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#だから僕は、ダークヒーローになった  作者: 木兎太郎
【第一部 #だから僕は】
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#015――妹


「僕は…葛西さんの想像通り、両親に売られた――一度商品になった子供です。僕が売られた先は…とある研究所だった。そこでは非道な実験が行われていて――――。」


 影汰は自身がこれまで体験してきた全てを、葛西に告白した。

 非道な実験から、友人である治癒師の少女の死まで全て。

 そして、友人の死に責任を感じていることも。

 葛西は腕を組んで、その話を紳士に聞いていた。


 影汰が話し終わると、葛西はやかんで沸かしたお茶を、影汰に差し出した。

 それを一口すすり、一呼吸置くと、影汰は葛西に最後の疑問をぶつけた。


「…葛西さんは、どうして生きることを選択したんですか?ホームレスになってまで、今も生きる理由は何なんですか?」


 意外にも葛西は、影汰の問いに即答して見せた。


「そこまで難しい話でないよ。気づいたんだ。私にはまだ、やり残したことがあると。」

「それは…一体?」

「これまで私が犠牲にしてきた子供たちを救うことさ。私はまだ、何も責任を取っていないんだよ。まあもっとも、まだ何も出来てないんだけどね。方法を探っている所さ。」

「…責任…ですか。」


 影汰は俯き、これまでの自分の人生を振り返った。

 最初に思い浮かんだのは、治癒師の少女の最後の言葉だった。

 彼女は確かに、「あなたは自由に生きて。」そう言っていた。

 やり残したことがあると思った。まだ自分は、何も成し遂げていないのだと気づいた。


 両親に売られることを受け入れたあの日、自分は犠牲になったのではない。

 逃げたのだ。――「ひどい両親がいる」という現実から、妹を残して。

 葛西の話を聞いた影汰は、ようやくそれを理解した。

 やるべきことを見つけ出した影汰は、静かに立ち上がった。

 葛西はそんな彼の顔を、少しだけ眩しそうに眺めている。


「葛西さんのおかげで、やるべきことを見つけることが出来ました。」

「そうか。それはよかった。…もう、行くんだね?」

「えぇ。行きます。」


 影汰は振り返り、暖簾のようにかかるブルーシートを持ち上げた。

 こちらに背中を向ける影汰に、葛西は言葉をかけた。


「また会えるかな?」

「もちろん。あなたにも恩返しをしに戻ってきます。必ず。」


 やがてこの奇妙な段ボールハウスから、影汰は飛び立った。

 巣から落ちた雛鳥は、目的を見つけ出したのだ。

 そしてそれは、気高く力強く飛ぶための――活力である。


◇◇◇


 この場所に来ると、嫌な記憶がいくつも蘇る。

 走馬燈のように、美しくダイジェストで、影汰の脳裏に映像が流れていた。

 少年時代の清き良き思い出など、影汰には一切ない。

 そう、この場所は、影汰が両親と暮らしていた家である。

 非常に簡素な二階建てのおんぼろで、ろくに管理すらされていないアパート。

 壁面などは、何らかの植物の蔦に覆われており、上から漁業用の網を覆い被されているかのようにすら見える。

 階段を上り、二階の一番奥の部屋、それが影汰が暮らしていた部屋だ。

 インターホンすらないので、影汰は扉をノックした。

 ――コンコンッ。

 薄い木の板を叩くような、独特な音が鳴る。しかし、中からは何の反応もない。 


「…?」


 すると、隣の部屋の住民が、少しだけ扉を開けて、影汰の方を見ていた。


「…黒音さんなら、引っ越しましたよ。」

「ッ!?」――影汰は思わず驚き、驚愕に目を見開いた。

(あの両親に引っ越しをする資金などないはず、それだけは間違いない。)

「いつの話ですか?」――影汰は直ぐに聞き返した。

「数日前の話です。」――影汰の勢いに少しだけ驚きつつも、住民は答えた。

「そうですか、ありがとうございます。」


 隣の住民は、会話が終わると直ぐに扉を閉めてしまった。


(おいおい…嘘だろ、一体どこに消えたんだ。)


 声色だけは落ち着いていたが、内心は動揺していた。

 ずっと研究所にいた為、これ以降の手段など何も思いつかない。

 ひとまず深呼吸をしつつ、彼はドアノブに手をかけた。意外にも鍵はかかっていなかったようで、すんなりと回る。

 キィ…という、古い洋館の扉のような不気味な音とともに、扉が開いた。

 中からは古い新聞紙のような、絶妙な香りがする。

 何も荷物を運ばずに引っ越したのか、生活感が丸ごと残っていた。


 一年ほど前と何も変わらない部屋の中を、影汰は物色し始める。

 とりあえず最も情報がありそうな、いつも両親が何かの書類を入れていた引き出しを開けた。中に入っていたのは、請求書だった。それこそ大量にある。

 中でも真新しい、一番上にある請求書を手に取った。

 そこに書いてある金額は、一千万円ほどで、とても両親に捻出できる額ではない。日付も極最近のものだった。


(――嫌な予感がするな。)


 さらに書類用の引き出しをいくつか開き、書類から黒音家の現状を探る。

 いくつもある請求書の中に、一枚だけ送金確認書というものがあった。

 書類に目を通すと、そこには千五百万円の送金が完了したという記載があった。

 現状出そろった情報は二つ、両親はつい最近まで莫大な借金があった。そして、それを返済する為に、何らかの手段で千五百万を手に入れた。


「おいおい…嘘だろ。まさか、また人身売買に手を出したのか。…くそ、どうしてあの人たちは一切学習しないんだ。」


 黒音家は二人兄弟であり、子供は影汰と妹しかいない。

 人身売買のルール通りなら、売られたのは妹で間違いないだろう。


「…やっぱり、離れるべきじゃなかった。」


 影汰の目的は、残してきた妹の安否を探ることだった。

 彼のいなくなった家庭で、虐待の対象が妹になってしまった可能性もある。

 その場合は容赦なく両親から妹を奪うつもりだった。

 研究所での戦闘訓練が、影汰にそれを可能にさせる。

 それに、今の彼には「根源」がある。 

 恐らく一般人では、今の影汰をどうすることもできないだろう。


「せめて妹の売却先が分かれば、奪還することも出来るはずだ。」


 売却先の情報は、送金確認書には載っていなかった。

 もしかすると、影汰の時と同じく健全な取引先ではないのかもしれない。

 通常であれば、企業として行っている為、必ず情報が記載されているはず。


 それに、千五百万円は人身売買の価格としては、やけに高い。

 相場は五百万程度であり、それ以上ともなると、裏ルートで売却されている可能性が高い――影汰と同じように。


「…いや、待てよ。つい最近、専門家の知り合いが出来たばかりじゃないか。」


 一刻も早く妹を救出するべきだと考えた影汰は、直ぐに彼の元へと向かった。


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