完全完璧な悪役一家
ドマ家というのは、少し変わった一族だと言える。
善悪の判断、道徳心は当然備わっている。他人を慈しむ心の尊さ、重要さ、愛することの素晴らしさを、何もかもきちんと正確に「良いものだ」と理解してその上で、踏みにじるのが「大好きだ!」という、どうしようもない血族だった。
これは私の一度目の人生では知らなかったことだが、家族愛はある、らしい。
血を分けた家族。同胞。かけがえのない、大切な存在。それは他の一般的な人間と同じ感覚で慈しむことが出来ている、らしい。
けれど、決定的に、壊滅的に、おかしい。
「どうだい、アザリー。お前の悪だくみに、この父や兄を関わらせてくれないか」
わくわくソワソワと、お父さま。
他人の誕生日に大きなプレゼントが贈られて、そのリボンを解くのを任せてほしいと、そういうような無邪気さ。
悪の一族、恐ろしいドマ家。
家族愛はある。だけれど、どうしようもなく、性根が腐っている。ので、大切な家族と一緒に仲睦まじく協力しながら、助け合いながら、悪事を働くことが何よりも「大好き」なのだ。
父も兄も、これまで私が行っていた何もかも「家族にも秘密のとんでもない悪だくみをしているに違いない」と思われていたよう。そして嬉々と「一枚かませてくれないか」と待っていた。
王宮で私が出て来て、馬車に乗ったので「ついにドマ家の一員として、家族皆で悪いことをする自覚に芽生えたのだ!」と、そのように。どうしてそうなるのか。ドマだからだ。ドマの人間だから、ドマの娘が、善良に生きたくて必死に足掻いていたなど、想像も出来ないのだ。
「次はどんな計画なんだ?何が必要だ?うん?ん?」
「……ご期待に沿えず、申し訳ないのですが……何もかも、誤解ですわ。お父さま」
私はティカップを置いて、ゆるやかに首を振る。
「わたくしはただ、友人としてこれまで公爵令嬢と王子殿下をお助けしていただけ……聖女として、必要な義務を果たそうとしていただけですわ」
「なん、だとっ……」
ガッシャン、と、お父さまが茶器を床に落とした。乱暴に立ち上がり、信じられない、という、フルフルと震え……茫然と立ち尽くす。
「この私の推測が……誤りだった……のか!?」
「残念ながら」
「だからお前は我々に失望を!!お前の企みを理解できない愚か者!失格だと!共犯者に相応しくないと……!!おぉ!!偉大なる先祖、我らがドマ家最高の悪女ルクレイツィアの再来か!!お前がここまで、天才的な悪女だったとは!!」
違います。
感極まって、大泣きし天を仰ぐお父様。有能な執事がさっとハンカチを差し出し、チーン、とお父様は鼻をかんだ。
助けてお兄さま、と、私は沈黙しているお兄さまに顔を向ける。
「……なるほど、つまり。父さんの予想はハズれ、というわけか」
「お兄さま?」
「確かに、父さんの予想では、王家も公爵家も、ちょっとした痛手をこうむるだけだ」
ちょっとした痛手。
公爵令嬢と第二王子は人生台無しになってますけどね。
「つまり、そんな程度では……アザリーは満足していない、ということだね?」
「違います」
「なん、だって……!?」
即座に否定した私に、お兄さまも何やらショックを受けたように、椅子から立ち上がる。
「……まさか、そんな……おぉ!偉大なる開祖悪の魔女ルクレイツィアの再来か!!まさか、我が妹が……国家転覆を!?」
どうしてそうなるんです???
「落ち付いてください、お父さまにお兄さま。わたくしはそんなに恐ろしい、大それたことなど企んでおりません。わたくしはただ、誰からも利用されず、幸せに楽しく暮らして行きたいだけですわ」
「「つまり……征服者に!!?」」
助けて!ドマ家の因習になじめず私を産んで首を吊ったお母さま!!




