#041――救出作戦1
入学式では同時に、学園の教育システムについての説明も受けた。
高等学校というよりは、大学に近い教育システムを取り入れているようで、設定されたいくつかの必須科目以外は、自由選択となっているらしい。
必須科目は、国語と数学しかない。
国語においても古文といった歴史の面も含む学習は含まれておらず、正しい言葉遣いやビジネス文章の学習がその主となる。
スポーツ方面においても、手厚いサポートが用意されている。
定期テストで必須科目さえ既定の点数が取れていれば、スポーツ特待生は練習そのものが単位になるシステムだ。
学習システムは整っており、生徒の自由度を重要視した、非常に優れたものだった。
これには敵対しているはずの影汰も、ただただ関心するしかない。
それらの説明が終わると、この日の日程は全て消化できたようだ。
特に学園での予定はないので、影汰は早速帰路につこうとしていた。
校門までの道のりで、部活動の勧誘が行われていた。
影汰はそれすらも、他人事のようにスルーしようとする。
しかし、残念ながら影汰がそうでも相手がそれを察してくれる訳ではない。
一人の男子生徒が、影汰の前に立ちふさがった。
「その立ち振る舞い…間違いなく我が同志!来たれ!漫研!!!」
声高々に、前髪の長い眼鏡をかけた男子生徒が叫んだ。
右手を伸ばし体を開いたその素振りは、どこかの劇の一幕かのようにすら見える。
その圧倒的存在感は、周囲から視線を爆速で集めていた。
影汰の立場としは、余り見られてもいいことがないので、横を颯爽と通り過ぎる際に一言だけ漫研男子に告げる。
「結構です。」
漫研男子は通り過ぎる影汰の方へと振りかえり、大げさな素振りでまた叫んだ。
「も、燃えてきたぁぁぁぁああああ!」
それでも追ってくる素振りはないので、取りあえずは見逃してもらえたようだ。
影汰は嫌な予感がしていた。今後も彼とは何かありそうだという、嫌な予感が。
それでも影汰は、何とか無事に帰路へついた。
そして、今日初めて見た豪財会の一人、鳳凰院哲司。
あの男から漂うただならぬ雰囲気は、今も影汰の脳裏にべったりと張り付いている。
後に来る敵対する瞬間を、影汰は思い描いた。
その時に同時に頭に浮かんだのは、治癒師の少女の顔だった。
もはや影汰に迷いはない。
帰路につく彼の顔は、どこか普段よりも大人びていた。
本部まで戻ると、影汰は早速会議室に呼び出された。
会議室には、大きな円卓が一つあり、その外周を囲むように椅子が並んでいる。それなりに人数が入れる分、所属人数とは噛み合っていないのが現状だ。
そんな会議室へと直ぐに向かえば、そこには見慣れない人物がいた。
「…?」――入室直後、影汰は疑問気な表情で、見知らぬ人物を見つめた。
背は影汰よりも少しだけ低い程度で、髪は女性のように長い。女性のように――というのは、恐らく彼は男性である、と影汰が考えているからだ。
非常に中性的な顔立ちで、一見しただけでは性別が見分けづらい。
そんな中性的な彼はというと、影汰を見ると直ぐに黙り込み、俯いてしまった。
右手には分厚いノートパソコンが握られている。
影汰は以前、馬渕がしたとある発言について考えていた――「…まあでも、現状お前含めて四人しかいないんだけどな。」――つまり、彼が最後の一人だということだろうか。
だとしても、所属して約二年になるといのに、未だに出会っていないのはどういうことだろうか。疑問は膨れるばかりだった。
「ああ、確かに影汰君は彼を見るのは初めてよね。彼、あんまり人付き合いが得意じゃないから、私から説明させてもらうわね。まず名前は、碇 徹。パラダイム零ではIT系の専門家として所属してくれているわ。」
簡単な紹介を阿久津が済ませると、ようやく碇はぺこりと頭を下げた。とはいえ、既に俯ているので、その動きは非常に解りづからかったが。
「俺たちに関係するところでいうと、ダークヒーローの掲示板の管理人でもあるな。」
馬渕が情報を補足する。すると碇は更に深く頭を下げた。一々そんなことをする必要もないとは思うが、取りあえず影汰もお辞儀を返した。
「えと…普段は…部屋から出なくて…その…すみません。」
これがようやく聞くことのできた、碇の声だった。非常にか細いが、透き通った、どちかというと声優のような声だった。
「申し訳ないけど、今日はちょっと真剣な話なの。だから早速本題に入らせて貰うわ。」
阿久津は場を仕切り直し、会議を再開した。
「今回みんなに集まって貰ったのは他でもない。パラダイム零としての、最初の作戦を実行する為よ。」――阿久津が机の上で肘をつき、手を組み合わせてそこに顎を乗せた。
作戦――という言葉に、一同は一気に真剣な雰囲気を取り戻した。
「今この組織に足りないものは何だと思う?」
彼女の視線は、影汰へと向いた。正直彼にとって、思いつくのは一つだった。
「人数です。」――影汰は自信満々に、堂々と答えた。




