きっかけ。白崎side
読んでくださりありがとうございます!
更新が止まってしまい申し訳ありません。これからは少しでもコンスタントにあげられるように計画していますので継続的に見て頂けると嬉しいです!
…※□!!翔?
うっすらと俺の名前を呼ぶ声が頭に響く。
と同時にものすごい勢いで何かを叩く音が聞こえてきた、
ドンドンドンドン!!!
「ワン!ヴゥ…」
”ちょっと翔!”
ピンポーンピンポーン♪
「っワンワンワン!!」
最悪の目覚めだ。
最近繰り返す変な夢に対しての目覚めの悪さと金属製のドアを叩く打撃音、愛犬シロの鳴き声が不協和音となって頭にガンガン響いてくる。
せっかくの休日なのに、前代未聞の最悪な目覚めとなっている・・・。
「シロ、おいで・・・」
外がやっと静かになった。というか何故インターホンを鳴らす前に扉を叩くんだ。
常識がないのか・・・
布団の中からシロを呼ぶと、まだ外が気になるようだがそろそろと俺の布団の中へ入ってきた。シロを抱き寄せ一緒に布団の中で丸くなる。
昨夜は気づいたら寝落ちしていた事もあり、あまり寝た気がしない。
玄関の外の現実には触れず、俺は再び眠りにつこうと目を閉じた。
はぁ・・・これで今日は一日ゆっくりできる。
・・・・・ガチャッ。
・・・・・え!?
なになになに?
ガチャ?今扉が開いた気がしたんだけど、気のせいだよな?
強盗?襲撃?
実は、どこかの国に狙われていて暗殺・・・しにきたとか?
はたまた実は俺のDNAが…いや待て、どんなファンタジーでホラーな状況だよそれ!
やっばい…自分に自分でツッコむとか無いわぁ。
俺、めっちゃ痛いやつじゃん・・・
ギギィ・・・
明らかに誰かが近づいてきている・・・ドクドクドクドク・・・
冷静になれ・・・俺・・・現実に思考を戻そう。
まず、なんで玄関のドアの開く音が…あ、そういえば、昨夜帰ってきてから疲労に負けて玄関のカギを締め忘れた気がする。
そして、いつもなら既にバイトに行っている時間だ・・・休みだと知っていて敢えて来たのか、それとも留守だと思ってきたのか・・・
起きるべきか、それとも寝たふりでやり過ごすべきか・・・・・
バサッ!!!
いきなり布団を剥ぎ取られた・・・だと!?
丸まったまま硬直していると腕の中で丸まっていたシロに手が伸びてきた。
シロが狙い?!どういうことだ?!
「おっはよー!!今日休みなんでしょー!?シロちゃんと遊ばせて~♪」
!!!!!!!!!
こちらの緊張とは真反対な呑気な声が聞こえてきた。
お前かよ!!!!!!!
俺の頭には、シロを抱いている幼馴染の紬がいた。
俺は朝からの極度な緊張と疲労感で、もう目を開けることすら出来なかった・・・。
「まぢビビった〜・・・。」
「あーんシロちゃん今日もかわいいねぇ♡」
こいつ無視か・・・。
俺は、とてつもなく重い身体を起こして大きなあくび交じりのため息をついた。
「なぁ、なんでお前が俺がバイト休みの日を知ってんだよ。それに朝早すぎ。俺とシロの素敵な休日計画を返してくれ。」
「え~?コンビニの店長さんに聞いたら教えてくれた!それに鍵も開いてたから、
これはもうシロちゃんと遊び倒すしかないかと思って♪」
おいおい…あの頭バーコード店長…勝手に個人情報を横流ししやがって・・・
こいつの自由奔放さと行動力の高さにはいjつも頭を抱える。
「ねぇ、シロちゃん、散歩いこっか!」
紬必殺。地獄の一言。
こいつの一言で俺は幾度となく振り回される。今だってそうだ、俺は寝ていたいただひたすらに1日をだらっと過ごしたいそれだけなのに・・・
「ワンっ♪」
紬の”散歩”という言葉で目をキラキラさせてちぎれんばかりに尻尾を振っている愛しのシロをみると寝てなんていられないじゃないか。
はい、俺の清らか且つ素敵な休日の朝、終了のお知らせ。
シロ、お前は俺の味方だよな?一緒に寝ていたいよな?
可能性はゼロに等しいが最後の希望を込めて、シロに手を伸ばす。
俺の手に気づいたシロは、行くぞ!の合図だと勘違いしたのだろう、愛用している自分のリードを咥えて突進してきた。
「あーもうわかったよ。行くよ行く行く!シロは遊ぶのが仕事だからな。」
「バゥフ!」
咥えたままのリードを放さず不細工な声で鳴いたシロを抱え、家を出る。
「くぅ〜!いい天気っ!日光浴びないと、人間腐っちゃうからねっ♪」
真っ青な空に雲一つない快晴の中で紬が伸びをしている。全くいい気なもんだ。
彼女の肩まで伸ばした髪が太陽の光に照らされ、心地良い風にサラサラとなびいている。
久しぶりの日中の散歩で目を細めた。
「…たまには早起きして散歩もいいかもな。」
こうして俺は休日返上で、紬とシロの遊び相手になることが決定した。
それから近所にある公園でシロと紬を遊ばせた。近頃の公園というのは簡易的なドッグランがついていて、飼い犬のストレス発散に結構重宝する。
シロはともかく紬はよくあんなに走り回れるなと素直に尊敬する。
流石にこの炎天下の中走り回って疲れたのか、シロが木陰で舌をだして休み始めた。
ここの公園は、ドッグランがあるだけでなく給水場も完備されている。シロの水分補給を終え、来た道とは別の道で帰ることになった。
公園近くの住宅街を抜け、商店街を歩いているとコンビニの帰りにいつも通り過ぎるゲームショップが目についた。
ー新作MMORPG登場!ー
歴代の名作を軸に新たにマルチプレイ要素追加!
新たな冒険の旅に出よう♪
1週間程前に発売したらしい。普段あまりゲームをやらない俺だが、何故かこのゲームは少し気になった。
なんだろう・・・まぁイラストも好みなのだが、自由度が高いシステムがどんなものなのか興味がある。そして、一番気になる部分がこのゲーム内でのペットシステムだ。プレイヤーと一緒に冒険に出る事が出来るらしい。出来ることなら、ゲーム世界でもシロそっくりなペットを飼い、一緒に冒険をしてみたい。なおかつ様々な服や被り物を着せ替えたい。現実では、被り物はシロが動きずらそうにするからあまり被せたくない・・・服装も、走り回ることが好きなシロだから身軽でアクティブに動けるものをチョイスしがちだ。
しかし、ゲームであればどんなものも好きなだけ着せてあげられる!!!!!
だが・・・これだけ興味を唆られているにも関わらず、購入へと踏み切れない理由が一つだけある。
それは・・・
『マルチプレイ…』
そう、マルチプレイ要素だ。
友達同士でチャットをし、連携を取りながらともに冒険を進め、敵を倒してワイワイするような、陽キャ的なシステムだ。
そもそもこのゲームはPCゲームなのだが、俺はPCがあまり得意ではない。タイピングスキルも中学生のパソコン授業で止まっており、高校からはiPhoneとiPadをずっと使っていたせいでフリック入力は神的だが、キーボードは壊滅的だ・・・
人差し指でしかタイピングできないのにどうやってコミュニケーションを図れというのだ・・・
友達のいない俺には、協力してくれる相手も居なければ、誰かを誘うというコミュニケーション能力もない。
だから、この店を通る度にただ見るだけになっている。
「このゲーム気になるの?」
紬がニヤニヤしながら俺に声をかける。
いつの間にかゲームショップの前で足を止めてしまっていたらしい。
「へ〜珍しいじゃん!いつも『めんどくせぇ。』って言って、ろくな趣味も無くシロちゃんだけが生きがいって感じなのに。」
「別になんでもねぇよ。」
何かに興味があるって思われるのがこんなに気恥ずかしいものなのか。
自分でもよくわからないが、言葉を濁した俺を見て紬はまたゲームショップの新作コーナーに目を向けた。
「マルチプレイ・・・ふむふむ。」
なんだか一人でぶつぶつと言いながら真剣にゲームを見ている。あいつってゲームそんなに好きだったっけなと思いながらシロを見る。
足元で丸くなり、大きな欠伸をしていた。随分と待たせてしまっていたようだ。
「ごめんな、シロ。あいつは放っておいてさっさと帰ろ」
俺はシロと一緒に紬のことを気にせず歩き出した。
一見冷たいようにも思えるかもしれないが、あいつがあの状態になっているときは
大抵面倒なことに巻き込まれるのだ。
大丈夫、放っておいてもそのうち後ろから追いついてきて、何かしら騒ぎ立ててくるのだろう。長年幼馴染をしていると(ほぼストーカー…もとい付きまといのようなものだが)扱い方が雑になるものだ。
タッタッタッタ…
「翔!ちょっと置いていかないでよ!」
ほら、追いついて・・・
「どぅわっ!!」
バチンッ!という打撃音と共に、背中に鈍い痛みが走る。スキンシップと暴力をはき違えた幼馴染が追いついてきた。
さすがに痛い…。思わず変な声が出た・・・
「何だよ、叩くことねぇだろ」
振り向くとぷくーっと頬をふくらました紬が仁王立ちしてこちらを睨んでいた。
全く恐くないのでリアクションに困っていたら、手に持っている板状の物体を俺に突き付けた。
「はい!このゲーム、気になってたんでしょ?今時のPCゲーなのにダウンロード版じゃなくてディスクを出してるなんて変わってるわねぇ。」
「え…なに?お前ゲーム好きだっけ??」
「そりゃぁお兄ちゃんがゲーマーだったからそれなりには出来るよっ!ってそうじゃなくて、翔の分、プレゼントっ!」
「俺、誕生日まだまだ先なんだが・・・。」
「そんなちっちゃいことは気にすんなって!無料で貰えるものほど、有り難く頂いておくもんだよ。」
「…タダより高いもんはない。」
「そうともいう!まぁまぁ、そんなに深く考えないでさ♪小っちゃい頃のトラウマとかもわかるけど、そろそろ人と関わり持てるくらいのコミュ力を身に付けたらどうですかい?
就職面接くらいちゃーんと受けれるくらいにコミュ力を付けないと、このままずーっとバイトの貧乏暮らしですぜ、旦那ぁ。(笑)」
「それは…困る」
俺は過去のトラウマが原因で、集団の中でのコミュニティ形成が苦手だ。
他人の心の根底は、俺にはわからない。
世間一般的にはそんなの当り前で気にすることすらしないのだろう。
だが、俺はその他人の心の奥底が、暗く、重く、深く感じる。
人間は表面をいくらでも飾ることができる、それは自己主張でもあり、隠蔽でもある。
着飾った相手の表面を信じ自身の心を許したとしても、その先の、心の奥底の影にいつか自分が飲み込まれ、傷つき、失望するのだ。
そんな思いをするくらいならはなから関わらなければいい。
そう歩んできたことによって、このコミュニケーション能力皆無な猜疑心の塊人間が出来上がった。
ゲームの話に戻るが、このゲームを今まで手に取らなかった理由は簡単だ。
・人と関わりたくない。
・そしてバイトとシロを第一優先に考えたときに、ゲームをやる余裕がない。
こうなってくると少しばかりこのゲームに輝かしさと憧れを抱いていたとしても、購入するという頭にはならなかった。
紬が買ってきてくれたとはいえ、こんなただのネットゲームでコミュニケーション能力はつくのか?何か企んでいるように思えてならない…。
「ネット上の誰かと話してコミュ力がつくわけないだろ。」
「ネットだからこそだよ!現実の見た目も、過去も関係ない。自分を知ってる人なんて誰もいないんだし、失敗してもゲームなんだからリセットはきくでしょ?リハビリにぴったりじゃん♪」
「リハビリって…俺は病人かよ」
「あははwwまぁ、あたしのプレゼント素直に受け取りなさいよっ!」
そういって俺の胸にそのゲームが入っている四角い箱を押し付けて来たので、有り難く受け取った。
「今まで何にも興味示さなかったんだから、ちょっとでも気になるならやってみなさいな!
コミュ力失調症くん♪(笑)」
「そ、それは悪口だろっ!」
紬の頭をつかんでプロレスでいうアイアンクローをお見舞いしてやろうと思い、腕を上げたが、華麗なステップで避けられた。
「もうその手は見え見えなんだからねっ!」
憎たらしい笑みを浮かべて紬は言う。
「思ったら即行動!これ、うちの家訓だから。あんたも挑戦してみなさいっ!」
「・・・。」
とんだお節介野郎だ。不器用だが、これがこいつの気遣いなんだと受け取っておこう。
「じゃあ、あたし帰るわっ!これから大学だから!」
「またね、シロちゃん。」
しゃがんでシロを撫でてから、紬は颯爽と駆け出した。
俺は小さくなっていく紬の後ろ姿を見送りながら、大きくため息をついた。
手には【リベーラファンタジーⅢオンライン】というパッケージのゲームが一つ。
まるで台風だったな。
俺がコミュ力失調症ならあいつは台風女だな。
今日の出来事を思い返しつつ、またもう一つため息をついた。
「シロ、帰ろう。」
俺と同じように紬を見送っていたシロに声をかけ、俺は家路についた。
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