#041――救出作戦2
馬渕と碇も、影汰の発言に賛同するように頷いた。
しかし、この中で唯一首を縦に振らなかったものがいる。
――それは阿久津だった。
「確かにそうだけど、人数を増やせば増やすほど、戦いになった時に規模が大きくなってしまうわ。今はまだ外堀を埋めようとしている状況だから、そこまで人数を重要視する必要はない、というのが私の見解よ。」
集まるかどうかは度外視して、確かに最初から大人数で攻めれば、戦いの規模は大きくなるだろう。阿久津の言うことにも、一理あるのも事実だ。
「それに、豪財会は覚醒者を…悪く言えば生産できるの。だからむやみに人数を増やしても犠牲者が増えるだけ。まずはこちらも、覚醒者で外堀を埋めましょう。本当に必要な人だけを、仲間に引き入れるの。少数精鋭で行きましょう。」
必要な人――と、一概に言われても、誰がそれにあたるのかが解らない。阿久津と碇以外の二人の疑問点は同じだった。馬渕においては、首を傾げてすらいる状況だ。
「想定通りの反応ね。私が現在目を付けているのは、治癒師よ。」
「…治癒師。」――影汰はその言葉に、思わず表情を強張らせた。
「影汰君の反応は理解できるわ。」
阿久津は既に、研究所で影汰の身に何が起きたのか、本人から聞いていた。
「影汰君には、まだ説明していなかったけれど、馬渕がどうしてあなたが所属していた研究所に足を運んだのか、その理由にも今回の目的は関係しているの。」
ここまで説明すると、ようやく馬渕は何か思い出したかのような表情になった。
「そもそも私たちの目的は、治癒師だったの。元々そうした役割の人間が、研究所に所属していることを知っていて、その子に力を貸して欲しかったのよ。少人数で行動する際に立ちはだかる最も大きな障害は、怪我なのよ。」
雇用人数の少ない会社などでも、病欠が致命傷になることは余りに明確である。
それをカバーできる誰かが少なければ、当然首が回らなくなってしまうのだ。
「確かにその通りだと思います。僕は大丈夫です。作戦の説明を続けて下さい。」
「…わかったわ。」
彼女は直ぐに影汰が無理していることを察した。それでも革命の為には、治癒師の少女が必要であることは間違いない。
「碇君に調べてもらったところによると、影汰君が所属していた研究所以外に、同様の施設が近くにあるみたいなの。今回は、そこから治癒師の少女を奪還するわよ。」
そこまで説明すると、阿久津は碇の方へ視線を移した。彼は頷くと、大事そうに握っていたノートパソコンを、机の上で開いた。少しだけ操作すると、画面を全員が見える角度に回転させた。そこに表示されているのは、地図だった。
「印が付いているところが、目的地よ。作戦決行は一週間後にするわ。詳細な内容は確定次第二人に伝えるわね。…戦闘員は今のところ二人しかいないから、二人には大きな負担がかかることになるけど、あなた達ならやれると信じてるから。」
阿久津が馬渕と影汰の二人を交互に見た。二人はその視線を、真正面から受け止めた。
もはや進むべき道に迷いはない。
それから会議が終了し、影汰は談話室のソファに座った。
少しだけ俯くような姿勢をとるも、その視線には尋常ではない力が込められている。
「君の代わりって訳じゃないけど、今度こそ救うよ。この命に代えても。」
影汰の力強く小さな囁きは、この広い談話室に響き渡った。
すると彼の隣の席に、阿久津がゆっくりと腰かけた。不意を突かれたことにも驚きはしたが、何よりも先ほどまでの発言を聞かれていたのかと、影汰は少しだけ恥じらった。
「…聞いてましたか?」
「えぇ、悪いけど、聞こえてしまったから。」
阿久津はあえて影汰の方は見ず、どこか遠くのほうを見つめている。確かな彼女の気遣いを感じつつも、影汰はとある提案を阿久津へとした。
「一つだけ、お願いがあるんです。治癒師を奪還する作戦ですが―――。」
影汰のとある提案を聞き、阿久津は目を見開くことになる。何故なら彼が言ったそれはとても作戦と呼べるようなものではなかったからだ。
◇◇◇
影汰と馬渕の二人は、碇が特定した研究所まで来ていた。
森に囲まれた場所に位置するこの場所は、普通に生活する限り、まず見つけることは出来ないだろう。
少しだけ遠くから、研究所全体が目視できる位置に陣取っている。
時刻は夜だ。夜の闇が深ければ深いほど、影汰の晦冥は強力になる。
二人はマスクを着用していた。それはただの感染防止用の対策などに使用されるマスクとはまた違い、二人の素性を隠すためのマスクだ。
製作者はもちろん阿久津であり、彼女の根源が使用されたマスクである。
事前に作戦を伝えられた馬渕は、影汰らしさのないその提案に、少しだけ驚いていた。
それでも、彼は乗り気だ。そうした気性の荒い所が、彼にはある。
「おいおい…あれ見ろよ。どっかの誰かさんが研究所をド派手に破壊したから、上等な警備員が配備されてるぞ。」――馬渕は遠くを指さした。
そこは丁度研究所の正門で、明らかにおかしな服装をした二人が待機していた。
上等な警備員というのは馬渕の遊び心で、実際はヒーローだった。




