表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
#だから僕は、ダークヒーローになった  作者: 木兎太郎
【第一部 #だから僕は】
30/60

#029――修行3


 談話フロアから場所を変え、現在影汰は本部の地下に来ていた。

 どうも上物だけが本部の全てではないようだ。

 根は深く、地下にまで続いていたのだ。


 地下室を観察すれば、無数の傷が見える。それは明らかに何らかの戦闘が行われた後であり、ここがそうした目的で使用されているのが解る。

 つまり、闘技場、はたまた道場、表現は幾らかあるが、戦闘施設である。


「俺たちは普段…って言っても戦闘員は俺しかいないが、ここで修業している。」


 ちなみに影汰の役職は、馬渕と同じ「戦闘員」だ。


「なるほど、通りで傷跡が沢山あるわけですね。」

「一応半年に一度メンテナンスしてるが、まあ素人の技術じゃこれが限界だ。」


 影汰は壁に近づき、傷跡に触れた。打撃痕、裂傷痕、とにかくいろいろな痕跡が残っているが、中でも影汰は注目したのは、銃痕だった。

 この場所には、明らかに銃が使用された形成があるのだ。

 馬渕も影汰が銃痕を観察していることに気が付いた。


「あぁそれか。ま、見ての通りだ。俺たちのこれからやるべきことを考えると、当然近代兵器への対策は必須なわけだ。だからまあ、見ての通りだな。銃は使ってる。」

「でも戦闘員は馬渕さん一人ですよね。普段はどうやって?」


 銃を撃つ役がいなければ、対策なんてできないはずだと、影汰は推察していた。


「当然の疑問だな。ま、これを見てくれ。」――馬渕は、壁面の一部に触れた。

 すると馬渕が触れた壁面の、縦横三十センチくらいの範囲が回転した。忍者屋敷などのアトラクションによくある回転扉だ。


 そこには、タブレットのようなモニターが設置されている。

 馬渕がそれを数回操作すると、壁面の一部が、両開きの扉のように開いた。

 中には拳銃が複数設置されており、銃口は全て室内に向けられている。


「更にタブレットを操作すれば、銃が発砲を開始するわけだ。」


 彼はいかにも簡単そうに影汰へと説明しているが、それは尋常ならざることだった。

 事実影汰は驚愕しており、会話への応答を怠ったほどだ。

 影汰も例の研究所で、拳銃に対する対策を行ったことがあった。


 まず当然のことではあるが、弾丸を見て躱すことは不可能である。見るのは、あくまで拳銃を構える人間の方であり、その挙動から弾丸の発射タイミングを推測、さらに向きから軌道を読み取り、対応するのがベストだ。


 だがこの場所では、もちろん拳銃を構える者などいない。

 つまり、分析の観点が発射寸前の銃しかないのだ。

 仮に軌道を読み取れたとしても、発射のタイミングは推測不可能。

 もしも自身に置き換えるのであれば、選択肢はとにかく動き回る程度しかない。

 拳銃の軌道上から逃げ回り、その間に敵を打破するべきだ。

 答え合わせをする為に、影汰は馬渕へと質問をした。


「身体能力強化で、とにかく動き回って弾丸の軌道上から外れれば、確かに何とか躱せそうですね?」――その言葉には、疑問符がついてしまっていた。


 影汰自身、これから馬渕が発言する内容を、ある程度察していたのかもしれな

い。


「何言ってんだ馬鹿。普通に見て躱せばいいだろ。弾丸よりも早く動く覚醒者なんて沢山いるんだぞ。まずは弾丸くらい目視できなくちゃ、これから大変だぞ。」

「…。」

 ――返ってきた回答はもっとも恐れていた内容であり、影汰は沈黙した。

「なんてな、流石に冗談だ。俺は身体能力強化で弾丸すら目視可能だが、他人にまでそれを強要するつもりはないさ。それにお前の為に、ある程度対策を考えてある。ま、それもおいおい説明するさ。」

 ――馬渕は笑顔に戻り、影汰の方を見た。


 流石の影汰も動揺していたが、その笑顔のおかげでホッと一息つくことが出来た。


「さて、それじゃ今日のメニューを発表するぞ。」


 更に明るく、朗らかに今日の天気の話でもするかのように、馬渕が話を続ける。


「これから一日中、俺と実践だ。死なない程度に手加減してやるが、半殺しくらいは覚悟した方がいいかもな。」


 影汰の心に舞い降りた安心感は、速攻でどこかに飛び去ってしまった。次に舞い降りたのは地獄の悪魔という、まさしく天国と地獄を一瞬で味わったことになる。


「ははは…大変な日々になりそうですね。」

「そりゃそうだ。俺たちは、世界を変えようとしてるんだからな。」


 この一分後、影汰はまさしく地獄を経験することになる。

 例えるならば、馬渕の拳の形が、脳に刻まれたほどである。


 翌朝、影汰は無事に自宅で目を覚ました。

 馬渕にしごかれ、疲労困憊であることに違いはないが、それも未来のためだ。

 今日もこれからパラダイム零の本部へと向かい、修行を行うことになる。

 無機質な研究所での日々よりも幾分かましだが、大変なのには変わりない。

 影汰の表情には、多少疲れが出ていた。

 そして、その小さな違和感を――花音は見逃さなかったのだ。


「それじゃ花音、行ってくるよ。」

 ――影汰はなるべく笑顔を取り繕い、花音を見た。

「うん、行ってらっしゃい。」

 ――花音もそれは同じく、満面の笑みを影汰に向けた。


 どこからどう見ても、どこにでもいる兄弟の仲睦まじい挨拶ではあるが、妹の脳裏にはとある欲望が渦巻いていた。

 兄についていきたい――という、非常に単純な欲求である。

 本当は、ここから動くべきではない。花音もそれを十二分に理解している。

 しかし、あの兄の表情である。普段から滅多に表情を出さない兄が、多少なりとも疲労の色を見せたのだ。――何かがおかしい。

 自身の責務は明確に理解している。ただそれを、心配の念が押さえつけた。


「本当はダメだって解っているけど…でも我慢できないよ。」


 兄が家を出てから数秒後、花音も部屋を出た。

 思春期の子供が恋愛に盲目であるように、花音もまた兄に盲目である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ