!だからお迎えに来たんだ!」
重い、重いよ春樹くん、いや純粋な気持ちで誘ってくれてるのは分かるけどさ、合って二日目なのよ、俺が言えたことじゃないけど距離感ミスってるよ。
「そっそういうものか...、でもまだ学校まで時間まだまだだぞ?...とりあえず中に入ってくれ、42階に佐藤ってあるからそこな?」
「え!?ほんと!!やったありがとう!恩に着るね!」
「おーうそれじゃ、待ってるな」
ピッ
「なんですかあれ?、ご主人新手の洗脳にでも手を染めましたか?」
「いや俺が知りてぇよ、何あれ?確かに機能帰る途中俺の家の前寄ったけどさ、ふつう来る?アポ無しで?」
「話す気はないということでしょうか、後でカツ丼の用意をお願いします、後焦げ臭いですよ?」
「だから...って、あっ!忘れてた!」
鳥さんの命を一つ無駄にしてしまった、これじゃあ二度と朝にコケコッコーなんて言ってはくれないだろう、俺に穏やかな目覚めが来ないことを改めて約束された気がした。
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「うわぁ!廉くんここに一人暮らしなんでしょ!?凄いね!!広ーい!高ーい!」
「物は全く無いけどな、テカってない部屋の方が多いよ。」
俺も最初に来た時は驚いたしはしゃいだが、身の丈に合わない生活というのはやっぱり不便だ、移動が死ぬほどダルい。
「僕も一回で良いからここに住んでみたいよ〜!」
「まぁお前の親が許してくれたらな?」
気持ちは分かるから春樹の冗談を否定はしないでおく、普通親に友達とクソデカマンションでルームシェアしたいだなんて言ったら体で止めるだろう。
「え!?ほんとうに!?」
「へ?あ、おう」
でもなんだろうか...嫌な予感がする、大丈夫だそこまで奇想天外な奴ではない、行動力のある主人公タイプだが、行動のリミッターの一つや二つは設けているはずだ。
「ていうか朝ご飯ちゃんと食べてきたのか?」
「あっそういえば食べるの忘れてた!」
「じゃあお前の分も作ってやるからテレビでも見ながら待っててくれ」
「え!?本当に!ありがとう!廉くんの料理楽しみだよ!」
「あんま期待しないで欲しいんだけどな...」
そう言うと再び台所に立つ、一応さっき目玉焼きを焼いていたが、もうどうしょうもない見た目になっているためゴミ箱に捨てて手を合わせる、せめてもの供養である。
春樹には あー言ったが、自炊は結構する方なため、料理はそこそこ出来ると自負している、もっとも春樹なら泥団子を出しても「うわー!!美味しそうだね!!いただきまーす!」って言いそうなものだが...
慣れた手つきで料理を終えテーブルに並べる
「うわぁ!!廉くんの料理、凄く美味しそうだね!!」
「フフフ、そうだろうそうだろう!」
「9割クック〇ットのおかげですけどね」
クック〇ットを使って何が悪い、再現できる俺も十分頑張ってるだろうが、イヤホン越しにヨッピーが水を指してくるが気にしない。
今回はオムレツにベーコン、そしてジャムと食パンにサラダと、いつもなら絶対にここまで頑張らないが見栄を張りたいのが男というものである。
「いただきまーす!!...んん!!おいひーー!!」
「俺にしてはよくやったな、ほらとっとと食べて学校行くぞ。」
「はーいえっはー!!」
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放課後
あの後二人で仲良く登校し、授業を受けた。
授業初日ということも相まって、ほとんどは授業の進め方の説明や雑談に消費されたため、あまり疲れず放課後を迎えた。
「それじゃあ俺主導の学校探検を始めるとするか」
「うん!よろしく!」
「よろしくお願いいたしますね」
「よし!それじゃあ俺が公式ホームページから拝借してきた画像を配るから皆のRUINを教えてもらってもいいかな?」
「あっ!そういえば忘れてたね!はい!QRコード!」
「私のはこれですね、どうぞ」
「サンキューサンキュー、ほら二人もお互いの交換しとけよ〜?」
「え...?うん、分かったよ、はい!QRコード!」
「ありがとうございます!大事にします!」
地味に素っ気無い態度を取られているが、七瀬はそれでも喜んでくれているようだ、俺の時とは明らかに反応が違う。サポート出切るように一応三人のグループも作っておくか...
「それじゃあグループも作ってと..それじゃあ、部活とかの見学も出来るみたいだし、まずはそこを中心に回ってみるか!まずは体育館から...」
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廊下
ほとんどの部活を見学して回った後、二人がトイレ休憩をすることにした。そして俺は用を足している二人を置いて数階違う空き教室にて身を潜めていた。
「年頃の男女が二人ぃ〜、何も怒らないわけがなくぅ〜、恋が始まるファンファーレが聞こえるなぁ!」
「ご主人あとの説明はどうするつもりでしょうか?、誤魔化すには行動が奇っ怪過ぎる気がしますが。」
「それは後で考える!俺の評判など二人の恋路には安いもんだ!」
ガララ!!
「!?」
どういうことだ!?、このクラスは部活にも使われていないはず!とにかく教卓の中に身を潜めてやり過ごさなければ!
「あの〜、教卓の下の隙間から見えてますけど...」
そうだこの教卓下までちゃんと貼られてないタイプだった!しまったくそ!!...ていうかこの声って...
「え?なんで七瀬ちゃんがいるの??」
「お言葉に甘えてトイレで手を洗っていたら、佐藤さんがトイレを離れて階段を上がっていく音が聞こえたので急いで着いてきたのですが...何をされているんですか?」
「...急にたそがれたくなっちゃってさぁ〜!はははぁ〜...すいません」
「取り敢えずそういうことにしましょうか...、私にとっても この状況は好都合です。佐藤さん、貴方に相談したいことがあります。」
「...なーるほど、俺も七瀬ちゃんに相談したいことがあるんだわ、そっちはどんな内容かな?」
春樹を狙っている七瀬が俺に相談してくる内容なんて一つしか無いだろう。
「佐藤さん、私は月城くんの事が好きです、お手伝いをお願いしたいですが。」
「ふむふむ!喜んでお受けしようじゃないか!、俺も七瀬ちゃんと春樹が結ばれるのは都合が良いんだ。」
「え..てっきり断られると思っていたのですが..以外ですね...」
「ん?断られたらどうするつもりだったの?」
「ここで貴方に襲われたと大声で叫ぶと脅します。」
「最低すぎる...、っていうかそっちの願いを聞いてあげるんだから、もちろん こっちも頼めるよね?」
「えぇ、その方が信用できますし、常識の範囲内なら。」
彼女にこちらに引き入れれば、一石二鳥カップル計画を大きく前進させることができる。
そのためには、一切の建前や社交辞令は不要だ。
「それじゃあお願いなんだけどさ七瀬ちゃん」
「はい」
「計画の邪魔だから猫かぶるの止めてくれない?」
「はい??は?え、ちょっちょ!どういうことですか??」
まだシラを切る彼女に、先程までの間抜けヅラから打って変わった真剣な表情と共に問い詰める。このまま逃げられるのなら俺が知っていることを知られてでも協力を申し込んだほうがいい、今更引き下がれ無い。
「あーそういうの大丈夫だから!全部演技なんだろ?重度のショタコンで、ソレ故に春樹を狙ってるのも こっちは分かってるんだ。」
そう言うと彼女は諦めたような表情をすると、さっきまでのお淑やかな雰囲気が棘々とした高圧的な表情に変わる。
「...二日目で身バレって もう最悪なんだけど...はぁ、あんた中学私と一緒だったっけ?見覚えないんだけど」
「いいや ただの感だよ、まぁ建前を無くしてくれて何よりだよ、こっちの方が話しやすいな。」
「あんたさっきまでも いけ好かない雰囲気だったけど、面の下は完全上位互換とか、はぁー腹立つわ」
「え?さっきまで も ?、え?皮肉じゃないよね!?言葉の綾だよね!!」
「皮肉よ!!、ていうかあんた春樹くんと私くっつけて何の特があるわけ!?」
そりゃそうである、俺に何の特もないし義理も無い、そんな俺が二つ返事で手伝おうとしてくるのは怪しさ満点だろう。...ヨッピーとは違う棘があるな...普通に傷ついた。
「そう焦るなって七瀬くん!、詳しくは説明出来ないけど、お前らが付き合ってハッピーなら俺もハッピー、付き合わなくてアンハッピーなら俺もアンハッピー、それだけのことだ」
「はぁ?意味分かんないんだけど!!その弁解で余計怪しさが増してるんですけど!!」
「ぐぬぬ、それなら...ほら!RUINを見てみろ!」
「え、何急にどうしたわけよ...は?「俺の言う通りにしないとお前の裸の写真をネットにあげてやる」って何よこれ!!」
「俺が裏切ったなら、それを拡散でも通報でもすればいいさ!!俺は逃げない!!どうだ!これが俺の覚悟だ!」
「意味不明なんだけど!!なんでそこまでするのよ...もう!分かったわよ!信用してやるわよ!、裏切ったら本当に拡散しちゃうからね!」
「あぁどんとこいだ、それに互いにこの方がやりやすいのは事実だろ?」
「それはそうだけどさ...、あっそのドヤ顔腹立つから止めろ。...まぁあんたが私のバージンロードを応援したい気持ちは伝わったわ、せいぜいこき使ってやるから覚悟しなさい!」
「へいへいお嬢様の仰せのままにぃ!、あっそうだ俺のことは気軽に廉也って呼んでいいですよ?」
「癪に触るわぁ、まぁ手伝ってくれるんだしそんぐらいは聞いてやるわ、私のことも望結でいいから」
「了解しました姉貴!!一緒に春樹をものにしましょうぜ!!」
「はぁ...まあ交渉成功にはなるのかしらね...」
俺達は握手を交わした。
突然だったため、かなり強引になってしまったが無事に七瀬望結をこちら側に引き込むことに成功した、あとは二人で計画を練って春樹を落とすだけである。
スマートからは程遠いが、なんやかんや目標に近づけているようで順調だ、さてここからどうしたものか。
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トイレ前
「え?二人ともー!どこ行ったのー!」
僕月城春樹は、今日 廉くんと七瀬さんと三人で学園散策と部活見学を行っていた。
「よし、これで今日ある部活はほとんど回れたな、少しトイレ休憩としますか」
「うん!分かったよ!」
廉くんは大丈夫との事なので、僕は一人でトイレの個室に入り用を足す。
「さすがにルームシェアしたいって言ったら迷惑かな...でも、あの時親から許可があれば全然良いって言ってたし...うーん...」
そんなことを考えながら用を足し手を洗う
「あれ?廉くん?二人ともどこ行ったの?...あれ」
なにやら上の階から微かだが声が聞こえる、ここより上の階に大きな声を出す必要がある部活はなかったはずである。
「なんか胸騒ぎがするような...、だめだよね、僕と廉くんは親友なんだ、僕だけが...」
廉くんのことは心から信頼している、まだ出会って間もないけれど、深い絆で結ばれているはずだ。だけど七瀬さんは信用できない、あの人は今までの人たちと一緒だから...、早く行かないと何かがあったら...。
階段を上がると、より声が鮮明に聞こえるようになる
「あっ、廉くんの声だ..それと、誰だろう..?」
空き教室の扉の窓から中を覗くと、そこには廉くんと七瀬さんが握手を交わしている姿が見えた。
「いつもの廉くんと違う...あっちが本当?」
七瀬さんも雰囲気が違う、七瀬さんのあの態度が嘘なのは分かっていたけど、こんなに気の強い人だとは知らなかった。
だが、そんな考えをかき消すほどに、その握手と互いを信頼するような目が、僕には一度も向けたことのない顔や言葉が嫉妬に代わり僕を襲ってくる。
ガララ!!
「なんだ!?」
「えっ!?ちょっ月城くん!?」
「僕の親友を返せ!!」
二人がぽかんとした顔で「へ?」と呟く空き教室の中には僕の叫び声がずっとこだましていた。