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剣と魔法の世界  作者: ぺ
8/20

銀色の女剣士

遅れてすみません

冒険者ギルドのおっさんもといカイトさんに連れられて門から中へ入る。街並みとしてはなんとなーく予想はしてたけど中世のヨーロッパの街並みのような感じ。ただ、なんとなく異世界風な見慣れない建物もある。丸いドーム状の建物がちらほら見える。こんな時こそど田舎民設定を生かして聞いてみよう。


「あの、カイトさん、そこらへんにある丸い建物ってなんですか?」


「あぁ、レンヤ殿は田舎から出てこられたんですね。あれは王国軍の駐屯地ですよ。纏めると隅々まで行き渡らないからああして離して配置してあるんです。」


ということらしい。一つの家に1小隊から少し人通りが多かったり治安が良くない場所は2〜4小隊あり、ここを収める領主の館の敷地内には一個師団が詰めているそうだ。表向きは有事の際に迅速に対応するためとあるが、この街はかなり戦力があるそうで常に見張っているぞという政治的な意味もあるらしい。あと冒険者への抑止力という意味もあるそうだ。ただAクラス以降の冒険者はここの王国軍が束になってもよくてトントンといった強さなんだそうで。


「冒険者への対策になってるんですか…?」


そう思わざるをえない。実際にはAランク以上にもなれば貴族から指名されて依頼を受けたりするので(指名依頼というまんまな名前)問題を起こすやつらはだいたい王国軍でもなんとかなる典型的な雑魚らしいので問題はないそうだ。


「スラムもあってあちらは王国軍の駐屯地なんて作れないから完全に無法地帯なんですがね」


闇市とかもやっぱりあるらしい。まあある程度大きい街や都市には付き物だそうだが、ここは人間の国でも一番強いとされる都市である。冒険者崩れなんかも多く、下手に手を出せないらしい。ただ普通に考えれば王国軍がこんな露骨に配置するような建物を領主が認めるはずもないのだが、この国の初代国王はとんでもなく強かった上にかなり頭も切れるそうで、家臣も充実していたため、初代国王が建国して、ここを開発するとき条文としてここの都市に王国軍を今の形で入れることを決めてしまっていて、必ず履行するようにと念押しして亡くなったらしく、確実に行われ、今更なくすこともできなくて領主も困っているらしい。まぁ関係ないことではあるが。


まぁそんな建物以外では特に変わった建物もなく、強いて言うなら街の中心部に向かうように領地が作られているせいか真ん中に向かうほど人が多くなる。冒険者ギルドは真ん中よりそこそこ西の方にあり、さっき入ってきた門は西門のため、割とすぐに着いた。因みに門は南門以外は存在する。南門がないのはそっち方面に行く人が少ないから門を作る必要がなかったということである。ただ一応都市の周りは石の壁で覆われているが、南の方は門ほどではない小さな出入り口ようなものはあるのでそこからは入れる。ただ人も来ないので門番も大抵1人か2人である。この世界は基本都市は壁である程度覆われるらしい。特にここの石壁は高いらしいがここしか見たことがないので基準がわからない。高さとしては10メートルほどか。それと、東門は王国の各都市がある方向なので、商品の流通や人の出入りが多い。西門は冒険者が8割である。北門の方はお偉いさんやお金持ちが多いので、普通の人はあまり行かないらしい。ただ稼いだ冒険者などがあちらの高級店に行ったりするので全くの無縁でもないらしい。


「つきましたよ、レンヤさんここが冒険者ギルドです。」


そういってある建物の前で止まった。頭の中にこの街の地図を作っていたので気づかなかったようだ。そしてその建物だが、この辺では見ない、3階建てであった。魔法などを使い作ったらしい。この街ではかなり珍しいそうでみんな初見は驚くそうだ。なかも広いとのこと。


「普通はみんな初見はとても驚くんですがね…レンヤさんはあまり驚いてなさそうですね。」


「そんなことはないですよ。顔に出してないだけです」


ちょっと前まで毎日5階建の校舎に通ったりしてたのだ。地球には何十階建とかもあるので三回建程度では驚けないので大嘘だが。


「驚くのを隠すのが上手ですな、交渉ごとなどなかなかのやり手でしょう、入り口付近で話すのも変ですから中に入りましょう」


ごめんなさい。見たことあるから驚かないだけです。多分すぐびっくりすると思います。そんなことを考えながら中に入る。

勝手に予想していた人だらけ。ということはなかった。昼過ぎくらいなので大体依頼に行っているとのこと。あと数時間すれば帰ってくるらしい。


「とりあえず魔石の代金と冒険者登録をさせてもらいます。私は代金を用意するので受付嬢にいって登録してください。登録料は私が代金を用意してくるときに言っておきますので」


と言って行ってしまった。1人になったので、モ◯ハンの集会所をデカくしたような場所の奥にある受付カウンターみたいなところにいく。


「依頼の受注ですか?それとも新規の登録ですか?」


そういって聞いてくるのは栗色のロングヘアーが似合う綺麗目のお姉さん受付嬢さんだ。他を見てもなかなか綺麗な人も多い。少しだけイケメンの受付の人もいるが。


「新規の登録です。登録料はカイトさんが言ってくれてると思うんですけど…」


名前を言い忘れたことに気がついたが、向こうは名前を聞いていたようで、あっさり登録の説明を始めてしまう。


「レンヤさんですね。伺っております。それではこちらの登録用紙に、お名前、出身地、得意な職と戦闘スタイルや特技などをお書きください。お名前以外は無記入でも構いませんが、無記入ですと、パーティを組まれるときにこちら側から人を募集しているパーティなどに斡旋することなどができなくなってしまいます。代筆は必要ですか?」


思い出すのはフォンさんの魔法。言語は通じて助かるが文字の読み書きはできるのか?書いてみてダメなら代筆を頼もう。金かからないよね?と思いながら代筆は一応不要と答え、どこからどう見ても日本語で名前だけ記入する。名前だけなのは、どうせ帝国を助けに行くからそんなに長くはいないのにそんな奴に入られてもパーティ側が迷惑だろうということで、ソロでやるつもりだったからだ。


「これで頼むよ」


と、名前だけかかれた記入用紙を渡す。今更気付いたがこれ通じなければ意味わからん記号書いた挙句にやっぱりわからないので書いてくださいという痛いやつになってしまう。通じてくれ。とアホなことで祈りを始める。


「レンヤ様ですね。かしこまりました。」


通じたようだ。てっきり名前だけなのを言われるかと思って聞いてみたのだが。


「別に珍しいわけでもないですからね。お忍びの貴族様とか。この辺では貴族様は少ないですけど、名前を出せない人とかいますからね。偽名よりよっぽどましです。」


とのこと。受付嬢さんも大変だな〜と見ていると、受付嬢さんからわけがわからないことを告げられる。


「ギルドマスター様がお呼びですので、ギルドカードはギルドマスターとのお話を終えてからお渡ししますね。ではこちらです」


とか言ってついてくるように促したあとにカウンターの向こう側と繋がっているであろう扉から入ってきてくれと言われてしまう。嫌とは言えないので入ってギルドマスターがいるという部屋の前まで案内される。予想外にギルドの中が広く、会議室やら、相談室やらといろいろある。防犯上の理由でギルドマスターと金庫はセットにされて3階にあるらしい。二階は階段を上ってチラッと見えた部分だけなのでよくわからない。資料室とかあったからそういうの部屋があるんだろう。そして3階の他の部屋とは違う豪華な部屋の前まで案内される。受付嬢さんがノックをして、声をかけるとすぐに返事がある。余談かもしれないが、一回は冒険者との”相談”や”トラブルの解決”のための部屋らしかった。


「ギルドマスター、レンヤ様をお連れしました」


「入ってくれ」


どっかで聞いたことのある声である。まさかなぁ〜とか思いつつ先に入った受付嬢さんのあとに続く。中に入っていたのは俺が渡した魔石を机の上に置き、金貨が入っているのであろう袋を持った、カイトさんが座っていた。横にはさっき俺の魔力をみたらしい兵士の仲間だと思ってた人もいた。


「ありがとうミーシャくん、下がってくれ」


「失礼します」


といって綺麗なお辞儀で受付嬢さんは行ってしまう。美人の受付嬢さんはミーシャさんというらしい。行かないでください。僕を置いていかないで!といいながら脳内で女々しくてを再生して現実から逃げようとするが声をかけられて我に帰る。


「そんなに緊張しないでくれていい。別に君が敵だとか思ってるわけじゃない。ただこのレベルの魔物を狩れる君をいきなり最低ランクでスタートさせても損だからね、ある程度融通の利くランクを与えようというわけだ。ただレベルがわからないのでね。この後は時間はあるかな?あるなら私の知り合いと軽く手合わせして欲しい」


ドウシテコウナッタ。断る理由が無い。とんだじじいであったこのギルドマスターもといカイトさんは。何故断れないか。そう、ここでど田舎設定が仇となる。ど田舎から来てるので時間が押しているということはまずないであろう。食費宿代を稼ぐというのも魔石がわりと高く売れたので言い訳には使えない。哀れ俺はいきなりギルド裏の訓練場で模擬戦を行うことになった。相手はこの街のトップクラスに強い人で現役Aランク冒険者らしいので、手加減はしてくれるから全力でやってくれとのこと。魔法の結界もあるから気にせず魔法をうってくれと。因みにSランク冒険者やAランク冒険者には尊敬と畏怖をこめて二つ名があったりする人もいるらしい。二つ名はその人の偉業や、戦い方などからくるものが多いらしい。そんな俺の相手は【氷風姫】と呼ばれるこの街の女冒険者の頂点に立つAランク女性冒険者だそうだ。武器は双剣と風の魔法。氷とは何故か?男に対する態度だそうだ。魔力もなかなか剣はそれは見事な腕前だそうで、勝てる男の方が少ないらしい。ギルドで依頼を見てたところをカイトさんが引っ張ってきたらしい。


で、修練場は貸切なんだが、ギャラリーはそこそこ人がいた。なんでも氷風姫様ことアニータさんは獣人の中でも珍しい狐族の人だそうで、挙句に本人が綺麗な薄い銀に紫がかったロングの髪が似合う狐耳と狐の尻尾がついた正統派美少女だったので、ヒモ目当てのバカ貴族や嫌な視線の男にしつこく勧誘されたり、非公式のファンクラブなんかもあったりして男は余り好きじゃないからとずっとソロなので戦い事態がなかなか見れないらしい。何故そんな彼女に二つ名があるのかというと、緊急依頼でギルド側が半強制で参加を依頼する依頼があるらしいのだが、一度魔物が大量発生して緊急依頼が出たときに氷のような目で風の魔法と双剣を駆使して大量の魔物を殺した功労者なので、畏怖と尊敬を込めて氷風姫と呼ばれているそうだ。緊急依頼は断るとギルドのランクが一つ落ちるらしい。罰金でも対処はできるらしいがとんでもない額なので基本は大体出るそうだ。因みに俺はここである程度強さを示せればギルドのランクが上がり、難しい依頼もすぐにやれて強くなれるだろうという考えだったので、全力でやることにする。いつでも飛翔の短剣を出せるようにしつつ、剣も普通のものだが用意しておく。用意と言ってもアイテムボックスに突っ込んであるので、とりやすいようにするだけだが。


「アニータどの、そろそろ始めてもよろしいか?レンヤどのも」


と、俺が修練場の真ん中、つまりアニータさんのある程度距離を開けて正面に立った時点で声をかけてきた。俺の呼び方がレンヤどのになってるが、どうやらこのじいさん俺を初対面の時から観察して敵国のスパイなどではないか探ってたようだ。随分猫を被るのも堂に入っているので、なかなかあぶねえじいさんだ。要注意だな。


「いつでも大丈夫です。どうぞ」


「俺も大丈夫です。初手貰ってもいいですかね?」


と、全力で強さをアピールするために先手をもらおうと画策する。


「それは貴方のテストですし構いません。ですが貴方は武器を所持していませんが、いいのですか?」


と、声をかけてくる。相手の心配というよりは武器も構えない俺が不思議なのだろう。現時点で構える武器などないので、問題ないと答える。


「このコインが落ちたら始めで構わないか?」


カイトさんがコインを手に聞いてくる。もちろん異論はないので早々に同意する。こっちとしてはとっとと始めたいのだ。


「私も構いません」


そう言うのをきいたカイトさんが頷き、


「始めるぞ」


と宣言してコインを飛ばす。カイトさんはある程度距離をとる。正直先制で結構な威力の魔法を使おうと思っているので危ないかもしれないが、横に俺の魔力を見れる人もいるので、多分大丈夫だろうと感覚を研ぎ澄ます。一応はそちらに行かないように配慮はするが。


コインが落ちた。


落ちたと同時にティタニアと共有して覚えた氷魔法を使う。詠唱は基本不要な俺だが、魔法名と本来の詠唱の一節くらいは言わないと魔法の威力が落ちるので魔法名は一応口にしていた。いざという時には威力が落ちても無詠唱で使えるが、無詠唱は使えないと見せかけるフェイクにもなる。


「凍りつくせ、ブリザード」


アニータさんの顔色が変わる。いきなりぶっぱなされたとんでも魔法に気づいたようだ。すぐにかなりの魔力を使って得意な風魔法で体を包みこむ。やはりというかなんというか魔力の使い方がうまいのか俺のブリザードは防がれてしまう。アニータさんはいきなり最上級魔法を一節で撃たれるとは思っていなかったようで、かなり慌てたように魔力を防御に回していた。かなりの量を。俺の魔力は結構使って撃ったからそれなりの威力のはずだがアニータさんが魔力わ失う以外傷らしい傷がないところを見ると、やはり攻撃側は防御側の魔力を相当上回る出力で出さないと魔力を直接攻撃に変えているのはダメージを通すのが厳しいかと考えつつ、辺り一面凍ってしまったので、高火力の火魔法を使うと水蒸気爆発が起きてしまうのでは?とうろ覚えの知識で次点の選択肢から火魔法を消す。

風に火魔法は有効かもしれないが加減が難しく殺してしまうのはまずいのでその点からも火魔法はなし。元が魔力のものなのでやはり魔法で作り出した氷等は本質的には自然物ではないようで、魔法による防御に弱いな。魔力でできたものには物理的になんとかするより魔法でなんとかしたほうが防御側は効率がいいな。攻撃側は別だが。次は地面の土を使っていくか。といろいろ考えつつ、攻撃をやりきっているアニータさんに意識を戻す。風魔法である程度防いではいるが、やはり最上級魔法の対処は想定外な上にきつかったようだ。こちらに接近するのが遅れていた。俺はすでに次の魔法の一節をいい終えている。ブリザードを無効化したあと、すぐにこちらに向かってきたのは流石一流の冒険者だが、少し遅い。実際にはブリザードを消したのも3秒より少し遅いかといった程度なのだが、いまの状況ではやはり少し遅かった。


「咲き誇れ、土槍華」


一節の文が5文字以上なのは最上級魔法の証拠である。4文字が上級、3文字が中級、それ以下は初級である。本来はクソ長い詠唱が必要なのだが、俺はこのレベルまで短縮しても威力は変わらないし、ある程度まで短縮しても問題ない魔法使いはそれなりにいるようで、そういう魔法使いは優れた魔法使いと言えると思う。元がティタニアの精霊知識データベース(契約時に精霊が得られる知識を勝手に呼んでる)なので、確定ではない。ソースが怪しい情報は確実に信用できるわけではない。やたら魔法関係の情報が多い気がするけど、精霊だから仕方ないのかもしれない。


そして、今撃った土槍華は文字通り地面から土の槍が華のように大量に突き出しては消えていくので、そういう名前なんだそうだ。消えるときの土の欠片が風にあおられて散っていく花びらに見えるから。


氷の下から飛び出てくる土の槍は避けても避けても消えずに追撃を重ねてくる。キラキラと輝きながら散っていく氷は綺麗だが、ぼけっと感傷に浸っている暇はない。魔法にはうったあと術師の力量にもよるがインターバルがあり、最上級魔法は流石に発動して終わりのタイプなら1秒ほどで終わるのだが、魔力が流されている間はあまり複雑な魔法は使えないので、初級程度の魔法しか使えない。実際は最上級魔法なんていうのは個人で早々撃つものではない上に、一種類覚えていればとんでもない魔法使いだ。それをすでに二種類撃ち、疲れも見せずに次の攻撃を仕掛ける準備をしている。傍目からはどんな化け物魔法使いに見えるのか。本人にその自覚はないが。それと、レンヤの策としては、どんなに優秀でもある程度は魔力がなくなるはずだと思い、魔力をある程度削るためにブリザードに続き、土槍華も撃ったので、ある程度は削れているはず。そう考えてアニータに視線を向けると、魔法を発動する前特有の魔力の動きを感知した。無詠唱だと出てくるのもかなり早いので、この魔法感知のようなものはかなり便利だ。スキル獲得音がならないのでスキル外スキルといったところか。スキルも無限に取れるわけじゃないのかな。土槍華を風の魔法で体を軽くしつつ、足場をなんとか確保して攻勢を仕掛けてくるアニータはかなり優秀な冒険者であることは間違いなかった。得意な風魔法の中級魔法を無詠唱ではなってくる。二種類の魔法の同時展開を片方を維持しながらやって見せたわけだ。軽めの身体強化のような魔法とはいえ、誰にでも出来る芸当ではないはず。


土の槍を避けながら魔法を同時進行して放てるのはやはり一流の冒険者の証だと思う。ただ無詠唱なので、威力はそこまでだ。そこまでといっても人1人を殺すくらいはわけないのだが。


土槍華も魔力を流せば永遠と続けられるわけでもなく、初級しか使えないので、飛んできた魔法を空間魔法で飛んでくる位置を予測してタイミングを合わせてその空間を異空間と交換し、魔法そのものを消してしまう。消すというか異空間に飛ばすといった感じだろうか。もしかしたら飛ばした魔法を戻して打てるかもしれない。ため撃ちができればかなり強いな。今度試そう。そんなことを考えているが、別に余裕なわけじゃない。土槍華は基本魔力があるものに、俺が敵と認識した相手に向かっていろんなところからでるから、魔力を流していればあとは勝手にやってくれるというのと、魔法を発動すればわかるし、飛び道具の類を新人相手に持って来てるとは思えなかったので、そんな思考に落ちていっただけである。同時に魔法を発動させるには限界があるが、空間魔法だけは例外だった。なので、安全に、飛んできた魔法に対処するために使用した。なぜ空間魔法だけはフリーなのかは不明だが、本来は他の魔法なら脳で計算しなければいけないところを微々たる魔力で融通できるとかあるのかもしれない。この推論は半分は当たっていたと後で自分で空間魔法についてじっくり調べて判明することになる。結果は微々たる魔力ではないが大部分を魔力で補うため脳への負担が少ないということだ。


「えっ!?」


これにはアニータも驚いたようで槍を避けながら驚いてしまい、最後の槍がかすってしまう。ただのかすり傷だが、そこで動揺したのは間違いない。


「しまった…!」


流石にその隙を見逃すわけにはいかないので、異空間もといアイテムボックスから剣を出し抜刀術のようにアニータに斬りかかる。魔法が来ると踏んでいたアニータはいきなり出てきた剣にも、斬りかかってきた事についても予想外で、咄嗟に剣を出して塞ぐだけで精一杯のようで、剣での斬り合いを不利な体制でスタートしてしまう。剣の斬り合いで不利な体制のスタートというのはかなり厳しいものがある。相手が魔法主体だと思っていたアニータは防戦一方である。たまに苦し紛れに反撃するのだが、身体スペックがとんでもないことになっているレンヤは目まで良くなっていて、一つ一つの剣の攻撃をしっかりとみていた。剣技のスキルも魔の森でそれなりに磨いたつもりなので、剣でもそれなりには戦える自信はあった。観客たちは予想外の展開にほうけるか、食い入るように戦闘を見つめていた。


ただ、レンヤは気が付いていた。このままではまずいと。彼女の剣はとんでもない業物で、自分の剣は恐らく量産のもの。彼女の剣を破壊しようと死の点を全力で使っているのだが、点が小さすぎて思うように当たらない。相当な速さで振り回される剣に小指の先ほども無い点。そんなものを狙い続ける上に二本もあるとなれば、砂漠に落とした砂金の一粒を探し出すよりも難しいことに。そして、武器破壊を狙っていた筈のレンヤの武器の方が、この打ち合いに持たなくなることを。そして、剣が折れるまで無策で打ち合いを続ければ、そのままでは確実に魔法の発動は間に合わないだろう。つまりレンヤの負けである。魔法というのは、一見万能に聞こるし見えるのだが、デメリットはある。超近距離戦では、イメージしてから、そのイメージに魔力を通して発動させるので、剣を振るうよりどうしても遅くなってしまうのであった。


死の点があり、自分の剣もそれなりにはやれるという考えのもと作戦を行った。最上級魔法をいくらうっても、最上級魔法は要は多数へ撃つのに向いている魔法なのだ。最初に相手にも魔法を当てるなり相殺させるなりで、相手の魔力を削ぐためのもので、最初から剣で決着をつけると決めていたので、剣での戦いへ移行してしまっていた。無詠唱の魔法を撃とうにもそれにも一瞬の隙があるので、その隙を突かれると逆にこちらがまずい。空間魔法はタイムラグもほとんどなく、意識したら即時に行われる上に空間に作用するのでピンポイントですぐに効果が発揮されるから現状では最適なのだが、あの魔法は対個人向けなのだが、完全に殺しにしか使えなかった。唯一と言っていい、相手の体の一部を固定して動きを封じる空間魔法は発動する一瞬の隙に斬られるかも知れないし、いまの彼女なら発動する一瞬の後にほんの少し、本当に数瞬だが、魔法発動を遅らせられる可能性もあり、空間魔法は使えなかった。剣が折れるまでいままでの感じからするとあと数合程度であった。なので念のために考えていた最後の策を使う。


恐らく次で折れるであろう瞬間に俺は片手をはなし後手にアイテムボックスをいじる。お目当てのものを引きずりだし、魔力を通す。


「すまないな」


勝ったと思ったのだろう、透き通るような青い瞳が良く見える綺麗な顔を少しだけ不愉快そうに顰めながら彼女は勝ちを確信してそう言ってきた。武器の性能差のおかげなので納得がいかないのだろう。


「まだわからない」


彼女は負け惜しみと受け取ったのか折れてしまうであろう剣を振ってくる俺に同情的な視線を向けつつ、俺の剣を自分の剣で相殺、もとい破壊し決着をつけるべく振るう。


バギィィィィィィン


剣が折れる音が訓練場に響き渡る。

そして勝ちを確信した彼女は俺の剣を叩き斬った剣を引き戻し、その勢いをそのままにもう片方の剣を俺の首へと振るう。


だが


キィィン


金属同士が当たる音が響く。彼女は剣の手応えから防がれたことに気付き、次いで、首筋の短剣を見る。


「私の負け…なんでしょうね」


彼女の首筋には折れた剣を持っていない方の手に握られた短剣が添えられ、背中には二本の短剣が急所を刺し貫ける様に浮いている。そしてもう二本はクロスして俺の首筋に飛んできていた剣を抑えていた。もう二本はもう片方の剣の近くで浮遊していた。彼女はわけのわからない顔をしたあと、首筋の短剣を無言で見て、説明を求める様に俺の顔を見る。その視線に答えて後ろを見る様に首の動きだけで伝える。俺に促されて後ろを見て、自分の急所にあてがわれた二本の短剣を見て、剣を止めている二本と反対側の剣を振るおうとすれば止められる位置に置かれている短剣を見て、最後にもう一度首筋の短剣をみて、言った。


「ああ、完敗ですね…あそこから負けてしまうとは…」


どうやら彼女はこの短剣が魔力で浮いてるのを魔力が通されているのを見て察したようだ。


彼女はそう言ったが、相手に戦闘スタイルも得意魔法もばれていて、相手のことは何もわからないのだから仕方の無いことだとは思う。事前情報というのはそれだけ価値があるのだ。そして肝心の勝ち方だが。


なんのことはない。おれる寸前に離した片手で、アイテムボックスから飛翔の短剣をとり出し。7本の短剣は輪っかに全て通されていて、魔力を通すと輪っかが外れて輪っかは腕にそのままリングのようにくっつく。あとは片手に一本隠しもち、先ほどまでずっと斬り結んでいた剣を振るう。予定通りに折れた剣の影をできるだけ縫うようにしながら、二本の短剣をアニータの背中へ飛ばす。この短剣は魔力操作が非常に難しいのでまだ完璧に魔力を通して動かすことはできないが、本命は俺が握っている短剣なので、あまり問題は無い。あとは、一本だと危険なので二本をクロスさせて剣が飛んでくる位置まで全力で飛ばす。やることは無いが、いまの俺でもまっすぐに相手の急所めがけて飛ばすくらいはできる。こちらにふられている剣だが、一応ギリギリで間に合うはずだがダメでも止めてくれるだろうと考え、もう二本は保険のためにもう片方の剣の牽制に飛ばす。


扱いが難しいとは言え、俺も武器の性能ありきの戦法なので、少し申し訳ない。ただ、武器を含めての俺の実力だし、剣で決まらなかったときのための保険程度だったので具体的な使い方はその場で考えたのだ。許してほしい。


周りは俺が勝つとは誰も思っていなかった様で誰も何も言わない。そしてギルドマスターもまさか実力ならSクラスの入り口に立てると言われている女性最強の冒険者を圧倒してみせるとは思わず、目が点になっていた。


まぁそのレベルの相手をAランクと言い切っていたあたり、いい性格をしているのかもしれないが。本人としてはAでもSでもどちらにしてもレンヤが勝てるとは思っていなかったのだから仕方が無い。


「レンヤさん…でしたか?とても強いですね…私もそれなりには強いと思っていたのですが、自惚れていた様です。いい経験になりました。有難うございます」


この時点では武器の性能勝ちだと思っていたけれど、勝てたことが嬉しく、俺は少し舞い上がっていたのもあり、内心の嬉しさをなんとか隠しつつ返事をしていた。これで速く強くなれると。綺麗な狐耳お姉さんとの会話で嬉しいのもあったのは否定しないが。


「いえ、最後は短剣のお陰ですからね…正直勝ったとは言いづらいでしょう。卑怯かもしれないですね」


そう言ったとき何故か彼女はびっくりした顔でこちらを見ていた。後で知ったが彼女の周りには何でもいいから彼女に勝って自分の女にしたいやつがわけのわからない勝負をふっかけてものすごい自分勝手なルールで勝ちを声高に主張したりしたやつもいたようで、真摯な人と思っていたのだが、そのことを俺がわかるはずもなく、なんか変なことを言ったのだろうかと頭を悩ませていた。そんなときにさらなる爆弾が投下される。俺としては当時はそんなことは思っていなかったのだが。


「あの、レンヤさんさえ良ければ、臨時で私とパーティーを組んでもらえないだろうか?」


とても嬉しいお誘いの上に願ったり叶ったりだったので、二つ返事をしてしまった俺は大馬鹿者である。それを聞いた一部から物凄い殺気が込められた視線が向かってきているが、悲しいかな、対人の経験は皆無なため、レンヤは気付けなかった。きっともう少し対人の経験や人が放つ殺気の経験していけば気付けるようにはなるのだが、それではいまは意味がない。これらが何を意味するのか。それに気付いた時には後の祭りだが、祭り自体は楽しいものだ。仕方が無い。


「まだギルドカードも貰ってませんからすぐにとはいかないですけど、やれるようになったらいきましょう」


正直に言います。とっても嬉しかった。


だが、この時の俺はこれっぽっちも気づいちゃいなかった。実際の実力ならSといっても過言では無い美少女冒険者の二つ名持ち。この街の最強では無いにしても、間違いなく候補には上がるであろう彼女。そんな人を途中危なかった場面もあったが、完封勝利してしまうこの世界では見た目15歳の俺。しかもなかなかのイケメン。面倒ごとの匂いしかしなかったが、全く気付けないままだった。









そろそろ本格的に話が動きます。書いてて序盤は楽しくなかったけど今回は楽しかったです。やっと真っ当な戦闘シーンをかけた。

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