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お姉さん、絶対私に変なことしちゃダメだからね――  闇バイトは幽閉少女のお世話

私は高校卒業してギリギリ就職した会社をクビになった。だから、生活するために闇バイトに手を出した。


職場として指定された場所は、最寄駅から歩いて20分ほどのおんぼろアパート。パッと見廃墟だったので、見つけるまでに時間がかかった。そのくらいぼろい。


 このアパートの二階、一番端っこの部屋には少女が監禁されている。普通、こんなことを知っていたら警察に通報するべきだが、私はしない。できない。なぜなら、私はその少女のお世話係だからだ。


 今にも崩れそうな階段を上る。私は普段、階段を上るときに手すりを使うが、ここの手すりは錆びているので触りたくない。階段を上り切って、廊下を歩く。一歩踏み出すごとにギシギシと不穏な音がする。


 目的の部屋の前に立つ。この中には少女がいる。その子に会ったときに、実際にどんな表情をするかはわからないが、きっと怯えるだろう。まだ見ぬ少女のおびえた顔を想像して、今更後悔する。しかし、もう引くことはできない。覚悟を決めて、ドアを開ける。


「お邪魔しまーす……」

 当然だが、返事はない。


 返ってこない返事に緊張が高まる。自分の心臓の音が聞こえてくる。

 乱雑に散らばった小さなローファーを避けて靴を脱いで、きっちり揃え、ゆっくり歩き出す。


 廊下がやけに長く感じられる。


 震える手で部屋のドアを開ける。この奥に少女がいる。


 目の前に飛び込んできたのは、ベッドの上に座ってこちらを見つめる少女。肩くらいまで伸びたサラサラの黒髪と、着崩していない制服。どこの学校かはわからない。結構美少女だと思う。しかし彼女は凜とした、というには少し攻撃力の高い目つきで私を見ている。


「こ、こんにちは~」

「……誰?」

 少女はその鋭い目つきを一切和らげることなく、平坦なトーンで私に尋ねる。その声にどんな感情が隠れているかわからないが、少なくとも怯えや、不安は一切ないのだろう。私は囚われのお姫様を想像していたが、どうやら間違っていたようだ。


「早く名乗って」


 彼女は檻にとらわれた猛獣だ。


「えっと、アイカ。あなたのお世話係……です」


 年下の女子高生に委縮し、敬語を使わされてしまって悔しい。


「別に、世話なんか頼んでないけど。食事と飲み物だけちょうだい。コンビニ位近くにあるでしょ。適当に買って、持ってきて。それでどっかいって」


 少女はぶっきらぼうにそういうと、ベッドに寝転がる。誘拐され監禁されているのに、よくこんな態度がとれるなと感心してしまう。それくらい尊大で、傲慢だった。


 もちろん私だって、できるものなら食事だけ渡して帰りたい。もっとビクビクしている可哀そうな女の子を想像していた。こんな高飛車ちゃんだとは思ってもいなかった。正直苦手なタイプだ。


 しかし、帰ることはできない。契約としては、週に三日、一回三時間、この子の面倒をみるというものだからだ。


「ごめん、私帰れないんだ。週に三回、三時間あなたの面倒を見るっていう仕事だから」

「……だったら、大人しくしてて。絶対変なことしないでね、犯罪者さん」


 少女はため息まじりにそういうと、ベッドの上から垂らしていた足をひっこめた。


 犯罪者さん……正解だけど、なんかイラっとする。変なことしないでねっていうのにもムカついた。するわけないだろ。ちょっとかわいいのは認めるけど、私は変態じゃない。この少女の発言が、今までの傲慢な態度も相まって、私の怒りを加速させた。


「あんたなんかに変なことするわけないじゃん。ちょっとかわいいからって調子乗んないで」


 ちょっと強めにいうと、少女は勢いよくベッドから飛び降りる。

 着地と同時に少し床が揺れる。

 なぜかはわからないが、少女はすすすっと歩いてきて、私に詰め寄る。


「本当?私、監禁されてるんだよ。お姉さんがここで私に何をしても、誰も気づかない。私も抵抗できない。それなのに、何も変なことしないって約束できるの?」


 少女は思っていたよりも背が低く、自然と視線が下に行く。近くでみると、肌のきめ細かさや、顔そのものの造形の美しさがはっきりとわかる。


「な、なに言ってんの?当たり前でしょ……私、レズじゃないし」

「へえ~、そうなんだ。じゃあ、安心できるね」


 一歩踏み出したらぶつかりそうな距離で少女はそういうと、突然自分のシャツのボタンをゆっくりと外す。白くて細い指で、ゆっくりと外す。

 上から順番に少しずつ外していき、真っ白い肌が露出していく。

 



 第三ボタンまで外され、レースのブラが少し見える。さっきから私の心臓はうるさいけど、もちろんこんな状況で、しかも女子相手に興奮なんかするわけはなく、この鼓動は不安と緊張によるものだということは自覚できる。


「ちょ、ちょっとあんた何してんの!?」

「暇つぶし。お姉さん、リアクションいいね」


 少女はにやりと笑って、ボタンを閉めてベッドの上に戻った。

 なんだったんだ今の。意味不明すぎて心臓のバクバクが収まらない。少女の真っ白い肌が目に焼き付いてしまって、なかなか離れない。


「私さ、見てわかると思うけど暇なんだよ」

「う、うん」

「だから、これからお姉さんには暇つぶしの相手になってもらうから」

「え?ちょ、どういうこと?」

「まあ、適当に考える。お姉さんは私の言うことに従えばいいの」


 監禁されているのは少女で、立場としては弱いはずだ。なのに、まんまと主導権を握られてしまった。まあ、確かにこの何もない部屋で三時間は私も辛い。暇つぶしの遊びを考えてくれるなら助かる。


「ま、まあいいけど、さっきみたいなのはダメだからね」

「さっきみたいなのって?」

「その、え、えっちな感じのやつ……」


またもや少女はいたずらな笑みを浮かべる。


「あはは、さっきのやつ、本気マジにしてたの?冗談に決まってるじゃん。エロいことなんかさせるわけないでしょ」

「わ、わかった。それならいいよ。じゃあ、これからしばらくよろしくね」

「うん、よろしく。お姉さん」


まあ、最初みたいな空気よりはましだ。ちょっとムカつくし変な感じだけど、口をきいてくれないような相手と三時間過ごすよりましだ。

仕事は今日から。だから、この状況で今からあと二時間五十分過ごすことになっている。


さて、さっそくこの子の暇つぶしとやらは始まるのだろうか。


「あのさ、今日はなんかあるの?」

「今日?あ、そっか。お姉さん今日から仕事なんだね。じゃあ、そうだなあ……」


なかなか考えが思いつかないのか、少女は斜め上を見てフリーズする。



「なんも思いつかないし、とりあえず寝たいからマッサージしてよ」


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