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エピソード8

エピソード8ー1


ピエールは学校のエントランスのベンチに腰をかけていた。昨日の約束を守るためだ。時間は5分前。でもアイツらの事だから、どうせ遅れてくるだろう。スマートフォンを取り出して夕方からの日程を確認する。先日行ったジェシカさんのところへ今後は先生が余り来れなくなる事を伝えておかなくてはならない。ジェシカさんはこの前の先生の対応に気を良くしたのか定期的に相談に乗ってほしいと言うお願いをされた。先生はその場で了承したが、社の方針で休みを半場強制的に取らされる様になった。だから今日そのお詫びをしに行かなくてはならない。先生が多忙過ぎてこれまでも日にちや時間がずれてしまう様な事は度々あった。それでも直接会いに行き、誠心誠意の謝罪をする事で利用者の不満を解消する事に成功してきた。だが今回ばかりはそれが叶わない。対応する事は施設にいる職員でも対応は可能だ。しかしそれでは意味をなさない事だ。だから僕が行く。自分の立場は分かっている。僕は先生の保護活動の中で出会っている。教育を受けているし、学校でも成績は優秀な方だ。加えてボランティア活動も行っている。時間があれば医療福祉についての勉強も欠かさない。その様な人物でなければ信頼は得られない。説得するにも条件がある。それは本社に直接関わりがあり、社長が認めている人物である。加えて説得を受ける本人が知っている人ということ。つまりこの役割は僕にしか出来ない。失敗は許されない。そうこう考えていると声をかけられた。10分の遅刻だ。目を上げると友人が立っている。一人しかいないけど。


ピエール「待ってたよ。でも君だけなの、ジョニー?」


ジョニー「そうだよ、お前が来るから連れてこなかった。アイツらの事だから足手まといだろ?お前の見た目を活かせば女の子二人とも、俺らのモンに出来るぜ。行こうぜ、待たせて帰られたら失礼だからな!」


そう言って歩き出すジョニー。僕を待たせておいて、相手を待たせると失礼とは・・・。内心の不満は隠しつつ僕はベンチから立ち上がった。



エピソード8-2


女の子1「ピエール君・・・素敵ね・・・。本当に綺麗。まるでお人形みたい。」


女の子2「そうそう。こんなに綺麗な男の子なんてそんなにいないわよ!私たち来て本当にラッキーだったわ。」


先からこの調子だ。僕の目は青色、頭髪はくせ毛の無いブロンド。着ている服はサイズのあっているし、過激な色は避けている。汚れもつけない様にしている。先生から受け入りの立ち振る舞いを見よう見まねで行っているだけだ。特別な事など何一つしていない。一方で女の子達の恰好は・・・まぁ何というかただ派手だ。全体的に統一感が無い。安っぽい服に不釣り合いなアクセサリーが余計になっている。ジョニーはカワイイと言っていたが僕自身は魅力は感じない。ただ流行に乗っているというか・・・、そうする事が満足なだけというか・・・。


女の子1「ピエール君はいつからアメリカにいるの?今はどこに住んでいるの?」


ピエール「ええ、2年前にフランスで保護されてアメリカに来ました。今はライフセキュリティ社の保護を受ける生活していますよ。」


女の子2「すごい!あんな場所で暮らしているの?一度遊びに行っちゃだめかしら?」


ピエール「それは・・・かなり難しいと思います。会社の方針として内部の情報はあらゆる形で公開は認められていません。見学するには1か月前から予約を取らないといけませんし、指定された服に着替えてもらわないと。それに病原菌蔓延のリスクを回避するために2週間前に健康診断を受けてもらって健康である事が絶対条件です。その費用は見学者自身で負担して頂けないと行けません。勿論、端末の部類は持ち込みはした時点で没収ですし最悪、賠償金すら発生します。」


女の子1「えぇ!そんなに!?もし行けたらねー!」


女の子2「そうそう、SNSにアップして自慢出来たのにね!」


そこにジョニーが口をはさむ。「誘ったのは俺だぞ。紹介したんだから、俺にもなんか言えよ!」と。女の子達は黙ってしまう。ジョニーの態度が不満な様だ。僕は立ち上がる。


ピエール「・・・ちょっとゴメンね。僕、コーラ飲みすぎちゃったみたい。トイレ行ってくるから。ジョニーは二人と話してて。」


そう言って席を立つ。女の子たちは「早く戻って来てねー!」と声をかけてくる。手を振りながらトイレへ向かった。



エピソード8-3


僕はトイレに座りながらつぶやいた。


ピエール「何て下らない時間だ・・・。」


あの人たちは何がしたくって生きているんだ?ジョニーは女の子を口説く材料で僕を連れて来た。女の子たちは不満げな態度で待ち合わせ場所にいたが僕の容姿を見た瞬間に湧きだった。住んでいる場所を知ると僕の部屋へ来たがった。女の子を口説きたい?容姿が綺麗?SNSにアップしたい?ただ、僕を利用しているだけだ。自分たちでは何の努力もせずに利益を貪りたい。そんな人たちは世の中にたくさんいる。ただ僕はそんな人たちを受け入れる心構えは無い。僕はアメリカが好きだ。自由が許されているからだ。どれ程技術が開拓され尽くされても考えようによってはまだまだ改良できる。それに加担するのが国民の義務だと思う。それがこの国の掲げる本来の自由だと思う。【フロンティア・スピリッツ】。それがあの人たちには無い。あの虚飾に塗れた思考はおおよそ自由とは言い難い。誰かが作り出したものにひたすらに依存して、自分でそれを上回るものを作り出す事は無い。誰かが作り出すのを待ち、作り出されたら大金を叩いて購入して今までの物を直ぐに切り捨てる。使っていたものにまだまだ改良の余地があってもだ。時間を見ると5分経った。いられる約束の時間は1時間。今、55分。残りは5分だ。・・・十分だ、切り上げよう。僕はトイレを出ると3人の席に目を向けた。ジョニーは話しかけているが女の子二人は・・・見るからに退屈そうだ。ジロジロ見るのは悪趣味だし仕方ない。席に戻って言った。


ピエール「ただいま、戻って来たよ。でもごめんね。行かないとダメなんだ。もう時間だし、今日は先約があったんだ。昨日だったから時間は作ったけどもう限界なんだ。」


ジョニーは慌ててるし、女の子二人は落胆する。


女の子1「えぇ!何で!?もっと話したいわよ。」


ピエール「僕もそうだけど、ボランティア活動で会社が運営する介護施設に行かないといけないんだ。かなり時間ギリギリ。次はゆっくり話せるといいね。」


女の子2「じゃあさ、せめてSNSのアドレス教えて!それならいいでしょ?」


ピエール「僕が持っている携帯は会社仕様なんだ。一般の人のアドレス交換は許してもらっていないんだよ。これには福祉施設の利用者の情報が最低限だけど入っているんだ。それが何らかの形で漏えいすると大変なんだ。だからそれは出来ないんだよ。」


ジョニー「俺のメールアドレスはあるじゃないか?」


ピエール「あのアドレスはかなり旧式だからね。マイナー過ぎてセキュリティが凄く固いんだ。だから教えられるけれど、二人は違うんでしょう?」


残念そうな二人。案の定、最新型のアプリケーションだ。これは交換出来ない。


ジョニー「そんな生活してて窮屈じゃないの?何が楽しいんだよ・・・。」


ピエール「そこは人はそれぞれだと思うよ。僕は結構満足しているしね。それに、ただで保護を受けていられる訳じゃないよ。学業でそれなりに結果を出さないとあそこからは追い出される。だから僕は何よりも時間を大切にしているんだよ。今日は楽しかったよ。僕の分の会計は払っていくから。みんな、またね。」


笑顔を浮かべて手を振る。女の子二人は渋々の様子だ。ジョニーに至っては不満を隠そうともしない。そうしてカフェを出る。時間が惜しい。今ではすっかり珍しくなったタクシーに乗る。自動運転のタブレットに触れて、ジェシカさんの施設を検索する。スマートフォンをかざして会計を済ませると発進させた。



エピソード8-4


ジェシカさんへの謝罪と説得は終わった。結果としては成功した。先生に会えなかった事にはとても残念がっていたが、働き過ぎている現状と会社を運営する立場で社員と利用者全員の将来を予想して休まざるを得ない事情。何より先生自身がジェシカさんに会えない事がとても残念がっている事をお伝えするとすんなりと納得していた。その代わり先生への気持ちを嗜める手紙を用意しており、それを渡す様にお願いされた。喜んで引き受けた。勿論、本日中にお渡しすると約束してだ。それが終わると先生の代わりの事を行わなくてはならない。施設管理人室へ向かって社用のケースを受け取る。利用者と職員の現状をまとめたチップが入っている。ケースは電子ロックとアナログキーで守らている。中身は社長である先生と人事上層部にしか見られない。電子ロックは3回間違えると中身のチップに圧力がかかる構造になっており文字通り粉砕される。バックアップは元の施設にはあるにせよ、今、僕が持っているチップのデータ復元は不可能だろう。受け取ると駐車場へ出た。帰りは社用車で戻る事になった。運転手さんは前と同じ人だ。時間を見ると午後6時。深くため息を付くと運転手さんが話しかけてきた。


運転手「お疲れのようですね。大丈夫ですか?」


ピエール「ええ、このくらいでしたら何ともありません。先生の疲れを少しでも軽減するためですから。」


運転手「ご立派な考えです。ですが・・・。」


ピエール「どうされましたか?」


運転手「これは・・・私からの視点ですが、ピエールさんは無理をなされているようにみえます。」


意外な言葉だ。これまで顔を合わせる事はあっても話すことは無かった。初めて交わす言葉がそんな内容とは・・・。


ピエール「僕が・・・無理をしている様に見えますか?」


運転手「ええ、とても。私には子供がいます。あなたと同じくらいの。勉強は出来るのですが、生来の引っ込み思案で回りと上手く溶け込めない様な子です。学校に行きたがらない子ですが、自分の楽しみは見出しています。それを学校で役立てています。」


ピエール「自分の楽しみ・・・ですか?それを学校に?」


運転手「ええ、そうです。娘の楽しみは昔の映画を見る事でして。今は、CG技術が殆どです。それを好みではないみたいで、40年前当たりの作品を観せてみたらハマってっしまったようです。ターミ〇ーター2やポリス・ス〇ーリー。俳優だけでなくスタッフたちが本当に命を賭けて作り上げている様子が伝わる様で・・・。いえ、勿論今の映画作成者のCGへの思いを否定する訳ではありませんが。特にお気に入りなのが、日本のコメディアンが作った・・・ええっとなんでしたか?確か、【江戸時代を舞台に盲目の剣士が戦う】作品が大のお気に入りです。終盤の街の住民たちとタップダンスをするシーンが最高だと何度も聞かされました。それを学校で数少ない友達に話してみたらクラス中が大ブームになったと。クラスの子たちが休日に私の家にやって来て、娘と揃って大盛況ですよ!帰り際に必ず言います。【もっと面白い映画を紹介してくれ】って。娘も自分の楽しみが他人の楽しみに繋がる事が嬉しいのか昔の映画を片っ端から観ています。勉強よりもそっちが優先になるくらいに!」


娘さんの様子を話す運転手さん自身もとても楽しそうだ。そこまで話して、視線をフロントミラー越しに僕を見る。


運転手「ピエールさんには、今、【生き甲斐】と言えるものがありますか?」


ピエール「ありますよ。先生には教育をして頂き、ボランティアとは言え会社の活動に参加しています。勉強も欠かしていません。将来、先生に認められればこの会社に入社して・・・。」


運転手「それは違いますね・・・。」


先ほどの楽しげな様子は無い。短く鋭い言葉が放たれた、ピエールは虚を突かれ黙る。


運転手「それは【生き甲斐】と言いません。むしろ、真逆な行為です。そうですね・・・【盲信的な奉仕】と言ってもいいでしょう。ピエールさん・・・貴方は社長に保護された事に恩義を感じています。それは良い事です。ですが・・・少々行き過ぎていませんか?それは社長が望んだ事なのですか?」


ピエール「ええ僕が直接、先生に志願して・・・。」


運転手「志願をされた時、社長はどのような態度を取られていましたか?全てにおいて喜んでいましたか?」


ピエールは言葉に詰まる。志願した時、先生は笑っていた。でも、何度も確認された。「本当にいいのか?他にやる事は無いのか?もっと楽しむ事があるのではないか?」と。顔は笑っていた。でも・・・喜んではいたかどうかは解らない。心から喜んでいればあの質問は無かっただろう。沈黙している僕に運転手さんが話しかける。


運転手「社長を尊敬して力になりたい気持ちは解ります。ですが引き換えにならない事もあります。若い時の時間は戻って来ません。今は・・・12歳でしたね?次の誕生日はいつですか?もう12歳の自分には戻れません。若さを大切になさって下さい。」


そう言う頃に車は会社へ着いた。僕はお礼を言って車を降りる。エントランスを通って人事部へ行き、受け取っていたケースを渡してから自室に戻った。鞄を椅子へ置くと、ベッドに倒れこむ。スマートフォンにメールが届いていた。ジョニーからだ。内容は・・・。


ジョニー【お前が帰ったら二人とも直ぐに帰ったぞ!もう少し時間に余裕もって来てくれよ!】


面倒と思いながらも返信する。


ピエール【ごめんね、次はもう少し早く教えてちょうだい。次はもう少しだけ時間を取る様にするからさ。】


返信が帰って来る。


ジョニー【次は2時間くらい確保してくれ。じゃないと、2度と誘わないからな!】


返信はしなかった。内心、毒づく。


(女の子に魅力を感じさせれないお前が一番に悪い。誘われないならそっちの方が遥かにマシだ。)と。


そうして帰りの運転手さんの言葉を思い出して小さく呟く。


ピエール「僕の生き甲斐・・・って何だろう?」


何気なく時計を見る。時間が来た。考えるのは止める。ゆっくりとベッドから起き上がると日課の勉強を始めた。今日は・・・なんだか身が入らない気がする。気力を出す為に冷蔵庫から普段は飲まないエナジードリンクのふたを開けて飲んだ。ハッキリ言って美味しくない。でもいい。これで集中出来るのなら。


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