#040――学園3
「さて、初めまして。私がこの鳳凰院学園の長、鳳凰院 哲治である。この度は、この学園を進路に選んでくれたことを誇りに思う。私は教育者というよりも、経営者に近く、教育関連の知識は疎い。ただこの学園にはあらゆる専門家を招いているから、必要なサービスは全て提供することが可能だ。君たちの将来、つまり卒業後の全てを保証しよう。以上、これを理事長の挨拶とする。」
いわゆる「校長先生の話し」――今回は理事長ではあるが――にしては、非常にスマートでまとまった内容だった。
あくまで教育者ではないというスタンスをとってはいるが、彼の言葉の一つ一つには自信がこもっており、生徒たちを信用させるには十分なスピーチだった。
ある種のカリスマを持っているのは間違いないだろう。
そして、あれが日本に五人いる豪財会が一人である。
影汰は畏怖の念を込め眺めていたが、他の生徒たちからは尊敬の視線を集めていたことだろう。
「それでは続きまして、生徒代表の挨拶とさせて頂きます。生徒代表、鳳凰院 太陽君、よろしくお願いします。」
司会者の教員が、生徒代表に呼び掛けた。どの学園、学校でも共通だが、入学式の生徒代表は、入試の成績最優秀者に声がかかるものだ。
今回は一体誰なのだろうかと、影汰が呑気に考えていると、隣から返事が聞こえた。
「はい!」――澄んだ声で、隣に座る彼が返事をした。
そのまま彼――もとい太陽は立ち上がり、壇上へと上がってしまった。
その少しだけ手前で、影汰の方へと振り返り舌をチロリと出したのは、彼のいたずら心からだろうが、流石の影汰も驚愕が顔に現れていたのは間違いない。
彼は演台まで近づくと、早速スピーチを始めた。
「この度、生徒代表に選ばれ、皆様の代理として挨拶できることを、光栄に思います。私の名前を聞いたなら、既に予測できることかと思いますが、私と理事長が親縁関係にあることは間違いありません。しかし、その情報は私を構成する極一部であり、これからも皆様と学びある学園生活を歩めることを、楽しみにしております。それでは―――。」
後半からは、模範的なテンプレートといった感じの挨拶だった。
哲司にあったカリスマ性は、間違いなく息子にも引き継がれており、太陽がスピーチを終える頃には、生徒たちは彼を尊敬するようになっていた。
もちろん、影汰を除いてではあるが。
もはや影汰にとって太陽は敵に類似する何かであり、とても仲良くは出来そうもなかった。敵の親玉の息子、それが太陽の立ち位置だからだ。
太陽が挨拶を終え、隣まで戻ってくると、影汰は少しだけ他人行儀になっていた。
いつか来る哲司との戦いについて考えると、ここで太陽と仲良くすれば、やりにくくなってしまうことは確実だろう。
影汰の態度が少しだけ変わった事に太陽は気付いたが、あえてそれに触れることはなかった。彼にとって不幸なことに、彼が理事長の息子であることが分かった途端、態度が変わってしまう友人も珍しくはなかったからだ。
「僕は僕だ。君にもいずれ、それを解って欲しい。」
太陽は小さな声で、影汰へと囁いた。
そして、彼は台座に座る父を、静かに眺めた。
その視線に込められた思いを、今の影汰が感じ取ることはない。




