思ってたのと違う
「……ぜぇ、はー、ぜぇ、はー……」
「…………」
デートに誘われました。
えぇ、それは良いのですが……。現在、私は全身にびっしょり汗をかき、鼻と口で必死に息をしながら、果てしない目的地を見上げて絶望した。
「ま、まだ……」
「……まだ半分も登っていないが」
「ぐっ……」
汗一つかいていないガゼルは、私がなぜ早く登ってこれないのか不思議そうに眺めていらっしゃる。
……おかしいと思うのは私だけでしょうか。
デートに誘われました。
良い店がある、とか、そんな風におっしゃっていたと思うのですが、疲労から記憶を改ざんしてますか?
馬車で優雅に店先に乗りつける、とかではなくて徒歩でトボトボ歩いて、特に会話もありません。それはまぁ、期待していなかったのでどうでもいいのだけれど……
背中を眺めながら歩いて少しこう、こう……弾んだ胸の高鳴りは、なんだったのか。
連れて来られたのは、昔は観測台などに使っていたという高い塔。管理人のおじいさんには既に話を通してあるらしく顔パスで中に入ることが出来て……そうして、登り続ける階段階段階段、らせん階段。
「……ぜぇ、はー……」
嫌がらせですか?
嫌がらせなんですか??
貴族なんかとデートするわけないだろう的な??
「……」
一度目の人生では思わなかったが、私はガゼルがちょっと憎たらしく感じてきてしまった。あの善良で優しい人になんてことを、と直ぐに思い直すが……それで階段の段数が減るわけでもない。
あの優しい人が、こんな嫌がらせをするくらい、ガゼルは貴族が嫌いなんだな、と思い、私は全ての憎しみをロークリフォロ家に向ける事にした。
「……」
「……先に、……先に、行ったら、よろしいじゃ、ありませんか」
「……」
どんなに頑張ろうとしても、足は重いし全身が熱い。私は疲れから酷い顔をしているだろう。私と違ってガゼルはこの階段をちっとも苦に感じていないらしいので、上に行きたいなら私を置いてさっさと登ってしまえばいい。
だというのにガゼルはじぃっと私の苦しむ様子を眺め、少し先にいる距離を保ったまま、私が一段上がると自分もゆっくり一段上がるのだ。
手を差し伸べるわけでもない。ただ眺めている。これが悪意でないならなんなのか??
「……降りないのか?」
「はぁ?!今登ってるんじゃありませんかッ!!?」
「……」
必死必死に登ってる人間に何を言うのか。
「……なぜ登るんだ?」
殴りたい。
いえ、私は彼に……正確には一度目の人生で名乗らずに出会った彼に恩がある。情がある。想いがある。
のだけれど、目の前のガゼルには、殺意が沸いた。
「あっ、貴方が、誘ったからでしょう……!」
デートのお誘い。
野の可憐な花を束ねて、朝から私の時間を求めてやってきた。
想像した素敵なお店ではなかったけれど、今も全く、何を考えて階段を上らされているのかわからないけれど。それはそれとして。
貴方が誘ったから、ついてきてるんですけど……!!?
「デートだって……!!思ったんですよ!!」
私は怒鳴って、体を大きく動かしたのがよくなかった。
ぐらり、と、バランスを崩す体。
あ、落ちる。




