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#だから僕は、ダークヒーローになった  作者: 木兎太郎
【第一部 #だから僕は】
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#050――テロリスト5


 会議が終わると、影汰と阿久津だけが会議室に残った。

 どうも阿久津から話があるらしく、影汰だけが残ることになったのだ。


「穂香ちゃんの件、納得してないわよね。わかっていたんだけど、今の私達には、彼女のような存在も必要なの。」

 ――阿久津は申し訳なさそうに影汰を見た。

「…それを聞くために?」

 ――影汰は相変わらず表情には出さず、阿久津を見返した。

「そうよ。何か食い違いがあってからじゃ、遅いから。」

「そうですか。…納得はしているつもりです。あくまでも、彼女の選択ですから。」

「表情には、そうは書いてないわよ。」――阿久津は、静かに微笑んだ。

「本当は、…納得しようとしている――という方が適切です。」


 影汰は正直に答えた。阿久津は優れた観察眼を所持しているようで、彼女に対して何か誤魔化すのは、困難に思えたからだ。


「そうよね。…ねぇ、少しだけ私の話を聞いてくれない?」

「…?」――唐突な提案に、影汰は驚いたが、直ぐに頷きを返した。

「私はね、スパイだったの。」――阿久津は平然と、自信の経歴を暴露した。

「…え?」――その唐突なカミングアウトに、影汰はキョトンとしてしまった。

「驚いているわね。でも本当のことよ。とは言っても私は、どちらかというと諜報員で、何か情報を調べるのが担当だったの。映画みたいに、何か直接工作したりするようなタイプではなかった。」

「それでも十分驚きますよ。」

 ――影汰の彼女を見る目は、先ほどまでとは違っていた。

「当時私が調べていたのは、人身貿易に関しての情報だった。国内から国外まで、日本人が関わっている貿易が、私の管轄だったの。」

「ちょっと待ってください。日本のスパイなのに、管轄が日本なんですか?」

「当然の疑問よね。でもちゃんと所属は日本だったの。少しだけ嫌な言い方をするけど、一般市民には知りえないことがあってね。日本の皇族は、古くからスパイ…言い方を変えれば忍だけれど、とにかく独自の諜報員を所持しているの。」

「それ、本当ですか?」――またもや影汰は唖然とする。


 彼女の口から出てくる情報は、どれもトップシークレットばかりだ。


「もちろん。政治の権限が皇族から民衆へと移っても、諜報員から得られる情報を元に、皇族は陰から国民を見守り続けていたの。だからこそ私は、普通の人が知らなくてもいいようなことを、沢山知っているってわけ。」


 確かにパラダイム零に所属するまで、豪財会なんて名前を聞いたことすらなかった。それに日本の腐敗すらも、知りえない事実だった。


「世界中を飛び回っていた私だから知っていることがある。」


 阿久津の表情は、いつにもまして真剣なものに変わってしまった。普段から確かに真剣なのだが、どちらかといえば、重い雰囲気に変わったと表現すべきだろう。


「国外へ売られていく子供たちが、どう扱われているかを、私は何度もこの目にしてきているの。例えば単純な労働力や実験道具、この二つはまだましな方よ。更には食用、愛玩用、奴隷用…まともな生活をしている子供の方が、ずっと少なかったわ。子供を国外へ売るということは、そういうことなの。」

「そう…なんですか。」

 ――あまりにもリアルな情報に、影汰は何も言えなかった。

「現実は、想像以上に残酷でしょ?でも、だからこそ――私は誓える。人身売買の被害者であるあなた達を、無下に扱うことは絶対にない。それは、もちろん穂香ちゃんにも言えることよ。あなた達二人は、必ず私が守る。頼りないかも知れないけど、今は信じて。」


 阿久津の視線は、正面から影汰の目を射ぬいた。

 その瞳には、まるであの日の影汰のような、明確な決意が込められていた。


「…僕たちは、同志でしたね。それを忘れていた気がします。」

 今度は影汰から阿久津の目をスッキリと見返した。

「一緒に作りましょう。当たり前のことが、当たり前である未来を。」

「あら、私たちの理念、ちゃんと理解しるじゃない。」


 阿久津と影汰は、再度固い握手を結んだ。

 しかし、握手を開始してから三秒後、突然阿久津の力は強まった。

 何事かと首を傾げながら阿久津を見れば、彼女は非常に無機質な目で影汰を見ていた。


「一つだけ約束して。私の前職に関しては、絶対に他言無用。この前教えてあげたスリーサイズとは、訳が違うの。」


 初めて体験する阿久津の濃密な闘気に、思わず影汰は頷いてしまった。

 それは同意というよりは、どちらかというと本能に近い行動だった。

 その視線には、ただの口約束よりも、よほどの説得力が込められていた。

 いざという時には彼女が守ってくれるだろうという、謎の予感が影汰に生まれたのだった。


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