第五章 〇〇〇を犯罪に使うな!
異世界で巨乳忍者の身体になっているオレは、切断された両腕の断面から大量の血を流しながら、砕けたエジプトの大地の破片の上に広がる砂漠の上を、音速で走って逃げる。
両腕も武器もない状態でミイラ忍者に捕まれば、そこから二度と抜け出せず、爆発して粉々に砕けた、この世界の地球を元に戻せなくなるし、自分の世界の本当の身体と大切なチ○コも取り戻せなくなってしまう。
だが幸い、ミイラ忍者の武器である古代エジプトの二本のナイフは、普通のナイフよりは刃が長いものの、かなり接近されなければ刺される心配はない。
だからオレは、背後に迫るミイラ忍者よりも、そいつが操っている、砂漠から盛り上がった巨大な砂の触手の方を注意する。
砂の触手は、巨大な蛇のように、うねうねと予測しにくい動きをしながら、オレに突っ込んでくるので、オレはそれをギリギリまで引き付けて、最小限の動きで避ける。
オレの進路が大きく蛇行すれば、その分だけミイラ忍者に距離を縮められてしまうから、砂の触手をギリギリで避ける必要があるのだが、それを何度もくり返しているうちに神経がすり減って、だんだん避け方が雑になる。
それで、少しずつ距離が縮まって、ついには、すぐ背後で、オレの背中にナイフを突き刺そうとする、ミイラ忍者の気配を感じる。
けれどオレは、その瞬間にふり返って、勢いを付けて自分からそのナイフに覆いかぶさり、その長い刃が、オレの腹から背中に突き抜ける。
オレは、そのまま自分の両脚を、ミイラ忍者のナイフを持った腕にからめ、全身をひねってその腕を肩から引きちぎる。
さらに、空中で一回転して砂を蹴ったオレは、自分の背中に突き出したナイフが、ミイラ忍者の首すじに当たるように、背中から身体をぶつけに行く。
そのオレの攻撃は、あまりにも無防備で、急所を狙われたら即死なのだが、オレを殺してしまえば、忍法『その場復活の術』で身体が再生されて両腕も復元されるから、ミイラ忍者は、そうなるのを避けるために、もう片方の腕に握ったナイフで、オレの背中から突き出したナイフをはじいて、一旦、距離をあける。
だが、オレもアオ先輩も、ミイラ忍者がそう動くのを待っていた。
なぜならミイラ忍者は、自分が接近する時だけ、砂の触手による攻撃を止めていたので、その時にミイラ忍者がオレから離れれば、そこが完全な安全地帯になるからだ。
その一瞬のチャンスを逃さずに、音速で走って来たアオ先輩がオレの首を切断して、次の瞬間に、両腕もつながったオレの新しい身体が再生される。
忍法『その場復活の術』で再生された身体は、身に付けていた全ての装備もいっしょに復元されるので、砂に落としてしまった鎖ドクロも、しっかりとオレの腕の中に戻ってくる。
それを見たミイラ忍者は、あわてて砂に飛び込もうとするが、その動きを予測していたオレは、あらかじめ鎖ドクロを、半魚人忍者から取り込んだ『泥』の属性に合わせていたので、それを振って動きを封じる。
「逃がすか!」
『泥』がまとわりついて身体を動かせなくなったミイラ忍者は、それまで音速で走っていた慣性が残っているから、ものすごい速さで砂漠の上を転がる。
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアア!」
オレは、砂煙を巻き上げながら転がるそいつを音速で追いかけて、『炎』に切り替えた鎖ドクロを連続でたたき込む。
「燃えろおおおおおおおおおおおおおおおお!」
その『炎』は、ミイラ忍者にまとわりついていた『泥』を乾燥させて、はがすのと同時に、もともと乾燥していたカラカラのその身体を勢いよく燃やして、断末魔の叫びが砂漠に響く。
「アツイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
転がりながら死んでいくミイラ忍者の身体から灰が飛び散ると、いつものように、残った骨の頭の部分が、オレの鎖に六番目のドクロとして取り込まれ、それ以外の骨は粉々に砕けて消える。
オレは、それを確認して、音速で走ったまま、ようやく溜めていた息を吐く。
粉々に砕けた地球の巨大な破片が、三万倍のスローでゆっくりと漂う中で、アオ先輩は、音速で走りながらオレの横に並び、風を切る音に負けないように大声を出す。
「これで、ぼくたちの邪魔をする最強レベルの忍者の三人を倒し、残りは六人になった! ここまでは順調だぞ、ユキ!」
「なに言ってんだよ、先輩! オレは今回も、両腕を切断された上に、背中に突き抜けるまでナイフで腹を刺されたんだからな! 身体が切断されたり、ナイフが突き刺さったままだったりしたら、回復薬も効果がないから、ずっと痛かったんだぞ! これのどこが順調なんだよ!」
オレは、巨乳忍者の身体から出る女の声で、強く抗議するが、アオ先輩はそれを軽く受け流す。
「そんなに怒るな! 南極に行って『時間逆転装置』さえ動かせば、お前は元の世界の自分の身体に戻れるんだ! そうすれば、ここであった苦しみなんて、全ていい思い出になる!」
「いい思い出になんかなるか!」
オレはそう言うものの、これから先、どんなに苦しい目にあうとしても、自分の大切なチ○コを取り戻すには、この先輩といっしょに南極まで行くしかないので、ひとまず文句は飲み込んで、最初からずっと疑問だった事を口にする。
「ところで、先輩! なんで生き残っている忍者たちはみんな、オレたちが、この世界を救おうとしているのを邪魔するんだ?」
そのオレの疑問には、答えるアオ先輩も、歯切れが悪くなる。
「いや、ぼくにも真相はよく分からないんだ! ただ以前から、徳川幕府に弾圧された宗教団体が、この世界を滅亡させる事を計画しているらしいという、うわさは流れていた!」
「……そうなのか? ……確かに、徳川幕府が全世界を支配しているのなら、世界中の多くの宗教が弾圧されて、その不満は大きいだろうが…………。それでも、世界を滅亡させるって事は集団自殺をするのと同じだから、宗教団体が計画する事じゃないだろう?」
そう言いながらも、オレは、自分のいた世界でも、昔、信者たちの全員を巻き込んで集団自殺をした宗教団体があった事を思い出す。
人間の集団は、時として常識では考えられないような事をするものなのだ。
ひょっとして、この世界の地球を爆発させた者たちは、自分たちの宗教を認めないのなら、そんな世界など存在しなくていい、とでも考えたのだろうか?
「ユキ、人間の考える事は、その本人にしか理解できない! いや! その本人も、自分の考えを完全に理解できているとは限らないだろう! だから、その事は、あまり考えるな! 考えすぎると、戦いに集中できなくなるぞ!」
「…………そうだけど、最強レベルの忍者十人のうち、この身体の持ち主だったコハク以外の九人もが、世界を滅亡させようとしているなんて、絶対に変だろ!」
音速で走りながら、そんな話をしているうちに、エジプトの大地の破片の端まで来たので、オレたちは、三万倍のスローで噴き上がる溶岩を避けながら、細かい破片を跳び移って、次の巨大な破片に乗る。
その破片の上には、広大な海が広がっていた。
ただし、そこに広がる海は、砕けた大地がゆっくりと崩壊していく中で生まれた段差によって、ナイアガラの滝を何百倍にもしたような巨大な滝が、何百もの数で作り出されていて、それが三万倍のスローでゆっくりと流れ落ちている。
両側を巨大な滝にはさまれた海の上を音速で走りながら、オレはその光景に息をのむ。
「海が割れる映画を見た事あるけど、これは、そんなものをはるかに超えているよ!」
爆発した瞬間の地球の破片の上を三万倍に加速して走るなんて、異世界の忍者でもなければ体験できない事だから、この光景を自分の目で見れた事だけは、いい思い出になるかもしれないと、その時、初めてオレは思った。
ただし、それは、もとの世界の自分のチ〇コを無事に取り戻せればの話だが。
オレが、音速で海の上を走りながら、そんな事を考えていると、突然、すぐ近くから、知らない少女の声が聞こえる。
「あのう、ユキさん、お話してもいいですか?」
オレは、その声をした方を見るが、周りには誰もいない。
一瞬、コハク以外の誰かが、オレに忍法『心つなぎの術』を使ったのかとも思ったが、それは心の声ではなく、ちゃんと耳から聞こえる普通の声だ。
「ユキさん、今から、あなたの目の前に行きます。でも、大きな声は出さないでくださいね。アオさんに見付かったら、私、大変な目にあいますから…………」
? ? すぐ横を走っているアオ先輩に見付かったら大変な目にあうと言いながら、オレの目の前に行くってどういう事だ?
そもそも、声が聞こえるのに、なぜ姿が見えない?
まさか透明人間とか?
しかし、それからしばらく待っても誰も現れず、声も聞こえないので、オレは、もう少しでアオ先輩に、その声の事を聞きそうになるが、その直前でどうにか、その少女の存在に気付く。
それは、忍者の格好をした妖精で、ずっとオレの目の前を飛んでいたのだが、その大きさが蚊ほどしかないので、なかなか気付かなかったのだ。
なるほど、確かにこれほど小さければ、すぐ横を走るアオ先輩も、オレが知らせなければ気付かないだろう。
それから、目の前にいたその妖精忍者が消えると、再び声が聞こえてきて、自分の名前はスイショウ(水晶)で、年令は十三才だと教えてくれる。
どうやらスイショウは、オレの耳の中に入って話しているようだ。
蚊ほどの大きさしかないスイショウに耳の中に入られても、皮膚の感覚ではそれを感じられず、声だけが聞えるのだ。
オレは、アオ先輩にバレないよう、ささやくようにスイショウに話しかける。
「オレの住む世界での、お話の中に出てくる妖精は、小鳥くらいの大きさか、人間と同じ大きさが一般的だったから、この世界の妖精がこんなに小さいとは思わなかったよ。……って、オレの声、聞こえるか?」
「はい、聞こえます。骨伝導と言いまして、ユキさんの声は、その頭の中の骨を伝わって、耳の中にいる私にも届きます。それで、私がここにいる限り、ユキさんが、どんなに小さな声で話しても、風を切る音なんかにもかき消されずに、その声はちゃんと聞こえるのです」
「そうか……。あと、いちいち突っ込むのもなんだけど、この世界って、妖精までもが忍者になるんだな」
「ええ、そうです。ユキさんだって、もしも魔法が使える世界に生まれたなら、それを使うために魔法使いになるでしょう? その世界で最も強い力を、自分だけが使えないのは嫌ですからね。それで、この世界で最も強い力は忍術ですから、みんなそれを使うために忍者になるのです」
「確かに、そうだな……。ところでスイショウ、話ってなんだ?」
オレがそう聞くと、とたんにスイショウは、ビクビクし始める。
「はい! あのう…………えーと、ユキさん……言いにくいのですが…………できれば、南極に行くのをやめてもらえませんか?」
「なんだよ、スイショウ! お前も、この世界が滅亡するのを望んでいるのかよ!」
「ヒッ! 殺さないでください! 消滅するのは嫌です!」
「……殺さねえよ! オレの邪魔をしなければな…………。って、どうせこのままだと、この世界が滅亡して、結局、お前は消滅するじゃないか! そっちで消滅するのは構わないのかよ!」
すると、その時、アオ先輩が叫ぶ。
「いかん、ユキ! カリブ海の海賊忍者、黒ひげだ!」
その声を聞いて振り向いたオレは、自分たちの背後に、いつの間にか、巨大な津波が発生しているのに気が付く。
その津波の上には、忍者の恰好をした海賊が立っていて、音速で走っているオレたちを、同じ速さで追いかけて来る。
しかし、オレたちが走っている海は、三万倍のスローがかかった状態で波が大きくうねっていて、その上を進むオレたちは、まっすぐ進む津波にくらべて、どうしても遅れてしまう。
「先輩! このままじゃ、あの津波に巻き込まれてしまう! でも、あんなに巨大な波は、オレの鎖ドクロの『氷』では、凍らせられないぞ! どうすればいいんだよ!」
「今、考えているところだ、ユキ! くそ……海がある大地の破片に乗ったのは失敗だったか…………」
そこへ、オレの耳の中から、スイショウが話しかけてくる。
「ユキさん、もうあきらめて、この世界の事は放っておきませんか?」
「お前は黙ってろ!」
「ヒッ! ごめんなさい!」
「なんだって、ユキ?」
「いや、今のは独り言だ! 先輩に言ったんじゃない!」
ところが、そんなところへ、コハクの心の声までが聞こえてくる。
「ユキ、調子はどう?」
今、取り込み中だ! オレに話しかけるのは後にしてくれ!
「あら、そっちの世界は、こっちの世界より時間の流れが遅いから、そっちの状況が変わるまで、こっちで何日も待たなきゃいけないじゃない。そんなのは嫌よ」
だったら、要点だけ言え! 今度はなんだ!
「今回はいい話よ! 淋病が治ったの! 抗生物質がちゃんと効いたから、順調に治療が終わったわ! もう、私のチ〇コは、もとどおりよ!」
それは、お前のせいで悪くなっていた事が、普通の状態に戻っただけだ! いい話でもなんでもない! あと、そのチ〇コはオレのものだ! お前のじゃねえ!
「それでね、その時に通っていた泌尿器科の女医さんと、今、付き合っているの」
オレの話を聞け! コラ! …………でも、学校の保健室の先生とは別れたんだな。良かったよ。淋病をうつすような女と付き合うのは危険だからな。
「あなたのお母様も、お父様にうつしてたじゃない」
その話はするな!
「それに、保健室の先生とは別れてないわよ」
え? どういう事だ?
「いつも三人でS〇Xしてるの」
ふざけんじゃねえ! オレのチ〇コを使って、勝手な事をするなあ!
「大丈夫よ。あなたのお母様に、毎日、精の付くものを作ってもらってるから、二人くらい、ぜんぜん平気よ」
そんな心配はしてねえええ!
「むしろ、余裕だから、もう三~四人と付き合おうと思って……」
やめろおおお! オレが、その身体に戻った時に、どうなるんだよおおお!
「いいじゃない。ハーレムよ。男の子のあこがれでしょう?」
うわあああ! そんなもの、実際に作ったら大変な事になるに決まってるだろおおお! 絶対に血みどろの争いが始まるから、作るんじゃねえええ!
「今の二人は、どっちも年上だから、次は、同年令一人と、年下二~三人がいいなあ。ところで年下の場合、この世界では、何才くらいの子までならS〇Xしても許されるのかしら?」
話を聞けええええええええええええええええ! オレを犯罪者にするなああああああああああああああああ!
そこへ、さらに、妖精忍者のスイショウが、しつこくオレの耳の中から話しかけてくる。
「ユキさん、南極に行くなんて、危険ですよ! 強い忍者が何人もいるんですから! このまま、そのへんを、ぶらぶらしている方が幸せですよ!」
その上、アオ先輩も、音速で横を走りながらオレに説教を始める。
「ユキ! お前、どうせ又、コハクと話しているんだろうが、あいつとは、あまり話をしない方がいいぞ! あいつの事は無視して、今は目の前の戦いに集中しろ! でないと、この世界を救えなくなるぞ!」
それに加えて、背後から、海賊忍者の黒ひげの声まで聞こえてくる。
「お前らあああ! 逃がさんぞおおお! おれ様が、お前らを、この海の中に閉じ込めてやるううう!」
もうオレも、我慢の限界だ。
「ああああああ、うるさいいい! オレは自分のチ〇コさえ取り戻せれば、それでいいんだあああ! それを邪魔するヤツは誰であろうとも、絶対に殺すううう!」
オレは、そう叫びながら、自分の武器である鎖ドクロを振り回す。
なんとしてでも、この世界を救い、自分のチ〇コが犯罪に使われる前に、それを取り戻すのだ!