聖者の僕とネクロマンサーの彼女
初めまして、平和な松の樹と申します!
初めてじゃない人はありがとうございます!
今回はホラーの短編を書いてみました。
間違ってハイファンタジーに投稿しましたし、コメディーに投稿するか、異世界【恋愛】に投稿するか、真剣に悩みましたけど、僕はホラーの短編を書きました。
よろしくお願い致します!
今、僕の目の前にあるボロボロの古びた屋敷は、もともと貴族の別荘か何かだったのだろう。
昔は豪華で立派な建物だったのだろうけど、門は触ったら痛いぐらいに錆び付いていて、ここから見える屋敷の壁も全部ぼろぼろだ。
庭の草木も、元々は庭師によって手入れされていたのだろうけど、荒れ果てている。
雑草によって埋もれて隠れてしまっているこの辺では見かけない珍しい花が、とても虚しく感じる。
今回のクエストの目的地はこの建物らしい。
……何回も、何回も、なーん回も!確認したけど、この建物で問題ないみたいだ。
いや、問題はあるけど、問題しかないけど、間違いはないらしかった。
最近、この場所の周辺でゴーストの目撃情報が度々上がるので1番怪しいこの建物を調査しろっていうクエストだったからだ。
もう管理者のいないそこはダンジョンと変わらないから。
ゴーストは昔からすごく苦手なんだけど、なんで僕ばっかり……。
僕がいくら聖職者で死霊系のモンスターに強いからと言って、こんなクエストばっかり持ってくる相方に心の中で悪態をつく。
しかも、僕がこんなに辛いことをしているのに、彼女は怖いから街中で雑用してるねっ!と1人で別のクエストを受けていた。
君はそんなたまじゃあ無いだろうに。
あー……。なんて憂鬱なんだろう。こんな依頼さっさとこなすに限る。
長引かせると、夜中にトイレに立つ事さえ難しくなるのだから。
心を決めて、門を開こうと押し開けると、ギギギッと不気味な音が辺りに鳴り響く。
もうこの時点で帰りたくなる。
だってギルドにクエストがある時点でほぼ100%ゴーストがいるはずなのだ。
なのに、この建物はさらに不気味な雰囲気を醸しだしている。
そんな余計なサービスは何処かへ捨ててしまえばいいのに。
僕の精神と引き換えに空いた門の隙間から、屋敷の庭へと入る。
外から見た時点で荒れ果てているのはわかっていたけど、中に入ってしまうとその様子がさらによくわかるようになった。
通路には石畳が敷いてあるのに、それを貫通して隙間から雑草が生えまくっている。
そのせいで草が足に引っかかり、僕の小さい足では歩くのが辛い。
そんな自分の成長の遅さを恨めしく思いながら。
荒れた庭を一歩一歩着実に進んでいく。
ゴーストに出くわしませんように。
ゴーストに出くわしませんように。
ゴーストの情報は嘘でありますように。
僕は確かに聖職者なんだけど、ゴーストやゾンビの類が苦手だ。
だって彼らは、その心の中のドロドロとした感情を生者にも味合わせようとするのだ。
僕らを驚かせようと、あわよくば自分たちの仲間にしようと色々な策を尽くしてくるのだ。
同じドロドロだったら、大教会の教皇争いの方がまだいい。僕には関係ないから。
もっというと具材がたっぷりでドロドロとしたスープとかなら最高だ。僕の栄養になるから。
ゴーストが出るっていうなら最初っから出ていて欲しい。
そのまま浄化してやるのに。
なんで脅かそうとするのだろうか理解に苦しむよ。
因みにここは絶対に出る場所だ。
僕の経験がそう伝えてくる。
何回もやっているからわかるんだ。
ゴーストの雰囲気というやつがね。
だから帰っていいですか。宿に帰って寝たいです。
そんなどうしようもないことを考えながらやっとの思いで、庭を突っ切り、屋敷の入り口の扉にたどり着いた。
扉に手をかけようとした、その瞬間。
僕の真後ろで、また、ギギギッと門の動く音が響いた。
もちろん僕はまだ何も触っていない。
「え?」
警戒しながらゆっくりと後ろを振り向くと、やっぱり門が閉まっていた。
「もうやだぁ……。」
半分狂乱化しながら、浄化の魔法を後ろに向かって打ちまくる。
しかし、その魔法の手応えは全くなかった。
自慢じゃないけど、僕の魔法は少し触れただけでゴーストなんて消えてしまうのに。
「帰りたい……。」
半刻ほど悩んで、荒れた庭を戻ろうとしたり、しなかったりしたけれど、弱音を吐いていても仕方ない。
勇気を振り絞って、屋敷の大きな扉を押し開き中へ入る。
そこには、なかなか立派なエントランスがあった。流石貴族の屋敷だ。
扉は少しガタついていたが、音はあまりたてなかった。
キーッと鳴りはしたが、さっきの門の衝撃よりは楽だった。
「良かったぁ……。」
僕だって成長するのだ。
成長ついでに、僕の経験と推測では、あの目の前にデカデカと飾ってある絵画とか、斜め前に何かを守るように飾ってある鎧とか、とても怪しい。
ゴーストの匂いがプンプンする。
浄化魔法をドドドンと撃ちまくる。ゴーストなんてすぐに浄化させてしまうほどの魔法だけど、僕の手にかかれば1日に何発でも撃てる。
自慢じゃないけど。
案の定、鎧の一つにはゴーストがいたのか、当たった瞬間に黒い塵のようなものが立ち昇った。
これで迷える魂を一つ救う事が出来ただろう。
これで依頼完了ならいいんだけどなぁ。まだまだこの屋敷にはドス暗い雰囲気を感じる。
多分だけど、奥に親玉か何かがいるんだろう。それを浄化してやらないとクエストクリアにならないよなぁ。
ギルドに嘘のクリア申請をしたら死より恐ろしい目に合うって言うし……。
「憂鬱だなぁ……。」
よしっ!とりあえずこの場所は安全だ。多少気を抜いても大丈夫だろう。
そんな時、急に、
肩に手が置かれる感触を感じた。
「ギィーヤーーー!!!!」
驚いて後ろを振り返ると、黒く長い髪をした女の人が僕の真後ろに立っていた。
「うへっ」
つい驚いて腰が抜けて後ろに倒れ込んでしまった。一巻の終わりかもしれない。
きっと、動けないままゴーストに嬲り殺しにされてしまうんだ。
僕みたいな、優秀で聖の魔力に満ちた奴なんてゴーストのお気に入りだろう。
なんてことを僕が思っていると、彼女はおかしくてたまらない様子で笑い出した。
唖然とした僕の前で、ひとしきり笑うと、
「あははっ、すごい声だったね」
そう話しかけてきた。
そう、彼女こそ僕の相方であるネクロマンサーだ。
身長は僕より高く、年齢も上なはずなのだけれども、僕より精神が幼く感じる。
こういう悪戯が大好きなんだ。本当参っちゃうよ。
本当に。
本当に参ったよ。マジで立てないんですけど!
「というか、ついてきたんですか!?」
僕がそう怒りと驚きを交えてそう叫ぶと、
「当たり前じゃない」
って、手を出してきた。
ありがたく手は借りますけど。少し恥ずかしくも感じるが、彼女の手を握って立ち上がる。
当たり前じゃないって、僕を最初っから驚かせようとしてたんだろう。僕の嫌いな心霊系の場所で!
彼女のそういうところは大嫌いだ。
一悶着があったが、彼女と合流した事で、戦力が2倍になった。
これでこのクエストも簡単に攻略出来てしまうことだろう。
しかもネクロマンサーの彼女は能力でゴーストの居場所がある程度把握できる。
だからこそ、彼女がクエストを受けることにギルドも反対をしなかったのだろう。
彼女の力を借りてさっさと探索して、宿に戻ろう。
悪戯好きの彼女が力を貸してくれるかどうかは知らないけど。
所々に蜘蛛が巣を張り、壁や床がビビ割れていたり、遂には穴が開いてしまっているような、いかにも古びた屋敷を、2人でまとまって調べていく。
2手に分かれて探索した方が早く終わるのは重々理解しているのだけれど、そんなことをしたら霊に対する対処能力が僕より低い彼女が危ないので、仕方なく2人で行動する事にした。
もちろん新しい場所に行く際は、僕の自慢じゃないけど強い浄化魔法を撃ちながら。
だから、
「わぁ!」
とか
「ふーっ」
とかは、もう僕には効果が無いんですよ!
なので、その……。
手は離さないで下さい。
屋敷を片っ端から調べていき、外が暗くなろうとしてきた頃、やっと目的のゴーストを発見する事が出来た。
外が完全に暗くなってきたらギルドに連絡を入れて宿に戻ろうと思っていたので、ギリギリだった。
本当ギリギリで間に合ってしまった。ギルドに僕達には無理だったと連絡を入れようとしたのだけれど。
この屋敷の持ち主のベットルームだったのだろう大きな部屋だった。
部屋に入った瞬間に強い気配がしたので、警戒をしながら奥に進むとそれはいた。
立派な服を着た長身の男性だ。
その見に纏う燕尾服は貴族のものではなく、執事か何かこの屋敷を取り締まっていた者の服だろう。
それは、何かから身を守るような動作で沢山の邪悪な魔法を放ってきたのだが、全て僕の自慢の浄化魔法で一発だった。
確かに強いゴーストだったけれど、聖皇国の学園で1番だった僕の自慢の浄化魔法だ、一瞬で彼は黒い塵になって消えていった。
魔法をその身に受けた瞬間、やっと救われたというような顔をしていたので、来て正解だったのだろう。
うん。誰がどう言おうとクエストクリアだ。すぐにギルドに行ってお金を貰って夕飯にしよう。
「帰りますよ!」
「まだよ」
まだ?
「えっ……これで終わりですよね?」
「まだいるわよ」
あれ?この人なんて言った?気のせいだよね。今のがボスだよね。ほら、あの人顔とかめっちゃ怖かったもん。
「嘘。ですよね?」
「まだいるわよ」
まだいる……何がですか?何がいるんですか?さっきのより怖いやつなんですか?
僕の中では今ので終わりなはずなので帰りたいです。
そうです。そうしましょうよ!
「終わったから帰っていいですよね!」
「ギルドに怒られるわよ」
彼女がそこまで言うのであれば、きっと何かがいるのだろう。
実際に霊の察知能力はネクロマンサーである彼女の方が圧倒的に高いのだから。
「本当ですか?」
「うふふっ、嘘ついた事ある?」
「たまに」
「ごめんなさい……。」
冗談を言う彼女にそう言い返すと、ものすごく悲しそうな顔をして謝られた。
僕の顔を疑うように見て謝っている姿は、僕より年上なのを知っていても小動物みたいで可愛く感じてしまう。
別に、そんなに酷い嘘はつかれた事ないからいいのに。
……あれ?そういえば、今日結構酷い嘘をつかれたような。
やっぱり許すと言うのはやめておこう。
「それでどこにそれが?」
「下」
僕が聞くと彼女はそう答えた。
下か。一階は全て見回ったはずなので、恐らく見逃した地下室でもあったんだろう。
仕方ない。正直、冗談抜きで、一回帰って明日出直したいのだけれど。
彼女の方はやる気みたいなので、このまま頑張ろうと思う。
このまま帰ってしまうと、大変そうなので。
彼女は自分の嫌な事があるとすぐにただをこねるのだ、そのせいで周りの視線が気になって。
女性に年齢のことをあまり言いたくはないが、いい年なんだからもうちょっと落ち着けばいいのに。
色々と事情があるのは僕が1番知っているのだけれど。
「本当に暗くなったら帰りますから!」
「はーい!」
それからまた探索を始めた。
一階は全て見回ったはずなのだけど、もし、万が一ゴーストに出くわしたら怖いので、丁寧に浄化魔法を撃ちながら進んだ。
改めて一階の全て、使用人の部屋の一つ一つ、厨房の棚全て、その床を叩いてまで調べたのだが、全く地下に繋がる穴も無ければ彼女の言うゴーストも見つからない。
本当はいないのじゃないかと疑うが、下にいると言って聞かないのだ。
しまいには、嘘じゃないもんと泣きそうになるので、敵わない。
真剣に屋敷の隅々まで捜索を進める。
そして、外が完全に暗くなろうとするその時、屋敷の執務室に隠し扉があるのを発見した。
発見してしまった。
執務室とその隣の部屋の間に不自然な隙間があるのに気づいたので、2人で力を合わせて頑張って本棚を動かした。
僕と彼女は優秀な冒険者であるけど、どう見ても女性と子供の2人なので、それだけで重労働だった。
そうしたら、地下へ繋がる階段が出現したのだ。
その階段は、誰がどうやって見ようと明らかにゴースト達のの邪念が渦巻いており、さながら死の国への入り口のようであった。
達成感と後悔が押し寄せる大変大変な事態だ。
「帰りませんか?」
「ここまで来たのに?」
何でこれを見てウキウキと先に進もうとするのか。理解に苦しむ。
例えネクロマンサーだとしても、ゴーストに攻撃されない訳ではないのに、さらに、こんなに攻撃的な念をばら撒くゴーストが素直に服従されるはずも無いのに。
ここにいるだけで、奥にいるだろうゴーストの世界への恨み、おそらく屋敷の主人に対するものだろう恨み、生前の自分に襲い掛かった辛み。
それらが念として、雰囲気として、僕にズキズキと痛いぐらいに感じる。
これを感じ取れない彼女ではない。
さては!
僕をからかおうという魂胆しかこの女の頭の中には存在しないのか!?
さっきから、というか、ここに来てからずっと僕の方を見てニヤニヤ、ウキウキとしている。
ちょっと、ほんのちょっとだけ、可愛いな。なんて思っちゃったから許してただけなのに。
ここまで来ればもう実力行使するしかあるまい。
僕はそう心に決め、
彼女を背中に階段を降りていく事にした。
もちろん浄化魔法を前方全てに今日の最大火力で撃ちまくりながら。
階段を降りていった先、そこは、地下牢のようだった。
重々しい石造りの壁に、鉄で出来た壊せないであろう格子。
血液の流れた跡、さらには、実際に使われたであろう拷問器具がそこには置かれていた。
ここで何が行われていたのか知りたくもないし、考えるのも辛い。
残念ながらここにいた筈のゴーストの親玉を見る事は叶わなかった。
何故なら、僕の自慢の浄化魔法の方が僕の視界に映される光よりも早かったからだ。
本当によかった。
絶対怖かっただろう。
こんなところで僕が(恐怖で)倒れたら、彼女すら守る事が出来なくなってしまう。
さて、問題はこの場所だ。
こんな隠し扉の先にあるなんて、おそらくだけど、真っ当なものじゃあ無いんだろう。
普通の犯罪者を入れておくような牢獄を屋敷の主人の執務室なんていう重要な部屋の先に作る意味はない。
恐らく……。
この国では奴隷は禁止されているはずなのに、隠れてこうしてっ。
こんな部屋いるだけで辛いが、僕には決して見捨てられないものがあった。
近くの牢の中、首輪のようなものの近くに。
そこには、もう白骨化してしまった被害者の遺体が置いてあった。
いや、地面に落ちていた。
酷い。全て浄化してあげないと。
ありったけの浄化魔法でその骨さえも消し去ってしまう。
本当なら埋めてあげたいところだけど、こんなところすぐに去りたいだろうから。
そんな作業を淡々と真剣に一つ一つこなしていく。
彼女はそれを見て、手を合わせながら、
「やっぱり優しいね」
そう呟いた。
「当たり前です」
これが僕のすべき事なのだろうから。
2人であの不気味な屋敷を後にする。フワァー。もう今日は疲れ切ってしまった。
ギルドへの報告は後して、宿に帰るとしよう。実際これは急ぎの依頼じゃなかったんだし。
それに……。
彼女と2人で街を歩いていると、姉と弟にしか見られないのが悔しい。
関係性は僕の方が上のはずなのに。
「もうこんな依頼受けないで下さいね」
「やーだ!」
ほら。
主人公 聖者
聖皇国の貴族の息子、学園で同年代でも飛び抜けた成績を叩き出したので、教える事がもうないと飛び級してしまった。
年齢は想像にお任せします。学園は12から16までとだけ。
国からの期待と嫉妬から国を出され、人助けをしながら世界を巡行している。
死霊は死ぬほど苦手。
ヒロイン ネクロマンサー
ドラゴンに襲われて地図上から消えてしまった街の領主の娘。
両親は貴族の鏡のような人物で街の人全員から尊敬されていたが、ドラゴンには敵わず。
彼女が12歳の時にそれが起こったが、親の機転によって幸か不幸か生き残ってしまった。
それから親や街の人々の霊によって生かされ、ネクロマンサーの能力を得る。
そんな生活を送っていたが10年経った後、主人公によって助け出される。
つまり、脳内は少女で体は成熟しているという……。
毎回こんな依頼ばっかり主人公に受けさせるのは、自分のような人が他にもいるかもしれないと思っているからだとか。
屋敷の貴族 今回の悪役
業が深い。