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#だから僕は、ダークヒーローになった  作者: 木兎太郎
【第一部 #だから僕は】
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#035――追跡3


 ラブホテルから出ると、女性の背中はもう随分と小さくなっていた。

 それでも馬渕と影汰が見失うようなことはない。

 馬渕に関しては不明だが、少なくとも影汰は特殊な訓練を受けている。

 彼女の尾行を続けながら、馬渕は先ほどの続きを話し始めた。


「そういえば、俺の素性をまだ話してなかったな。俺は昔、ヒーローだったんだ。」

「えっ!?」――尾行中だというのに、影汰は割と大きな声を出してしまった。


 影汰はヒーローに、いい感情を抱いてはいなかった。そしてその感情が少しだけ表に出ていたようで、馬渕は影汰の些細な表情の変化から、正確にその感情を見抜いた。


「この世界のヒーローの仕組みは知っているか?」

「えっと…まぁ一応。広告主のいるスポーツ選手みたいな感じですよね。出資してくれる人がいて、初めて成立する。」


 かなり簡略化されてはいるが、影汰の説明はおおむね正しい。

 だからこそ馬渕も、少しだけ笑ってしまっていた。芯を食っていたのだ。


「その通り。だから俺はヒーローを辞めたんだ。いつの間にかヒーロー達は、広告主を喜ばせる為に戦っていたりしてな。より大きな、テレビに乗るような事件だけを取り扱うから、民衆が抱える小さな不満を見逃すようになった。例えば今のストーカーだってそうだろう?」

 ――馬渕は先を歩く女性から、影汰に視線を向けた。


 影汰は、馬渕の問いかけに小さく頷いた。

 影汰が本当に救いを必要としている時に、彼らは助けに来なかった。本当の意味で困っている人々を助けるヒーローなど、この世界には存在しないのだ。今のヒーローはもっと利己的で、とにかく影汰もそんなヒーローが嫌いだった。


「俺の目指すヒーローは、そんな存在じゃなくて…例えば公園で夢中で遊んでいた子供が転んでしまって、その子に優しく手を差し伸べるような…ははは、少し難しかったかもだが、解るか?」

 ――馬渕は照れ臭そうに頬を人差し指で掻いている。

「言いたいことは解ります。でもそんなヒーローなんて、いないですよ。」

「そう、その通り。残念ながらそれが現実だ。でもそれなら、お前がなればいい。」

「…?」――影汰は思わず首を傾げた。

「綺麗事を並べるようで悪いが、つまりはそういうことだ。誰だってヒーローになれる。肝心なのは力の有無じゃなくて、手を差し伸べる覚悟だけだ。」

「…手を差し伸べる…覚悟。」

 ――それがどういう意味か、影汰には理解できた。


 簡単に救える人なんて、この世界にはいない。

 誰しもに同情し、手を差し伸べていれば、いずれ自分が壊れるだけだ。


 だがしかし、それでも誰かを救いたいと考えるのであれば、後必要なのは覚悟だけ。

 困っている誰かに全力で手を差し伸べる覚悟。

 必ず救うという覚悟が必要なのだ――そう馬渕は言っている。


「俺にはそれがある。本当に困っている誰かに手を差し伸べる覚悟がな。」

「でもそれこそ、本当のヒーローだと思いますけど。」


 馬渕曰ダークヒーローであるらしいが、少なくとも影汰の思い描くヒーロー像も、彼の思い描く形と同じだった。

 それでも馬渕はダークヒーローにこだわっている。影汰にはその理由が解らなかった。


「かもな。でも俺は、時に手段を選ばないで人を救うつもりだ。じゃなきゃパラダイム零になんて入ってないだろ?必ず救うためには、そういう覚悟も必要だ。」

「だから…ダークヒーローなんですか?」

「まあな。それに今の世の中、トランプみたいに表と裏がはっきりしている訳じゃない。俺たちみたいなダークで手段を選ばない存在がいなくちゃ、救えない人々の方が多いんだよ。例えばお前の妹だってそうだ。強引に奪還したろ?少なくとも一度商品になってしまった少女を、ヒーローは救えない。だが――俺たちなら救える。」

「…ようは、究極的に自由で無ければ、救えない命もある…ということですか。」


 いつの間にか影汰は、馬渕の考え方にすんなりと納得していた。

 今のヒーローの在り方は商売としては正しいが、ヒーローとしては間違っている。

 つまりはそういうことだろう。


「で、だ。本題に戻ろう。どうして俺がここまでお前に赤裸々に話したかわかるか?」

「…どうしてですか?」

 ――一瞬嫌な予感がするも、影汰は聞き返してしまった。

「つまり、この活動にお前も加わって欲しいって訳だ。俺の趣味を手伝え。」

「…趣味でダークヒーローって…ハハハ、面白いですね。」

 ――そのあまりにも気軽な提案に、影汰の心は揺れ動いた。

「既に追われる立場なんだ。今更プラスアルファで何か罪が加わっても、さほど変わらないだろ。それにこの活動に関しては阿久津さんに許可を取ってあるから、隠し事ってわけでもないんだ。」


 馬渕は女性を見逃さないように目で追いつつも、淡々と説明している。

 真剣に取り組んでいるのは、その姿勢からも明らかだった。


「取り合えず、今日体験してみて決めてもいいですか?」

 ――影汰は、何故か笑顔だ。

「そうだな、経験は必要だろうな。」

 ――疑問を感じつつも、馬渕も平然と対応する。


 女性の追跡を開始してから十五分後、馬渕は唐突に携帯を確認した。


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