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エピソード11

難民保護の活動をスニークが開始します。

ヒュームは徐々にですが違和感に気づいていきます。

エピソード11-1


スニークさんは今日は外出しているらしい。僕が再度保護されてから数日経った。初めて保護された時に案内された隔離部屋にまた戻って来ている。僕は難民で戸籍が無いという状態だ。一緒に保護された子供たちもそうだ。別々の部屋にいてまだあった事は無い。人種も性別も違う子供たちが僕も含めて突然保護された。本人たちにとってはいきなりの事で混乱と安堵が入り混じっていると聞いている。順番にアル教授の診察を受けながら生活をしている。僕がそもそもいたことがバレれば計画は破綻するのでメアリーさんの授業は一旦停止の状態だ。勉強は教わった範囲を復習しているし、知りたい内容はネットで検索をして勉強をしている。アル教授の診察が終わり、病気やケガの状態が良好とされた子供たちは社内にある部屋を借りて教育を受けられる予定だ。でも僕は4カ月分多く勉強できている。それはもの凄い格差だろう。他の子供たちは勉強なんてしたことが無い。もし一緒に勉強をするようになった時、僕が最初から勉強する内容が解っていると知られたら子供たちは不審に思うだろうし、スニークさんたちも疑われる。でも、勉強が出来る出来ないには個人差があると言う。だったら保護された子供たちと一緒に勉強をしているなかでも目立ちすぎない程度に振る舞えばいいし、ネット環境を使ってある程度先に勉強をしていたと言えば弁は立つ。不公平かもしれないけれど、そうする事で保護された子供たちの安全や生活が保障される為だ。納得はしていない。だから納得できる様に作り変えなければならない。その時までは自分を抑える事も大事だ。アラームが鳴る。休憩時間だ。算数の問題を解くのを止めて、一度ノートと教科書を片付ける。立ち上がって、冷蔵庫に行きスポーツドリンクを取り出してネットのニュースサイトを見る。国内ニュースは・・・案の定、スニークさんの行った保護活動について盛り上がっている。ネットの掲示板は賛否両論だ。一企業がやっていい保護活動として逸脱しているという人もいれば、反対に本来なら政府が率先して行うべきだった怠慢を自社の資金を使ってでも行った慈善活動だと盛り上がっている。意見を内容を総合して見ると・・・保護活動を非難している人は全体の3割程度だ。批判する内容もどこか感情的で論理としては成り立っていない。掲示板を閉じると、改めてニュースサイトを見る。国内ニュースのカテゴリーに【ワールドイーター社の暴走!?一方的な保護活動】という見出しが出ている。ニュースの内容は会社を糾弾する内容だった。今日の13時から会見を開くと言う見出しもある。僕は目を疑った。会見の出席者には、社長・ミナミ ハル。支部長のカナシロ ジョージの名前が挙がっている。慌てて時計を見ると12時45分だ。僕たちの将来がかかっている状態に関するニュースだ。言ってくれててもいいのに!ヤキモキした気持ちになりながら時間を待つ。記者会見会場の動画サイトはもう用意できている。動画サイトを開くと、キャスターの声が響く。


女性「あと10分で会見が開かれます。今回行われたゲリラ的な保護活動についての記者会見と言う事ですが、どのような説明がなされるのか全国の国民が注目しております。っ!情報です。只今、ワールドイーター社の社長である 南 春氏がこの会見の開かれる会場に到着したと言う事です!こちらに向かっていると言う内容が・・・!あぁ!」


そこでキャスターの声が一旦途切れる。何かが起こったらしい。動画が激しくぶれているし、カメラのシャッター音が響いている。十数秒して動画の状態が戻るとそこには・・・スニークさんがいる!笑顔を浮かべながら報道陣に向かって手を振っている!そこに金城さんが現れる。スニークさんとは対照的に入室の際には一礼している。時計を見るがまだ5分前だ。スニークさんが報道陣に向かって話し出す。


スニーク「あー、皆さん!どーも、こんにちはー。今日は大事な事を伝えたいから走って来ましたよー。」


やった事に対して軽い態度のスニークさん。その様子に後に入って来た金城さんが諫める。その金城さんに向かって、


スニーク「え、何?どうしたの、支部長?やっぱり廊下は走っちゃダメだったか?」


金城「・・・社長、冷静におなり下さい。時間前に到着して皆様が混乱されております。まずはその点を謝罪をするべきでしょう。」


スニーク「え?ああ、そっちがダメだったか。お集まりの皆さん、軽率な行動で驚かれたでしょう。申し訳ありません。深く謝罪いたします。」


キリリと頭を下げるスニークさん。姿勢をそのままに金城さんへ顔を向ける。


スニーク「・・・これでいい?許してもらえるかな、俺?」


金城さんは「そうじゃないだろ・・・」と言った具合にこめかみを抑えながら深くため息を付く。その様子に周囲の報道陣の人々からも「クスクス」と笑いが起こる。そうしてそこにアビーさんが現れる。頭を一度下げ、丁寧に発現する。


アビー「お時間になりました。報道陣の皆様。本日はご多忙の中、お集まり頂き、誠にありがとうございます。これから弊社の代表取締役であるミナミ ハルより各関係者へ今回の保護活動と今後の社の方針について説明をさせて頂きます。会場の報道陣の皆様、指定の席へご着席をお願いします。」


そう言うと、報道陣は言われた通りに席に着く。カメラも改めてしっかりと固定されて、音量や音質もキレイになった。いよいよ始まるようだ。まずは金城さんがマイクの前に立って話始めた。


金城「改めてご挨拶させて頂きます。本日はお集まり頂き誠にありがとうございます。私はワールドイーター社・東京本社支部長の金城と申します。この度は私たちが行った活動によってパニックを起こしてしまった事については謝罪をするとともに、その行動を起こすに至った経緯を説明させて頂きます。では、弊社代表取締役の南に変わらせて頂きます。」



そう言うと 金城さんは一礼してマイクの前から離れる。そこへスニークさんが立つ。態度に軽さは感じない。堂々としており眼は鋭い。さっきまでの態度とは逆だ。むしろ・・・威圧感を感じる。モニター越しでもだ。


スニーク「皆さん、こんにちは。ワールドイーター社の取締役の南です。細かい事は言うのは正直言って苦手なので結論からお話しますと、今回の保護活動は私の独断で行ったと言っても過言ではありません。社員へ指示をしたのも私ですし、計画を立てたのも他ならぬ私自身です。それは認めます。その最たる理由は【少しの間だけ、政府に休んでもらいたい】と感じたからです。」


報道陣が一斉にシャッターを切る。記者たちが言う。「どういう意味ですか?」「目的は何なのですか!?」と言いたい放題だ。スニークさんは「説明いたします。どうか、落ち着いて。」と呼びかける。騒いでいると説明が始まらないと解ったのか報道陣は静かになる。


スニーク「わが国における難民やホームレスの増加は止まらず、ホームレスの数は過去最多なのは皆さんが知っての通りです。加えて10年ほど前から様々な人種の子供たちが難民として現れました。しかし、その子供たちはこの瞬間にすら路上にいます。政府は彼ら彼女らの存在を認識しておきながらを保護する政策は取っておりません。他にもあります。高齢化はますます進んでおります。2000年代に入る前から少子高齢化の社会によるリスクは叫ばれていました。ですが、政府は【慎重な態度を望みたい】と言い続けて明確な方針を取らず、今日の状況を生み出しました。日本は民主主義であります。かつては世界中に認められるほどに人道とモラル・約束された治安が売りでした。ですがどうでしょうか?海外からの観光客は殆どいませんし、来たとしてもこの国の現状に失望して期待を失い不満を持って帰って行きます。当たり前です。観光で来たのに子供たちが路上で放置されている様な国に魅力を感じろと言うほうが無理ですからね。遥かに環境の整った東南アジアに行く方は増加しているようですし。」


静まり返る報道陣。スニークさんの態度にはどこか軽さがある。だが言葉は重い。


スニーク「誤解をなさっている方はいらっしゃるかもしれません。私が今回の難民救出活動を行う事になった要因が【長期的な政府の失策】であると。私は一概にそうとは思いません。この国を支えて頂いている政治家の方々は実に多様な政策を行いました。ですがそれが国民の安定に繋がる生活になっているかと言えばそれは違うと言い切れます。政策を行うからには資金が要りますし、それらを流通させる機関が必要になります。ですが流れを把握する手段を国民が持ち合わせていません。何らか不審な動きがあったとしてもそれが露わになるまでに時間経過による別なスキャンダルでもみ消されてしまう事が大半ですし・・・。あぁ、そこの記者のお嬢さん、顔を曇らせないで。どうか勘違いをなさらないで下さい。私は何も国政をただ一方的に批判したい訳では無いのです。それが今回の行動に繋がります。」


静まり返る会場。言葉と知識で生きて来た報道陣が黙っている。スニークさんの次の言葉を待っている。ここで迂闊に何かを発言すればここにいる全員からひんしゅくを買うし、誰もが次の言葉を待っている。スニークさんは言った。


スニーク「ではここにいる皆さんとこの配信を見ている方々全てにお聞きします。いつまで国民は待てば良いのですか?いつまで難民は耐えれば良いのですか?実現しようも無い幸せな将来にいつまで期待をすれば良いのですか?私は考えました。そしてこのままでは来ないであろう将来に期待をせずに【自らが行動するべき】だと言う結論を出しました。それが先に言った【少しの間だけ、政府に休んでもらいたい】なのです。45年も様々な政策を行ってきた政府関係者は既に限界でしょう。このままいったとしても国民の不満は溜まる一方です。だから一度、行政が行う事の一部分を我々の様な民間企業で代行を行ってみたいと考えました。その計画の一部が先日行った難民の子供たち救済活動です。本来ならば政府を通さねばならないところでしたが、一刻を争うと考えて行動をしました。保護した難民の子供たちは栄養のある食事と温かい寝床を提供出来ています。中には保護を行わなければ確実に死亡していた子供たちもいます。数は少ないですがその様な悲惨な未来を変える事が出来ました。」


頷いて聞き入っている報道陣。シャッターは余り切られない。その様子を見てスニークさんは言う。


スニーク「ですが長期的な視野をお持ちの皆様ならばお判りでしょう。我が社がだけがこの国の状況を打開しようとしても困難極まります。そこで難民救済するプロジェクトを立ち上げます。一週間以内に私、ミナミ ハル名義の新規の口座を作ります。口座開設と同時に私個人が所有する財産の50%を入金します。この程度ではプロジェクトを推進するための資金としては不十分です。そこでこの難民支援活動に協力をしたいと思える方は募金をしていただきたいのです。この口座へ募金をして頂けた方へは、資金の流れを閲覧する権利が発生するように致します。募金をした方々が自身の募金がどの様に使われ、難民や国民の生活の安定に繋がるかを具体的にリアルタイムでスマートフォンの様な端末で知る事が出来る様に致します。その様に支援者と難民、両方への配慮を行った上でこのプロジェクトを推進したします。自分の未来は自分の手で掴むという当たり前の事。出会った人々の生活をより良くしたいと考える方は、是非、このプロジェクトへの参加への協力をお願いしたいのです!」


シャッター音が響く会場。強い意志と眼差しを向けるスニークさんに湧き出つ報道陣。それは会場の利用時間がとっくに過ぎていても収まりは付かなかった。スニークさんは社会的に正しい事をしようとしている。でも・・・どこか・・・おかしな感覚が・・・奇妙な感覚が僕の中にはあった。



エピソード11-2


あの記者会見から1か月経つ。最初に保護された子供たちはアル教授の診察が終わった。栄養状態が悪かったというだけで、十分な休息を取る事で殆どの子供たちが回復した。今は参加できる子供たちと一緒に10m四方程度の部屋を教室にして勉強をしている。勉強を教えているのはメアリーさんだ。今日はひらがなの描き方と発音の仕方をやるみたいだ。最も僕は全部わかっているのだけれど、それが知られてしまうと流石にマズい。周りと合わせて解らないふりをしながら勉強に励んでいる。みんなとの勉強が終わったら、時間を見て自分の部屋で自主学習をすればいいだけだ。僕は教室を見渡す。中国人系、東南アジア系、白人、ヒスパニック系、日本人、それらのハーフ。多種多様な人種が集まり勉強をしている。そこでチャイムがなる。今日はここまでのようだ。それぞれの子供たちが立ち上がる。言葉が通じない事で教室を直ぐに出てってしまう子もいれば、言葉が通じないなりに何とかコミュニケーションを取る事をしている子供もいる。そうしていると少し離れた子から呼ばれた。立ち上がって近づく。「ドウシタノ?」とカタコトで答える。その子は教科書の二つの文字を指さしている。【お】と【を】だ。なるほどと思った。日本語は【同音異義語】がとにかく多い。僕も最初は混乱した。僕は解りやすく説明する為に、【おはようございます】と【はさみをとってくれないか】と言う例えを出して説明してみた。僕は彼らの言葉は解らないが言いたいことが解る。一生懸命に説明しているのが通じたのかそれなりに納得してくれた。そうしてそれぞれの時間を過ごしてみんなは部屋に帰って行った。僕は残ってメアリーさんへ話しかける。


ヒューム「その後はどうなんでしょうか?」


メアリー「どうってなんの事かしら?ヒューム君が先に勉強している事は気づかれてないわよ。まぁ、少し物分かりが良いってくらいには思われてるみたいだけどね。」


ヒューム「違いますよ。スニークさんの新規口座です。一体、今どうなっているんです?僕も中身が知りたくなって募金しようとしたら・・・。」


スニーク(いやいや、お前は保護された難民の子なんだから募金したらダメだろ?それに【隣の世界】の住民だしそれがバレたらウチの会社がえらいことになるわー。)


ヒューム「・・・って言われちゃって。知り様が無いんですよ。」


メアリー「あらら、そっちの事か。うーん、現状は結構いい感じで募金集まってるわよ。私が募金をしたから見てみる?」


そう言ってメアリーさんはスマートフォンを取り出して画面を操作する。口座の画面が映った。


ヒューム「・・・え、なんですかこれ?額がおかしくなってません?」


メアリー「間違ってないわよ。これが今のプロジェクト用の資産口座の内容。」


1150億7500万円。それが今の難民救済の口座残高だ。驚異の金額に次の疑問を投げかける。


ヒューム「・・・因みにスニークさんが入金した財産の半分っておいくらでした?」


メアリー「えーと、はい、出たわ。800億円。本当の総財産は1500億円と少しだったらしいけど、そこは強めに出た方が印象が良いって思ったんでしょうね。」


ヒューム「因みに聞きますけど、最初に僕が保護されてから掛かった費用っておいくらですか?」


メアリー「うーん、100万円かかってないと思うわよ?医療費はかかってるところがバレちゃうと大変だから表には出ないけど、アル教授と社長が上手い事やってるし。掛かったところは食費と住居費用と教育だけ。教育カリキュラムが一番かかっている部分だから・・・ってヒューム君?」


そう聞くや否や僕は机に向かって簡単な計算をし始めた。覚えたてだが【掛け算】と【割り算】をやってみる。残高が増える事を見通して大体1200億円を元に計算する。4カ月で掛かった費用が200万円ならば4で割ればいい。一月25万円。これに12を掛けて1年に掛かるのが300万円。これが子供一人にかかるお金だ。だったら年間養える子供の数は・・・。


ヒューム「4億人!?」


メアリー「どうしたのいきなり驚いて?」


ヒューム「メアリーさん、あれから保護活動は行われたのですか?」


メアリー「あれからは特にやってないわ。保護活動は行う上で問題が山積みだから。当面は食料を難民に提供するとか、公衆浴場を数日貸切って身体を洗浄するとかが主なところね。」


ヒューム「それだけなんですか?だって計算してみたら4億人も助けられますよ?直ぐにやったほうがいいんじゃないですか?」


メアリー「それは出来ないと思うわよ。前みたいに住居の保障をいきなり始めちゃうと人が殺到するから。それにあれはヒューム君を助ける為の計画だったからその当たりは勘違いしちゃダメ。」


ヒューム「だからって、今のままでいいわけじゃ・・・。」


メアリー「勿論ダメよ。良い訳が無いわ。でも物事には順序があるの。子供たちだけを優先してしまっても不公平。成人以上の人々の保護も同時に進めないといけないわ。それに一番の問題が住居よ。保護するのはいいけど住宅地をキッチリ確保出来ないと生活の保障のしようが無いわ。」


ヒューム「あ・・・そっか。家がないんでしたね。僕と今の子供たちはここに住めますけどたくさんの人は入居させることは出来ませんからね。」


メアリー「そう。確かに昔と比べて日本の地価が下がった部分は大きいけど物件や土地を買う事や維持費となればかなり大きい出費になるの。それに家に住んだことが無い人たちに家を与えてもそれが原因のストレスになる事もあるわ。」


自分の考えの低さに落胆して肩を落とす僕にメアリーさんが声をかける。


メアリー「大丈夫よ、心配しなくって。社長は頭いいし、支部長もわかってやってる。まだ始まったばかりなんだから慎重なだけ。兆しが見えたら進むと思うから安心してて。」


そう言って落とした肩に手を添えてくれた。メアリーさんは教科書をまとめると夕食のメニューはカレーライスだと伝えて部屋を出て行った。残された僕は窓の外を見る。夕日に照らされた街を見下ろした。この雑多な街で今日もいろんな人が苦しんでいる。中には貧困で命を落とす人もいるのだろう。そうして先日のスニークさんとの取引を思い出す。


ヒューム「今よりもずっと僕は強くならなくちゃいけないんだ・・・。」


そう独り言ちると部屋を後にした。




エピソード11ー3


再度保護されてから1カ月半たった。今日は待ちに待った初めて外出だ。期間は1泊2日。同行してくれるのはスニークさんだ。保護されたとは言えまだ戸籍獲得には至っていない。でも、国内のメディアの動きがスニークさんたちの活動を肯定している傾向にある事や、さらには外国からも出資が集まりつつあると言う事も後押ししている。スニークさんからは詳しい内容を聞いてないけど、問題ある社会を変える為には民衆の不満を見抜いてそこを解決する手段を提示する事が大事なのかもしれない。更には政府の議員からは批判はあっても保護する活動を止める様な発言をする政治家はいないようだ。・・・いけない、いけない。せっかく初めての外出なんだ。外の世界を学ぶときにこういった「関係ない事まで心配して考えるのは僕の悪い癖」だとスニークさんから注意された。やるべきことに集中してその他の物事を考えるのは止めにしなくては。


今の時間は9時45分。合流する場所は地下駐車場だ。僕は勉強道具をリュックサックに入れると部屋から出た。エレベータまで行って中へ入り【B1】のパネルを押す。動き出すエレベータの壁にもたれながら少し考える。秋葉原での保護される3日間で受けたあの感覚。あれが今の日本中にあるのだろうか?だとしたら国として成り立たないはずだろう。でもそりなりに贅沢をしながら生きていける人たちはどうして難民たちを放置しているんだろうか?そうこうしているうちに【B1】へ着いた。外には社用車などが並んでいる。見渡すと手を振っている人影が目に付く。スニークさんだ。


スニーク「よう、こっちだ。時間通りだな。おーよしよし、言われた通りにしてきたな?」


そういって僕の帽子を取りながら髪の毛を確認する。髪の色を変えたのだ。こちらの世界では銀髪は目立ちすぎる事からそんな人が外を出歩くと問題になるだろうと方法を考えた結果だ。今の髪の色はダークブロンドである。アル教授が「君は見た目はヨーロッパ北部からロシア中部までの間に似通っている。その中にいる人種の髪にした方が良いだろう。」とアドバイスしてもらえた。ヘアカラー剤の匂いはあまり得意では無くて正直、嫌だったけど帰ってくれば元の髪の色に戻せると聞いたので渋々使う事にした。使い方はアビーさんとメアリーさんに教わった。取り上げた帽子をかぶせながらスニークさんが言う。


スニーク「さて、時間が惜しい。さっさと行くぞ。車に乗れ。ん、どうした?」


スニークさんの乗り込もうとしている車を見て・・・僕は少し絶句する。その様子を見てスニークさんが「何かあったか?」と聞いてくるが、そういう事じゃない。


ヒューム「スニークさん、その車で・・・行くんですか?」


スニーク「そうだが?10年以上乗りこなしている俺の愛車だ。俺がプライベートで出かける時はいつもこれだ。どんな悪路も走破出来る4WDなのは基本中の基本だ。更にタイヤはオールテレーン にしておいた。予備タイヤも同じものを新調したしな。なんだ、お前?車に興味があるのか?いいだろう教えてやる。この車はジ〇ニーと言って国内のオフロード車の中でも傑作の一つだ。メーカーはス〇キで・・・。」


ヒューム「いえ、そうではなくて・・・何というか、そのかなりボロボロですけど?」


スニーク「お前、聞いてなかったのか?10年以上乗ってるって。多少はへこんだりするもんだ。悪天候でも乗れるのがオフロード車の利点だ。例え雪の中だろうが、豪雨の中だろうが、雹が降っても問題なく走れるのが利点なんだぞ?逆に言えば、これだけボロボロな見た目でもどうにかなるのが魅力なんだ。なんだ・・・わからんのか?観賞用買った訳じゃなくて実用性が高い事が大事だ。ボロボロなのはむしろその魅力に拍車をかけていると考えられないか?」


ヒューム「・・・ちなみに修理に出したりしないんですか?【車検】とかいいましたっけ?大丈夫なんですか?」


スニーク「ああ、大丈夫大丈夫。ひいきにしているところがあるからそこでなんとかしてもらっているし。エンジンとかその辺がしっかりしてればちゃんと通るって。サイドミラーとか壊れる度にとっかえてもらってるしな。どうした?まだ、説明するか?」


ヒューム「いえ・・・いいです。僕は助手席ですね?乗りますよ。お願いします。」


そう言って僕は車へ乗り込んだ。へこみだらけの車体と傷一つないサイドミラーのアンバランスな部分はおいておいても・・・車体の色が【ピンク】なのはどうなんだろう・・・?しかも微妙に光って見えるし。車に詳しくない僕でも言い切れる。こんなのカッコ悪すぎる。そんな事はよそに運転席に座わるスニークさん。キーを回して、エンジンをかける。


スニーク「さぁ行こうか少年!最後のフロンティアへ!」


ハンドルを握った瞬間、やたらノリノリになるスニークさんに素朴な疑問を聞く。


ヒューム「えーと・・・これが僕の最後の外出なんですか?」


笑うスニークさんは返事を言わないままに車は発進した。

次からは45年の日本の危機的状況が明らかになっていきます。

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