表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
#だから僕は、ダークヒーローになった  作者: 木兎太郎
【第一部 #だから僕は】
4/60

#003――実験

 

 影汰は、椅子に座っていた。場所は、白くとても広い部屋だ。

 肘掛に両腕を、椅子の足には両足を革ベルトで固定されている。右手首には点滴、更に黒い目隠しを付けられ、ぐったりと項垂れていた。

 現状、部屋の中には彼しかいない。


 ――すると彼の体は、突然痙攣し始めた。

 目には見えない何かが、明らかに彼の体には起きていた。

 苦しそうに、ただ体を震わしている。

 誰かが助けに来るようなこともなく、一度治まれば、また震わせる――それを幾度も繰り返し続けていた。


 部屋の壁面の一方には、大きな鏡がある。

 影汰から見れば――の話だが。これは鏡ではなく、マジックミラーである。

 その奥では複数人の研究員たちが、白衣に身を包んで経過を観察していた。

 特に恰幅のいい男が、隣の男に質問する。


「経過はどうだね?」

「現段階は初期症状です。発症から1日が経過しました。点滴による生命維持も問題なく行われています。後は、我々の問題ではなく彼の問題かと。」

「ふむ、そうか。」


 ガラスの向こうに苦しむ子供がいても、行われるのは事務的な会話だけだ。

 会話をする研究員の二人は、どちらも同情とは無縁である。

 もちろん彼らが特殊なだけであり、他の研究員たちは余りガラスの向こう側を見ない。室内には、およそ十人程度の研究員達がいる。

 モニターにより、一枚フィルターをかませ、間接的に観察するだけだ。


 最初に会話をしていた内の一人、先ほど最初に口を開いた恰幅のいい男が、この研究所の所長:安藤アンドウ 安武ヤスタケである。

 頭頂部の髪は薄く、やけに歯は白い。背は170センチ程度だが、体重は100キロを越える。およそ人間の怠惰を詰め込んだかのような容姿をしていた。

 もちろん所長であるということは、この研究所の最高責任者であり、彼にそうした容姿の指摘をする者もいない。彼の腹部は、徐々に膨れるばかりだった。


 隣に立つ、先ほど冷徹に受け答えした男は、この研究所の副所長:福部フクべ 啓人アキトである。

 非常に痩せこけた、皮と骨だけかのような不気味な男だ。小さな丸眼鏡をしている。


 この研究所は、彼ら主導で動いており、現在は実験の第一段階だった。

 影汰の現状は、全て彼らの独断で行われ、もちろんそこに影汰の同意はない。

 影汰は商品なのだ。これは、仕方のないことだった。


「これからが本番なので、彼には頑張って貰いたいところです。」

 ――福部がそういと

「ふむ、期待しておこう。」――と、安藤が返事をした。


 そして、安藤は少しだけ口角を持ち上げ、顎を指先でゆっくりと撫でた。

 彼の脳裏には、実験の結果から生み出される自分の利益しか描かれていない。

 そこに影汰の苦しみが考慮されることは、一生ないだろう。


 ◇◇◇


 あくる日、影汰はまた椅子に座っていた。

 前回と同じ部屋で、四肢の拘束、そして目隠しをされながら。

 ただ以前とは違い、落ち着いている。

 何もしない、何も感じないことに努めていた。


 ――全身に鋭い痛みが生じ、体内に電気が流れているのが解る。

 身体が強制的に痙攣を開始しようとも、声を上げることはない。

 ただ、その瞬間が通り過ぎるのを待ち続ける。

 次第に体に流れる電流が止まると、ゆっくりと一度だけ深呼吸をした。


 この研究所に来てから約二週間、影汰は更に痛みに強くなっていた。

 しかしそれは、研究員たちからすれば、悪い傾向だった。

 痛みによる強い精神負荷――ストレスをかけるのが、今の目的だからだ。

 マジックミラーの奥では、今日も研究員たちが経過を観察している。

 そして、安藤と福部は、芳しくない表情をしていた。


「第一段階を無事クリアしてくれましたが…まさか、ここまで痛みに耐性のある子供がいるとは思いませんでした。」

 ――福部は驚きを隠せない様子で、安藤へと話しかけていた。

「…ふむ、芳しくないな。このままではコストが回収できない。至急、何か対策を考える必要があるだろうな。」――安藤も福部に同意する。


 安藤は額にほんの少し汗をかいているが、それは思わしくない結果によるものではなく、単純に彼が太りすぎだからだ。周囲は汗などかいていない。


「――アプローチを変えてみますか?」――ふと福部が、安藤に提案した。

「というと?」――安藤はその提案に、興味を示す。

「心にダメージを与えるのです。確かに痛みによる精神負荷の方が効率は良い。ですが時に対応を変えて見るのも、面白い化学反応を起こす結果に繋がるかもしれません。」

「ほう?確かに既存の方法だけを試すのは、もう飽きていたところだ。」

 

 安藤は満足げに口角を持ち上げる。

 その表情には、独特ないやらしさがあった。


「今までは痛みによる付加だけを加えていましたが、今後は生活圏を汚してみようかと考えています。――どうですか?黒音君に関しては、私に一任して頂けませんか?」


 そういった福部の表情は、口角をこれでもかというほど持ち上げ、安藤の普段のにやけ顔よりも、遥かにいやらしかった。彼もまた、安藤と似た性質を持っているのだ。


「…いいだろう。この件は、君に一任しよう。」


 そんな彼の表情を見て、安藤は満足そうに、あえて大きく頷いた。時代劇の、己が利に目を晦ました大臣のような素振りだ。


「ありがとうございます。必ず結果を出して見せますので、お待ちください。」

「ふむ、期待している。」


 額の汗をハンドタオルで拭うと、安藤はノシノシという音が鳴りそうなほどゆっくりと歩き、退室していった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ