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プロローグ+エピソード1

プロローグ

のどが渇いた・・・。空腹だ・・・。何日食べてないだろう?何日水を飲んでいないだろう?二日だ。二日以上は何もまともに食べたり飲んだりしていない。空腹の余り、雑草にかじりついたり、虫のわいた水を飲んだ。そうしたら一時間もしないうちに意識が遠のいて・・・。僕はあの時死んだと思った。でも、死んでも仕方ないとも思った。僕は何の能力も無い。頭も良くない。だから村が食糧難に陥った時、「お前の様なごくつぶしの役立たずはさっさと出て行け!」と言われた。村でも元々居場所が無かったから追い出されても仕方がない。それでも・・・それでも・・・今は思った。本当は死にたくない。生きたいんだって・・・。


パチパチと弾ける音がする。木が燃える匂いがする・・・。暖かい。とても柔らかいものにくるまれて・・・。僕は・・・僕は・・・。


男「気が付いた・・・みてぇだな?」

 声のした方に振り向く。奇妙な恰好をした男が岩に腰かけて取っての付いた透明なコップ?に湯気の立つ黒い液体を入れて飲んでいる。焚火の上に銀色の奇妙な物体をのせていて、細い管から湯気がたっている。状況がまるで解らない。それでもハッキリと解ることが一つだけある。この人は僕を助けてくれたのだと・・・。


少年「あの・・・その・・・何が!どうなって!?いったい貴方は誰で!?どうして僕はここに!?いつから!?・・・うぇっ!げぇぇ・・・。」


 飛び起きたと同時に僕をくるんでいた毛布に胃の中の物を吐き出してしまった。助けてくれた人の物を汚してしまった。・・・でも、この人はなんも動じていない。ゆっくりと黒い液体を飲みながら言った。


男「あー・・・まぁ、そのなんだ。いいから、ひとまず落ち着け。気づいて無いだろうが、意識が無いまま水を飲ませることくらいしか俺はやってない。今のお前は最低限の水分しか体の中に残ってない。その様子だと飯もまともにとってないんだろ?俺がどうこうとか、お前の状況とか二の次、三の次だ。まずはお前が自分の意思で体力を回復させるとが優先じゃないのか?」


少年「う・・・あ・・・。」


確かにそうだ。喉はカラカラだし、お腹は空き過ぎて痛いくらいだ。


少年「あの・・・僕は今、何も持ってなくて・・・お礼も何も出来ないんですけど、飲み物と食べ物を・・・少しでいいんです!頂けませんか!?」


キッパリと言い返された。


男「だったらダメだ。」


少年「え・・・あ・・・!?」


 いったい・・・いったい・・・。この人は何を考えているんだろう!?助けておいて、回復しろと言っておいて何もしてくれないだなんて!これなら、いっそあのまま死んでた方が・・・。

男「あー。やっぱり誤解されてんな、俺。ま、いっつもの事だしな。仕方ないったらそうなんだが。」


男は、黒い液体を飲み干して深いため息をついた。


男「助けてやってもいい。だが、中途半端に回復されてまたどこかで倒れられたら俺の努力がゼロになる。それで死なれたらもうマイナスだ。こっちの水と食料も限りがある。それに約束が先ってだけだ。約束してほしい事は二つ。一つ目はお前が完全に回復するまで決して俺のそばから離れない事。もし離れるにしても必ず俺はそこで待機と言う。待機と言われたら必ず待機していること。二つ目は渡した水や食料を俺が決めた通りに摂取することだ。これだけだ。これを破るつもりならこのまま俺は立ち去るし、途中で破ってもお前を見捨てる。どうだ、守れそうか?」


少年「・・・・。」


男「俺は死にたい奴を助けたい訳じゃないない。死にたいってなら死なせてやってもいい。そんな奴を無理矢理生かしても仕方ないからな。だがよ、少しでも生きる意志があるなら話は別だ。救える命は救うし、回復させる中での助力は惜しまない。だから聞かせろ。お前は今、生きたいのか?死にたいのか?どっちなのかを、だ。」


不思議な気持ちになった。こんな気持ちは初めてだ。追い出された村では毎日巻き割りと肥溜めから掬ったたい肥を畑に運ぶだけの日々だった。それでも固いパンが毎日食べれて、たまにだれかが食べ残した焼いた肉を食べれればそれでいいと思ってた。それがずっと続くと思ってた。でも、実際にはずっと続かなかった。ここ何年かで畑にイモが育ちにくくなると村の大人たちは喧嘩をし始めた。隣人同士で争い始めた。そうして何日か前に村の長老が僕を呼んだ。「出てってもらえないか?」と。だれも僕を庇ったりしなかった。その場で殺されなかっただけでもまだ幸運だと思った。実際、僕自身も役立たずだから仕方がないと思った。でも、この人は違う。村の大人たちや長老と違う。僕に生きるか、死ぬかを選ばせてくれている。この人の目的は解らない。それでも、一度死んだような僕が【生まれ変わる】【生まれ直す】ならこの時しかない!決心した!言葉にした!


少年「貴方との約束は守ります!僕は・・・まだ死にたくありません。まだ生きたいです!」


男はカップに黒い液体を注いだ。顔には皮肉な笑みを浮かべている。


男「OK、少年。ディールだ!(取引成立)」


エピソード1

この人から最初に渡されたのは、白く濁った水だった。その水はカップと似た材質の容器に入っていた。カップよりもずっと大きいし、厚さも薄い。それを新しい銀色の奇妙な物体(後でヤカンと教わった)で温めてから渡された。それをカップに入れて渡された。


男「ゆっくり飲めよ。」


こんなものどうみても変だ。正直、飲みたくない。それが最初の感想だった。でも、たったひと口。口に含んだ瞬間、それは変わった。自分の人生が真逆に変わった。こんなに美味しいもの生まれて初めてだ!甘くて、優しい味。そして村の大人たちがごくたまに食べる果実に似たあの絶妙な風味。止められなかった!一息に飲みつくしてしまった。その様子を見ていたこの人は言葉にしなかったにせよ「あーあ」と言わんばかりに片手で顔を覆った。そうして2杯目をカップに注いで手渡された。「今度こそはゆっくり飲め。勝手に飲まれても困るな・・・」そう言って焚火からヤカンを取り上げると少し離れたところで耳に銀色の板を押し付けながら独り言をぶつくさと言い始めた。


男「だーかーらーよー?謝ってるじゃん、さっきからさ。仕方なかったっつってんだろ?確かに、たった一人とは言えだ。現地住民にそいつらが知らない技術を提供したのは事実だ。その行為が基本的には禁止だってこともわかってる。だが、会社の方針で決まっているだろ?人命が窮地にさらされた場合は例外とするってまどろっこしい社訓にも書いてあるだろうが。それにただで助ける訳じゃない。助けたガキ・・・じゃねぇ少年は味方にすれば絶対にうちの会社に利益をもたらす。・・・ああ?証拠を今出せって?馬鹿かおめぇ、今すぐ出せる訳ねぇだろ!そんなもん!まだ子供なんだぞ。未来ある若者の将来に期待しろよ。絶対、俺らの力になる。第一な、この通話も聞かれてるし。うぁ!もう・・・いきなり怒鳴るなよ!とりあえず支部長によろしく言っておいてくれよ。5日後あたりにはそっちに帰る。ああ、怒られる?お前がか?大丈夫、大丈夫、5日も経てば支部長もそれなり落ち着くさ。じゃ、次の連絡は3日後だ。じゃな、切るぞ。」


そう言うと肩を落として戻って来た。顔にはやれやれといった表情が浮かんでいる。


少年「あの・・・何をしてたんです?」


男「ああ、会社の同僚と連絡とってた。基本的にはやったらダメな事やったからな。」


少年「ダメな事?っていうよりカイシャってなんですか?」


3杯目のカップに注ぎ、手渡しながら答える。


男「ちゃんと一つずつ答える。その前に、まぁ・・・信じてもらえるかどうかはわからんがー。俺さ、別の世界から仕事で来てるんだよ。」


少年「別の・・・世界?」


男「そうそう。あーそう言えば、お互いまだ自己紹介してなかったな。


俺の名前は、南 春。俺らの世界の中にある日本って国から来た。お前の名前は?」


少年「ヒューム・・・。ヒューム・ジャメントです。あの、ミナミ ハルさんって呼べば?」


男「めんどくさいだろ?その名前。だから、こっちで呼んでくれ。スニークってな。」


ヒューム「スニーク・・・さん。」


スニーク「そうだ。それが俺にあってる名前だ。それが相応しいんだよ。」


そういうスニークさんの顔は忘れられない。口元では笑っている。でも、目はとても悲しくて・・・苦しそうで・・・今まで見てきた人たちの誰よりも辛そうな目をしていた。後で僕はスニークさんの会社がある日本と言う国に行く。連れていかれた教育施設で勉強させてもらえた。勉強する中でスニークさんのあの時の表情を的確に表す2つの単語を見つけた。

それは【自罰】と【自嘲 】という言葉だった。

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