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#だから僕は、ダークヒーローになった  作者: 木兎太郎
【第一部 #だから僕は】
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#020――便利屋3


 移動経路は、とても複雑だった。

 今回の護衛依頼の前に、周辺の地図を頭に入れている為、影汰が迷うようなことはないが、下準備なしでは迷子になっていてもおかしくはない。


 複雑な経路を辿るうちにようやく着いたのは、どこにでもありそうな、なんの工夫も遊具もない空き地だった。

 周囲には、一切人気がなく、確かに取引の場所には丁度いいのかもしれない。


「ここは経済崩壊の影響で使われなくなった民家が立ち並ぶ場所だ。廃墟地区なんて呼ばれていて、取引にはよく使われる。」

「こんな場所があったんですね。」――影汰は感心しながら、周囲を眺めた。


 物音すら一切せず、本当に人がいないのだと実感できる。まさか銀座にこんな場所があったとは、影汰も知らなかった。


「よし、そろそろいいか。」

 ――ホースはそういうと、フードをとってしまった。

「…え?」――その行動に驚き、思わず影汰はホースを二度見してしまった。


 黒髪の短髪に、やや大きな瞳をしており、とても精悍な顔立ちだ。何というか、「主人公顔である」――というような表現が、影汰の頭に浮かんだ。


「ここにお前を連れてきたのには、しっかりとした理由があるんだ。」

「依頼で…という以外に?」

 ――嫌な予感が的中しつつあることを、影汰は感じていた。

「もちろんその通りだ。」――ホースは影汰の問いかけに、深く頷いた。


 そして、次にホースは戦闘姿勢をとった――どうもそういうことらしい。

 更には、何故か彼は、にんまりと笑っている。


「さて、準備はいいか?」

 ――ホースは当たり前のことであるかのように、そう言った。

「いや…いいか悪いかで言ったら、最悪でッ!!!???」


 影汰が話を終える前に、ホースは影汰へと飛び掛かった。その速度は、影汰の視認できるギリギリであり、ほとんど霞んで見えたほどである。

 それでも根源を使い、一瞬で自身の体に闇を纏わせた。

 纏った闇の上を狙い、ホースが容赦なく拳を振るう。丁度鳩尾のあたりだ。

 命中した瞬間、影汰は後方へと吹き飛び、民家を貫いて中へとめり込んだ。


「…カハッ!?」――肺にこもった空気を、影汰はすべて吐き出した。

(明らかに人間の力じゃない!?)


 人の限界を超えた作用に、影汰はホースが覚醒者であることを確信した。

 建物の埃が舞い上がり、それが煙のように影汰の周りを漂っている。

 そして、巻き起こした煙が収まる頃には、ホースは既に目前にまで接近していた。


 移動速度も人並外れているようで、とても逃げ切れそうにない。

 影汰の根源にできるのは、闇を操作することだけだ。

 移動速度で劣っている時点で、逃亡の選択肢はなくなる。

 先制も取られている為、状況はあまりに芳しくない。

 こちらを見下ろしてくるホースを、影汰は面倒くさそうに見上げた。


「怪我しても、知りませんよ?」――影汰は遠慮がちに、そう言った。


 逃亡が困難であることと、勝敗は別だ。

 ホースを無力化すれば、全ては終わる。


「随分と強気だな。期待できる。」――ホースは、また笑った。


 それから座る影汰の顔面へと、ホースは容赦なく拳を振り抜いた。

 ズガンッ!!!という大きな音が鳴ったが、それは民家の壁を貫いただけで、影汰には直撃しなかった。

 先ほど攻撃された、そのたった一手で、影汰は相手の速度に適応。上半身を反らすのみで、その一撃をしのいで見せたのだ。

 

 そのままホースの股下へと闇を伸ばし、民家の壁を貫く。先端を杭のように変形させると、闇を支点に自身の体を引き寄せ、ホースの股下を潜り抜けた。引き寄せた時に発生した勢いを殺さずに、そのまま屋外へと駆け抜ける。

 そうしてようやく、先ほどの空き地にまで戻った。

 そんな影汰をよそに、以外にもホースは、ゆっくりと民家から出てきた。


「なかなかの対応力だな。」

「褒めて貰って嬉しい限りです。」

(にしてもこの人…何が狙いなんだ。俺を襲っても、何のメリットもないだろうに。…まさか、研究所の関係者か。俺の知っている情報が、外部に漏れればまずいとか。…その線が一番濃厚だな。ここは容赦なく露払いしたほうが良さそうだ。)――以上の思考が、一瞬で影汰の脳内に廻った。

 

 ホースとの距離は、およそ五メートルほど。影汰は地面にゆっくりと闇を伸ばした。

 まるで彼の体から水が溶けだしているかのように、闇は一定の速度で広がっていった。

 やがてホースの足に接触するかどうかまで闇が迫ると、彼は民家の屋根へと悠々と飛び上がり、闇に触れることを嫌った。


「それ、触ると何かありそうだな。」

 ――ホースは、地面に広がる闇を観察している。

「…流石にそうしますよね。」――そんな状況を、影汰は残念そうに眺める。


 つまり、影汰の思惑通りにはならなかった。どうも相手は、覚醒者同士の戦闘に関する心得まであるらしく、警戒心が強い。

 影汰も便利屋になってから何度か対峙したことはあったが、ここまでやりにくい相手は今までに経験したことがなかった。

 その訳は、大概の相手が、自分が特別であると考え、慢心しているからである。

 

 覚醒者は世界規模でみると、本当に極少数しかいない。自身が特別だと考える者たちは、別段間違っている訳ではないのだ。

 但し、慢心はその特別性すら奪い、やがて人を衰えされるだけだが。


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