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#だから僕は、ダークヒーローになった  作者: 木兎太郎
【第一部 #だから僕は】
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#036――追跡4


「今のところ怪しい奴はいないな。…もうすぐ彼女の家だ。ストーカーの分際で、定休日でもあるのか?」――馬渕が痛烈な批判と共に、状況を嘆く。

「いや、いますよずっと。但し功名に位置や服装を変え続けているみたいです。彼女が歩き始めてから服を五回着替えつつ、位置取りを七回変更した男が一人だけ。」

「お前、やっぱり才能があるな。」――さしもの馬渕も苦笑した。


 薄暗い得意分野を物の見事に披露した影汰自身もまた、苦笑した。これは才能ではなくとある機関の教育の結果だが、馬渕もそれは理解しているだろう。

 再度馬渕は携帯を操作し、女性へ連絡して人気のない道へとあえて誘導した。

 どうも新宿は彼の庭なのか、そうした道への造形が深いようだ。


 影汰は小声で件のストーカーの特徴を教えた。馬渕もそれを聞いて周囲を見回し、直ぐに怪しい男を発見。人気のない道にも、ストーカーは悠々とついてきている。


 但し、ここからは逆に、影汰たちが慎重についていかなければならない。

 人気がなくなったからこそ、ストーカーからも影汰達を発見しやすくなる。

 民家が立ち並ぶ通りまで既に来ているので、建物の影を上手く使って影汰たちはストーカーを尾行した。

 そんな中、影汰は不意に、とある疑問を思い浮かべた。


「そういえば、僕たちは公的機関でも何でもないのに、どうやってストーカーを?」 

「ぶん殴ればやめるだろ。暴力なしで解決なんて、ダークヒーローがすると思うか?」

「そ、そうですか。」――影汰は、少しだけ戸惑いながらも返事をした。


 ストーカーにそうした強引な手段をとれば、逆に煽ってしまうような気もするが、別案があるわけでもないので、取りあえずは納得することにした。

 やがてどこかの空き地まで辿り着くと、女性はその中へと進んだ。


 その瞬間ストーカーの足は一気に速まり、女性のいる空地へと侵入していった。

 影汰が危険を察知し、更に進もうとするも、馬渕はそれを手で制した。

 彼の考えが理解できず、影汰は馬渕の方を見る。

 彼は携帯を構え、非常に厳しい視線でストーカーを睨みつけていた。


 なんてことはない。先ほどまでぶん殴るなどと軽口を叩いていたこの男は、しっかりと証拠の重要性を理解しているのだ。

 影汰も馬渕もお互いに耳がいいので、少し離れた位置にいる女性と男のやり取りが聞こえていた。


「俺は…お前の為だけに生きてきたんだ。沢山貢いでやったというのに、お前という奴は全く…本当にしょうがない奴だ。」


 どうもストーカーは女性の客であるらしく、貢という話の内容上、一方的な片思いをこじらせているのだろう。少しだけ離れた場所から見える女性の目は、ひどく怯えていた。


「なぁ…なんか言ってくれよぉ!!!!!!」――ストーカーは声を荒げた。

 そして女性の腕のあたりを強く握り、彼女の体を自分に引き寄せる。

「いやぁッ!!!やめて!!!」


 その瞬間、馬渕は動き出した。影汰の動体視力ですらギリギリ追えるか追えないかの速度で、ストーカーと彼女の間に割って入ったのだ。

 腕をはじかれ数歩後退りしたストーカーは、馬渕と女性を烈火の如き怒りの視線でご交互に睨みつけた。


「…誰だ?」――意外にも静かな声で、ストーカーは馬渕を問いただした。

「ダークヒーロー。」――馬渕は淡々とストーカーに答える。

「…ヒーロー…奇遇だな。俺も元々はヒーローだった。今はもう、辞めたけどなぁ。」


 すると男の手元に突然銃が出現する。どうも男は物質錬成系の覚醒者だったらしい。

 銃を手にした瞬間、彼の表情には笑みが浮かんだ。


 どうも影汰たちが覚醒者であるという可能性は、考えていないようだ。

 それもそのはずで、そこら辺から現れたやつが覚醒者など、まずない状況だからだ。

 そして、ストーカーにとって不幸なことに、その類稀なる状況が今にあたる。


「で、その銃をどうするんだ?ぶっ放すのか?」


 馬渕が強気の姿勢で男を睨みつける。

 それでも男はにやけるだけで、依然として自分の有利を確信したままの状態だ。


「お前の態度によっては勘弁してやらんこともない。だからその女を俺に渡せ。今の時代正義感などなんの意味もないぞ。こんな下らんことで命を棒に振るな。」

「確かにその通りかもな。今の時代、正義感を振りかざす奴は損をするのかもしれない。だがな、それがどうした?仮に世界中が俺を笑おうとも、俺の意思は俺が決める。損得勘定でキャバ嬢に貢いだお前には、理解できないかもしれんが。」


 馬渕は最後にストーカーを嘲笑った。その瞬間、ストーカーの顔面は瞬間湯沸かし器のように真っ赤に染まった。――完全にキレている。

「もういい。お前は死ね。」

 ――なんの躊躇もなく、ストーカーは引き金を引いた。


 閑散たる住宅街に、ズガンッ!という胸に響き渡る轟音が鳴り響いた。

 しかし、弾丸が馬渕の命を奪い取ることはなかった。


 弾丸は発射された瞬間から徐々に減速し、およそ馬渕の一メートル手前まで到達した後地面へと落下してしまったのだ。

 そうして彼は、ようやくとある事実に気づくこととなった。


 目前にて起きた超常たる現象の理由は、考えるまでもなくそれを指し示している。

 常識とかけ離れた現象の大概は、根源によって説明できるのだ。


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