第八章 新しい〇〇〇〇
ロボット忍者は、手足を失ったオレの胴体が地面に落ちる前に、素早くそれを二本の刀で串刺しにして、音速を超える速さで、ロシアの大地の破片の上を跳び移って行く。
オレの手足の切断面と、胴体を串刺しにした刀の根元からは、大量の血がドバドバと流れ続けるが、ロボット忍者は、オレの身体を高く持ち上げて、そこから流れる血が自分にかからないようにしている。
これと同じような状況は、ニューヨークで戦った、海兵隊忍者のストーム大佐の時にもあったが、あの時のオレはちゃんと両手があったから、大佐の首を締めて逃げる事ができた。
しかし今のオレは、手足を切断された上に、武器である鎖ドクロも落としているから、ロボット忍者に反撃する方法がない。
「くそおおおおおおおおおおおおおおお! ひと思いに殺せえええええええええええええええ!」
三万倍に加速しているせいで、止まる事ができないロボット忍者は、オレの叫びを無視したまま、ふき上がる溶岩の間をすり抜けていく。
オレの身体には『その場復活の術』がかかっているから、死ねば身体が再生されて切断された手足も復元されるが、舌を噛んだりして自分自身で死ぬ事はできない。
それは『死骨支配の術』という、より強力な忍術がオレの身体に備わっているために、オレが殺した者は誰であろうとも、オレの武器である鎖ドクロに、その骨を支配されて取り込まれてしまうからだ。
つまりオレは自殺をすれば、自分自身の骨が、自分の武器に取り込まれて、身体が消滅してしまうのだ。
ロボット忍者も、それが分かっているので、オレを殺さないように注意している。
だから、今のオレが、切断された手足を復元するには、アオ先輩に殺してもらうしかないのだが、戦いが得意じゃない先輩は、ロボット忍者に捕まっているオレに近付く事ができない。
しかし、このまま時間が過ぎれば、南極にある『時間逆転装置』が壊れて、この世界を滅亡から救う事ができなくなる。
そうなるまでのタイムリミットは、三万倍に加速しているオレの体感時間でも、もう四時間もないはずだ。
それまでにロボット忍者から逃げなければ、オレは、もとの世界の本当の身体に戻れなくなって、学校の柔道部の主将とのS〇Xなんかに使われている、かわいそうな自分のチ〇コを助けられなってしまうのだ。
そう考えて、あせっていたオレは、自分の身体から流れる血を見て、ふと、ある事に気が付く。
ひょっとしてオレは、アオ先輩に殺してもらわなくても、この大量の出血で、そのうちにショック死するんじゃないだろうか?
それならば、その時に身体が再生されて、手足も復元され、このロボット忍者を至近距離から攻撃できるはずだ!
それに気が付いたオレは、その瞬間のために、心を落ち着かせる。
ところが、それからしばらくして出血で意識が薄れて、もうすぐ死ぬだろうと思っていたら、突然、回復薬が使われて、オレは愕然とする。
「くそ! もうちょっとで死ねたのに! お前、余計な事をするんじゃねえ!」
ロボット忍者は、オレを出血多量で死なせないように、わざわざ回復薬を使って、オレの体力を回復させたのだ。
忍者が持つ回復薬は、頭で考えるだけで使えるので、オレの身体を串刺しにして両手がふさがっている今のロボット忍者でも、それが使える。
しかも回復薬は、体力を回復させるだけで、切断された手足の復元まではしてくれないから、オレは生殺しのままなのだ。
ちょくしょう!
このままじゃあ、死ぬ事もできずに、この世界の滅亡を待つだけじゃないか!
それで切羽詰まったオレは、心の中で異世界商人のヒスイを呼ぶ。
すると、周りの世界から色が消えて時間が止まり、その中に、ただ一人色が付いているヒスイが、大きな風呂敷包みを背負った着物姿で出現する。
全てが静止した世界で、ゆっくりと空中を漂うヒスイがメガネの位置をなおすと、口を動かしてないのに、その声が周囲に響く。
「あらあら。今回の相手は、ロシアのロボット忍者なのね」
それに答えるオレも、時間が止まって口を動かせないのに、話そうとした事が声になって、周囲に響く。
「見てのとおりだ、ヒスイ! オレは、手足を切断された上に串刺しにされて、どうする事もできない! この状況を逆転できる、いい方法があるなら教えてくれ!」
「あのね、前にも言ったけど、私は全てのお客に対して中立でないといけないの。だから、あんたが戦っている相手の具体的な攻略法は教えられないわ」
「…………という事は、この状況でも、このロボット忍者を攻略できる方法があるんだな? ……………………そういえば、ヒントを教えてもらうのもダメだったっけ…………」
「うーん……実は、そのロボット忍者は、異世界商人である私たちとは、取引きをしないから、今のところはお客じゃないのよ」
「だったら……」
「でも、今はお客じゃなくても、いつかは、お客になってくれるかもしれないし……」
「この世界は、もうすぐ滅亡するんだぞ! そんな状況で、いつかなんて言うなよ!」
「あら、『時間逆転装置』が動いたら、時間が巻き戻るんだから、あんたが倒した忍者たちも、あんたと戦う前の状態に戻って、全員が生き返るじゃない? その後でお客になるかもしれないでしょう?」
「あっ、そうか…………。そう言えば、『時間逆転装置』を動かして、この世界の地球を爆発する前の状態に戻したら、それといっしょに、この世界の滅亡を望んでいるヤツらも、全員が生き返ってしまうな……………………」
オレは、自分がピンチなのも忘れて考え込む。
「そうすると、生き返ったそいつらが、又、地球を爆発させるだろうから、同じ事のくり返しになるのか…………。アオ先輩は、そのくり返しを、どうやって止めるつもりなんだろう?」
そうやって考え込んでいるオレを横目に見ながら、ヒスイは風呂敷包みから、ペットボトルに入った一本の水を取り出す。
「あんたが、有り金の全て出すのなら、この水を売ってあげてもいいわ」
「? ? ? ……その水は、なにか特別な水なのか?」
「いいえ、普通の水よ」
そう言いながら、ヒスイはオレの目をじっと見つめる。
ヒスイの表情からは、なにも読み取れないが、オレは何かを感じて決断する。
「分かった。オレの有り金の全てで、その水を買おう」
それを聞いたヒスイは、表情を変えないまま、オレの胸の谷間から財布を抜いて、その中身の全てを自分の財布に移す。
さらにオレの財布を胸の谷間に戻したヒスイは、フタをゆるめたペットボトルも、そこにねじ込む。
「おい、おい、ヒスイ! そんな物をそんなところにねじ込むなよ! 胸の弾力で、すぐに飛び出してしまうだろ!」
しかし、ヒスイは手を止めず、胸の谷間にペットボトルをねじ込まれた間抜けな格好のオレに、分かれを告げる。
「じゃあね、ユキ。次に私を呼ぶ時は、読者がもっと喜ぶ新しい服が買えるように、ちゃんと二~三人倒しておいてね」
そして、ビスイの姿が消えると同時に世界に色が戻って、時間が動き出す。
すると、その瞬間に、オレの胸の谷間から飛び出したペットボトルが、ロボット忍者の後頭部に当たって、はずみでフタが外れて水があふれる。
「ギ……ギギ…………ギギギギ……」
「? なんだ?」
その水がかかったとたんに、ロボット忍者の身体から、異音がすると同時に煙が出だし、動きがぎこちなくなる。
「ただの水だろ? どうなっているんだ?」
オレがそんな疑問を口にしていると、そこへ跳び込んできたアオ先輩が、オレの首を切断する。
その次の瞬間に、オレの身体が、ロボット忍者に串刺しにされた状態のまま再生されて、手足や、その手に持っていた鎖ドクロも復元される。
それを確認したアオ先輩が、素早くオレから離れながら叫ぶ。
「ユキ! どうやら、そのロボット忍者の弱点は水のようだ! たぶん、そいつは防水加工していないんだ!」
「はあ? この世界で十本の指に入る最強レベルの忍者が、防水加工していないなんて、あり得ないだろ!」
「誰もが、そう思うから、今まで誰にも気が付かれなかったんだな!」
という事は、ロボット忍者が、串刺しにしたオレの身体を高く持ち上げて、オレから流れる血が自分にかからないようにしていたのも、ちゃんと意味のある行動だった訳か。
それでオレは、身体を串刺しにされた状態から、動きが鈍くなったロボット忍者を蹴って、突き刺さった刀を抜きながら跳ぶ。
「くそ! 最初にこれを試していれば、楽勝だったのかよ!」
そう言いながら、オレは鎖ドクロを、海賊忍者の黒ひげから取り込んだ『水』に切り替えて、ロボット忍者に向かって突っ込む。
ロボット忍者は、何本もの『刃』を発生させてオレを止めようとするが、その攻撃にも以前のような勢いはなく、オレの鎖ドクロは簡単にそれをはじく。
「ぶっ壊れろ! このポンコツめええええええええええええええええ!」
そのまま『水』属性の攻撃を連続で受けたロボット忍者は、身体をマヒさせて反撃できないまま、断末魔の叫びを上げる。
「グ……ギギ……ゴ……ガガガガガ…………ガガ!」
すると、ロボット忍者の身体を構成する金属のパーツが分解してバラバラになって、頭の中にあった機械ドクロが、オレの鎖に取り込まれる。
「これで六人目! 残りは、たった三人だ!」
オレが叫ぶと、アオ先輩も、大地の破片を跳び移りながら横に来て喜ぶ。
「よくやったぞ、ユキ! これで、この世界を救う事にも現実味が出てきた!」
しかし、オレの耳の中にいる妖精忍者のスイショウは、ため息をつく。
「……ロシアのロボット忍者さんが、防水加工すらしていなかったなんて、私も知りませんでしたよ…………。ロボット忍者さんなら、きっとユキさんを止めてくれると、期待していたのに…………」
それを聞いたオレは、アオ先輩に気付かれないように、小さい声でささやく。
「残念だったな、スイショウ! まあ、オレも、たまたま異世界商人から水を買っていたから、偶然、助かったんだけどな!」
「…………そういえば、ユキさん、なんで手足が切断されたあの状況で、水なんて買ったんですか? 手がなかったら水なんて飲めないでしょう?」
「え? いや、なんだ…………。オレも、あの時は動揺していたから、自分でも何を考えて水を買ったのか憶えてないな…………」
「ふーん…………そうですか……………………」
スイショウは、オレの言葉を怪しむが、実際のところ、ヒスイは何も言わずに水をすすめただけで、それを買ったオレも、それがロボット忍者の攻略に役立つとは知らなかったのだから、一応、ウソではない。
そして、スイショウと、そんなやり取りをしているうちに、再びコハクの心の声が聞えてきたので、オレはこの前の事を思い出して、コハクを問い詰める。
「ユキ! 聞いて……」
待て、コハク! オレの話が先だ! 確認したい事がある! お前、ひょっとして、この世界の滅亡を望んでいて、オレの戦いの邪魔をしているんじゃないだろうな?
「…………あら、ユキ。……あなた、以前にも、私があなたの心を消滅させたくて、戦いの邪魔をしているんじゃないかって疑った事があったけど、今度は、私が、世界の滅亡を望んでいるんじゃないかって疑っているのね?」
そうだ! お前がオレに話しかけてくる時は、最悪のタイミングが多いからな! それが続けば、わざとこの世界を滅亡させようとしているんじゃないかって疑うのは当然だろ!
「えーと、あなたが、そう疑いたくなる気持ちは分かるけど、本当に私は、世界の滅亡なんて望んでないわ」
本当だな?
「本当よ。だって、私とあなたは心がつながっているのよ。この状況でウソなんてつける訳がないでしょう?」
…………確かにそうだな……。いや……疑って悪かった。ごめん…………。
「いいのよ、気にしないで。私とあなたの仲じゃない」
…………言っとくけど、オレとお前は、友だちでも何でもないぞ! オレは、お前と身体を入れ替えられて、迷惑しているんだからな! ……………………ところで、お前の方の話ってなんだ?
「実はね……私の大切なチ〇コを切断したあの女医なんだけど、その弟が不動産関係の仕事をしていて、ヤクザとまではいかないけれど、ちょっと裏社会に近い存在だったのよ……」
ええ! それって、かなり面倒な事になるんじゃないのか?
「そうなのよ…………。あの女医は留置場に入れられた後で、面会に来たその弟に、私の方が複数の女と付き合っていたんだから、被害者は自分の方だって言ったみたいで、弟はそれを真に受けてるの……」
…………真に受けているというか、それが事実だろ! オレだって、オレの身体のチ〇コを切断されてなければ、その女医の方に同情しているよ! だから、オレは最初に、ハーレムなんて作るなって……。
「待って! それにどう対処するかは、もう決めたから大丈夫よ!」
……どう対処するか決めたって…………警察に相談するのが普通だろ?
「警察なんて、実際に被害を受けるまで動いてくれないじゃない! それじゃあ遅いから、先に話を付けに行くのよ!」
おい、おい、ちょっと待て! 話を付けに行くって、なんだよ! テレビドラマじゃないんだから、高校生の身体で、危険な大人のところへ乗り込んだりするんじゃないぞ!
「心配しないで! 柔道部の全員が付いて来てくれるって言ってるから!」
え? 柔道部の全員? 主将はともかく、他の部員が、なんでお前の個人的な問題に手を貸してくれるんだよ?
「あら、言ってなかったかしら? この柔道部は、私の新しいハーレムなのよ」
ぐわあああああああああああああああ! お前、ぜんぜん反省してないだろおおおおおおおおおおおおおおお!
「大丈夫だって! 体育会系の男の集団は、縦社会だから、序列どおりに扱うのさえ間違えなければ、もうチ〇コは切断されないから!」
そういう問題じゃねえええええええええええええええ! もとの世界に戻ったオレはどうなるんだよおおおおおおおおおおおおおおお!
「それも心配いらないわ! このチ〇コは、私が徹底的に鍛えたから、毎日十人くらい相手にしているけど、ぜんぜん平気よ!」
ぎえええええええええええええええ! 毎日十人の男を攻めてるのかよおおおおおおおおおおおおおおお!
そんなふうに取り乱したオレを、アオ先輩が現実に引き戻す。
「おい、ユキ! しっかりしろ! ようやく、次の大きな破片が見えてきたぞ! あれに跳び移るんだ!」
「あ? ああ…………分かった……」
ちょうど、そのタイミングで、コハクの方もオレとの心のつながりを切ったので、オレは頭を振って、目の前にある現実に集中する。
その巨大な大地の破片は、見渡す限りの全てが広大なジャングルで、それ以外は何も見えない。
「ユキ! ここは、アフリカの大地の破片のようだ! ずっとジャングルが続くから、樹木を跳び移りながら進むぞ!」
それでオレは、先輩の後ろを付いて行って、ジャングルの中の樹木を、音速で跳び移って行くが、木が生い茂っていて見通しが悪いから、移動するだけで神経がすり減る。
「先輩! オレが先頭になる! 鎖ドクロの『炎』で焼き払いながら進めば、少しは楽に移動できるはずだ!」
ところが、オレが先頭になって『炎』に切り替えた鎖ドクロを振り回していると、その周りに花吹雪が舞い始める。
「なんだ、先輩! これも敵の忍者の攻撃か!」
「いかん! 逃げろ、ユキ! これはアフリカの奥地に住む、部族忍者の…………」
そのアオ先輩の声がゆがんで聞き取れなくなっていくと同時に、オレの視界もゆがんで先輩の姿が何人にも見えだす。
「く……この花吹雪は……幻覚作用があるのか…………」
オレは鎖ドクロを前後左右に振り回して、威力を最大にした『炎』の輪を何重にも作るが、大量の花吹雪は『炎』の輪のすき間をぬって、目の前まで流れて来る。
「ダメだ…………このままでは……………………」
意識がゆがんでいく中で、それでもオレは、あきらめずに鎖ドクロを振り回し続ける。
なぜならオレは、コハクが作った新しいハーレムの中で、毎日十人の男を攻めている、かわいそうなチ〇コを取り戻さなければいけないのだ!