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#だから僕は、ダークヒーローになった  作者: 木兎太郎
【第一部 #だから僕は】
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#023――組織2


「あなたは今、死んだことになっているの。」

「――え?」――影汰は思わず目を見開き、阿久津を見返した。

「根源の暴発により、崩壊した研究所の下敷きになった。それが筋書きよ。」


 彼女は淡々と、それが当然であるかのように説明する。明らかに不自然だというのに。


「でも…肝心の死体がない。それに僕は、お墓という物的証拠まで残してきた。」

「確かにその通りね。でも、死体はあった。」

 ――阿久津は、ゆっくりと目を閉じた。

「まさか…彼女の死体を?」

 ――影汰の脳裏に、治癒師の少女の死体が思い浮かんだ。

「違うわ。仮に彼女の死体を使ったとしても、死体の数で違和感に気づかれる。」

「ちょっと待ってください。…「使った」…とは?」


 使う――という表現には、明らかに違和感がある。

 例えば「筋書き」であったり、「使った」であったり、彼女の言葉の節々には、まるで影汰の死を偽装したのが、彼女たちであるかのような印象がある。


「あぁ…そうね。隠しておく意味もないし言っておくと、あなたの死を偽装したのは私達よ。理由は、こういう機会を作ろうと思っていたから。あなたが追手に捕まってしまうと本末転倒だったのよ。ちなみに聞かれる前に言っておくけど、あなたが作ったお墓は、場所を移させて貰かったから。残して置けば、あなたの生存の証拠になる。」

「どこに…移したんですか?」

 ――影汰の表情は、一瞬で真剣なものに変化した。

「それに関しては、今度案内してあげる。」


 彼女は情報を勿体ぶると、影汰の方へと微笑む。

 影汰は一瞬、強引に聞き出したい欲求に駆られたが、それを抑え込んだ。

 少なくとも彼女たちに敵意はない。場所を教えると言ってくれているのだから、本当に教えてくれるのだろう。ここで暴れれば、そんな気も消してしまう可能性がある。


「話を戻すけど、死体は完全に別口から用意したの。お墓を移動させた彼女と、二つ分。――残酷だけど、今の時代、子供の死体くらい簡単に手に入るから。」

「…。」

 ――影汰は納得するしかなかった。そうした子供が多いことは、事実である。

 

 その原因は、経済的な不調と人身売買にある。誰にも改善できないことだった。


「あとはそれを、DNAが判別できなくなるくらいまで焼いて、現場に残した。」

「…そうですか。」――影汰に出来ることは、静かに頷くことだけだった。


 一見、焼死体という点に違和感があるが、影汰の根源の詳細を知っている人間は、あの研究所では、今は亡き安藤だけだ。

 影汰の根源を知らなければ、焼死体に違和感を感じるのは困難である。


「納得して貰えないかもしれないけれど、私達も進んで子供の死体を使うことを選択したわけじゃないのよ。今を生きるあなたか、もう死んでしまった子供か、あの時は優先順位をつける必要があったの。そうじゃなきゃ――革命なんてできないから。」

「――革命?」――さすがにこの発言には、影汰も驚愕していた。


 つまり彼らは、革命軍であると、この場でたった今告白したのだ。

 明確な反逆罪であり、テロリストと表現しても過言ではない。


「そうよ。今のこの世界は、間違ってる。人身売買があって、子供が当たり前に死んでいて、これのどこか正しいの?」――阿久津の表情には、怒りが見える。


 彼女は、いつの間にか握りしめていた拳を、静かに開いた。そして話を続ける。


「この世界には、革命が必要なのよ。でも革命なんて、簡単に出来ることじゃない。だから私達は、優秀なあなたを勧誘する為に、わざわざ隠蔽作業までしたのよ。」――阿久津はついに、最終目的を影汰に告げた。

「…革命なんて…できるわけがないです。それに…僕は妹を守ると決めたので、そんな危険な行為に参加することはできませんよ。」――影汰は、断言した。

「じゃぁ、妹の子供は?妹の子供の子供は?さらにその先でもいい。今のこの世界を生きぬことを想像して。もちろんあなたの子供を想像してもいいわ。」

「…。」

 ――影汰は思わず、阿久津を無言で見返した。それしか出来なかったのだ。


 この世界に納得したことは、一度もなかった。生まれも育ちも、今この瞬間も全て。

 例えば、何かが少しだけ違えば、きっと影汰も花音も、今頃は普通に暮らしていたはずだった。

 でもそのほんの少しの差は、まるで日本海のように大きく、一般人と彼ら兄弟の間に広がっている。


 二人は、そんな差のせいで、今も学校にすら通えていない。

 毎日を、ただ必死に生きることに尽力している。

 人間としての幸福を、求めることが罪であるかのように。

 果たしてそれは、正しいのだろうか。

 ――否、そうであってはならない。


 もしも花音が誰かに恋をしたとして、その誰かが花音の首裏にあるバーコードを見たとして、果たしてその関係は、今まで通り続くのだろうか。

 もしその恋が続いたとしても、彼女の過去が消える訳で断じてない。

 誰かに首裏のバーコードを見られれば、花音の子供も、そのまた子供も、誰もが差別の視線を浴びせられることだろう。


 深く考えるまでもなく、結論は明らかだ。

 ――そして、だからこそこの世界は、間違っているのである。

 影汰自身、それを痛いほどに感じていた。

 阿久津は、影汰のそうした思考の機微を、正確に感じ取っていた。


「痛みを知っているあなただからこそ、より良い世界が作れるはずよ。」

「…少しだけ考える時間が欲しいです。」

 ――影汰は、一瞬だけ表情を歪ませた。


 そして、影汰の脳裏には、やはり花音の顔が浮かんでいた。

 彼女なくして、こうした重要な決断をする気にはなれない。


「もちろん構わないわ。結論は明日聞かせて。こちらから豪鬼に顔を出すから。」

「…解りました。」――影汰の表情は、明らかに暗い。

「それと、あなたは部外者だから、この場所を知られては困るの。家まではカズが車で送るけど、その道中は、目隠しをしてもらうわ。」

「はい。」――影汰は、背後から馬渕に目隠しを装着された。

「それじゃあ、また明日。」


 そうして別れを告げる彼女の艶やかな声だけが、いつまでも彼の耳に残った。


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