表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
#だから僕は、ダークヒーローになった  作者: 木兎太郎
【第一部 #だから僕は】
34/60

#033――追跡1


 やがて馬渕は、とあるビルの路地へと入って行ってしまった。

 もしかするとそこには、何か飲み屋があるのかもしれない。いわゆる隠れ家的な居酒屋にて、馬渕は酒を嗜むのかもしれない。それかバーか、まあ細かいディティールはどうでもいいだろう。


 ビルの隙間道は意外にも長く、そうした道を馬渕はスルスルと進んでいく。

 そして、なんの変哲もない隙間道で、彼はようやく立ち止まった。

 丁度彼が立ち止まった場所の側にある、ビルの裏口にあたる扉を彼はノックした。


(…本当に隠れ家的な店だ。)――影汰はそこが居酒屋であると予想していた。


 ノックを受けてから直ぐに、扉が開いて中から人が出てきた。

 出てきた男は真面目なスーツ姿であり、警備員にも見えない。

 馬渕は、その男と数分間会話をすると、次にその扉から女性が出てきた。


 いかがわしい店だったかと、影汰は少しだけ馬渕に幻滅した。当然大人にはそういう側面があって仕方のないことだが、それを受け入れられるほどまだ大人ではない。

 それでも観察を続けていると、馬渕の様子には違和感があった。


 彼は、いくら話そうとも、店には入らない。

 暫く二人から話しを聞いた後に、その場から離れてしまった。

 この瞬間、影汰の中で更に謎が深まった。本当に先ほどの場所が何らかの店舗であったなら、少なくとも中には入るはず。


 それとも、少しだけ時間を空けてから女性と会うのだろうか。影汰の脳裏に、あらゆる選択肢が浮かぶ。ただその全てに自信がなくなっていた。


 更に馬渕を追跡すること十分程度、彼はまた足を止めた。

 そして、影汰はその場所を見てとうとう確信を得た。


 その場所は、いわゆるラブホテルであり、目的はあまりにも明らかだ。

 むしろこれ以上追跡するのは、馬渕に対して不義理になるのかもしれない。影汰の足取りは重くなり、やがて追跡することを止めようかと考えるようになった。


 ただ、それでも影汰の足は前進を選んだ。踏み出した足には、馬渕を信じたいという影汰の意思が込められている。

 仮にこのまま彼が情事に及ぶのであれば、その時に帰ればいいこと。

 馬渕を諦めるのは、まだあまりにも早計である。


 影汰は少しだけ億劫そうな表情で、ラブホテルを見上げた。形状としては、ごく普通のマンションタイプなので、屋上からの侵入が有効だろう。

 流石にラブホテルということもあり、屋上に警報システムがあることもないはずだ。


 以上の考察をもとに、影汰は根源を使用して屋上へ上った。

 花音を助けた時のように、足元に階段を形成しつつ普通に上るだけだ。


 屋上まで辿り着いた影汰は、直ぐに屋内へと侵入した。

 そしてエレベーター手前まで行くと、上部に書いてある階層の表示を眺める。

 この建物は全部で十階建てであり、エレベーターは丁度五階部分で一度停止した。タイミング的に考えて、ほぼ間違いなくそれが馬渕だろう。


 影汰は非常用階段を使い、五階まで下りた。

 既に馬渕の姿は見えず、どの部屋に入ったかまでは不明だ。

 五階は全部で四部屋あるようで、そのどれかに馬渕は入っている。

 確率は、そこまで低くもない。影汰はどうするべきかと、その場で考えていた。

 すると、影汰が一瞬考えることに集中した際、背後から声をかけられてしまった。


「おい、こんなところで何してるんだ?」

「ッ!?」――影汰は驚き、ビクリと震えた。


 その声には随分と聞き馴染みがあり、ゆっくりと振り返った。

 背後に立っていたのは、影汰の予想通り馬渕だった。

 そして、彼は呆れた表情で影汰のことを見下ろしている。


「いや、これは…。」――影汰は直ぐにあらゆる言い訳を考える。


 しかし、影汰が言い訳を言葉にするよりも早く、馬渕が先に口を開いた。


「…後を付けてたのか…。まあいいけどよ。俺、疑われるようなことしたか?」

 

 どちらかというと馬渕は、怒りというよりも少しだけ傷ついているようだった。


「いや、その…普段何しているのか気になっちゃって。」

 

 馬渕の表情から正確に感情を読み取った影汰は、正直に理由を告白することにした。


「…なるほどな。ま、ならついて来いよ。」


 馬渕は豪快に影汰の首根っこを掴むと、自分が借りた部屋の中へ連れ込もうとする。

 瞬間的に状況を客観視した影汰は、全力で抵抗を開始する。

 それでも馬渕に膂力で敵うわけがなく、そのまま部屋に連れ込まれてしまった。


 まさか馬渕は子供もいける口なのかと――そんなゲスい考えが一瞬影汰の脳裏に浮かびあがった。恐怖で震えたのは、言うまでもない。

 それから影汰は、片手でゴミでも放るようにベッドへと投げられてしまった。

 ぼすっ!という中々の衝撃音が鳴り、背中にほんの少しだけ痛みが走る。


「多分もうすぐ来るはずだから、そこで待ってろ。」


 馬渕は影汰にベッドを譲り、自分は備え付けられた椅子に座ってしまった。

 それから腕を組んで少しだけ俯くと、そのまま目をつぶってしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ