<序章・記憶>
この小説を見つけてくださったあなたにまず感謝します。ありがとう。
最初は実体験や私が見た夢を基に、何となく思い付きで書いていた小説を、将来仕事に出来ないかと最近思いついた学生です。ちゃんと形にするのはこれが初めてで、至らない点があるかと思いますが温かい目でお読みいただけたら幸いです。
八月。入道雲の映える青空の下にて。
人気のない公園に、ブランコに座った少女と、その前に立つ少年。
向日葵が太陽の方をじっと見つめたまま立っている。
蒸し暑い空気の中に、少年は緊張感を覚えた。
「それで?」
少女の唇が動いた。
少年の俯き気味だった顔が少女に向く。
「言っておきたいことってなに?」
中々話さない彼を急かすように聞いた。
「え、いや、だから…えっと、その…」
彼が緊張しているのは少女にもよく分かっていた。でも、あまりにも口を開かない彼がじれったい。何に対してかは分からないが、どことなく心の内にあった期待が抑えられなかった。
わざわざ呼び出されたのだ。何かあるのは確かだろう。
ブランコからの待ちわびるような上目遣いの彼女の視線が少年の目に刺さる。
やっぱり可愛い。すごく可愛い。
「好き…」
気持ちが思わず溢れてしまったような震え声が漏れた。
「え?」
顔を押さえながら俯く彼を見て、きょとんとした。
「お前のことが可愛くてしょうがなくて。すごい好きなんだって、今すごく思った。」
思ったことを全部口にして、我に返った様子で焦り出す。
違うだろ。さっきあれほど練習したじゃないか。
一通り焦ってから、少女の方をちらっと見た。
相変わらずきょとんとこちらを見つめている。
やっぱりその顔は可愛かった。
それをみたせいで余計に言葉が出てこない。
と、彼女がやわらかい笑みをこぼした。
「私も」
「……っ」
その返答が、彼女の声が、笑顔が、心臓を思い切り締め付ける。
ほんとに可愛い。
「ちょっとちょっと」
いつの間にか抱きしめられている少女が彼の背中を叩く。
「苦しいっての(笑)」
離したくない。こいつはずっと、俺のものだ。
その気持ちが両腕にこもって、自分より小さいその体を締め付ける。
蝉の声が響く。
陽射しが地面を焦がすように照り付ける。
向日葵が背を伸ばし、太陽を見つめる。
蒸し暑い空気も、雲の白さが映える青空も。
夏が来たと知らしめるように、鮮やかな景色を彩った。