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私の話(1)


 

 さて、ここでわたくし、聖女と呼ばれる女の話を少しさせて頂きましょう。


 名前はアザリア。家は伯爵家で、ちょっと変わった意味で有名なドマ家の長女です。


 春に咲く薄紅色の花の名を取ってつけられた私は、他の家族たちとは違って、人の役に立てること、人が笑顔になることに嬉しさを感じていました。美しく装うことよりも、下男たちに混ざって土をいじり、草花を育てることが楽しく、病気の子がいれば、どうすれば治すことが出来るのかを、貴族の家に生まれた特権である知識を使って挑み、そうした日々の生き方からか、12歳のころに聖女の奇跡を頂きました。


 祈り、触れた者の傷、あるいは病を取り除く、という奇跡です。

 

 けれどこの奇跡、たとえば神話の神々の御業のように、ぽん、と触れ、あるいは祈っただけで何もかもきれいさっぱり消え失せてしまう、というような破格の奇跡ではありません。

 そんなことが出来る人間は、奇跡を受けた人間とはいえ神に等しくなってしまいます。


 なので、聖女の奇跡というのは、聖女、というのは、まぁ、献身的な女のこと。


 対象者の傷や病を、肩代わりする。それだけの「奇跡」です。


 この奇跡を頂いた時、その使い方を知った時、私は歓喜しました。これで、一族の罪を償うことができる!と、愚かなことを考えたものです。


 ドマ家。

 私の生家。

 この国の闇を生み出す、恐ろしい悪の一族。


 暗殺毒殺、家門の繁栄のためならどんな汚い事でもしてきた一族です。


 幼い私には一族がどんな悪逆非道を行ってきたのか、詳しいことはわかりません。けれど、物心ついたころから、家族が「他人の不幸を喜び」「他人から奪う事を趣味」としている種の人間であることは理解できて、そしてそれを、激しく嫌悪していました。


 そんな家に生まれて、家族と同じように花を見て踏みにじる事を楽しめなかった私は、神に与えられた奇跡により、この家に生まれて来た罪を償う機会を貰えたのだと喜びました。


 怪我や病を引き受けて、平民であれば死んでしまうものであったとしても、貴族の私は家門の財力と知恵があります。適切な治療を清潔な環境と十分な栄養をとって受ければ、たいていの病や怪我は完治できました。神の奇跡を授けられた娘ということで、回復力も通常より随分と高くなっていたのもあるのでしょう。


 私は18歳の今日まで、乞われればどんな人の治療も引き受けました。


 そうして聖女として生きて、一年後の19歳の冬に、焼かれて死にます。



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