幼馴染。 白崎side
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更新遅くてごめんなさい・・・
「偉いぞー、誠。また学内順位1位かぁ!よく頑張ったな。」
真夏の暑さも和らぎ、蜩の鳴き声が屋外からうっすらと聞こえる夕暮れ時、
学校帰りの俺はリビングの扉のドアノブに手をかけた時、その言葉が耳に入り立ち止まった。
「あなた、誠は将来有望ね」
母さんの声だ。おそらく二歳年上の兄、白崎 誠もリビングにいるのだろう。
「それに比べて翔はなんであんな風に育っちまったんだ。」
父さんの声・・・。
「翔もちゃーんとお兄ちゃんのことを見習って頑張ってくれたらいいけど。今年は中学受験。いつまでも低学年気分じゃ駄目なのよねぇ。」
中学受験…兄の誠は成績優秀で、私立の中学校を受験し見事成績トップで合格した。
そんな見事な兄を持つ俺は、真面目に勉強するようなタイプではなく、事あるごとに両親に兄と比べられてきた。
「…またその話」
もう、聞き飽きた。
兄のテストの結果がわかる度、我が家のリビングでは似たような会話が繰り広げられる。
我が家の恒例行事。
「はぁ…」
俺は短い溜息をつき、いつの間にか力を込めて握っていたドアノブを放し、リビングへ赴くはずだったその足を二階の自分の部屋へと運ぼうとした。
その時・・・
ーーーピーンポーンーーー
突然インターホンが響く
「こんばんは、隣に越してきた紺野です。亅
女性の声とともに玄関のドア越しに二つの陰が見えた時、突然後頭部に衝撃が走った。
「痛ッ。。。」
リビングのドアが突然開いたのだ。
「あら、翔帰ってたの?」
そこには息子に扉をぶつけたにも関わらず全く心配も申し訳なさもない母さんがいた。あら、帰ってたの?じゃないだろう。まずは息子の心配をしてくれ、兄との頭の出来の差がさらに開いてしまうだろ。
「ほら、翔。挨拶しなさい。」
俺が痛みに打ちひしがれて、心の中で文句を言いながら頭をさすっている間に、
母さんは訪問者を玄関に招き入れていた。
「・・・こんばんは」
少しだけ頭を下げながらぶっきらぼうに挨拶をした。
訪ねてきたのは母さんと同じくらいの年齢の女性と俺より身長の低い女の子だった。
紺野さんと言うらしい。すると身長の低い女の子が一歩前に出てニコッと笑った。
「こんばんは!私、紬。紺野 紬っていうの。よろしくね!」
いかにも元気溌剌な女の子という印象で、艶がある紺色の髪はツインテールで結ばれていた。毛先は肩にギリギリつかないぐらいで外に跳ねている。黄色の半袖のワンピース姿の彼女は、屈託のない満面の笑みでこちらを見ている。
同世代の女の子との会話に慣れていない俺は、不器用に言葉を並べた。
「・・・うん。よろしく。」
・・・・・・・・・・・
あれ?何故か立っているはずなのに視界に靄がかかってグラグラする。
ー--視界がぼやけていき、真っ暗になった。ー--
ん・・・?
これは・・・
夢・・・?
なんだか気持ちが悪いが、夢の中で夢だとわかっている状態で第三者的な視点でこの場にいる様な感覚だ。
ー-今度は視界にノイズがかかる。ー--
真っ暗な視界がだんだんと色づいていき、夢の中だという意識のある俺は実家の近所の公園にいた。
ブランコや滑り台など遊具と呼ばれるものが一切なく、いつから立っているのかわからないサクラの木とベンチだけがある公園だ。
頭の中で考えている自分の意思ははっきりしているのだが、体は意思通りに動かない、一人称視点で映画やテレビを見ている感覚だ。
俯いていた俺は、ゆっくりと顔を上げた。
そこには俺と同じ学ランを着ているイカつい顔の男が3人いた。
3人の中で右側にいる茶髪の背の小さい男が俺をにらみつけて言う。
「何ガンたれてんだよ、まじムカつく。ちょっとイケメンだからってよ」
イケメンかどうかなんてどうでもいい、既視感のあるこの場を今すぐ去りたかったが夢であるが故にそれは出来なかった。
シュッ
という音と共に、ツンと鼻を刺すような焚き火でもしたかの様な臭いがした。
目の前にいる3人の中のリーダー的な坊主の男がタバコに火を付けていた。
「聞いたぜ、お前の兄貴は私立の中学で成績トップらしいじゃん。なのにお前は私立は落ちて、公立のウチの学校に入ってきたんだろ?」
馬鹿にしたように鼻で笑いながら俺に言う。誰も彼も口を開けば兄貴兄貴兄貴。。。
フー。
煙を吹きかけられ顔を背けた。それにしても臭い。なんでこんなに臭くて体にも悪いものを好んで摂取しているのか。夢なのに何故こんなにも現実的に感じるのか。
「笑えるな、落ちこぼれのお坊ちゃんがチヤホヤされていい気になってんじゃねぇぞ?」
チヤホヤされた覚えはない。むしろ、お前たちのように俺を嘲笑っている奴の方が多いだろう。
「その顔ブサイクにしてやるよ!」
坊主頭の男は何かのドラマのチンピラのセリフみたいなことを言うな・・・と考えていたら俺の視線はいつの間にか茶色くて埃っぽい、公園の地面でいっぱいになった。
「痛ッ」
口元から頬にかけて痛みが走る、同じ中学生とはいえ年上の男の体重を乗せた右ストレートの勢いに負け、後ろに転げ崩れたのだ。
ーーなんで俺ばっかりこんな痛い思いをしなきゃならないんだ。ーー
今見ている俺は冷静なのに”ココ”にいる俺は頭に血が昇ったのだろう、相手三人、数的不利であることなど関係なく、まして自分の身体能力なんて忘れて、目の前の男に殴りかかった。
なんとか立ち上がり、自分の膝が震えているのが視界の端に見えたが真っ白になった頭ではそれすらも関係なかった。
あぁ、客観的に見ると滑稽だな。冷静な俺は思う。
「お巡りさん!こっちです!!」
突然の、そして聞き覚えのある声に俺の手は止まった。
「は?」
不良たちも一瞬何が起きてるのかわからない様子だ。
声のした方に視線を移すと、一人の少女が仁王立ちでこちらを見ていた。
目が合った少女は一瞬ニコッと唇の端を釣り上げ笑うと、
「こっちこっち!お巡りさん!急いで下さい!!」
少女の発したお巡りさん、という言葉に反応するように不良たちは
「まじかよ、お前ら逃げるぞ!」
とまたもやどこかのドラマのチンピラが言いそうなセリフを吐き走っていった。
俺はその場に崩れ落ちた。今までに感じたことのない痛みと悔しさが込み上げてきた。
警察がくる気配がない。代わりに駆け寄ってきたのは先ほど叫んでいた少女だった。
声を聞いた時から薄々感づいてはいたが、なぜこんなタイミングで幼馴染の紬に出会ってしまうのか。
「えへへ、嘘ついちゃった。あードキドキした!意外と演技派でしょ?私。」
俺の顔を覗き込み無邪気に笑いながらそんなことを言う。
「紬、こんなとこで何してんだよ」
「それはこっちのセリフ!喧嘩はしちゃダメって言ってるでしょ!」
「あの状況じゃ正当防衛だろ」
『喧嘩はしちゃダメ』ねぇ。俺が小学生の時にしょうもないいじめにあってからというもの、何故かこいつが現場に出くわすことが多くなった。
「そういうことを言ってんじゃないの、男の拳は大事な人を守るためにあるのです。それに手は暴力に使うんじゃなくて、誰かに差し伸べるために使うのが真の男ってもんでしょ!」
「なんだよそれ、また変な小説の受け売りだな?」
「変な、じゃないよ!私の大好きな異世界ファンタジー小説!」
現代世界ではなく、妖精だか魔法使いだか魔族なんかが出てくる異世界に転生して冒険をする、というファンタジー小説にハマっているらしい。
一見、面白そうな世界観だが一言でも質問をしたら永遠と語り出しそうだからやめておく。
そんなことを思いながら、あちこちが痛い身体をなんとか起こした。
得意げに両手を腰に当て豊かな胸を張って偉ぶっている紬を見てちょっとは手伝ってくれよ・・・と呆れていると、
「もう、ほら顔見せて」
そう言いながら紬の顔が俺に近づく。
赤黒く晴れた俺の左頬を見つめる紬の顔があまりにも近いので思わず背後にたじろいだ。
「あーこれは消毒した方がいいね!うん、とりあえずウチおいで。
ママがこう言うの得意だから!」
お前は得意じゃないのかよ、とは口に出さず、鼻で笑ったところを紬に小突かれた。
「痛っ、・・・お前ほんと昔から変わらねぇな。」
見た目は世間一般と比べても平均以上はあると思う容姿なのだが、
いわゆる残念系イケメンの女版といった所だろうか。
「え?昔から変わらず可愛いって?知ってる知ってる!!そんなことより早く手当した方がいいよ!ほれ、急ぐ急ぐ!」
強引に俺を立たせると袖口を引っ張って歩き出した。
「ちょっ!あぶねぇだろ!」
怪我人に容赦ねぇ・・・。こいつ、紬には出会ったときから振り回され続けている。
一度決めたら一直線で曲げない性格も相まって、制御が効かないのだ。
紬の自分勝手かつ自由奔放さには驚かされていたが、今思えば、自分の家に居場所のない俺を気遣っての行動だったのだろうか・・・
「ねぇ!帰りにシュークリーム買ってかない??」
前言撤回。そんな気遣いがこいつに出来るとは思えない。
「怪我の心配してたんじゃねぇのかよ」
お互いに吹き出すように笑いながら並んで家路を歩く。
徐々にそんな自分と紬の姿を後ろから見ている視点に変わっていく、
そして視界がまたぼんやりと暗くなる・・・
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