#027――修行1
パラダイム零への所属を決めた翌日、影汰はとある場所に来ていた。
立ち並ぶ民家には人気がなく、以前馬渕が言っていたような廃墟地区である。
その一角には、小さな墓場がある。
そして、その中の一つには、とある数列が刻まれていた。
その番号は、「4902777026107」である。
「遅くなって…ごめん。色々あったんだ。」
影汰は墓前に花を供えると、手を合わせて目を閉じた。
「本当は、君の名前を刻めたら良かったんだけど…君の名前すら聞かなかったから。後悔しているよ。素直に名前を聞いておくべきだったんだ。」
彼はゆっくりと目を開けると、墓前で胡坐をかいた。まるでその場に彼女がいるかのように、語りかけている。マナー違反ではあるが、影汰にとっては親愛のあかしだった。
そうして暫く墓を見つめると、彼はまた口を開いた。
「君は…僕に自由に生きて欲しいって言ったよね。だから――決めたよ。僕達みたいな子供を二度と生み出さない未来を創ることを。」
そして、彼はゆっくりと立ち上がった。
「もう…行くよ。――必ずまた来るから。」
最後の最後に、一瞬だけ影汰の表情は崩れた。
少しだけ寂しそうな顔をするも、やがて墓に背を向ける。
これから作る未来に、もしも彼女がいれば。
もう叶わない未来が、影汰の心に今も傷を残している。
それでも、彼は進まなければならない。
――既にいない、彼女の為にも。
◇◇◇
同日、影汰はパラダイム零の本部に招かれていた。
その場所は、意外にも都心部であるらしい。
もちろん影汰は、この場所に一度だけ来たことがある。但し、気を失ってから輸送されている為、位置などは知らなかった。
本部は小さなビルで、都心部に乱立するビル群のうちの一つだ。五階建てのビルで、その全てがパラダイム零の持ち物である。
木を隠すなら森の中――ということわざがあるように、周囲にしっかりと溶け込んでおり、一見しただけではテロリストの住処であるようには見えない。
一階には食堂があるらしく、所属者は無料で利用できるそうだ。
二階から三階までが居住空間になっており、それこそアパートのような構造になっているらしい。
四階は談話フロアになっているらしく、ダーツやビリヤードといった前時代的な娯楽から、テレビゲームといった近代的な娯楽まで取り入れられている。
五階は会議室や長官室――それぞれに役職が設けられるらしく、阿久津が長官にあたる人物である――などがあり、主に本格的に活動を進めるスペースだ。
そして、上記の内容を説明した馬渕が、影汰の隣で小さな声でぼやいた。
「…まあでも、現状お前含めて四人しかいないんだけどな。」
「――え?」――影汰は思わず驚き、馬渕を見返した。
すると彼は、小さく左右に首を振るうだけだ。
どうも聞き間違えではないらしい。
早速不安の種が一つ増え、影汰の表情は芳しくない。
現在二人がいるのは、四階の談話フロアだ。
階層丸ごと一切壁がなく、非常に広い部屋が確保されている。
但し、並べられている道具によって、しっかりと区画整理されており、影汰と馬渕が今いる場所は休憩スペースだった。
休憩スペースと娯楽スペースは、それぞれ半分ずつで分かれている。
休憩スペースには、机一つに対しソファが四つ、四方から向かい合うように並べられており影汰と馬渕は、そんな一角に腰かけている。
机とソファのペアは、彼らが座る箇所だけではなく、計三ペアほど設けられていた。
――パラダイム零の所属人数から鑑みるに、かなりの余剰分ではあるが。
二人が待機していると、ようやく五階から阿久津が降りてきたようで、影汰たちの座るソファの余りに腰かけた。影汰と馬渕が向かい合い、対面に誰も座っていない席に阿久津が座っている。阿久津が座っているのは、影汰から見て右側だ。
「お待たせ。」――阿久津は、まったく悪びれず、残りの席に座った。
二人ともそれに苦言を呈することはなかったが、馬渕は苦い顔をしている。
「それじゃ影汰君、よろしく。早速これからについて説明すると、まずはあなたにやってもらわないといけないことがあるの。」
いつの間にか自分の呼び名が「影汰君」になっていたことに、一瞬影汰は戸惑った。
これもまた入会特典なんだろうかと、馬鹿なことを考えたほどである。
「…やらなきゃいけないこと?」
するとその会話は、馬渕が引き継いだ。
「修行だよ。はっきり言ってお前は、まだ弱い。お前ほどの根源なら、最低限俺くらいなら倒せないとな。」――馬渕は、影汰にちらりと目配せをしてきた。
どうやらその修業は、馬渕と一緒に取り組むことになりそうだと、影汰は直感した。
それと影汰は、馬渕の話しぶりに、一つだけ疑問を感じていた。
「そもそも気になっていたんですけど、僕の根源って…強いんですか?」
「ふむ、当然の疑問だな。」
馬渕は、少し大げさなくらい繰り返し頷いている。
「実は根源には、非常に便利な指標があってな。製作者はとある軍人なんだが、
――「覚醒レート」なんて呼ばれているんだ。」
彼は少しだけ勿体ぶるように、子供が自分のおもちゃを自慢するように話し始めた。
馬渕はどうもこの手の話が好きみたいだが、恐らく方向性としては、例えばこの漫画のこのキャラは強いだとか、そういう話と同系統なのだろう。
この後の馬渕の説明は、ある種の興奮からか容量を得ない。
その為、影汰の脳内にて整理された情報のみを公開する。
【覚醒レート】
弱・Eランク:治癒能力系――対象の傷を癒すことが出来る。
↓・Dランク:肉体操作系――肉体性能を、強化することが出来る。
↓・Cランク:特殊付与系――物質に、ある一定の特殊効果を付与出来る。
↓・Bランク:物質生成系――銃や剣などの特定の道具を任意に生み出すことが出来る。
↓・Aランク:精神操作系――対象の精神を操作することが出来る。
強・Sランク:自然操作系――火・水・雷・空気・光・闇を操ることが出来る。




