表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
#だから僕は、ダークヒーローになった  作者: 木兎太郎
【第一部 #だから僕は】
50/60

#048――テロリスト3


 シャイニングは帰宅した。玄関に入った時点で、その家が豪邸であることが伝わる。

 大理石の廊下に、壁面には豪華な絵画が並んでいる。目立たない程度の、室内用香水の香りが、玄関から漂っていた。嗅ぐ者が専門家ならば、その香水がよほどの品であることに直ぐに気づいただろう。


 玄関から奥へと進み、彼は自室へと入ろうとした。

 丁度そのタイミングで、背後から声をかけられた。彼は笑顔で振り向く。


「戻ったのか。何時だと思っている、遅いぞ。」


 そう彼に声をかけたのは、鳳凰院哲司その人だった。


「ごめん、父さん。少しだけ寄り道をしていたんだ。」

「ふん、まぁいい。お前には期待しているんだ、問題になる行動は起こすなよ。」

「もちろんだよ、父さん。」――取り繕った笑顔を、哲司へと向ける。


 その表情に満足したのか、哲司はリビングへと戻って行ってしまった。

 彼はホッと一息つくと、ようやく自室へと戻る。

 そのまま机に向かうと、早速一冊の手帳を手に取った。

 そこに今日あったことを、つらつらと記述する。


『20○○年○月○日:ホテルでの会議に参加した。何の実もない会議だった。』


 上記の内容を日記に書き留めた彼は、興味なさげにその一行を眺める。


「無能な連中に付き合うのは、心底疲れるよ。まぁでも、仕方がないか。」


 そういうと彼は、その一行の近くに記載されている、とある一行を愛しそうに撫でた。


『20○○年○月○日:研究所の警備に参加した。面白い覚醒者に出会った。』


 彼はその一行を、愛おしそうに眺めている。


「楽しみだ。何の変哲もない人生に、ようやく起伏が生まれたよ。」


 やがて日記を閉じると、彼は日記の表紙を眺める。

 そこには――バーコードが刻印されていた。


「彼は僕と、似た匂いがする。他とは違う、特別な存在だ。」


 そうして彼は、更に笑みを深めたのだった。


 ◇◇◇


 パラダイム零本部にて、影汰は治療を受けていた。

 少女が影汰の肩に触れると、そこがぼんやりと光る。

 それからおよそ数秒程度で、影汰の傷は完治してしまった。

 それから少女は、遠慮がちに口を開いた。


「終わりました。」――影汰の目は見ずに、少女は俯きながら彼に報告をした。

「ありがとう。助かったよ。」――影汰は彼女に、礼を伝える。

「あの…私は…。」――彼女は何か決意を込めて、口を開いた。


 その何らかの決意は、明確に影汰にも伝わっていた。その為、無言で彼女が紡ぐ言葉を待ち構えた。


「私の名前は…蓮見ハスミ 穂香ホノカ。これが、本当の名前なの。」

「蓮見穂香――綺麗な名前だね。」

「あ、ありがとうございます。」――蓮見の頬は、少しだけ赤く染まった。

「名前を教えてくれてありがとう。嬉しいよ。」

 ――何故か影汰も、照れ臭そうだ。


 その後、少しだけ間を開けてから、影汰は単刀直入に質問をした。

「僕たちのことは、もう聞いた?」――今度は、影汰が目を伏せる番だった。

「…はい。聞きました。」――蓮見は答えるのに、少しだけ間を要した。

「そう。なら勧誘を受けたんだね?」


 元々この作戦の目的は、彼女の勧誘だった。但しそれは、パラダイム零としての目的であり、影汰の目的ではない。

「…はい。」――蓮見は、少しだけ気を落としているように見えた。

「君の意思で決めてほしい。無理なんかしなくていいんだ。」


 そんな彼女に、影汰は優しく声をかける。

「でも…黒音さんも、私が必要だから助けたんじゃ?」

「う~ん、実は違うんだ。僕は、純粋に君をあの小さな世界から解き放ちたかっただけなんだ。だから、あくまで君の選択を優先したいと思ってる。それに…凄く危険なことだからね。パラダイム零のみんなは優しいし、君が嫌だと言えば、強制はしないよ。」

「…そう…なんですか。」――蓮見は少しだけ、安心しているようだった。


 やはり、勧誘が彼女の重みになってしまっていたのだと、影汰は考えていた。

 彼女には自由に生きて欲しい。それが、影汰の望みだった。あの日の彼女のように、狭い世界に閉ざされたまま、彼女に人生を終えて欲しくなかったのだ。


「…黒音さんはあの時、私が救われるべきなんだって言葉をかけてくれました。でも、やっぱり私は――きっといつまでも私は…苦しむ子供たちの夢を見続けると思います。」

「…そう…だよね。」

 ――影汰は彼女の話を聞いて、少しだけ寂しそうな顔をした。

「でも嬉しかったのも本当なんです。今までそんな言葉をかけてくれる人なんて、一人もいませんでしたから。」


 蓮見はそっと、俯く影汰の手に自分の手を重ねた。

「責任を感じるから、私も戦いたいんです。直接の戦力にはなれないのかもしれないけれど、私は…もう二度と私達みたいな子供が生まれない世界を作りたいんです。」


 蓮見の瞳に込められているのは、純粋な決意だけだった。影汰と彼女の視線が正面から噛み合った瞬間、影汰もそれを十二分に感じ取ってしまっていた。

 だからこそ、少しだけ戸惑っていた。本当はそうして欲しくなかったから。彼女には、少しでも幸せな人生を歩んで欲しかったから。


 ただ彼女の決意を否定することは、同時に彼女の自由を否定することになる。だからこそ影汰は、彼女の選択を止めることは出来なかった。


「解った。」――影汰は何か吹っ切れたかのような明るい顔になった。


 そんな影汰の表情を見て、彼女もキョトンとしている。


「でも最後に、一つだけ確認させて欲しいんだ。君は、自分の傷も治せるの?」

「えっと…はい、一応。でもどうして、そんなことを?」

「いや、何でもないんだ。興味があっただけだよ。」


 そう言った影汰の顔には、明らかに安堵の色が現れていた。

 蓮見は影汰のその表情に、深い疑問を感じた。ただ何故か、それ以上は踏み込むことが出来なかった。それについて聞いてほしくなさそうな、どこか寂しそうな印象のある表情に、影汰の顔が直ぐに変化してしまったからだった。


 それから蓮見は、直ぐに参加の意思を阿久津へと伝えることになる。

 彼女の参加は、パラダイム零にとって大いなる一歩になるだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ