#047――テロリスト2
「二人とも、お酒でもどうかね?時間があればの話しだが。」
「いいですわね。」――樹神は、参加するらしい。
「すみませんが、僕はこの後予定がありますので。」
――シャイニングは断った。
しかし、それで日比谷が機嫌を損ねることはない。同様の誘いを過去何度か試みたことがあったが、そのどれもをシャイニングは断っていた。
日比谷には計り知れない何らかの理由で、シャイニングは個人情報を秘匿し続けているのだ。以前一度だけ彼について調べようとしたことがあったが、その時には本人から咎められてしまった。
そうした点から、シャイニングは日比谷よりも優れた情報網を持っていることが判明した為、それ以来、彼に関する追及は一切行っていない。
強引に彼を調べ、彼が離れてしまえば大幅な戦力低下につながるからだ。自然操作系のレシピは、一切解明されていないので、シャイニングは替えの効かない重要な人材でもある。
「残念だが、無理には誘わないさ。それではまた、何か解り次第連絡する。」
「お待ちしています。」――そういうと、シャイニングは席から立ちあがった。
彼の背中を、二人はただただ見送ることしかできない。
扉が開き、彼が出て行った後、二人は小さな声で会話を交わしていた。
「食えない男だ。」――日比谷が顎を右手で撫でながら、口を開いた。
「ですが、実に興味深い存在でもありますわ。覚醒する根源の内容は、覚醒者の人生が深く関わっていると言われています。同時に、ストレスがその原因になるともいわれているので、例えば光の根源などという、明るい人生を連想させる根源は、それらの要因とは矛盾していますわ。彼のメカニズムさえ解明できれば、根源に関する研究が何段階も進むことは間違いありませんわね。」――樹神はうっとりとした目で、シャイニングの出て行った扉を見つめていた。
恐らく彼にも、興味があるのだろう。
もちろんそれは、研究対象という意味合いではあるが。
「ふん、頼み込んでも、お前の研究には付き合ってくれないだろうな。」
樹神から帰ってきた答えは、日比谷の望むものではなかった。何よりも、彼の出て行った扉を見つめるその視線こそ、気に食わなかったのだ。
その感情は確かに嫉妬であった。
但し、恋愛感情の介入しない嫉妬である。
豪財会に連なるほどの財を積み上げようとも、日比谷はあるものに陶酔していた。
それは「根源」である。ウイルスから治療なしで回復する確率は、現在約十分の一以下だと言われている。
ロシアンルーレットよりも低いそのギャンブルに、彼は乗る気にはなれなかった。
だからこそ彼は、根源の研究に積極的に出資している。
いつかノーリスクで、自分が覚醒者になるその日を――夢見て。




