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第六章 さらば〇〇〇?

 三万倍のスローで崩壊していく大地が作る、巨大な滝に挟まれた海の上を、オレは音速で走る。


 背後から迫る、巨大な津波から逃げるためだ。


 海賊忍者の黒ひげが操る、その津波に追い付かれれば、オレは間違いなく、おぼれ死ぬ。


 忍法『その場復活の術』がかけられているオレは、何度死んでも復活するが、黒ひげが操る水に捕まれば、その中で死んで復活するのを、ずっとくり返す事になる。


 そうなれば、異世界の巨乳忍者の身体に入っているオレの心は、自分の本当の身体と大切なチ○コを取り戻せないまま、この世界とともに消滅してしまうのだ。


 オレは、そんな事にならないように、『氷』に切り替えた鎖ドクロを前後左右に振り回して、その威力を最大に保つ。


 そうやって、自分の身体の周りを何重もの冷気の輪で囲むものの、その程度の力では、巨大な津波を凍らせるのは無理だろう。


 それでオレは、津波の頂上に立つ黒ひげに向けて、『氷』と『風』を組み合わせた『氷竜巻』による遠距離攻撃を仕掛けてみるが、届くまでに時間がかかりすぎて、簡単に避けられてしまう。


 それ以上、何もいい手が思い付かないオレは、苦しまぎれに、心の中で異世界商人のヒスイを呼ぶ。


 その瞬間に周りの世界から色が消え、時間が止まって、オレも、オレの攻撃範囲から離れて走るアオ先輩も、オレの耳の中に入っている妖精忍者のスイショウも、津波の頂上に立つ黒ひげも、全てが静止する。


 そして気が付くと、ただ一人色が付いたヒスイが、大きな風呂敷包みを背負った着物姿で、オレの前の空中を漂う。


 メガネをふいて、かけ直したヒスイがこちらを見ると、口を全く動かしていないのに、その声が周りの空間に響く。


「ユキ、あんた、今、私を呼んでも、新しい服を買えるだけのお金が、まだ貯まっていないでしょう?」


 それに答えるオレも、時間が止まって口を動かせないのに、話そうと思った事が、今の身体である巨乳忍者の女の声で、周りに響く。


「今回は、服を買うんじゃない! 海賊忍者の黒ひげが操る水の中で、自由に動けるアイテムが欲しいんだ!」


 ヒスイは、それを聞いて鼻で笑う。


「そんなもの、ある訳ないでしょう。忍術で操られている水の中は、その忍術の支配領域なのよ。その中で自由に動くって事は、忍術を無効にするって事になるじゃない? そんな事ができたら、あらゆる忍術が意味のないものになってしまうでしょう?」


「くそっ! やっぱりそうか……。だったら、空を飛ぶ方法はないか!」


「前にあんたが倒した、海兵隊忍者のストーム大佐の事は憶えている? あの男みたいに大きな凧を背負えば、空を自由に飛べるわ。ただし、使いこなすには修行が必要よ。買ってすぐに使えるほど甘くないわ」


「じゃあ、もう手はないのかよ!」


「落ち着きなさい、ユキ。幸い、私は生き物も扱っているわ」


「生き物?」


「あんたの世界の、お話の中に出てくる忍者も、生き物を『しもべ』として使っていたでしょう? 犬とか、大蛇とか、巨大ガマ蛙とか」


「なるほど、そうか! じゃあ、巨大ドラゴンを売ってくれ! 百メートルくらいあるやつ!」


 ため息をつきながら、ヒスイはオレに説明する。


「…………あのね、そんな大物は、先にお金をもらってから、何週間もかけて仕入れるのよ。それに、そんなものが買えるだけのお金は、どこかの大名が住むお城を、一つまるごと、つぶさないと手に入らないわ」


 そう言いながらヒスイは、巨乳忍者の身体になっているオレの、胸の谷間から財布を引き抜いて、その中を見る。


「あんた、どうせ、あれから一人くらいしか倒してないんでしょう? …………この金額じゃ、ドラゴンどころか、天馬だって買えないわ」


「分割払いで頼む!」


「この世界は、三万倍に加速しているあんたの体感時間でも、あと五時間ほどで滅亡するかもしれないのに、商品を分割払いで売る訳がないでしょう?」


 オレが黙り込むと、ヒスイは頭をかく。


「…………じゃあ、今回だけ特別に、タカを三羽、黒ひげを倒すまでの間だけ、格安で貸してあげるわ。その背中を跳び移りながら戦いなさい」


 ヒスイは、大きな風呂敷包みの中にあった鳥かごを開けて、三羽のタカを空に放ち、それは、かごから出た瞬間に色が消えて、羽ばたいたポーズのまま空中に静止する。


「このタカには、ちゃんと『加速の術』もかけてあるから、あんたたちの速さに付いて行けるわ。ただし、貸すんだから、黒ひげに殺されないように、ちゃんと守ってあげるのよ」


 おつりを入れた財布を、オレの胸の谷間に押し込んで、ヒスイは再び風呂敷包みを背負う。


 次の瞬間にヒスイの姿が消え、世界に色が戻って、再び時間が動き出す。


 するとアオ先輩が、空に羽ばたく三羽のタカを見て感心する。


「なるほど、タカの背中を跳び移りながら、津波の頂上に立つ黒ひげのところまで行くのか! お前も考えたな!」


「オレじゃなくて、ヒスイが考えた方法だけどな! 先輩! オレに遅れるなよ!」


 三万倍のスローでうねっている海面を蹴ったオレは、最も低く飛んでいるタカの背中を踏んで、さらにその上に跳ぶ。


 そうやってオレは、ヒスイから借りているタカの背中を跳び移りながら、同時に『氷竜巻』を放って、黒ひげにタカを攻撃する余裕を与えない。


 しかし黒ひげは、巨大な津波を操るのに全ての力を使っているからなのか、オレが放った『氷竜巻』を避けるだけで、こっちを攻撃しようとする気配を全く見せない。


 まるで、こっちが近付くのを待ち構えているようで、嫌な予感がするが、たとえそうだとしても、オレが黒ひげを倒すには接近するしかない。


 それでオレは、津波の頂上と同じ高さまで上がったところで、水煙で覆われてぼやける黒ひげに向かって、威力を最大にした鎖ドクロを振り回しながら、突っ込んで行く。


「おりゃああああああああああああああああ!」


 ところが、オレが鎖ドクロでなぎ払ったとたんに、黒ひげの身体がゆらめいて消える。


 その姿は、忍術で水煙に投影された幻だったのだ。


 津波の頂上に降りて、そこを音速で走るオレの周りに、黒ひげの声が響く。


「ふはははははは! わざわざ、ここまで来るとは、愚か者め! もう逃げられんぞ!」


 その言葉が終わると同時に、オレの真下の海面から長いモリが飛び出して、オレの身体を貫き、勢い余って黒ひげ自身も、水しぶきを上げながら海面に出る。


 黒ひげは、そのままオレを、海中に引きずり込むつもりだろう。


 だが、貫かれたはずのオレの身体がゆらめいて消えたので、黒ひげは驚く。


「ぐわ! しまったあ!」


 そのオレの姿も、さっきの黒ひげと同じく、水煙に投影された幻だったのだ。


 もちろん、『幻影の術』で偽の姿を投影しているのも、『気配隠しの術』で本物のオレの姿を隠しているのも、アオ先輩だ。


 オレは、少し離れた水煙の中から飛び出して、黒ひげに突進する。


「どうだ! 姑息で卑怯な忍術を使わせたら、アオ先輩の方が、お前よりずっと上だろう!」


 そう叫びながら、オレは、『氷』に合わせた鎖ドクロを黒ひげに連続でたたき込んで、周りの海面を凍らせながら、その身体を削っていき、黒ひげは海中に戻る事もできずに、断末魔の叫びを上げる。


「ぐわああああああああああああああああ!」


 死んだ黒ひげの、凍った肉がボロボロとはがれて、その後に残った骨の頭の部分が、いつものようにオレの鎖に取り込まれると、それ以外の部分は粉々に砕けて消える。


 それと同時に、黒ひげの忍術で作られていた巨大な津波が、大きな水しぶきを上げながら崩れていき、オレとアオ先輩は、タカの背中を跳び移って、そこから離れた海面に降りて、再び音速で走り出す。


 オレは、初めて苦痛を感じる事なく戦いに勝てて、とにかくうれしい。


「先輩! 今回は、先輩が得意とする姑息で卑怯な忍術のおかげで、無傷で勝てたよ! 次回もこの調子で頼む!」


「ユキ! 前にも言ったが、そういう姑息で卑怯な忍術の方が、本来の忍者が使うべき正当なものなんだぞ! バカにするんじゃない!」


「ごめん、先輩! でも、オレが安全に勝てた方が、先輩も安心だろう? 南極にある『時間逆転装置』を動かして、爆発したこの世界の地球を元に戻すためには、あと五人いる、最強レベルの忍者たちの、全員を倒さなければいけないんだからな!」


 すると、オレの耳の中にいる、妖精忍者のスイショウがため息をつく。


「ユキさん、黒ひげまで倒しちゃったんですね……。ひどいです…………」


 それを聞いたオレは、アオ先輩に気が付かれないように小さな声でささやく。


「なんだよ、スイショウ、この世界が滅亡したら、お前だって消滅するんだろう? それなのに、なんでお前たちは、この世界が滅亡するのを望むんだよ?」


「その理由を説明したって、どうせユキさんは、分かってくれません! でも、このまま南極まで行ったら、ユキさんだって絶対に後悔しますよ!」


「オレは、自分の世界の本当の身体と、大切なチ○コさえ取り戻せれば、それでいいんだ。その後で何が起きたって知った事じゃないから、後悔する訳がないだろ! だいだいお前、事情も話さずに、オレを止めようなんて、考えが甘いぞ」


 そう言っていると、再び世界から色が消えて時間が止まり、ヒスイが現れて、その声が周りに響く。


「どうやら、ちゃんと黒ひげに勝てたようね。私が貸したタカも、三羽とも無事で良かったわ」


「ヒスイ、ちょうどいい! お前は次元を超えた存在だから、この世界の地球が爆発した理由や、この世界が滅亡するのを望んでいる連中がいる理由も、全て知っているんだろう? それをオレにも教えてくれよ!」


「ダメよ、ユキ。私たち異世界商人は、全てのお客に対して中立でないといけないから、その情報は教えられないわ。私は、あんたが戦う相手とも、商売をするのよ」


「えー! なんか、ヒントくらいくれよ!」


「どんなに小さな情報も教えられないわ。自分の頭で考えなさい」


 ヒスイは空中を漂いながら、時間が止まって空中で静止しているタカのそばまで行って、それを鳥かごの中に回収していく。


「お金を払っても、ダメなのか?」


「お客の信頼を失ったら、商売そのものができなくなるから、あんたがどんな大金を払っても教えないわ。いいかげんに、あきらめなさい」


 その言葉を最後に、ヒスイの姿が消えて、世界に色が付くと同時に時間が動き出す。


 それからすぐに、海が広がる大地の破片の端に着いたオレたちは、そこから、三万倍のスローでゆっくりと吹き上がる溶岩を避けながら、小さな破片を跳び移って、次の新しい巨大な破片の上に乗る。


 そこに広がるジャングルの中には、巨大な遺跡が建ち並んでいた。


「これは、中南米のマヤ遺跡だな! 映像で見た事があるよ! しかし、オレの世界のものより、ずいぶん大きいな!」


 遺跡の上を音速で走りながら、オレがそう言っていると、前方のジャングルが盛り上がって、石でできた巨人が立ち上がる。


「気を付けろ、ユキ! あれはゴーレム忍者だ!」


「おい、おい、先輩! エジプトにいたミイラ忍者も、生き物じゃなかったけど、これは完全に、ただの石じゃないか! こんなものまで忍者なのかよ! ……と言うか、あの大きさの忍者の衣装は、あいつが自分で縫ったのか?」


「ユキ! 今はそんな事を考えている場合じゃない! それより、あいつの頭に、水晶でできたドクロがはまっているのが見えるか? その部分には、お前の『死骨支配の術』がちゃんと効く! だから、そこを攻撃するんだ!」


「ちょっと待て! それは逆に、あの水晶のドクロ以外の部分は、攻撃しても無駄って事かよ!」


「そうだ!」


「くそ! あんな巨人を相手に、そんな小さな弱点を狙わなきゃいけないのかよ! 不公平だろ!」


 そう叫ぶオレの頭上に、巨大な岩が生成されて降って来る。


「うわ! 先輩、離れていろ! 岩につぶされて死んだら、『その場復活の術』で身体が再生されても、岩の下で死ぬのをくり返してしまうぞ!」


 降って来る岩を避けながら遺跡の上を走るオレを、さらにゴーレム忍者の巨大な腕がなぎ払って、遺跡が砕け、組んであった石がバラバラと飛び散る。


「これは、もう、忍者と言うより怪獣だろ!」


 オレは、そう言いながら、鎖ドクロを、ミイラ忍者から取り込んだ『砂』に切り替えて、それを振り回し、身体の周りを、何重もの『砂』の輪で包む。


 すると、オレの周辺が砂煙で包まれて、その中に姿が隠れ、ゴーレム忍者の攻撃が離れた場所に当たるようになる。


 その隙を突いて、ゴーレム忍者の腕に跳び乗ったオレは、その上を肩まで走り、『加速の術』のせいで足を止める事ができないから、頭の周囲をぐるぐる走り回りながら、そこにはめられた水晶のドクロに、鎖ドクロをたたき込む。


「砕けろおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ゴーレム忍者は、もがきながら、オレの身体をつかもうとするが、オレは、その手の上に跳び乗って、それをかわし、さらにつかもうとした、もう片方の手もかわして、再び肩に跳び乗る。


「これは今回も無傷で勝てそうだな!」


 ところが、そう思った瞬間に、オレは、ゴーレム忍者の第三の腕につかまれる。


「はあ? 腕が三本とか、反則だろ!」


 オレの耳の中にいる妖精忍者のスイショウが叫ぶ。


「ユキさん! 早く逃げないと!」


 そう言われても、どうする事もできず、オレは、耳の中にいるスイショウといっしょに、ゴリゴリと握りつぶされる。


「ぐええええええええええええええええ!」


「キャアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 その次の瞬間には、ゴーレム忍者が握った手の中で、オレも、スイショウも、自分の身体にかけられた『その場復活の術』で再生されるが、そのまま、すぐに再び握りつぶされる。


「ぐええええええええええええええええ!」


「キャアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 これは脱出不能の、永久ループだ。


 オレは、たまらずに、身体が再生された瞬間に、異世界商人のヒスイを呼んで、時間を止める。


 だがそれは、アクションゲームで死亡が確定した瞬間に、ポーズをかけたのと同じで、ポーズを解除すれば死ぬという事実は変わらない。


 そして、そんな絶望的な状況なのに、ヒスイはオレに冷たい。


「……あのね、こんな状況で私を呼んでも、なんの力にもなれないわよ」


「分かってるよ! でも、なんか、あるかもしれないじゃないか! この状況から脱出できる、画期的な方法が!」


「ないわよ」


「くそー! なにか考えるふりくらいしろよ!」


 そんなところに、さらに、コハクの心の声まで聞こえてくる。


「ぎゃああああああああああああああああ!」


 うわ! どうしたコハク!


「チ、チ、チ〇コを、切断されたああああああああああああああああ!」


 なんだとおおおおおおおおおおおおおおおお!


「女子中学生とS〇Xしようとしていたらあああ! 泌尿器科の女医があああ! 私の大切なチ〇コをををををををををををををををを!」


 おいいいいいいいいいいいいいいいい! だから、ハーレムなんて作るなって、言っただろおおおおおおおおおおおおおおおお!


「ぎゃああああああああああああああああ!」


 うわああああああああああああああああ!


 そんなオレたちに、ヒスイは、さらに冷たく言う。


「ちょっと、あんたたち、少しは読者の事を考えなさいよ。そんなに絶叫ばかりしていたら、読んでいても、ちっともおもしろくないでしょ」


「読者ってなによおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 オレだって、知らねええええええええええええええええ!


「あんたたちのお話は、完結するまで、まだあと半分もあるんだから、二人とも、自分の力でなんとかしてよね」


「あと半分って何いいいいいいいいいいいいいいいい?」


 オレに聞くなああああああああああああああああ!


 ヒスイが訳の分からない事を言っているが、オレも、コハクも、自分の絶叫を止められない。


 しかし、本当に、この状況を何とかできるものだろうか?

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