#028――修行2
上記の内容を影汰に説明した後、馬渕は更に得意げに情報を追加した。
「要は性質ごとに根源を区分けしているんだが、その性質間をまたぐような根源を発現する者もいるんだ。例えば、お前もそうだろ?」
「僕も…ですか?」――影汰は自分の根源について思い浮かべた。
「例えばお前の場合、俺と戦った時に言っていただろ?闇に触れると鈍化するって。お前の場合、自然操作系の根源であることは間違いない。ただ通常の自然操作系の根源であれば、そんな付与効果はないんだ。つまりお前は、特殊付与系の根源の要素も持っている訳だな。」
――人差し指を立てつつ説明する馬渕は、どこか博士のように見える。
「なるほど、だいぶ理解出来た気がします。」――影汰も頷いている。
「でだ。お前みたいに区分を跨ぐことに関してだが、まだ軍でも名称が決まっていないから、俺たちはとりあえず「特質」って呼んでる。」
つまり自分の場合、自然操作系の特質である――と、影汰はすんなりと理解した。
根源について理解を深めるうちに、影汰はとある疑問に思い当たった。
「じゃぁ阿久津さんも?確かマスクには付与効果がついていたはず。それも認識疎外っていうことは、精神操作系にあたるんじゃ?だから――精神操作系の特質?」
「そう、私も特質持ちの覚醒者ね。通常の精神操作系には、特殊付与なんてできないのよ。」
影汰は、阿久津の根源について、瞬時に考察していた。
特殊付与系の覚醒者は、そもそも自身の根源を他人と共有できる為、かなり特殊かつ強力な根源ではないかと。特に精神操作系の効果を付与出来るのであれば、まさしくギルド内で配布されているマスクのように、あらゆる面で役に立つはずだ。
おそらく阿久津の場合、便宜上はAレートに分類されるが、本質的にはSレートだと言っても過言ではないだろう。
「最初は、お前のことを調査したさ。すると自然操作系の覚醒者だと解った。それから更にお前のことを知るために戦いを挑むと、特質持ちという神のギフトまで持っていやがる。最初から勧誘するつもりではあったが、流石に驚いたさ。」
馬渕は、右手を少しだげ上げ、それを左右に振った。お手上げ状態ですというジェスチャーだと、影汰は感じた。
「ただ、宝の持ち腐れだけどな。お前、あんまり根源使ってないだろ?」
「…そうですね。」――普段崩れない影汰の表情が、一瞬だけ暗くなった。
根源を使用すると、治癒師の少女を思い出してしまう。研究所での拷問の経験などは影汰からすればどうということはないが、治癒師の少女に関する記憶だけは、今も彼の心に大きな傷を残しているのだ。
そんな影汰の感情の機微を、阿久津は見逃さなかった。
「まあ、まずはトラウマ克服からね。大丈夫、あなたは既に強い。後は自分の力についての認識を深めるだけよ。」
――阿久津は、なるべく明るく影汰にそう告げた。
確かに彼女の「トラウマ」という表現は、影汰の心理状況を的確に捉えている。
ただ同時に、今の影汰には、以前馬渕と戦った時にはなかったものがある。
それは、覚悟と決意だ。
環境に恵まれず、生きることだけが日常だった彼は、明確な意志というものを今まで持ち合わせていなかった。
影汰は静かに、その瞳の奥に覚悟を滾らせ、阿久津の方を見た。
「大丈夫です。――明確に、意識が変わったんです。今の僕は、確かに以前の僕よりも強いはずです。」
阿久津による精神分析では、影汰はあまり強い言葉を使わないタイプだった。しかし、現状はどうだろうか。言葉だけにではなく、全身に覚悟が備わっているように見える。
この時点で彼女は、とある確信を得ていた。
世界を変えるのは、――この恵まれない少年であると。




