ドロドロ濃厚海栗のクリームパスタ:事後
大通りから出て右へ進み、坂道を下ったら左へ曲がり、海沿いの通りをまっすぐと。
あの怪しい店の店主に聞いた通りに歩いて進むと、そこに食堂が……食堂か? 食堂だろう建物があった。
建物は老朽化が進み、看板も取れかかってしまってる。どう見ても営業中の食堂には見えない。まるで精根枯れ果てた老人の様だ。あれでは何も出てきやしないのではないだろうか。
まぁしかしせっかくここまできたのだからと、恐る恐る扉を開けてみる。ギィィ……と音が鳴る中、奥へ進むと鍋の前でウンウンと悩んでいる1人の青年の姿が見えた。
珍しい黒髪を短く切りそろえた青年は、料理人が来ている様な服、コックコートっていうんだっけ? それを着て腕を組み目を閉じている。くそぅ、コートやエプロンに隠れて下半身のアレは全然見えないじゃないか。
「うーん、これだとミルクを使った方が合うんだろうけど、ここじゃあミルクは高いからなぁ……」
呟く彼の後ろのテーブルには、海栗が置いてあった。
きっと彼は見ての通りの料理人で、海栗で何か素敵な料理を作ってくれるに違いないだろう。マリーさんの慧眼に間違いはない。
「ミルクが必要なの?」
素敵な料理を作ってくれるかもしれないという期待に駆られた私は、思わず声をかけてしまった。
彼はよほど集中していたのだろうか、私が声をかけるとびっくりしてしまった様で近くにあった調理器具を落としてしまった。
その慌て様に私も駆け寄ってしまう。
「ああ、いや、大丈夫、大丈夫だから」
落とした調理器具をサッと片付けると、彼は優雅に礼をしてみせる。こんなオンボロ食堂の料理人じゃなく、宮廷料理人みたいな動作だった。
「ようこそお客様、お見苦しいところをお見せ致しました。私、このレストラン……いや、食堂で料理人をしています、トウヤと申します」
「トーヤ? 変わった名前ね」
「母が東の出なもので」
東の方には小さな島国があって、ウキヨエとかシュンガとか言う独特のエッチな文化があるって聞いたけど、そこの出身だなんて珍しい。確かに向こうなら黒髪も珍しくはなかったはずだ。マリーさんは物知りなのである。
しかし、そんなことよりも今は料理の方が気になる。
「あなたのことよりも、今はアレ。アレを使って料理をするんでしょう? 私、すっごく気になるわ」
「……ウニ……いや、海栗ですか? この辺の人はあまり食べないってぜビット爺さんが言ってたはずなんだけどな……」
ぜビットとはあの怪しげな店の店主のことらしい。なんでも、珍しい食材をどこからか仕入れてくるので、それを料理することを条件に安く仕入れてもらえているのだとか。
なるほどあのお爺さんが自信を持って紹介するわけだ。自分のところの商品を調理する人間を知っているのだから。まるで美人局みたいだなと私は思った。
「海栗はあのお爺さんのところで食べたけど美味しかったわ。そしてそれをもっと美味しく調理できる人がいるって聞いたんだけど」
「まったく、あの爺さんは余計なことを……。美味しいかはともかく、料理をお出しすることは出来ますよ。ただ、生憎と今作ってる海栗の料理の材料が足りてなくてね」
話を聞けば、彼もゼビット爺から今朝海栗を格安で仕入れ、いざ調理してみようと思ったが海栗はこの辺りではまともな食材として扱われてはいない。そこで、よく食べられるパスタに調理して食べてもらおうと色々と調理して見たのだが、海栗の味に合う調理法が1種類しか出来なかったという。
しかも、その調理法にはある材料が圧倒的に不足していた。
「それがミルク?」
「ああ、この料理にはミルクが必要不可欠なんだ。ないと作ることができない」
話しているうちにお互いに、とは言っても私は最初からだけど遠慮しなくなっていき、彼の口調はだいぶ砕けていた。
しかしミルクか。ここで普通に考えれば市にでて買ってくればいいだけの話なのだろうけれど。
しかしマリーさんはサキュバスだ。ミルクぐらい頑張ってみせようじゃないか。
「というわけで」
「どういうわけで!?」
私が着ているブラウスのボタンを外して胸を露出しようとすると、彼に全力で止められた。
解せぬ。
「なんで邪魔するの、ミルクが出せないじゃない」
「どこから出す気だあんたは!?」
「あ、そもそも今はミルクは出ないわよね」
「そりゃそうだよねぇ!?」
ミルク……つまりはおっぱいだけど、普通は子供を孕んだり、産んだ後でしか出せないものだろう。
しかし、サキュバスは違う。精気を使い身体の中で精気をミルクにして出すことができるのだ。エッチしてその直後に授乳プレイもお手の物だ。なお、精気の塊であるサキュバスのミルクは強力な催淫剤になるので取扱注意である。
「そういうわけで、トーヤのミルクを飲めば私がミルクを出せるからそれで料理が作れるわね!」
「出さねぇし出させねぇよ! てか、そんな話聞いてなんでそれで料理を作ると思ったの!?」
どうやら料理人の彼の目には、私のミルクはお眼鏡に敵わなかったらしい。自信があっただけに残念だ。
結局普通に市に行ってミルクを買った。もちろん代金は私持ちだ。料理を作ってもらうわけだし、それぐらいはしないとね。彼は最後まで渋っていたけれど。
ミルクと、他にも必要な材料が何種類かあったのでそれも買って調理開始だ。
まぁ、調理が始まったら私はすることがないんですけどね。
ただ待っているのも暇なので、せっかくなので掃除でもしよう。たしか前にコスプレプレイさせられた時にきたメイド服があったからそれを着て、雑巾掛けから始めようか。
たったったー。
たったったー。
ちょっと楽しくなってきたぞ。
「マリーさん」
「ん? 掃除してたらダメだった?」
「パンツ見えてて気が散るから大人しくしてて」
「見せパンだよ?」
「Tバックなのに!?」
マリーさんのお気に入りだぞ。フリフリ。
まぁ気が散って料理が不味くなるのは避けたいので、仕方ないから大人しくしておこう。
「……そのエロメイド服も気になるんだけど」
「これもだめなの!?」
なんてこったい。私は大人しく着替えることにした。エロくない服がなかったので、最初に着ていた大人し目のブラウスとスカートを着る。
衣擦れ音がシュルシュルと聞こえる。もちろんわざとだ。
「マリーさん! 気が散るからやめて!」
そうこうしているうちに、料理ができたようだ。
トーヤは給仕もお手の物なのか、椅子に座った私の前に優雅に料理を運んできた。
「お待たせいたしました。『生海栗のクリームパスタ』でございます」
運ばれてきたのは最初に話していたようにパスタだった。
しかし、クリームパスタと言えばミルクや生クリームで作ったクリームソース、つまり白いドロドロのソースを絡めて食べるパスタのことだ。……白いドロドロ、これで精気を得られそう。
しかし、出てきたのはもっとオレンジがかったクリームソースを和えたパスタだ。
クリームソース以外は少量で普通のパスタ……なんだけれど、その上にどーんと海栗が乗っている。これが全く普通のパスタじゃなくさせている。
「……これ、美味しいの?」
乗っかっている海栗から精気は得られるだろうけど、さすがにこれは料理としてどうなんだろうか。
あの強烈な海の風味を持つ海栗と、クリームパスタのミルクの濃い味とが、合わさって美味しくなるようには私には思えない。
けれど、トーヤは自信があるのかその表情を崩さないままだった。
恐る恐る、フォークにパスタを巻きつけていく。そして、それを一口でパクり。
んんん!?
クリームソースから……海栗の味が!?
海栗の強烈な海の香り……それとクリームソースからミルクの濃厚なコクが混ざり合って……一体となって味を引き上げている!
「いったいなんで……はっ! このオレンジ色……まさか!」
「そう、これは海栗クリームソース……普通のクリームソースにさらに海栗を混ぜて作った特別ソースだ!」
普通のクリームソースを作る最後の行程に、捌いたばかりの海栗を加え、火が通りきらないぐらいでサッと馴染ませただけ……だからこそ、海栗の香り、風味が死ぬことなくダイレクトに伝わってくるのか! こんな料理は、今までに味わったことがない!
さらに上にトッピングされた海栗も一緒に口の中へと運ぶ。
クリームソースだけでも強かった海栗の風味がさらに強くなる。
「おいしいぃぃぃ」
口に入れた瞬間にわかった。ただの海栗よりも、この料理の方が精気を多く得られるのだ。何故かはわからないけれど、サキュバスの私が美味しいと思えるほど、良質な精気を得られるのだ。
そうなるともうフォークを動かす手を止めることはできない。一口、また一口と食べ進め、皿はあっという間に空になってしまった。
海栗の精巣と卵巣、そしてそこにミルクのコクが合わさったそれは……そう、まさにおっぱいを使ったセッ◯スのような、天にも昇る心地よさだ。
ミルクから作られた白いドロドロとしたソースに、海栗が主張するように、その身をもってドロドロに色をつけていく。
これは命だ! 命を表現しているんだ! 海栗の精巣と卵巣、そして牛のミルクを使ったそれはまさに授乳プレイ。
セック◯はミルクを使ったことでさらに発展していったんだ……。授乳プレイへと発展していったんだ……ッ!
「どうだった、料理の味は」
トーヤが私の反応を見てそんなことを聞いてくる。すでに美味しいと言っているのに、その味を認めさせたいらしい。
だからマリーさんも、私の持てる最高の感想を伝えよう。この出会いに、最高の賛辞を送ろう。
「ええ、普通の◯ックスよりも、ミルクを使ったことでさらに深く、濃厚なセ◯クスになったわ!」
「……俺、料理食わせてそんな最低な感想もらったの初めてだわ……」
解せぬ。