#057――テロリスト12
ようやく砂煙との格闘を終えたヒーローたちも、無力化された兵士たちを見る。
「…馬鹿な。」――一人のヒーローがそう呟いた。
右から順に、機械のようなスーツを着たヒーローと、青い仮面と貴族のような服を着たヒーロー、そして最後に、体にピッタリと張り付く白いタイツのような布地のスーツに、赤いマントを付けたオーソドックスなヒーローが立っていた。
影汰が彼らを注意深く観察していると、隣に馬渕が駆け付けてくれた。
「さて、どうする?どっちかが二人を相手にする必要があるが?」
ヒーロー三人を前にして、馬渕は非常に余裕である。
警戒している影汰が、馬鹿らしく映るほどの態度だ。
「そうですね、ここは先輩の顔を立てて、僕は機械っぽい奴だけを担当しますよ。」
「素晴らしい気遣いだが…それが一番当たりっぽいんだが?」
馬渕の言葉の真意は、機械っぽいヒーローが、一番強そうだということだ。
影汰もその言葉の真意を、正確に理解していた。
「どうですかね?どんぐりの背比べな気もしますが。」
ヒーローたちを前に、影汰も容赦のない言葉を漏らす。
闇取引に協力する彼らに、わざわざ気を遣う気もなかった。
『必要ないかも知れないけど、一応情報を共有しておくわね。機械っぽい奴がトロンボーイ。あらゆる物質に電気を付与できる物質付与系の覚醒者よ。次に真ん中の貴族っぽい奴がミスタージャック、片手直剣を自由に何本でも錬成できるみたい。最後にオーソドックスな奴がシャカリキゴウリキガイ。肉体強化系で、まぁほとんどカズと同じね。…下位互換だけど。』
阿久津が無線で、さらりと解説を挟んだ。
「ま、確かに必要ないわな。今の俺たちの敵じゃない。取り合えず、お前の提案に乗ってやるよ。」
――馬渕はちらりと影汰の方を見た。
「じゃぁ僕がトロンボーイってことで。」――影汰は、数歩前に出た。
彼の目線の先にいるトロンボーイも、自信の相手を理解したのか、数歩前に出た。
するとヒーローたちが、とうとう口を開く。
「どうも彼は私をご指名のようだ。一人で十分だから、君たちはあっちを相手してくれたまえ。」――トロンボーイは、残り二人に軽く指示を出した。
何か一波あるかとも思えたが、意外にも二人は素直に頷いた。
どうも彼ら三人の指揮を任されているのは、彼らしい。
二人のヒーローは、馬渕の前に立った。
「君たちが何者かも知らないが、敵であることは確かだろうな。取り合えず、この取引を見られた場合、その対象は殺してしまっていいことになっている。追加料金込みでね。」
トロンボーイの口調は、戦闘が始まる前から自信に満ち溢れている。
「どうも君たちは、覚醒者であるみたいだ。だがしかし、君たちにとって不幸なことに、その手のノウハウは、私達の方があるだろうね。」
トロンボーイが手を伸ばすと、ミスタージャックがそこに剣を二振り投げつけた。
もちろんその剣の出自は、彼の根源である。
そして、トロンボーイは見もせずに、それをいとも簡単に受け取った。
「さて、始めようか。とはいっても、直ぐに終わることだが。」
覚醒者同士の戦闘において、相手の根源を分析する前から特攻することは、大体の場合失策である。
例えばポーカーで、相手の持ち札も考えずに直感で行動するようなものだ。
今回の場合であれば、お互いの手札の内、読み切られている手札は影汰の方が多い。先ほどまでの戦闘に、影汰は晦冥を使用していた。彼らも間違いなく、影汰の危険性は理解しているだろう。
それでもトロンボーイは踏み出したのだ。
阿久津からある程度トロンボーイの手の内は聞いているが、それでも影汰には共有されていなかったことがある。
それは、彼のヒーロースーツについてだ。大前提として、ヒーローが所有するスーツには、特殊な効果が付与されている可能性が高い。
今回であれば、トロンボーイのスーツは、とある異色な性質を持っていた。
他のヒーロー達とは違い、彼のスーツはあくまでも機械だ。多機能かつ高機能であるそのスーツは、彼のもう一つの生業である工学者としての姿から生み出された最高傑作であることを、影汰は知らなかった。
まず、彼の脚部の機械が生み出す初動の速度は、人類の常識を超える。
例えるならば、肉体強化系の根源と同じ領域にまで、踏み入っているのだ。
もちろん本家とのある程度の差は、否めないが。
それでも彼のヒーローとして登録してある情報しか知らない者たちからすれば、意表を突くには十分な膂力である。
トロンボーイは雷神が如き速度で、一瞬にして影汰をリーチに収めた。
機械式のスーツによって生み出される力を利用し、雷のような速度で剣を振るった。
しかし、その確信の一秒にも満たない間に、トロンボーイは不思議なものを目にした。
影汰の手には、いつの間にか黒い刀のような形をした闇が握られていたのだ。




