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#だから僕は、ダークヒーローになった  作者: 木兎太郎
【第一部 #だから僕は】
35/60

#034――追跡2


 時が経過することおよそ五分、ついに扉がノックされた。

 馬渕は立ち上がると、客人を招き入れる。


 中に入ってきたのは、馬渕が一度ビルの隙間道で話していた女性だった。

 明るめの茶髪にウェーブを入れている女性だ。但し、影汰の目を引いたのは彼女の服装だった。とても派手な服装をしており、そうした夜の職業についているように見える。


(…結局そういうことなのか?)――そんな考えが、影汰の脳裏をよぎった。


 彼女は申し訳なさそうに入室すると、影汰を見て一度立ち止まった。それは当然の反応だ、子供の前で行為に及ぶなど考えられないことだろう。


「問題ない。そいつは俺の部下だ。」

 ――馬渕は、端的に事情を彼女へと説明した。

「そう…何ですか。それなら解りました。」


 彼女はそういうと、先ほどまで馬渕が座っていた椅子に座った。

 必然的に馬渕が座る位置は、影汰の隣、つまりベッドとの上になる。瞬間的な

 何らかの気まずさを感じるも、影汰はそれを口に出すことはなかった。


「それじゃ、早速教えてくれ。何があったんだ?」――馬渕が女性に質問した。


 何があった?――影汰の脳裏に、その言葉が反芻されていく。

 流石に既にある程度は予感していたが、どうも馬渕の目的は、本来のラブホテルの用途とは別にあるらしい。

 部屋に招かれた女性は、少しだけ俯くと、事情を説明し始めた。


「…ここ最近――付けられている気がするの。」

(付けられている?)

 ――話の目的が見えず、影汰は心の中で彼女の言葉を反芻した。

「なるほど、掲示板に書いてあった通りだな。」――馬渕が冷静に答えた。


 ただその回答も、影汰の疑問を深めるばかりだった。どうも二人にとっては共通の話題であるようだが、そもそも掲示板とはなんなのか、影汰はそれすらも知らないのだ。


「はい。警察に相談しても、なかなか動いてくれなくて。」

「だろうな。ストーカー問題は、かなりデリケートだ。」


 知識として、影汰もストーカーの厄介さは知っていた。

 残念ながら両親と暮らしていた頃の自宅にはテレビがなく、忌まわしき研究所所属時代にテレビから学習した知識だが。


 警察は基本、証拠が無ければ動くことが出来ない。

 ストーカー事件のような、個人の感覚に偏る通報は、なかなか捜査し辛いのだ。

 馬渕が言っているのも、そういうことだろう。


「わかった。今夜は俺たちがあんたを尾行しよう。怪しい奴がいたら、とっちめてやるから安心していい。」

「ありがとうございます。…本当に怖くて…。」


 女性は小さく頭を下げると、馬渕の方を見た。


「今日はこのまま、この場所から帰宅してくれ。見失うことは流石にないと思うが、一応自宅の場所を教えてもらうことは出来るか?こればかりは、信頼してくれとしか言いようがないが。」

 ――馬渕は少しだけ気まずそうに、女性に提案した。


 ストーカー被害にあっている可能性のある女性に、自宅の場所を教えろなんて提案は、それこそ疑われそうなものだ。


「…もちろん教えます。本当に困っているので。今は差し伸べてくれた手を信じることしか出来ませんから。」

 ――少しだけ間を開けたが、女性はきっぱりと答えた。


 馬渕は女性の元へ近づき、携帯を操作する。恐らく携帯のメモ帳にでも、女性の住所をメモしたのだろう。


「それじゃこの場所から、普通に帰ってみてくれ。俺たちも後から付いて行くから、安心して欲しい。」

「…わかりました。」――女性は、少しだけ不安そうにしている。


 それでも彼女は立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。

 結果的に、ラブホテルのこの一室には、馬渕と影汰だけが取り残された。


「大体何をしているのかは理解できてきた気がします。ただ一つだけ教えて欲しいんですけど、「掲示板」って何のことですか?」


 改めて簡易的な椅子に場所を戻した馬渕に、影汰は質問した。


「ま、当然の疑問だな。――ネットの匿名掲示板だよ。とあるハッシュタグ付きでそこに依頼を書くと、俺に繋がるようになってる。」

「…#(ハッシュタグ)?」――影汰はそのまま聞き返した。

「その通り。【#ダークヒーロー】だ。」

 ――馬渕は少しだけ照れ臭そうにそう言った。

「ダーク…ヒーロー?」――影汰は再度首を傾げた。

「そうさ。さて、残念ながら時間がない。続きは歩きながら話そう。」


 馬渕は携帯で時刻を一度確認すると、立ち上がった。女性の追跡を開始するつもりだろう。そのまま部屋を出ようとしているので、影汰も馬渕についていった。



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