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エピソード4

エピソード4-1


アル教授の診察室から出た。スニークさんの後ろをついて歩く。


スニーク「ここからエレベータで上へ行く。隔離した居住区がある。そこで2週間だ。俺たち今病原菌を持っている可能性があるからドクトルの言った通りにしばらくは会えない。だが、心配はするな。今からの2週間も大事な時間だ。勉強も大事だがまずは環境設備への理解をしっかりする事が・・・って、おっと!」


向こうから真っすぐに女性が歩いてくる。髪はブロンドで背が高い。一目で言っても言い切れる程に綺麗な人だ。その様子を見たスニークさんが女性に歩み寄りながら両手を広げてこう言った。


スニーク「ヘイ!マイ・スイート・ラバーのアビーちゃん。喜べ、愛しの彼が帰還したぞ。残念だが君へのお土産は無いんだ。許してくれよ、その代わり素敵なデート約束をしよう。次の休日はいつ?君の大好物ななんだっけ?・・・そう、エスプレッソがおいしい店が・・・。」


女性は笑みを浮かべながら近づいてくる。右腕を肩の高さまで上げて抱き合うのかなと思った。でも・・・違った。その右腕の掌はスニークさんの左頬に炸裂した!倒れたりはしなかったにせよ、がっしりとしたスニークさんの身体が思い切りのけ反る。音がとんでもない。平手打ちであんな音がするなんて・・・。絶句している僕をよそに女性は僕に近づいて来てこう言った。


???「初めまして。貴方がヒューム君ね?私の名前はアビゲイル・クラーク。周りからはアビーって呼ばれているわ。貴方もそう呼んでちょうだい。私は・・・どう呼べばいいかしら?」

ヒューム「えと・・・ヒュームでいいです。呼び捨てで構いません。その・・・一体どうしたんですか?いきなり平手打ちだなんて。」


アビー「いいのよ。この人はこれくらい丁度いいの。っていうか全く足りてないくらいよ。優しい私の恩情に感謝しても良いくらいにね。」


そう言ってスニークさんへ怒りを通り越しての呆れを現した表情を向ける。頬をさするスニークさん。


スニーク「いや・・・お前さ。マジ何すんだよ・・・。不意打ちにしてもやり過ぎだろ?なんかもう・・・ほっぺた麻痺してるっぽい。後さー、熱いんだよ。逆に痛みとか無い感じねー。お前、容赦無さすぎだろ?」


アビー「貴方がやらかした事からすれば本当に些細な事よ。大問題なのよ、解ってる?ウチの会社無くなるかもしれないレベルのトラブルを自己の判断でやっておいて・・・。」

スニーク「まぁ、そのなんだ・・・。仕方が無かったって説明したろ?後は・・・どうだ?支部長の様子とかよ。」


アビー「怒ってないわよ、全然。もう逆に冷静過ぎててね。報告上げる度にこっちがヒヤヒヤするくらいよ。ちゃんと言い訳は用意しているのかしら?」


スニーク「言い訳って言うかしっかりと将来性を考慮した上での報告だ。説明すれば納得してもらえる。こいつの引き取り方も考えてある。長期的な視野で見れば悪い結果にはならないはずだ。」

アビー「だったらいいけど。ま、いいわよ。今の貴方達、近づいたら危ないもんね。じゃあ、今日はこれで・・・。そうだ、ヒューム。いいかしら?」


ヒューム「はい。何でしょうか?」


アビー「貴方の生活の保障は私たちがしっかりと管理するから安心して。それと・・・私とこの人は恋人とかそういう間柄じゃないから。ただの同僚よ。じゃあね。」


そう言うとアビーさんは引き返していった。スニークさんは相変わらず頬を抑えている。


ヒューム「あの・・・大丈夫ですか?」


スニーク「いや、大丈夫じゃない。ほっぺたどうなってる?出血とかしてない?」


ヒューム「かなり赤くはなってますけど・・・血が出てるとかじゃないです。」


僕の言葉を聞いてスニークさんは歩き出す。【エレベータ】という物の前に立ち【▲】の部分に触れる。20秒程経つと目の前の扉が開いた。中はそれほど広くない。スニークさんと一緒に入ると今度は【35】と書かれた部分に触れる。すると扉は閉まった。するとどうだろう?独特な重さが身体にかかる。よろめきすらしなかったが、バランスを取る為に自然と踏ん張ってしまった。その様子を見てスニークさんが言う。


スニーク「なーに、安心しろ。直ぐになれるさ。」


少ししてまた違った感覚が身体を襲う。すると不思議な声が響く。


音声「〇×▽Z〈¶⁅>¶Ψ・・・Z%”!%・・・。」


ヒューム「・・・???」


スニーク「ああ、ここの機械なんだが翻訳機能付いてないんだろ。この言葉は【日本語】だ。住んでるうちに直ぐに覚えるさ。さ、出るぞ。」


背中を追って外に出る。また違った光景だ。歩いた先に少し肌が浅黒い男の人と透き通るような白い肌をした女の人が立っている。二人とも上下とも白い服に身を包んでいる。


男性「お帰りなさいませ、スニーク。帰還の無事をを皆でお待ちしておりました。隔離居住区を案内いたします。そちらが・・・例の少年ですね?仰せつかっております。こちらの者にお任せください。」

そう言うと隣にいる女の人が僕の前に来て頭を下げた。


女性「こんにちは、初めまして。貴方がヒューム君ね?案内を担当するメアリーよ。よろしくね。」

ヒューム「メアリー・・・さんですか。はい、よろしくお願いします。」


メアリー「そんなにかしこまらなくても大丈夫よ。部屋に案内するわね。では、グェン。この子を預かるわ。」


グェン「解りました。丁寧にお願いしますね。」


ヒューム「あの・・・スニークさんとはここで?」


メアリー「アル教授から聞いてなかったかしら?2週間は直接会うことが出来ないの。これは貴方自身の為でもあるの。でも安心していいわよ。部屋にある機械を使うことでいつでも会うことが出来るから。」


グェン「メアリー、私はスニークを案内します。では・・・。」


そう言うとグェンと呼ばれた人は頭を下げて僕たちを見送る。遠ざかっていくスニークさんも手を振って見送っている。その内に通路の角を曲がって完全に見えなくなってしまった。

メアリー「心配しなくていいわ。大丈夫よ。」


そういうメアリーさんの後を追う。でも、やっぱり心配なものは変わらない。


エピソード4ー2


連れて行かれた部屋の状況を見て僕は驚愕する。僕の住んでいた家よりもずっと広くて清潔で・・・。部屋の入口で茫然とする僕にメアリーさんが声をかける。


メアリー「ぼーっとしてないで。ちゃんと説明するから。」


そうして部屋の備え付けの物を教えてもらった。【テーブル】、【椅子】、【ベッド】、【エアコン】、【パソコン】、【タブレット】、【クローゼット】その他諸々。テーブルや椅子、ベッドと言ったものは僕の家にもあったけどこちらの物は全然違う。テーブルには角が無いし、椅子は柔らかい綿のようなものが敷いてある。ベッド何て体重をかけたらドンドン沈むくらいに柔らかい。周りを見渡していると・・・お腹が鳴ってしまった。既に夕方だ。思い出したら昼食を取ってない。そんな僕を見てメアリーさんがクスクスと笑う。


メアリー「お腹が空いちゃったのね?わかったわ。食事を持ってくるから少し待ってて。食べたいものはあるかしら?」


ヒューム「美味しいパンとスープがあればそれでいいです。」


メアリー「もっと食べてもいいのよ。アル教授の許可次第だけどね。それと聞いておきたいんだけど、食べた時にお腹を壊したりする食べ物ってあるかしら?」


ヒューム「はい、木の実を食べるとお腹を崩したり熱を出すことがあります。」


メアリー「わかったわ。じゃあ、ナッツ類は基本的には出さない方向にするわよ。モニターの使い方は・・・まだ、解らないわよね?」


そう言うとメアリーさんは【リモコン】と言う機械を手に取り操作する。すると、【パソコン】の【モニター】に何かが映り出した。


清潔そうな男性「・・・次のニュースです。先日起きた□□国〇〇南部の▽△地区で起きた要人暗殺事件の続報です。暗殺された要人は政府関係者であり、恵まれない後進諸国への資金を寄付する活動をしておりました。暗殺実行犯は隣国である××国出身です。実行犯と思われる人物は犯行後、大使館向かい入館後の出入りは現在確認されておりません。大使館は周辺住民から取り囲まれており・・・。」


メアリーさんがリモコンを操作すると、また別な映像が流れだす。


軽装の女性「皆さんご覧ください。〇〇国中部である▲▲市郊外にある森林の中から大量に大麻を栽培している事実が発覚しました。私たちは今、まさに現地にいます。これだけ大きな倉庫です。どれだけの違法薬物が栽培・製造されたかは想像できません。現地警察が乗り出しておりますが捜査状況は芳しくない模様で・・・。」


メアリーさんがまたリモコンを操作する。すると、モニターがまた黒く戻る。


メアリー「・・・はぁ。もうこんなニュースばっかり。いつまで続くのかしら。ごめんなさいね、ヒューム君。っていうか、内容解る?」


ヒューム「はい、スニークさんから翻訳機の話は聞いております。この・・・モニターでしたっけ?その機会が入っているんですよね?」


メアリー「そうみたいね。でも、ここで暮らしていく上ではちゃんとここの言葉である【日本語】を習得しないといけないわ。でも、安心して教育するカリキュラムはきちんとあるから。とりあえず食事を運んでくるわ。テレビは・・・見ないほうがいいかもね。音楽チャンネルをかけるからそっちを聴いて待ってて。それじゃあね。」


リモコンを操作するとモニターに別な映像が移された。綺麗な小川が流れる風景に優しい音楽が流れだす。メアリーさんは部屋を出て行ってしまった。一人取り残された途端にまた心の中に不安が湧きだした。たった一日で今までの人生の何もかもが変わってしまった。2週間前までは村に居て・・・そこを追い出されて何日か森を彷徨って。5日前にスニークさんに出会って。そして今日の朝までは荒野のど真ん中でスニークさんと一緒に洞窟で暮らしていた。でも、今の環境は一体どうだろう?僕は今、間違いなく安全が保障されている。それでも昼間に見た遠くにいる屋根もいない場所で集まって暮らしている人たちを何故守ってあげないんだろう?疑問と不安ばかりが心の中で膨らんでいく。部屋の窓からは昼間見たような人たちは見かけない。でも、きっとたくさんいる。スニークさんたちはああいう人たちの事をどう思っているのだろうか?あれこれと考えていると「ピンボーン」と音が鳴る。部屋にあるパネルにメアリーさんが映っている。


メアリー「食事を運んで来たわ。そのパネルに青く光ってるところあるでしょ?押してもらえないとロックが解除されないの。お願いしていいかしら?」


言われた通りにする。すると、「ピッ!」という音がして扉から「カチリ」という音がする。すると、扉が開き台車に料理を乗せたメアリーさんが入って来た。


メアリー「お待たせ。パンとクリームシチュー。シーザーサラダに・・・デザートにフルーツミックスゼリーを持って来たわよ。」


そう言いながらテーブルに料理を並べる。パンは見たことも無いくらい大きい物が二つ。シチューと呼ばれたものは湯気がたっており中にはたくさんの具材が浮かんでいる。シーザーサラダには薄い葉物に赤い野菜、小さくて四角いものが転がっててそこに白い粒状のものがかけられている。

ヒューム「あの・・・これ、本当に食べていいんですか?こんなもの僕の居た村の長老だって食べたことないくらいの凄い物ってわかりますよ。大丈夫なんでしょうか?」


そう不安げに言う僕にメアリーさんは笑って答える。


メアリー「貴方以外に食べる人なんていないわ。大丈夫。ゆっくりよく噛んで食べてね。でも、何かあった場合に直ぐ対応できるように食事の最中は私も同席するわ。アル教授からの指示よ。そこはわかってね。さ、冷めないうちにどうぞ。」


そう言われて僕は椅子に座る。まずは、パンを噛り付いてみた。・・・これは本当にパンなのか?味、柔らかさ、薫り・・・。何もかもが僕が食べてきたパンと違う。美味しい。美味し過ぎる。続いてシチューと言う物を食べてみる。村では木のスプーンでだったけど、こちらは銀色のスプーンだ。橙色の野菜と一緒に掬って口に運ぶ。これもそうだ。口の中でとろける様だ。多分、牛乳が入っているのは解る。こんなに美味しい物は食べたことはない。二口目にはやや透明な野菜、小さい肉、村でも裕福な家でしか食べられなかった芋に似た食べ物。どれもこれもが素晴らしい味だ。次に手を付けたシーザーサラダも・・・最後に食べたミックスゼリーなんてものは言葉では表現出来ない!ただし、食べっぷりが急ぎ過ぎたのかメアリーさんから「それ以上食べないで。」と言う止めが入ってしまった。他の食材は食べ終わったが、パンがまだ半分残っている。


メアリー「これくらいでいいと思うわ。貴方のお腹の調子はまだ良くないはずだから食べ過ぎてもいけないの。腹八分目、それがちょうどいいのよ。」


そういって食器を片付け始めた。余ったパンを透明なパックに入れる。


ヒューム「あの!そのパン、持って行っちゃうんですか?良かったら僕に下さい。お腹が空いた時にいつでも食べれるようにしたいんです。」


メアリー「それは認められないわ。貴方に意地悪したい訳じゃないの。一度でも人が口を付けた食べ物にはいろんな雑菌が付着するの。それが時間をかけて増殖してから食べると大変な事になるわ。今の貴方は健康な状態とはとても言えないわ。健康を取り戻すためにも可能な限り体調を悪化させる要因は排除しなくてはいけないわ。もし、後で食べたくなったら新しい食べ物を持ってくるから。」


ヒューム「そうですか。だったらそのパンどうしちゃうんですか?」


メアリー「廃棄するの。衛生管理上で問題ない方法で処分するわ。」


ヒューム「処分・・・って捨てちゃうんですか?」


メアリー「そうよ。今の貴方は未知の病原菌を保有している可能性があるの。それらを外へ漏らす事は出来ないわ。貴方に接触している私も例外は無いわ。2週間という区間は決められたエリアから出られない。」


・・・勿体ない。その言葉しか浮かばない。僕を大事にしてくれているのは解るけど、あんなに美味しい物を捨てちゃうんだなんて・・・。僕の表情を見て悟ったのかメアリーさんが話しかける。


メアリー「貴方の事はある程度だけど聞いてるわ。随分の間、厳しい生活をしてきたって。だから、食べ物を大切にしたい気持ちはよくわかるわ。さっきも言ったけど、健康を取り戻すという大目的を達成しなくてはならない以上、危険性が予期できる事は絶対に避けなければならないわ。貴方からしたら不本意かもしれないけど・・・わかってちょうだい。」


そう言われて肩を落とす僕に、明日の朝食の時間を言うと食器類を台車に乗せ始めた。ふと、窓の外に目を向けるとすっかりと夜になっている。教えてもらった【時計】を見ると短い針が【8】、長い針は【45】の部分を指していた。


メアリー「今日はここまでね。音楽は消していくわ。明日の朝食は7時。それまでゆっくり休んでちょうだいね。」


お休みと言いメアリーさんは出て行った。残される僕は部屋の電気を消してベッドに入る。とても柔らかくて温かい。でも・・・内心は疑問があった。僕がこんな贅沢をしていて本当に大丈夫なんだろうか・・・と?それでも目まぐるしい一日を過ごした事で疲れていたのか目を閉じると直ぐに深い眠りについてしまった。


エピソード4ー3

スニークは部屋に通された。クローゼットを開けて服を取り出す。着替えながらグェンに声をかける。


スニーク「で、こっちはどうなってる?」


グェン「芳しく無い。それだけですかな。どう考えても我々の負けは見えています。」


スニーク「向こうの情勢は?」


グェン「順調に勢力を拡大中です。1週間前ですが、アメリカの〇〇州のスラム街を土地の丸ごと買い取って新しいビル街を開発するという発表を社長自らが行いました。資産家がこぞって株を買い取りに走っております。」


スニーク「スラム街に住んでいた住民たちからの反対は?」


グェン「注意勧告自体は1か月前から地元警察が行っていた様ですし、それに従わないでとどまり続けた者達は逮捕されております。それを恐れて逃げ出した者も多くいるようですな。社の利益と警察への利益が合致した結果での連携と見て良いでしょう。」


スニーク「1か月前?俺も向こうの情勢は見ていたがそんな様子は見受けられなかったが?」


グェン「そこは情報を伏せて置いたのでしょう。地元警察としてもスラム街の存在する事が守るべき市民からの不満です。それを的確に追いやる方法があるのであればあえて周知する事はありません。合法的とは言え、企業が自分たちの住居を奪い取ろうとするのです。それらを先に知らせておけば民間人や企業に勤める従業員への不満から犯罪行為が発生する可能性もあります。ですが警察からの勧告などいつもの事だと考えさせれば・・・。」


スニーク「なるほど。追いやる理屈が成立するっと・・・。」


着替えを終えたスニークは、コーヒーメーカーに近づき豆と水を入れてスイッチを押す。出来上がるまでの間、椅子に腰かけて待つことにする。先ほどアビーにぶたれた左頬をさする。

スニーク「で、お前はどうするんだ?負けが見えているならわざわざウチにいる必要も無い。会社都合で退職届も受理してもらえるはずだぞ?」


グェン「その負けが決まっている状況を打破する為にあの少年・・・ヒューム君を連れて帰ったのでしょう?多大な損だけを解っているだけで闇雲に引き取るなどと言う行動は取らないことなどわかっておりますよ。」


スニーク「相変わらず勘が良いな。その辺、アビーのヤツにも見習ってもらいたいもんだ。」


コーヒーメーカーからメロディが流れる。出来上がったようだ。立ち上がりコーヒーをマグカップに注ぐ。ひと口飲んでからまた左頬をさする。


スニーク「そこまでわかっているなら成果も予想出来るだろ?教育を施してやれば必ず俺たちの状況を覆す切り札になるってな。」


グェン「少々リスクが高すぎるような気もしますが?」


スニーク「リスクを冒さずに勝てる相手では無い。向こうも手段を選ば無いならこちらもそうする必要もある。それにいずれは【隣の世界】の住人を受け入れる体制も出来上がる。それまでにノウハウを構築するだけだ。」


そうしてまたコーヒーを口に運ぶ。カップを覗きながらため息をつく。


スニーク「こいつも20年前までは誰でも飲めたもんだったんだがな・・・。」


グェン「ええ、今ではすっかり高級品です。嗜好品を作る余裕など今の社会にはありませんからね。」


スニーク「そういえば、お前の国の方はどうなってるんだ?家族もいるだろう?」


グェン「ええ、ですが問題ありません。あの辺りは比較的治安が良いです。私の給料でも残してきた家族は養えております。」


スニーク「お前ほどの奴なんだ。国に帰って企業の一つでも立ち上げれば・・・。」


グェン「私は自分自身の長所と短所を理解しています。組織の長を務められるような性格をしておりませんよ。ここに務めて若者の育成に努める事が私にとっては重要です。何より、私を雇用して頂ける状況を作れば祖国からの移住者も増えましょう。」


スニーク「まーた、国民増えちゃうのかよ?ダメじゃないけど、全員養えるほど国力ないぞ?お前みたいな才能あふれる奴ならまだしもなぁ・・・。」


そう言ってコーヒーを飲み切る。2杯目を注ぐために立ち上がる。


グェン「もう20年ほど前でしたね?近隣の国の若者を育成する目的で誘致して国内に雇い入れて・・・。」


スニーク「だが、その実態は学習する余地の無い単純な重労働だ。日本通貨に価値のある間はまだ我慢もしてただろうが、日本そのものに価値が無くなった途端にいなくなったからな。無理もない。国は認めていないが政策として明確な失敗例だ。」


2杯目のコーヒーを口に運ぶ。


スニーク「で、今日の飯はなんだ?昼飯喰って無いから多めで持ってきてくれ。それとなんだが・・・食べ終わってからでいい。頼みがある。ドクトルに相談したい事がある。」


グェン「如何されましたか・・・?」


スニーク「俺、戻って来てからアビーのヤツにビンタ喰らったんだよ。すっごい奴な。」


グェン「聞いております。それが何か?」


スニーク「さっきからさ、左耳おかしい。聞こえない。多分・・・つーか絶対に鼓膜破れたわ。」

グェン「解りました。アル教授は多忙でしょうから別の医療スタッフを手配しましょう。手に負えない程でしたらアル教授に時間の確保を頼んでみましょう。では、先に食事をお持ちします。」


そう言ってグェンが退室する。コーヒーを口にするスニークは思った。


スニーク(これって・・・労災降りんのかな・・・。っていうか隠すと犯罪隠匿とかにならないか?ああ、そもそもヒューム連れてきた時点でそんなの問題じゃないか。)


あれこれと考えながら帰還した者と来訪した者の夜は過ぎて行った。

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