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第十一章 本当の敵は〇〇かよ!

 異世界で巨乳忍者の身体になっているオレは、ナデシコにかけられた忍法『淫乱の術』によって、みなぎる性欲を、数学の問題を考える事で必死に抑える。


 これが、アフリカの部族忍者にかけられた幻覚みたいなものなら、先輩の『しもべ』であるヘビの毒で中和してもらえるが、性欲となると、そういう訳にはいかない。


 それでオレは、数学の問題で気をそらして、なんとか正気を保ちながら、追いかけて来るナデシコの攻撃範囲に入らないように、とにかく逃げる。


 なにしろ性欲は、生存よりも優先が高い、生物にとって最も強い欲望なので、それが暴走してしまったら、戦いに集中するなんて無理だからだ。


 相手の戦闘能力を確実に下げて、しかも毒で中和する事もできないのだから、これほど面倒な忍術は他にないだろう。


「くそ! こんなやっかいな忍術を使いやがって! さすがはコハクの母親だよ!」


 だが幸い、ナデシコが使う『淫乱の術』は、力を溜めて発動させる範囲攻撃の一種だから、その効果が持続する時間はそれほど長くないはずだ。


 たぶん、しばらくすれば自然にこの状態は解除されるだろう。


 それまで逃げきれば、再び戦う事ができる。


 ただ問題は、この忍術をかけられるたびに逃げ回っていては、ナデシコを倒すのに、余計な時間がかかって、その間に『時間逆転装置』が壊れてしまうかもしれない事だ。


 そうなればオレは、もとの世界に戻れずに、この世界といっしょに消滅してしまう。


 そんな事になるのは絶対に避けたいオレは、他に頼れる相手がいないので、仕方なく、異世界商人のヒスイを呼ぶ。


 しかし、この世界の時間が止まるとともに現れたヒスイは、こんな状態のオレを見て、あからさまに嫌な顔をする。


「まあ、けがらわしい、このメス豚! そんな状態で、私を呼ばないでちょうだい!」


「いや、オレだって、好きでこんな状態になっているじゃないんだ! 頼むから、オレの話を聞いてくれ!」


「あのね、私だって、それがナデシコの忍術のせいだって事は、ちゃんと分かっているわよ! でも、その状態は、時間が過ぎて解除されるのを待つしかないの! それなのに、私を呼んだら、この世界の時間が止まるから、その状態がずっと続くじゃない!」


「じゃあ、お前の商品の中にも、この状態を解除できる薬みたいな物はないのか?」


「……今のあんたが男の身体なら、性犯罪者に使う抗アンドロゲンという薬があるけど、それは女には効かないのよ……。それに、その薬だって、すぐに効く訳じゃないし…………。そもそも女の性欲を抑える薬なんて、普通では必要とされないから、商品になんてならないのよ!」


「そうなのか…………」


 がっかりするオレを見て、ヒスイはため息をつく。


「……………………ただし、性欲を抑えるんじゃなくて、完全に無くすなら、方法はあるわ」


「え?」


「男にも女にも効く、子供を作る機能を完全に止めてしまう薬ならあるのよ……。それを使えば、当然、性欲も無くなるわ…………」


「ちょ、ちょっと待てよ、ヒスイ! これはコハクの身体なんだから、さすがにそんな薬を使っちゃダメだろ!」


「話を最後まで聞きなさい、ユキ。『時間逆転装置』が動いて、爆発したこの世界の地球がもとに戻れば、コハクの身体だって、その薬を使う前の状態に戻るのよ。だったら、なにも問題はないわよね?」


「……いや、それは、そうかもしれないけど…………」


「ユキ、私もコハクの性格は知っているから、あの女が、今、あんたの身体を使って何をしているのか想像は付くわ。だから、あんたがコハクの身体に何かしても、それはお互いさまでしょう? コハクだって、自分の身体に戻った時に問題がなければ、いちいち気にしないわよ」


 ヒスイはそう言うが、オレはその方法をためらう。


「……………………ダメだ、ヒスイ……。いくら、この世界を救うためでも、そして、時間を巻き戻したら元に戻るとしても、他人の身体にそんな事をするなんて絶対にダメだ…………」


「この方法に抵抗があるのは分かるけど、もしも、この世界が滅亡したら、どの道、その身体は消滅するのよ。それに、そうなったら、あんたの心も消滅して、もとの世界に戻れなくなるんじゃないの? そうならないためには、手段を選んでいる場合じゃないと思うけど?」


 オレは、しばらく考えるが、それでもヒスイの提案には乗れない。


「ごめん、ヒスイ。オレの方から呼んでおいて、なんだけど、お前が提案する方法は、オレにはできないよ…………。今回は、なにも商品を買わなくて悪いけど、やっぱりオレは、このままナデシコと戦う事にする……」


「…………そう。……あんたが、そう言うのなら、私は構わないわ」


「……でも、お前と話して、なんかふっ切れたよ…………。ナデシコに勝てるかどうかは分からないけど、これが最後の戦いだし、思い切ってやってみる!」


 ヒスイは、オレのその言葉には返事をせず、その姿が消えると同時に、この世界の時間が動き出す。


 そしてオレは、再び数学の問題を考えながら氷の上を音速で逃げ続けて、ナデシコの『淫乱の術』の効果が消えたところで勝負に出る。


 この後、ナデシコが、もう一度『淫乱の術』を発動するには、オレにダメージを与えて、ある程度の力を溜める必要がある。


 オレが勝つには、その前にナデシコを倒すしかない。


 けれど、普通に戦っていては、オレが鎖ドクロで、ナデシコを圧倒するのは不可能だ。


 だからオレは走りながら、ナデシコの身体ではなく、ナデシコが持つ鎖ドクロそのものを狙って、そこに自分の鎖ドクロを絡ませる。


 互いの鎖ドクロを封じる、そのオレの行動には、さすがのナデシコも驚く。


「あっ!」


 そのままオレが鎖ドクロを力いっぱい引っ張ると、ナデシコも走りながら、自分の鎖ドクロを奪われないように、それを引っ張る。


 その瞬間にオレは、鎖ドクロから手を離して、バランスを崩したナデシコに向かって突っ込みながら叫ぶ。


「先輩!」


 後ろを走っていた先輩が、オレの意図に気付いて刀を投げ、オレは空中でそれをつかんで、ナデシコの心臓に突き刺す。


 しかしナデシコは、その寸前に鎖ドクロを絡めて、オレが持つ刀を受け止める。


 だが、そのオレの攻撃も、ナデシコの気をそらすのが目的で、本当の狙いは、それとは別にあった。


 ナデシコがそれに気付いて、小さくうめく。


「うっ!」


 いつの間にかナデシコの背中にくっ付いていた、先輩の『しもべ』であるヘビが、その首すじを噛んだのだ。


 それと同時に、すかさずオレは刀を払って、絡み付いていた自分の鎖ドクロを、ナデシコの鎖ドクロから引き戻すと、持っていた刀を背後の先輩に投げながら、再びそれを手に構える。


 そこからは互いに、音速で走ったまま、鎖ドクロでの乱打戦になる。


 ナデシコは、ヘビの毒が身体にまわって、だんだん鈍くなっていく自分の動きをカバーするために、鎖ドクロを『泥』に切り替えて、オレの動きを封じようとするが、速さで上回っているオレは、その攻撃を全てはじく。


 そして、鎖ドクロを『蟲』に切り替えたオレは、毒がまわっているナデシコの身体に、それをぶつけて、さらに『蟲』をまとわりつかせる。


「どうだ、ナデシコ! こうなれば、さすがのお前でも、もう、どうにもできないだろ!」


 そう叫びながらオレは、最後に鎖ドクロを『雷』に切り替えると、一方的に攻撃を当てて溜め込んだ力の全てを使って、最大レベルの『雷撃』を発動させる。


「死ねええええええええええええええええ!」


 その瞬間に、雷雲が上空に渦巻き、そこからナデシコの身体に向かって、強烈な閃光がほとばしる。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 すでに身体を削られて、ボロボロになっていたナデシコは、その一撃で黒焦げになって、南極の氷の大地を音速で転がりながら、バラバラになる。


 その砕けた身体の燃えカスが灰になって流れ、残った骨の頭の部分がオレの鎖に取り込まれると、それ以外の部分は粉々なって消えていく。


 そうやって、オレの鎖につながったドクロは、もともとあった三個に、九個目が加わり、全部で十二個になる。


 その鎖ドクロを持つ手を高く上げたオレは、音速で走りながら叫ぶ。


「ついにやったぞ! 最後の一人を倒した! ハハハ、これで、もう、この世界にオレを止められる忍者はいないんだ!」


 後ろを走っていた先輩も、オレに追い付いて、背中をたたいて喜ぶ。


「さすがだ、ユキ! ナデシコは、お前と同じ能力を持っている上に、『淫乱の術』を使ってくるから、戦いが長引くんじゃないかと心配だったが、あっと言う間に勝負を決めたな!」


「それもこれも、オレがナデシコの気を引いている間に、先輩がこっそりヘビで攻撃してくれたおかげだよ! あの時、打ち合わせもしていないのに、先輩、よく一瞬でオレの意図に気が付いたな!」


 オレの言葉に、先輩は笑いながら答える。


「お前といっしょに行動して、まだ、たったの七時間ほどだが、その間ずっと、ぼくは、お前のそばで命がけの戦いを見てきたんだからな! これだけ濃い時間をいっしょに過ごしたら、お互いの考える事も、だいたい分かるだろ!」


「いや、オレは、先輩の考えている事は、ぜんぜん分からないよ! だって先輩は、いつも手の内を隠しているじゃないか! どうせ先輩は、まだいくつも奥の手を隠しているんだろう?」


 先輩は走りながら、それをはぐらかす。


「この世界の最強レベルの忍者の九人を倒して、もうお前にかなう忍者はいないはずだが、まだ最後まで油断はできない! 『時間逆転装置』を見付けて、それを動かすまでは、ぼくの手の内を教える訳にはいかないんだよ!」


「分かっているよ、先輩!」


 そう答えたオレは、耳の中にいる妖精忍者のスイショウにだけ聞こえるように、ささやく。


「おい、スイショウ! これでもう、オレがこの世界を救うのは、誰にも止められないぞ!」


 でも、なぜかスイショウからの返事がない。


「あれ? スイショウ? どうした? いないのか?」


 そういえば、ナデシコがオレにかけた『淫乱の術』は範囲攻撃だったから、オレの耳の中にいたスイショウも、オレと同じく、その術にかかっていたはずだ。


 ひょっとして、まだ十三才のスイショウは、その時に恥ずかしくなって逃げたんだろうか?


 オレがそんな事を考えていると、そこにコハクの心の声が聞こえてくる。


「ユキ、生きてる?」


 ああ、生きてるよ! ちゃんと、お前の母親に勝ってな!


「まあ、すごいじゃない! 私の母さんに勝つなんて、本当に、その世界で最強だわ!」


 そうだろ! でも、もちろん、オレ一人の力じゃないけどな! あと、そういう訳で、これからすぐに、この世界を救って、その身体に戻るからな!


「あら、残念ね……。私、もう少しこの世界を楽しみたかったんだけど…………」


 なに言ってんだよ! お前は、もう十分、楽しんだだろ! オレは、これから、それを収拾するのが大変なんだぞ!


「あ、そういえば、言うのを忘れてたけど、喜んで! 学校の退学が取り消されたわ!」


 え? 保健室の先生を妊娠させた件は、不問になったのか?


「ええ、そうよ! 校長先生が、私と保健室の先生の間には、愛があるから、その行為を罰するのはおかしいって、いろいろな人を説得してくれたの!」


 ……愛ねえ…………。お前は、ただ本能でS〇Xしまくっているだけだろう?


「失礼ね! ちゃんと愛はあるわよ!」


 …………そうは思えないけど……まあ、いいや…………。それでも、あの校長が、よくお前の味方になってくれたな……。てっきり規則にうるさい、融通がきかない人だと思ってたのに…………。


「もちろん、チ〇コを使ったのよ!」


 ふざけんじゃねええええええええええええええええ! あの校長、もうすぐ六十だろおおおおおおおおおおおおおおおお! そいつと、S〇Xしたのかああああああああああああああああ!


「ひいひい言って、喜んでたわよ!」


 うわああああああああああああああああ! もう、学校、行けねええええええええええええええええ! あの校長、毎朝、校門の前で立っているんだからああああああああああああああああ!


 そうやって、いつものように、コハクの話で気を動転させていたオレは、ものすごい爆発が周りで始まって我に返る。


「うわ! なんだ、この爆発は!」


「ああ、驚かせて、すまん、ユキ! 『時間逆転装置』の正確な位置が分からないから、こうやって爆撃して、南極の大地の氷を砕いているんだ!」


 見ると上空に、木で組まれた巨大なドローンがいくつも浮かんでいて、それが音速で走っているオレたちの周囲を飛び回って、爆弾の雨を降らせている。


「おい、おい、先輩! こんなものまで隠していたのかよ! …………でも、こんなにハデに爆撃して大丈夫なのか? 『時間逆転装置』が壊れてしまったら、ここまで来た意味がなくなるだろ?」


「大丈夫だ、ユキ! 『時間逆転装置』は、この程度の爆発では壊れない! なにしろ、地球が爆発した衝撃にも、一秒間は耐えられるくらいだからな! それに『時間逆転装置』は、壊れる直前に、自動的に時間を巻き戻してしまうから、そうなったら困る!」


 先輩が、突然、そんな事を言い出すので、オレはキョトンとしてしまう。


「…………え? 先輩……今、なんて言った?」


「だから『時間逆転装置』は、壊れる直前に、自動的に時間を巻き戻してしまうんだよ! そうなったら、この世界を滅亡させる事ができなくなるだろ? それじゃあ、ぼくは困るんだ!」


 その言葉を聞いて、オレの全身に鳥肌が立つ。


「……………………つまり、先輩は、『時間逆転装置』を動かすためじゃなくて……それが自動的に動くのを止めるために、ここまで来たって…………そう言うのか?」


 周囲で爆撃が続いている中、先輩は、オレの横を音速で走りながら、残念そうに頭を振る。


「…………やれやれ……。忍法『空耳の術』の効果が切れたか…………。もう少し、もつと思っていたんだが…………」


「……なるほど『空耳の術』か…………。それによって『時間逆転装置』に関する話の時だけ、オレやその相手の言葉を、事実とは違うものに、ゆがませていたんだな…………。卑怯で姑息な忍術が得意な、先輩らしいやり方だ……」


「ハハハハ、バレてしまったか! その術をかけたんで、コハクもお前も本気で、ぼくがこの世界を救う側で、他の忍者がこの世界を滅亡させる側だと、思い込んでくれた訳だ! コハクが、この世界を救うのは面倒だと言った時には、ちょっと困ったけど、その後で見付けたお前は、すぐに、ぼくの話を信じてくれたから、本当に助かったよ!」


 オレは走りながら、背中の鎖ドクロを外して両手に構えつつ、先輩に尋ねる。


「だが、そうすると、今、ここで先輩さえ倒せば、『時間逆転装置』が自動的に動いて、この世界を救えると同時に、オレも、もとの世界の本当の身体に戻れる訳だな?」


 そう言いながら、鎖ドクロを、先輩の身体にたたき込もうとしたオレは、その直前に、何かによって目玉をえぐられてしまう。


「ぐわああああああああああああああああ!」


 音速で走っているオレは、激痛と暗闇の中で、血がふき出している両目の穴を押さえながら、先輩の声を聞く。


「ハハハハハ! 今まで、お前と戦った相手は、みんな、お前を動けなくする事ばかり考えていたが、そんな手間など必要ない! 自分から死んで、身体を再生する事ができないお前は、目玉をくり抜かれただけで無力だ! ハハハハハハハハハハハハハハハハ!」


「くそおおおおおおおおおおおおおおおお! そこを動くなああああああああああああああああ!」


 オレはそう叫び、走りながら、やみくもに鎖ドクロを振り回すが、目を失った状態では、先輩がどこにいるのか分からない。


 そして、こうしている間にも、『時間逆転装置』を見付けられて、それを止められてしまえば、この世界は滅亡して、オレは、自分の身体に戻れなくなる。


 だが、オレは、両目をえぐられた、そんな状態でも、まだあきらめてはいなかった。


 自分の世界に戻るために、大切なチ〇コを取り戻すために、オレは、どんな事をしてでも、絶対にこの世界を救うのだ!

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