ラスボス死す
「とりゃああああああああ!!」
「ぶほっ!? な、なぜ……ぐふぅ」
……うん、死んでるな。
今、俺の前には爺さんの死体が転がっている。聞いての通り、俺が殺したわけだがちゃんと理由がある。
まず、こいつは自称神で俺を日本から異世界へと召喚しようとしたらしい。正確には俺だけではなく、俺を含んだ桜坂高校2-Aのクラスメイト30人をだ。召喚した理由はテンプレですかと言わんばかりの魔王討伐。魔王とは地球とも、今いる異世界とも違う、ほかの異世界から堕ちてきた神だそうだ。
神なんだから自分でできるだろうという問いには、「自分の世界には大きい干渉ができない」とのことだ。
自称神の爺さんは俺たちを召還する際、異世界の一つの国に神託をし、その国へと送る予定だったが、魔力を持たないはずの地球人である俺が魔力を持っていたことが気になり俺だけ『神の間』なる場所に召喚した。
と、このようなことを言われたわけだが、ここまで説明された時点で俺の頭にビビッと来るものがあった。
どっかの剣と芸術のゲーム系小説だったり、見た目は子供、頭脳が大人な漫画だったりに該当する
『序盤に出てくる奴が黒幕』
というものだ。
自分の世界に干渉できないけどほかの世界、ここでは地球、には干渉できます。
神様だから誘拐してもいいよね?
ぼくには倒せないからあなたがやって?
絶対悪役だろう。
魔王倒したら、「よくぞ魔王を倒したな! だだ、真の敵は――」みたいな展開になるのは目に見えている。どうせ、魔王も自分の分身ですとか、実は魔王とお前たちでどっちが勝つかで賭けしてます、っていう展開なんだろう? そういう小説読んでるから知ってるんだぞ。
そんなわけで、爺さんの懸念していた俺の『魔力』を使った技で悪者退治をしたわけだ。
とまぁ、長々と説明したわけだが何も起こらないな
このまま『神の間』とやらに監禁されるわけではないだろうな?
『神の間の所持者が倒されました。これより、神の間内にいる人物を召還元へ送ります』
な、なんだ!? 頭の中に直接……!!
あれ、意識が……これって召喚された時と……
「んっ……ここは?」
確か、異世界召喚されて……
「ん……ここはどこ?」
「な、なんだ!? 俺たちさっきまで教室にいたのに!」
「誘拐!?」
「ママ―!」
クラスのやつら慌ててるな。俺は事情を神直々に説明されたから落ち付いてられるけど、何にも事情をしらないんだから当然か。
というか最後のやつ、ス○夫の声まねすんな。お前楽しんでるだろ。
「優希くん! これどういうことなのかな?」
「ん、坂下か。さぁ?」
俺に話しかけてきたのは坂下由紀子。平均的な体形で、黒い髪を肩まで伸ばしている。
なかなか可愛い顔をしており、俺にちょくちょく話しかけてくる。
ちなみに俺は西條優希。平均的な体形で、顔は普通だ。
「坂下は結構落ち着いているんだな?」
「さっきまで慌ててたんだけど、優希くんが落ち着いてるの見て、冷静にならないとって思ったんだ。優希くんは何で落ち着いていられるの?」
「なんとなくな」
さすがに神に会いましたなんて言えないだろう。
「みんな、落ち着こう! 何があったにしろこういう時は落ち着かないと!」
おっ、クラスの人気ものがまとめだした。
彼は空野光輝。身長が高く、頭脳、運動神経、正確も良いというイケメンくんだ。
「そ、そうよね!」
「俺は最初から慌ててなかったぜ!」
「何言ってんだよ、ばっちり慌ててたのにさ!」
「う、うるせー!」
みんな落ち着きを取り戻したようだ。さすが空野君ってところか。
「それじゃあみんな、まず状況を判断し――」
ばん!
「ようこそいらっしゃいました、勇者様方!」
「あなたは?」
「わたくしは、ロロノア国第一王女のアンナ・マフ・ロロノアです」
「俺は空野光輝といいます。これは一体……」
「今、この世界は魔王によって征服されそうになっています。それを食い止めるために、勇者様を召還せよとの神託がおりましたので、空野様方を召還させていただきました」
すまん、たぶんラスボス倒したわ。
「魔王……勇者……? 俺たちはそんなたいそうなことはできませんよ?」
「それに関しては大丈夫です。異世界から来た勇者様方はかならず、大きな才能を持っています。それが開花すれば魔王を倒すことができます!」
「俺が勇者、そしたら坂下さんにも……」
何ぶつぶつ言っているんだ?
「わかりました! 本当に俺たちに大きな力があるなら魔王を倒して見せます! なっ、みんな!」
「そうよね! 人助けできるならやらないと!」
「おうよ! 俺が勇者になってやるぜ!」
なんかクラス全体が乗り気だ。ここは黙っておくべきか、「死んじゃうかもしれないんだよ!」とでもいって反論するべきか……。
「ゆ、優希くん、私たち大丈夫かな?」
「坂下は不安か?」
「だって、いきなり勇者だなんて言われても実感湧かないし。戦うだなんて私……」
ちゃんと、危機感を持っているようだな。坂下はこういうところがいい女なんだよな。
「そ、そんな、いい女だなんて……」
「あれ、口に出てた?」
「うん……」
やばっ、友達少ない影響で独り言出ちゃったかな。嫌がってはないし、良いかな?
「よし、坂下が不安なら俺から言ってみよう。おーい! 空野君!」
「ん、どうしたんだ?」
「盛りあがってるところ悪いんだけど、少し考え直さないかっていう話なんだけど……」
「どういうことだ? まさか困っている人を見捨てるのか!?」
「いや、そういうことではない。俺たちは大きな力がある。だから助けるべきだと思う。空野君の言う通りだ」
「うん、それはそうだろう」
「空野君は優しいし、とても勇者に向いていると思うよ」
「な、なんだよいきなり……」
まずは、相手のことを肯定し、後の反論を通しやすくする。
「でも、戦うことが苦手な人とかいるじゃない? もしかしたら持っている力が戦闘に使えないものかもしれない」
「それは……」
「ほら、坂下さんも不安になってるかもよ?」
相手のこころが揺れ始めたところに、実際に不安そうな顔をしている人を挙げる。
「――!! 確かにそうかもしれないな」
思ったより効き目が大きいな、坂下さんと何かあるのか?
まぁいっか。
「でしょ? だから戦える人は戦って、無理そうな人はほかのことで活躍しようよっていうこと。何も剣をつことだけが戦うってことではないしさ」
「……そうだな、優希の言う通りだ! みんな、優希の言ったことを加味して、考えよう!」
「そうね!」
「俺も同じこと思ってたぜ!」
「さっきまで俺が勇者だとか言ってたくせにー」
「う、うるせー!」
よし、こんなんでいいだろう。
「どう、坂下さん?」
「ありがとう! やっぱり優希くんはすごいな。こういう時にちゃんと意見が言えて、しかも雰囲気を悪くしないし」
「ま、そういう性分だからね」
特別仲の良いやつはいないが、クラスでの集まりや話し合いなどでは積極的に参加するので邪険にされないしな。自分で言うのもなんだが、結構良い立ち回りができていると思う。知り合い以上友達未満な関係だから友達特有の無茶ぶりもないし、それなりの中ではあるのでハブられたりもしない。
「それでは皆様、私の父、国王様と会っていただきますのでついてきてもらえますか?」
「わかりました。みんなもいいな!」
「「「はい!」」」
「国王様、勇者様方を連れてまいりました」
「うむ、ご苦労であった。勇者様方は、楽にしてくれ」
「は、はい!」
王室でいいのかな、そこに連れていかれた俺たちはさっそく王様にあっている。
光輝は場の雰囲気と、相手が王様ということで若干緊張しているみたいだ。
なんせ、左脇には兵士らしき人、右脇にはいかにも魔法使いといった帽子とマントを身にまとっている人がおり、正面には王様と、王妃様らしき人もいる。
「私はロロノア国王様のカインズ・マフ・ロロノアという。この世界の状況は娘に聞いただろうか?」
「はい、魔王に侵略されているということですね」
「その通りだ。協力してくれるだろうか?」
「はい、もちろんです。ですが、いくつかいいでしょうか?」
「うむ、なんだ?」
「なるほど、確かにそうだな」
光輝が俺の言ったことに若干の付け加えをして王様に説明をしてくれた。
「では、戦えるものは戦い、無理なものも別の形、生産等で協力してくれるということだな」
「はい、そのつもりです」
「そうか、ありがたい。当然のことだが、勇者様方の生活に関してはこちらが保証しよう。勇者様方、他に何か聞きたいことはあるか?」
「はい」
「ん、お主は……」
「西條優希と言います」
「優希よ、なんだ?」
「魔王に侵略されているとのことでしたが、本当なのですか?」
「貴様! わが国王様がうそを言ったと――」
「まて、セシリア。最後まで聞きなさい」
「わかりました……」
うぉ、王様に一番近いところにいる女性の兵士がめっちゃにらんでる。
「して、どういうことだ?」
「俺たちは今日初めてこの世界に来ました。ですから、この世界のついては何にも知りません」
「うむ」
「もし俺たちが魔王に召喚されて、魔王の国があなた方に侵略されていると説明したとしたら、俺たちの中ではあなた方が悪者という認識が生まれます」
「……確かに」
「こういった理由で先ほどの質問をしました」
「なるほど、だが私には証明しようにもどうすることもできないぞ?」
「心配ありません。嘘ではないことは聞いていてわかりました」
「貴様! バカにしているのか!」
「まてセシリア、最後まで聞け」
「はい……」
「して、ではなぜそのような質問を?」
「何も知らない相手のことを信用する勇者なんて、魔王に勝てそうもないでしょう? 力があっても、すぐに騙されてしまいます」
「確かに」
「ですから、この質問の意味は、簡単には騙されないので安心してくださいというメッセージのようなものです」
「なるほど、確かにただ信用するだけよりも安心できるな。どうだセシリア、納得したか?」
「はい……」
セシリアっていう兵士めっちゃ落ち込んでるなー。
「セシリアさん、王様のことを心配していたんですよね? その心意気はとてもいいことだと思いますよ」
一応フォローしておかないと雰囲気が悪くなるからな。こういうところが俺の性分につながるのかなー?
「――!! か、感謝する……」
うん、大丈夫そうだ。
「では、ほかに質問はあるか? ……大丈夫そうだな。ではこれから住んでもらう部屋を案内させよう。一人ずつ、世話係をあてよう。明日から訓練をしてもらうであろうから、今日はゆっくり休んでくれ」
異世界での生活も、何とかなりそうだな。
「はぁ……」
「空野君、どうしたんだ?」
王室を出て、住む部屋へと案内されるところだが、空野がため息をついているな。
「さっき、優希が王様に言ってただろ? それを聞いて俺ももっと考えるべきだったかなって思ってさ……。優希がいなかったら本当に騙されていたかもしれないし」
だからため息ついていたのか……知ってたけど。
「空野君の良いところはそのまっすぐな心だろう? 今までだって、その心に救われた人も多いはずだ。俺にはそんなことはできないから適材適所だよ」
「優希……」
よし、光輝へのフォローはこんなもんでいいだろう。
「優希、ありがとう! 明日から頑張ろうな!」
「おう」
明日から楽しみだな。
……そういや、神殺しちゃんたんだよな。
チャンピオンがいない○ケモンや竜王がいないド○クエをどうやって楽しめばいいんだ……