プロローグ‐愛してる‐
まず最初に謝っておこうか。これは君たちのために考えた物語などではないし、ましてやフィクションなんかでもない。俺の実体験に基づく実話だ。
別に信じてもらわなくていい。ただ俺は、俺が忘れてしまわないように形にしてしまいたかっただけなんだから。ジジイになっても、死んでも。ただ消えずに、あるだけで…。それがどんなに幸福なことだろうか。
俺は一昔前に騒がれていたこともあるんだけど、分からないかな? 通称・悲劇の子。別に自分で付けた訳じゃない。世間が勝手に騒いで、勝手に付けた。確かに辛いこともあったけど、俺にとってはあの時が人生で最高の時間だったと言うのに。
話を戻そうか。
俺が悲劇だのと言われてたのには大体三つくらいの意味がある。
一つ目は、ヤンチャしてた頃に色々あって天涯孤独の身になったこと。
二つ目は、行方不明だったこと。
そして最後に、気が狂ってしまったことだ。
じゃあ今の俺が狂っているのかと聞かれると、そうでもない。俺のここ数年の記憶は全く無いと言っていい程ぼやけて見えない。その為に、気が狂っていたことも、行方不明だったことも知らなかったのだが、最近記憶が戻りつつあるのだ。おかげで俺はこの世界でもいきられるようになった。
一概にそれはあの人のお陰だろう。生意気で、何時も俺を嘲笑うような態度で、人を見下して、遠ざけて。小さな背中に全部背負って、消えてしまいそうで。分かりにくい愛情をもって接してくれた、不器用な人。
嗚呼、会いたい。
貴方と俺は、最後まで何もなかったのだろうか。それはまあ残念だが、今はこの記憶の波に身を沈めてあの愛しさに溺れよう。
少し長くなってしまったね。じゃあ、こんな前置きはおいといて始めようか。
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「人は何を以て人間たり得るのか、何が人間を人足らしめるのか。」
時に街へ、天へ、地下へ現れるその人は、すべてにこう問い掛けます。
「人とは、何だ?」
それは答えを探しているのか何なのか。妙に独り言ちた響きは、我々"人間"の世界をいとも容易く壊すのです。
さあ貴方も拐かされたなら、早くこちらにお出でなさい。
これは、一人の"人間"の物語。