#032――修行6
その時、影汰は闇が崩れる瞬間に着目していた。もちろん彼女を形成するのを止めようと考えただけであり、根源の発動を止めた訳ではない。
つまり――闇は自然にその形状を崩しただけであった。
――そして、そこにヒントがあった。
崩れゆく闇は地面へと自然落下し、まるで「水」のように少しだけ跳ね返ったのだ。
(待てよ――つまり、そういうことか。)
唐突に発見できたその光明に、影汰は口角を少しだけ持ち上げた。
「…本当に、君には助けられてばかりだ。」
――そうして影汰の心に灯ったのは、彼女への純粋な感謝だけだった。
一夜明け、影汰と馬渕は再度、地下修行場に来ていた。
「その表情、何か発見できたみたいだな?」
馬渕は影汰の表情を確認した瞬間、彼の前進を直感していた。
「…とりあえず模擬戦をしませんか?早く想像を確信へと変えたくて。」
影汰のその言葉には、確かに何らかの自信がこもっている。
そんな影汰の様子に、馬渕は少しだけ笑みを零す。影汰の前進は、間違いなくパラダイム零の前進である。
だからこそ、馬渕も歓喜しているのだ。
この少年の、圧倒的な成長速度に。
「なら早速試そうか、面白くなりそうだ。」
その後二人は、幾度も模擬戦を繰り返した。
一戦一戦が、これほど長く続いたのは、初めてのことだった。
模擬戦のおかげで影汰は、確かな自信と有益な経験を得た。
もちろん閃きの翌日に馬渕を制した訳ではないが、確かに前進したのだ。
その偉大なる一歩をより深く自覚するのは、もう少し後の話にはなるが。
◇◇◇
影汰がパラダイム零に所属してから、流れるように時が過ぎ去った。
いくつかの季節を超え、やがて一年が経過していた。
修行も順調に進み、今では模擬戦でならば、馬渕と肩を並べるほどにまで成長していた。
実戦であればもう少し立ち回りが変わる為、馬渕の方がまだ優っている。もちろんその差すらも、既に埋まりつつあるが。
それほどまでに、根源の優秀さは戦闘力に直結するのだから、こればかりは仕方がないことだった。
それに、影汰が戦闘面においては――馬渕の日常のだらしなさを除く――馬渕を尊敬しているという事実が変わることはないだろう。
そんな日常の最中、影汰はとある一点の疑問に、探求心をくすぐられていた。
影汰の探求心をくすぐったのは、馬渕である。
彼と共に修行をしていたからこそ影汰は気付くことが出来たが、馬渕は影汰との修行後いつも外出をしているのだ。
真面目に修行に取り組んでいる為、夜も随分と深くなっているというのに、彼は外出をしていた。それも日常的かつ連続的にだ。
影汰が既に掴んでいる情報によると、馬渕は現在二十八歳。それなりに年齢を重ねており、別段夜に出歩くのはそこまで不自然ではない。
ただ、その目的は気になる。例えば夜の店なのか、それとも飲みに出歩いているのか。
自分よりも先を歩む彼の行動規則が、影汰の好奇心を大いにくすぐっていた。
(…流石に後をつけるのはどうかと思うが…まぁ仕方ないよ。どうしても気になる。)
影汰は決断した。いつも通りの修行の後、馬渕を追跡することを。
というか、既にそれは実行済みではあるが。
現在影汰は馬渕の追跡を開始し、東京は新宿に来ていた。
そして、ここまでの経路において、影汰はある情報を掴んでいた。
彼の移動は普段なら車であるはずなのに、今日は電車だったのだ。
つまり、目的が飲酒である可能性が高い。
少なくとも影汰は、飲酒を第一候補に設定することにした。
馬渕との間隔は十メートル程度、研究所での教育で、追跡に関する練習も集中的に行っていた為、影汰からすれば十分すぎる距離だった。
こと暗い分野においては、馬渕よりも影汰の方が上回っている部分ではある。
その為、今のところ馬渕が気付いているような様子はない。




