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エピソード2

エピソード2ー1

一日目の夜はあの焚火からそう離れたところで無い洞窟で過ごした。入口に布切れで幕を作っていた。寒いから洞窟の中で暖を取る為に、焚火を起こしたらと言ったら却下された。理由を尋ねたら、

スニーク「そんなことしたら寝てる間に死んじゃうからなー。寒いなら俺の毛布もう一枚渡すが?」

と答えられた。後の勉強で【一酸化炭素中毒】と言う言葉を知った。

スニークさんは変わった人だ。それでも間違いなく命の恩人だ。でも、度々やってる行動の意味が解らない時がある。出会って二日目、衝撃的な行動をとり始めた。


ヒューム「・・・あの、スニークさん。何をなさっているのでしょうか?」


スニーク「ん?何ってお前、見てて解らないのか?」


ヒューム「そうじゃなくて・・・その何故そんなことを?」


スニークさんの顔は真剣だ。真剣そのものだ・・・。


スニーク「必要だからだ。ここじゃあらゆる物資が必要だ。必要なものは絶対に確保する。要らないものは直ぐに捨てる。生き残る為には、その判断力が不可欠だ。なぁ、ヒューム。そうだとは・・・思わないか?」


ヒューム「それは・・・最もなんですけど。」


スニーク「やっぱりそう思うよな!人間、しがらみに取り付かれたり執着するとロクなことにならないからよー。」


スニークさんは僕の方を振り返る。顔は爽やかな笑みを浮かべている。でも・・・でも・・・!やってることがあんまりだ!


ヒューム「じゃあ・・・!じゃあ・・・!どうして・・・どうして、僕のしたう〇こ集めてるんですかぁぁあぁ!」


スニーク「へ?お前、今の話聞いてただろ?必要だからだよ。必要なんだよ、お前のう〇こがよー。俺はよ、いい加減な男だって自覚はあるけど基本的には無駄で終わる事はしないタイプだぞ。つーか、言ってなかったにせよ、こんなに埋めるなよ掘り起こすの大変だろ?」


ヒューム「埋めるに決まってるじゃないですか!肥溜めなんてないんですよ!こんな山岳・荒野のど真ん中で危険な動物が匂いでやってきたらどうするんです!」


スニーク「お前がそうやってギャー、ギャー騒いだ方が危険動物やって来る可能性が上がると思うんだがな。後、捕獲して食料に加工できる生物も逃げだすぞ?」


現に頭の上を鳥たちが飛び立って行った。僕は頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。

スニークさんは僕のう〇この大半を集め終えると透明なパックに入れた。そうして太陽にかざして「うーん・・・」と唸り始めた。


スニーク「予想はしていたが・・・。お前、そうとう無茶苦茶なことしてんだな。検査キット無しでもお前の体調判るもんだー。ほら、こっち来て見てみろ。」


僕は立ち上がり、自分の排せつ物を嫌々ながら見る。


スニーク「ほら、これなんか解りやすい。昨日の晩、ここ何日かは雑草喰って飢えをしのいだとか言ってたな。見ろ、ほとんどそのまま出てる。未消化だ。これじゃ、腹は膨れても身体への栄養補給にならん。それどころか内臓への負荷が高くなる。栄養補給の面だとむしろマイナスだ。」


ヒューム「ないぞう?しょうか?」


スニーク「解らんか。まぁ、聞いたことも無いだろうからな。そこは仕方がない。だが、これも約束しろ。訳の分からない動物・植物を決して口にするな。これを食べるくらいなら焼いたゴキブリ喰ってる方が全然いい。あっちは・・・まぁ見た目は悪いが栄養自体は豊富だからな。基本、世界のどこにでもいるし。ん?そう言えばゴキブリってこっちの世界にいるのか?こっちの世界だと大きさは親指先くらいで、足は6本。すばやくって、物陰にすぐ隠れて・・・」


説明を続けるスニークさんを他所に僕は思った。

スニークさん・・・いるよ。名前は違うけど、そういうヤツはいる。村で出たときには畑で作業を中断させられても駆除に向かわされた。村人男女問わずの9割以上が触りたがらなかったよ。そんな回想をしているとスニークさんは僕の顔を覗いて聞く。


スニーク「で、いるのか?いざって時には貴重な食料になるんだが?」


昨日は生きたいと思った。でもあえてここは・・・。


ヒューム「確かに・・・そういう生き物はいるにはいます。でも僕、村の宗教で虫は食べちゃいけないっていう戒律があるんです。何ていうかその・・・追い出されちゃったけど教えは守らないと・・・ダメだと思うし。」


スニーク「じゃあ、虫を食べる選択肢は無しか。確かに宗教上なら仕方ないことだ。別の手を考える事にするか・・・。さ、朝食だ。非常食を砕いて粥を作る。中々旨いぞ。お前の体力次第って部分もあるが2日か3日間はこれと昨日の水以外は基本取るな。別な物食べたくなったらちゃんと相談しろよ?」


そういうと、スニークさんは洞窟近くの野営地に戻って行った。僕は後を追った。恩人を騙してしまった罪悪感を抱えながら。でも、それも直ぐに考え直すことになる。今日から3日間はう〇こする度、スニークさんを呼んで回収してもらわなくてはならなくなったからだ。


エピソード2ー2

スニークさんは朝起きた時に僕を背負う。僕をおんぶした状態で周辺を歩きまわり状況確認する。仕掛けたトラップの確認や天候の変化を観察する間だけだ。大体20分程度だけど。出会って3日目の朝を迎えた。そして今もおんぶして歩き回っている。


ヒューム「スニークさん・・・。少し、いいですか?」


スニーク「どうした?・・・はっ!もしかしてう〇こか!?わかった!どこでするんだ?」


ヒューム「違います!なんで毎日僕の事おんぶするんですかって聞いたいんですよ!」


スニーク「ああ、なんだよ。そんなことか。てっきり俺は・・・。」


ヒューム「質問に答えてください!あと、僕が質問する度すぐにう〇こに繋げる考えやめてくださいよ!はっきり言いますけど嫌なんですからね!毎回毎回!う〇こ渡すの!」


僕の返事を聞いたスニークさんは、声を上げて笑う。つられて僕もクスクスと笑う。


スニーク「お前、村に居たときどれくらい食事たべてた?一日食べる回数と量を教えろ。」


ヒューム「え・・・?えと、基本的にはお昼に一食です。固く焼いたパンが村では余っていたのでそれが主な食事です。両手を合わせたくらいの大きさでそれを3枚程度です。夜は裕福な家の余りを分けてもらっていました。本人たちは嫌ってましたけど、僕にとっては十分ごちそうですからね。」


スニーク「まぁ、そんなもんだろうな。あと、お前食べれない物はあるか?味とかそういうのを関係無しにだ。熱が出るとか・・・なんらか体調を崩すような事はあるはずだ。」


ヒューム「・・・そういえば、木の実を食べるとお腹を壊すような気がします。少しだけだったらいいんですけど。食べ過ぎると2,3日は起きれなくなるくらいにはなります。村を追い出されてもお腹を壊したら死んじゃうと思って木の実は食べませんでした。」


スニークさんは立ち止まり唸る。僕は呼びかけるが黙ったままだ。そうして一分経たない間にまた歩き出した。そうして口を開いた。


スニーク「軽いんだよ、お前。」


ヒューム「軽い?僕が?」


スニーク「ああ、軽すぎる。おっと、お前の歳聞いて無かったな。10歳かそこらか?」


ヒューム「2か月前ですけど11歳になりました。」


スニーク「そうか。なるほど・・・そりゃあ、まずいな。」


ヒューム「え・・・あの・・・どうまずいんですか?」


スニーク「こっちの世界の基準だが、11歳の平均体重は・・・確か37キロか38キロが通常だ。背も小さいから10歳未満の可能性も考えたが・・・11歳とはな。」


ヒューム「そんなに今の僕いけない状態なんですか?あと、キロってなんですか?」


スニーク「キロっていうのは重さの基準だ。お前が毎日口にしている水の容器。アレで一本で2キロだ。」


ヒューム「そうなんですか。でも、アレと僕の軽さがどう関係しているんです?」


丁度その時、トラップの場所に到着した。何もかかってない。仕掛けたイモリは死んで腐りかけているがまだ使えるのだろう。放っておいてまた歩き出した。


スニーク「俺の長年の経験で言うが・・・お前の今の体重は33キロか32キロってところだ。お前、毎日飲んでるあの容器水満タンのヤツを2本と半分同時に持ったらどうだ。持ち運べそうか?」


ヒューム「え・・・あ・・・無理です。どんなに頑張っても2本。いえ、一本と半分が限界だと思います。」

スニーク「そうだろ?基本的にだが人間ってのは自分の体重がある程度は重くないと物を持ち上げられないんだよ。高々3キロの重量ですら持ち上げれない。今のお前は自分の重さを支えるのが手一杯で他の物持ち上げる余裕は無いってことだ。明らかまともに食えてもいない。加えて、無理に重労働してきたんだ。痩せこけて当然だ。だから、少しでも体重が毎日少しずつでも増えているかどうかをこうして確認してるんだよ。」


スニークさんはそう言うと首から下げた筒を除く。【双眼鏡】と言うらしい。使わせてはもらえないが遠くのものがよく見えるとのことだ。天気の状態を調べたり遠くの獲物を見つけたりするみたいだ。


ヒューム「そうなんですか。その・・・どうもありがとうございます。気遣っていただいて。」


スニーク「気にする必要はない。第一、俺はお前の事をただで助けたつもりはない。必ず役立ってもらう。俺たちの力になってもらえると考えたから助けただけだ。」


ヒューム「僕がスニークさんの力に?」


スニーク「これは俺の経験則だがお前は能力が無いわけではない。周辺環境がお前と合っていなかっただけだ。食わせず、学ばせず、働かせ続ける。そんな状態じゃ、人間がまともに育つはずはない。よく食べる。よく学ぶ。よく遊ぶ。これらをきっちりこなせば村に居た誰よりもお前は優秀なヤツになれるだろうよ。それにだ・・・」


洞窟前に帰って来た。僕を降ろすとスニークさんは言った。


スニーク「お前から教わることが俺には山ほどある。俺はお前に教える。お前は俺に教える。この関係が保たれ続ける限りは、俺はお前を見限ったりしない。」

そう言ってスニークさんは僕の頭を荒っぽく撫でた。屈託のない笑いを浮かべながら。


スニーク「さて、少し遅くなったが飯にしようぜ。夜からになるがそろそろ肉もイケるだろう。鳥肉とか大丈夫か?干し肉にしてあるから細かくして粥に混ぜるぞー。」


スニークさんを見送る僕の中に何かが芽生えつつある。村での生活の中では絶対になかったものだ。何の学も無い今の僕では言葉に出来ない。恩とか感謝とかそんな誰でも思いつくような安っぽい言葉じゃない。判っているのは僕は今、すごく満たされているという事だけだ。ただひたすらに嬉しい。それだけの気持ちだけで僕はスニークさんの後を追った。


エピソード2ー3

ヒュームが寝入ってから1時間経った。久しぶりに肉を食べて嬉しかったのか満足いくまで食べさせた。腹が満たされたせいか食事が終わってからすぐに毛布にくるまって眠ってしまった。スニークは洞窟を抜け出して少し離れたところでスマートフォンを取り出した。


スニーク「もしもし。よう、この時間まで残業とはご苦労さんだな。っていうかこっちの世界とそんなに時差無いんだっけな。で、定時連絡なんだが・・・。」


女性「それ以外に何か言う事があるでしょう?貴方、今自分が何をしているか分かっているの?支部長だけど未だに怒ってるわよ!どうしてくれるのよ!」


スニーク「まあ、俺が頭下げれば済む話だし・・・。成果を予想すれば良い方向に進むはずだぞ。」


女性「済まないし、良い方向にも進まないわよ。もういいわ。貴方の報告を聞かせて。」


スニーク「保護した少年の名前は、ヒューム・ジャメント。年齢は11歳。身長と体重は俺の感覚だが140㎝前後、体重33㎏。かなり痩せている。保護した時は日没から2時間以上経過してからだ。保護時の周囲の気温は13℃。体温は34℃を切りかけてたからな。後一時間過ぎていれば危なかった。命の危険が迫っていたが、本人の気力もあってそれなりに回復している。連れて帰る間によほど不運に見舞われない限りは生命活動に支障は無いだろう。保護してから3日目の昼までは消化器への負担を考慮して食物繊維を除いた食べ物を粥状にして摂取させた。内容は乾パンとドライフルーツのバナナを砕いたものをだ。飲み物は粉末のスポーツドリンクを通常の3分の1程度に薄めて飲ませた。不安要素があるとすればビタミン不足と鉄分不足だ。今のうちはいいが、その内に壊血病や脚気と言った疾病が現れる可能性がある。貧血防止のためにもそれほど運動はさせてない。可能な限り早急な治療が必要だ。」


女性「周辺の住民はなんかはどう?人口の状態は?」


スニーク「いくつかの集落があるがどの集落も100人未満だ。50人以下のところもある。」


女性「その集落の主な産業は?」


スニーク「半径50㎞圏内すべての集落を観察したが農業主体だ。保護した少年から聞いた内容もあるがジャガイモに近い作物を何年もずっと作り続けているとのことだ。家畜もいないことは無いが、数は少ない。見た目はそうだな・・・イノブタに近いな。後は家畜としての鳥もいる雉と鶏を混ぜたような姿をしている。集落同士の折り合いが悪いのか、俺がここに来てからの2週間の期間では行き来は見られなかった。どの集落でも同じようなものを作っていればなおさらそうだろう。」


女性「平均寿命なんかは判かる?」


スニーク「おいおい、たかだか2週間程度でそこまではわからん。だがどの集落も偏った産業をしている以上、栄養状態が偏るはずだ。寿命そのものは短く見積もってもいいだろう。60歳を超えられないと見ていい。」


女性「わかったわ。で、どうするの?聞いた感じ、その子を治療できる設備がある文明レベルとは思えないけど?」


スニーク「どの集落に連れて行ったとしても助からん。ましてや、これから冬が来る。病人を受け入れてくれる訳も無いだろう。」


女性「じゃあ、一体どうするの?まさか、情報を聞き出すために一時的に助けたなんて言わないわよね?」


スニーク「そんな訳ないだろう。これからも助ける。そして俺たちの力になってもらう。それにさっき言ったろ?連れて帰るって。」


女性「・・・!?まさか、貴方!?」


スニーク「そうだ。ウチの社で保護するんだ。3日間見てきたが、あいつは環境に恵まれていないだけで才能はある。保護して教育を施せば強力な存在になる。」


女性「馬鹿な事を言わないで!やってることは現地住民を誘拐しているのよ!」


スニーク「おいおい、言葉を選んでくれよ。これは亡命の手助けをしているんだ。将来有望な若者に支援するのは社会人として当然な行為だ。人道には反していない。」


女性「だからって・・・。」


スニーク「じゃあ、逆に聞くがどうするのが正解だというんだ?面倒ごとを避けるために助けられる命を助けなければ良いと?ここまで助けて今さら見捨てるか?今、お前が入力しているデータ記録がどこかに漏れ出たらそれこそマズい。社会すべてが俺たちの会社を潰しに係るぞ。だが、人命救助の目的で行った行為ならそれほど糾弾はされん。違うか?」


女性「・・・呆れて物も言えないわ。っていうか、貴方最初っからそのつもりで保護したでしょう?」


スニーク「今さら気づいたか。相変わらず鈍いな。第一に現状を考えろ。俺たちに残された時間は高々数年。早ければ5年で終わる。その間にあいつ等を巻き返せるか?あいつ等を止める方法はあるのか?」


女性「・・・無いわ。必ず負ける。確実に弱者はより虐げられる。今まで以上に権力者の支配がより強固になりそしてやがては・・・世界が終わる。」


スニーク「そうさせないために俺たちがいる。そうだろう?」


女性「報告は以上ね。貴方の考えに同意は出来ないし協力する気も無いわ。好きにしたら。それと今思ったんだけどね・・・。」


スニーク「どうした?まだ、何かあるのか?」


女性「その【Sneak】って名前。本当に貴方に相応しい名前だと思うわ。」


スニーク「これ以上ない褒め言葉だ。以上だ、報告を終了する。」


スマートフォンをしまうと洞窟に向かう。垂れ幕をめくるとヒュームはよく寝入っている。

毛布にくるまって瞼を瞑るスニークは思った。

これでいい。これでいいはずだ。間違ってても構わない。誰に糾弾されてもいい。例え自分がこれから育てるであろうヒュームに将来憎悪をかって、文字通り命を奪われてもそれはそれで満足出来る。だが本心は解っている。結局は自らの過去のトラウマから抜け出せないからヒュームを助けた。自分の代わりに戦える人物探して、その人生を捻じ曲げ戦いの日々に巻き込まれることに納得する奴であればだれでもよかった。そう考えれば自分がやってる事は憎むべき敵と同等かそれ以下の行為だと。


スニーク「それでも・・・構わないさ。」


言葉に出して自身を無理矢理納得させると、浅い眠りについた。


エピソード2ー4

5日目の朝が来た。僕はスニークさんの会社に保護してもらえる形でニホンという国に連れて行ってもらえることになった。向こうで保護してもらえればまず第一に衣食住が保証されるという事。更に勉強に励める。僕が生まれ育ったの村の裕福な子供たちでしか受けられない事が当たり前になるなんてきっと凄いところなんだと思う。否が応でも期待は膨らむ一方だ。ただし、注意も受けた。教育を受けられる期間は3年。その間にスニークさんが所属する会社に適した人材でなければ元の村へ帰ってもらうとの事だ。そこだけは覚悟をしないと。しかもただ勉強するだけじゃない。言葉だけ教えてもらったけど現地文化、国際世論、政治、宗教、その他諸々。ありとあらゆることを覚えないといけない。僕は村へ帰るつもりはない。未練が無いとは言い切れない。でも・・・だからこそ今はスニークさんについていく。迷っていられない。第一、今の自分を受け入れてもらえる場所はこの世界には無い。スニークさんはこうとも言った。


スニーク「お前がやめたくなったら遠慮なく言え。故郷の近辺まで送り届けてやる。」


と。勿論その場で言い返した。


ヒューム「そんなことは無いです。生きている限り、全力で学びます!」


「状況も見ないで即断するな。」と笑いながら軽く小突かれた。

洞窟から荷物をまとめて洞窟を後にした。10分ほど歩いた場所に開けた荒野が見つかった。


スニーク「少し準備する。向こうに繋げるゲートを開くから、離れていろ。お前は・・・まぁ、周りを見て置け。少なくとも3年は帰ってこれない。嫌なこともあっただろうが故郷は故郷だ。目に焼き付けて置け。」


そう言うとスニークさんは四角い黒い石をいくつか置き始めた。時間がしばらくかかるらしい。・・・言われた通りに周りを見回した。改めて見てみると解る。何故、僕が追い出されたのか?その理由が。何もないんだ。人が生きていく上で必要な物が足りなすぎる。森も少なく、川も少ない。山は岩肌だらけで生き物の気配が無い。土にもきっと元気の様なものがあって・・・。だから解った。僕を追い出した村は遠くない未来消えて無くなるだろう、と。そこでスニークさんから声がかかった。もう出発するらしい。


スニーク「忘れ物は無いか?洞窟、見に行ってもいいんだぞ。」


ヒューム「僕、着の身着のままで村を追い出されたんですよ?あるわけないですよ。」


スニーク「今さらだが・・・本当にいいのか?今のお前はある程度だが現実を知った。その知識を活かせば村での居場所も・・・。」


ヒューム「居場所があっても戻りません。あそこは・・・これから無くなります。大人たちは誰も責任を取らないで・・・長老ですら自分の間違いを認めないで・・・そんな場所は無くなっていいんです!あっちゃいけないんです!」


スニークさんはため息をついた。苦笑いを浮かべて僕の片手を握った。もう片方の手には独り言を言ってた時の板を持っている。


銀色の板「パスワード、認証。使用者名・ミナミ ハル。指紋認証・・・完了。静脈パターン認証・・・完了。本人と断定。ゲートを開きます。ゲート開放時間は1分です。その時間内に必ずゲート内へ侵入してください。体の一部がゲートの外に出ると大変危険です。注意してください。」


すると四角い石から別な石へ、青色の光が発生した。石から石へ次々に光が繋がる。そうして閃光が放たれた!スニークさんが僕の手を引っ張る。


スニーク「時間が無い。行くぞ!」


光の中へ強引に引っ張る。光の中心にたどり着くと僕の身体を両手で抱え込んだ。


スニーク「いいか?絶対に動くな。後30秒で向こうの世界だ。あとは目は閉じていろ。この光は眼に悪い。」


銀色の板「10・・・9・・・8・・・7・・・。」


何の感情もこもってない声が聞こえる。目を開くなと言われたけど、やっぱり開いてしまった。そうして心の中で思った。


ヒューム(さようなら、みんな・・・。本当は・・・嫌いじゃなかったよ。)


銀色の板「3・・・2・・・1・・・0。転送開始。」


その瞬間味わったことのない感覚が全身を覆った。体の重さが・・・体重が全く感じない。服や髪は風も無いのにたなびく。似た感覚があるとすれば、もっと小さかったころ。悪ふざけで村の大岩に登り飛び降りた時に近い。浮いているのか?落ちているのか?全く解らない。でも、スニークさんが抱きしめてくれている。大丈夫。きっと大丈夫。僕もスニークさんに強く抱き着いた。そうして、何秒か経った後・・・いきなり体重が戻って来た。びっくりして転びそう無ったところをスニークさんが支えてくれた。


銀の板「転送完了。現在の場所は東京・神田〇〇町〇丁目〇番地。ワールドイーター社ビル30階転送ターミナル室です。お疲れさまでした。」


そうしてスニークさんは僕を抱きしめている腕の力を抜いた。


スニーク「もう大丈夫だ。こっち側に到着だ。目、開いてもいいぞ。」


恐る恐る目を開く。周りは・・・見たことも無い物でできていた。石をつるつるに磨いたような見た目の壁の部屋に、正体が全く判らないものが室内中至る所にある。


ヒューム「えと、これは・・・どうなって・・・?」


スニーク「説明するよりも見た方が早い。着いて来い。」


そう言って透明な壁に近づく。すると、勝手に開いた!どうなっているんだ?


スニーク「何をぼーっとしている。さっさと来い。3年と言う時間はもう始まっているんだ。1秒たりとも無駄には出来ないぞ。」


そう言ってまたさっさと歩きだす。慌てて僕も追いかける。何枚かの透明な扉を通り抜けると窓にたどり着いた。そこから見下ろす光景は一生忘れない。すべての建物が長方形で・・・。道の様な場所には妙なものが高速で移動している。圧倒されてる僕にスニークさんは双眼鏡を手渡してくれた。そこから覗き込んだ光景は衝撃の一言だった。それは街の端っこの方に見つけた。暗くて、ジメジメした場所があり如何にも弱々しい人々が寄り集まって暮らしている。一体、なんだこの世界は?何がどうなればこんな風になるんだ?そんな混乱する僕にスニークさんは言った。


スニーク「ようこそ、歓迎するぜ。ここは滅びと衰退の国、日本。5%の富裕層が自分の生活の安全の為に民を支配し、95%の民が搾取されるだけの最悪の国だ。そして、この最悪過ぎる国を立て直す目的で俺たちはこうして働いてるんだよ・・・。」


2045年の日本。外国人を含む総人口は1億5000万人。日本人年間出生数40万人未満。


僕は前の世界の方がまだマシと言えるような、この地獄の様な世界で生きていく事になる。


これから約8年に渡る過酷な戦いの日々が始まった事を、この時の僕はまだ知らない。

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