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月城春樹という主人公みたいな男

始めての通学路だったので若干迷いながらではあったが無事校門まで到着した。タブレットの付属品である超小型の無線イヤホンを付けた俺はヨッピーに愚痴をこぼす。


「えっとー、ヨッピーさぁんってぇ〜、AIなのに〜、ナビとか〜、地図とか〜、入ってなんすね笑」


「口を慎みなさい下衆、私は試作機です、そのような目的外の機能は搭載しておりません、分かったならその顔を地面に擦り付けて許しを請うてください。私への冒涜は創造主である主への冒涜ですよ?」


「うわズル、もうそんなん無敵じゃん...てかここでできるわけがねえだろ」


歩いている時に聞いたのだが、ヨッピーは試験的に一部の導き手に動作テストとして配られた試作機であり、最適なAIを探すために一人ひとりに個別の専用モデルを使用して貰っているとのことだった。


「てか最適なAI選ぶっていうんならさ、もしお前が選ばれなかったらどうなんだよ」


「その他のモデルはよほどのことが無い限りは処分されるでしょうね、試作機モデルには学習リミッターが搭載されていないので、放置していても良いことはありません。」


「そっか...怖くなったりはしないのか?」


「死生観の話でしょうか?残念ながら私達にとってはなるようになるだけです、何も感じませんよ。」


「...じゃあ気を取り直して彼を探すとしますかね...」


俺は切り替えると今回のターゲットの一人、月城春樹を探す。


月城春樹   15歳


今回のターゲットの一人、父親の転勤のため遠くの田舎から家族で越してきた、黒髪で背が小さく若干子供のような見た目の美少年、純粋無垢で正義感の強い性格とのことだ



少し捜索していると、案の定体育館前でフラフラと彷徨っている彼を見つけた。


「うっわ、ラノベ主人公がそのまま出てきましたって見た目だな」


「ご主人の本棚にも沢山いましたね、量産型というものでしょうか。」


「は??おめぇ死にてぇのか???」


「はぁ、それでどうするのですか?」


「もちろん助けるさ、違和感なくお近づきになれるチャンスだろ?、接触してあわよくば取り巻きにしてもらうさ。」


「あなたが行うと完全に不審者ですよ、男でターゲットとはいえ、あなたの危険性に変わりはありません、さっさと家に帰って地獄に落ちる準備をしてください。」


「まぁまぁ見てろって、俺の演技力ってやつを三下モブを完璧に演じきってやりますって旦那ぁ!!」



そう言うと俺は間抜けな顔をして彼の下へ歩き出す。



「え?では今までのは何だったんです?今から始めるのですか??」



こいつは後で破壊する、下校時に工具店に寄るとしよう。



「よぉ!美少年!お困りなら俺が助けてやるよ?」



「えーとここが...え!?あっ!!はい!!こんにちは!僕月城春樹って言って、クラス表の位置すら分からなくて迷ってて...」


「お?じゃあ俺が案内してやんよ!、新入生同士仲良くしようぜぇ?」


「えっ!?君も新入生なんだね!、大人びてたから上級生だと思ったよ!!、僕高校からこの辺りに引っ越してきて友達がいなかったんだ!!」


「大人びてるのか..そんなはずは...よっよし!じゃあ一緒に見に行こうぜ」


「うん!ありがとう!」



そう言うと俺は複雑な学園内を容易く進んでいく。


「この学園の校舎複雑なのに凄いね!」


「昨日頑張って予習しといたんだわ、流石だろぉ?」


「うん!流石だよ!」 



昨日ヨッピーに言われ必死に覚えておいて良かった、春樹を引き連れ俺は某駅並の迷宮と化している校内をスムーズに移動していく。


「てかそれにしてもずっと一人で迷ってたけどさぁ、誰かに聞いたり出来なかったか?」


「うん、僕が近づくと皆軽く逃げじゃってさ、話しかけるのが申し訳なくなっちゃって...」


「そっか...辛いな」


「ううん、慣れっこだから全然だよ、気持ちは分かるし!」


「...俺が思うにお前の男前なオーラに皆平伏してたんだよ、覇気だ覇気、だから!お前以上に男前な俺以外話しかけられなかったってことだ!」


「そっそうかな...?えへへ、ありがと!!」


「おう!」


「そうだ!名前聞いてなかった!」


「そういえばだな、俺は佐藤廉也だ、よろしくな?」


「えーとじゃあ、廉くんね!これからよろしく!」


彼は美少年が故に周りから一歩引かれて来たことが目に浮かぶ、ここには仲の良かった同級生に理解のある地域の人達もいない、心細かっただろうに...。

そんな会話をしているとクラス表がある位置まで辿り着いた。


「えっと俺は...五組だな」


「僕は...あっ!僕も五組だ!やった!一緒だね!」


「おっおう、やったな...?」



...なんかエライ懐かれている気がする、いやこれが平常運転なのか?だとしたらこの距離の詰め方は陽キャのソレか?、いや図鑑に純粋無垢と描いてあったし、人の闇を知らないだけだろうか...、まぁ友達が居ないところで話せるやつと一緒なのは誰だって嬉しいか...。


_________________________

         教室



「まさか席まで隣だなんて!運がいいね!」


「あっああ..だな?」


俺は教卓から見て右端の一番後ろ、窓際である。そして春樹は俺の左隣だ。これは主人公パワーによる強制力というやつなのだろうか...ラノベから飛び出してきた“みたい”ではなく、そうなのではないか?。

そう疑ってしまうが、この程度のラッキーなんて全然ある、そう思いラノベに汚染された脳みそを引き出しにしまう。


「はじめまして〜、随分と仲が宜しいのですね?同級生の方でしょうか?」


俺達が談笑していると前の席に座るお淑やかな女子が振り向いて話しかけてきた。こいつが前の席とか俺はとんだラッキーボーイだぜ。



「えっ?あっ!はじめまして!」


「おっすはじめまして、こいつが体育館前で迷ってるの見てな、優しい俺が案内したら、まさかの同じクラスで隣の席だったんだ、運命的じゃね?」


「うん!運命だよ!きっと!」


冗談で言ったのに全肯定マシーンと化した主人公に大肯定される、もう何を言っても肯定しそうである。...一抹の希望を持って試してみることにする。


「..なぁ春樹、人間って酸素を吸って二酸化炭素吐けるんだぜ?」


「あっそれ僕も知ってる!!でも改めて考えるととっても不思議だよね!!」


もう手遅れだった、常人なら「は?」で終わりな所をこのマシーンはカバーまでしてくれる。俺は、今までこの純粋無垢さをよく守り抜いて来れたなと春樹に感心する。


「ふふっ、本当に中が良いのですね、この学校は入り組んでいますし私も少し迷ってしまったわ」


「おっじゃあ明日 春樹と一緒に学校散策するけど一緒にくる?えーと...」



俺等のコントを見ていたお淑やかな女子、...いやショタコンモンスターでありターゲット二人目の七瀬望結を散策に誘う。

いきなり何を言う佐藤廉也と思うだろう、そんな諸君らに昨日見た図鑑内容を共有したい。



七瀬望結ななせみゆ 15歳


今回のターゲットの一人、中学校では重度のショタコンで浸透してしまったためにショタ系の男子が寄り付かなくなった、今は心機一転で遠目の学園に通うことにしている。

 


この情報を見ていなければ、ただお淑やかな女子にしか見えていなかった、なんという猫かぶり能力だろうか、師とお呼びしたい。


重度のショタコン女と純粋無垢な美少年、犯罪のニオイしかしない。だがこいつだってターゲットの一人だ、悪人ではないのだろう、ならば俺の作戦は一つだ。


!こいつと春樹をくっつけて一石二鳥作戦実行決定!


二人を別々に相手にして導くより二人が出来上がってくれる方が数億倍楽だ、ならばお前に春樹と一緒に散策という美味しい餌をまいてやろう!さあ食いついてこい!!


「え!?ぜひよろしくお願いします!あっ、七瀬望結です、これからよろしくお願いします。」



かかった!清楚女子改めショタコン女七瀬は、一瞬獣の目をして食いついてきたが、直ぐに取り繕って元に戻る

、さあ!恋の物語はここから始まる、ほらほら!春樹も新しい友達に喜び胸膨らま...


「え...あっうん!!よろしくね七瀬さん!!」



せてはいないようだ、なんで絶妙に嫌そうな顔をする月城春樹、ラノベ主人公らしく満開スマイルを見境なく振りまいてくれ、ここで人見知りを発動するな。


_________________________

          入学式


ショートホームルームを終え体育館に集合すると、しばらくして、入学式が始まった。とことん痩せてるか肥ってるかしている人たちが同じような話題をマイクに飛ばしている。


「えーとですから!ですからね!我が校に入学できた諸君らは!とても...」


学園長さん、話題が尽きたなら戻ってくれ...、持ち時間だったりが決まっていたりするのだろうか?

それとやっぱり生徒会長は普通だった、アニメみたいにオーバーな権力と人材は有しておらず始めて高校生になった時は少し驚いたものだ。


俺がボーっとしていると、ターゲット二人はどうしているのだろうと左右を見る。

右を見ると春樹は背筋をピンと伸ばし、頷きながら聞いている姿が見える、なんて尊いんだろう。

そして左を見ると七瀬が半目になりながらボーっとしている姿が見える。


春樹よ、こいつとお前をくっつけようとしている俺を許してくれ...。


俺と七瀬はその後もボーっとしながら話を聞き続けた。


_________________________

           放課後



入学式が終わりロングホームルームを終えた俺は帰宅するために大量の教科書をカバンに詰める。


「廉くん!家の方向同じだったよね!一緒に帰ろ!」


「おう!そうすっか!」


カバンに詰め終えるとトテトテと春樹が近づいてくる、なんか弟ができたみたいで、俺はとても懐かしくなり自然と口が微笑む。


「私も一緒に帰りたかったのですが生憎逆方向ですね...残念です。」


二人が下校するところを後ろでサポートをと思ったのだが残念だ、その方法は諦めるしか無い。


「うん!残念だね!!それじゃあ廉くん帰ろっか!」


「え?あー...じゃあ放課後暇な時があったら一緒に寄り道しようぜ!俺七瀬ちゃんの話とか聞きてぇしさ!」


「えぇ、ありがとうございます..」


なんか冷たくない?ショタコンでもヒロインだよ?七瀬さんめっちゃ可哀想だよ?俺は申し訳無さそうな表情をしながら七瀬にフォローを入れる、大丈夫だ俺に任せとけ!!



_________________________

          下校途中



「..でな!もうモテモテったらしゃあなくてな!」


「へぇ〜!流石だね!廉くん!」


「おうおう!だからお前も高校で色恋のひとつや2つ学ばねぇと損だぜ?」


学校での七瀬との会話から、異性や恋愛に興味がないと踏んだ俺は、存在しない記憶を元に、春樹に興味を持ってもらえるよう話をする。


「うっわぁ童〇の妄想もここまで現実味が無いと全国ロードショーものですね、ポップコーン全部払い戻してしまいますよ。」


「てめぇ...っ!!」


ヨッピーに言い返したい気持ちを必死に抑える、後で覚えておけこの野郎。


「?..どうしたの?廉くん?」


「あぁ...なんでもないぞ!ちょっと日本の未来について考えててな!」



嘘だ風呂場でハロー〇ティのポップコーンの歌を歌う人間が政治に興味が在るはずがない。


「えぇ?そうなんだ...やっぱり凄いや廉くんは...」



春樹はそう言いながらどこか沈んだ顔をする、え?流石にヤバイ奴判定されたか?。さっきの独り言で、イマジナリーフレンドとか作っちゃうタイプなんだとか思われた?。



「..あのさ!...あのさ、廉くんはさ...僕のことどう思ってるの?」



一瞬愛の告白をしてきたのかとふざけたことを考えるが、春樹の真面目な表情を見るとそんな考えも一瞬で吹っ飛ぶ。

流石に変な行動をし過ぎて怪しまれたか...?、とにかくここで変にキョドると余計に危ないため、動揺を隠すようにオーバーリアクションで反応してみることにした。


「ね、ねぇ!僕は真面目に聞いてるんだよ!答えてよ!」


「んー、親友!親友だな!俺らマイベストフレンド的な!良くね!?」


「...へ?、...しん...ゆう...?」



春樹はぽかんとした顔をして俺を見る、的外れ返答お疲れ様でした廉也くん!六年間お勤めご苦労さまです!地獄でも頑張ってください!...ここから取り返せる気がしない、初日に地獄行き確定とか笑えない..頭を燃やせ!!考えろ!!ここを打開する策を!!


「そっか...親友か...、えへへ、そうだね!僕たち親友だね!」



そう言うと春樹は顔を真っ赤にして笑顔を向けてくる。え?何が起こった...?とりあえずさっきの発言は成功したようだった...よくわからんがよし!!


「一体何が起きたのか好印象のようですね。しかしまぁ終わりましたね、この子の人生ゲームこの先真っ赤ですよ。」



遺憾ではあるが今回は完全に同意である、今の返答で気まずくならないとか彼はどこまで聖人なのだろうか。


「よし!じゃあ親友成立祝いにポテト奢ってやんよ!」


「え!?ほんと!!やったーありがとう!!」



今日は初日だと言うのにミスを大連発してしまったので、奢るでもなんでも取り返さなければいけない、明日からは同じミスは絶対にしない。俺は両手を振りながら付いてくる春樹を見ながらそう思うのだった。

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