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ゴン助

作者: 馬路キレ子




≪読む前に注意≫

この物語はフィクションです。

実際に存在する団体名、役職名などは一切関係ありません。

描写に関してあえて端折ってる部分がありますが

そこは想像で保管してください。







「これは私が小さいときに、おじいさんに教えてもらったお話です」


都会の喧騒を離れた場所に、えらく気張った紙芝居屋が来ていた。

お題目はなんだ?桃太郎か?浦島太郎か?金太郎か?


「今日のお題目はゴン助」


ゴンスケ?聞いた事ない話だな。

どれ、ベンチに寝転ぶのにも飽きたし、話を聞いてみようじゃないか。


「昔々、山の麓に貧しい村がありました。そこにゴン助というものがおりました」


昔々なにがしという、紙芝居によくあるいつものパターンだな。


「ゴン助の母はゴン助を生むとすぐ亡くなり、父親はゴン助が6歳の時に病気を悪くして死んでしまいました」


天涯孤独か、よくあるパターンだ。


「ゴン助は真面目でありましたが、両親が居ないということだけで、それからまっとうな仕事につくことも出来ずに、15の時、ついに盗人になりました」


堕ちたなゴン助。


「盗人家業に精を出す中、旅をしながら各地を転々とするゴン助は、川で水を飲んでいると、そこにある罠を見つけました」


お、物語の起か。何が起こるのだろう。


「ゴン助は川べりにかかった罠をよく見ると、美味しそうな川魚やウナギなどが大量にかかっており、これはシメシメと今日の晩御飯にしようと奪っていきました」


さすが盗人。しかしその罠の持ち主は誰だ?


「しばらくすると川の手にあでやかな着物を着た美しい娘が一人。川べりにかかっていたはずの罠の所を見てシクシク泣いています」


どうしたのだろう?


「ゴン助は魚を頬張りながら娘のほうを眺めています。美しい娘でした。ゴン助は悲しみに暮れる艶やかな彼女の姿を見て、何か心の中で熱い物を感じました。彼は、生まれて初めて恋をしたのです」


一目ぼれってやつか。


「ゴン助はシクシクと泣く美しい娘の後をこっそり追いました。夕暮れの道を進みたどり着いたのは、ゴン助の暮らした村を思い出させるボロくて貧しい集落の長屋の一軒でした」


思い出か。


「娘が家屋へ入ると、ゴン助は後を追うようにすぐに障子戸の横につき、聞き耳を立てました。薄い障子戸の中からは苦しそうなうめき声が聞こえます」


誰かいたのか?旦那か?


「美しい娘は言いました。『おとうさん、すいません。病気のお父さんのために精のつく食べ物を取りたかったのですが、誰かにとられてしまいました』と」


うわーゴン助いたたまれねえ。


「娘のお父さんは何も言わずに苦しそうな顔をわざと笑い顔に替えて言います。『お佳代、お前はいい娘だった。盗んだ奴を憎んじゃいけないよ。私はどうせ長くない。お佳代のその気持ちだけでいいんだ。母さんも死んで、私もじきに死ぬだろう。これからはお前の幸せのために生きなさい。私のことは忘れてくれ…』そういって父親は息を引き取りました。お佳代は一晩中泣きじゃくりました」


娘は天涯孤独、ゴン助と同じ境遇になったのか。


「ゴン助はいたたまれない気持ちになりました。たとえ盗人の身に自分を落としたとしても、彼も人間です。同じ天涯孤独になった者の気持ちがわからないはずありません」


そうだろうなあ。


「その後、お佳代の父親の葬儀が終わり。チラチラとゴン助は顔を出しては、お佳代のために何かしてやりたいと思いました」


健気だな。


「しかし、ゴン助は盗人の身。会って話せば役人に捕まってしまうし、お佳代の父親を間接的にとは言え殺してしまったため、自分の正体も明かせず、つのる恋慕との板ばさみになりました。かといって嘘をつけるような人でもなかったゴン助は、一計を考えました」


ほうほう、どんな作戦?


「自分の手足についた自慢の盗人の技で、お佳代に援助をしようと思ったのです」


盗人が良心に目覚めるわけか。


「その日からゴン助は色んな盗みを働きました。アコギな両替商から金を奪い、威張った侍からスリで身銭を巻き上げ、人を騙す庄屋の倉に忍び込んだり、女をかどわかしては遊郭に売り。おどろくべき早業で大金を作っては密かにお佳代の家に放り投げていました」


恋は盲目かね。まったくやることが大小凄いこと。


「お佳代は不思議がってゴン助の投げ込む金には手をつけませんでした。ですが金の匂いは誰しも塞げません。そのうちに長屋の隣に住んでいる意地悪庄屋の息子、半兵衛がお佳代の隠し持った金に気づいてしまいました」


これはやばい匂いが・・・。


「半兵衛はこれは自分のところから盗まれた金ではないかという旨をお佳代に言うと、もちろんお佳代は知らないの一点張りでしたが、半兵衛は怒ってお佳代を襲いました」


やばっ助けろゴン助!


「その頃、ゴン助はいつものようにお佳代の長屋の前で金をいれようとしていましたが、中で襲われているお佳代を見て、いてもたってもいられず、中に入るなり持っていた短刀で半兵衛を殺してしまいました」


ナイスゴン助!グッジョブゴン助!


「ゴン助はお佳代に『怪我はないか』と言うと、お佳代は乱れた衣服を整えながら何度もゴン助にお礼を言いました。ゴン助はお佳代のチラッと見えた柔肌が目に焼きついていましたが、恋した女に恥はかかせられません。顔を背けて、後ろを向いて、聞こえるお佳代の衣擦れの音に、何度も自分に湧き上がる興奮を抑えました」


男なら誰しもわかるなその感じ。ところでなんかこの話エロくないか?


「お佳代は半兵衛の死体を見ながらゴン助に再び感謝をしつつ、名前を問いました。投げ込んでくれたお金も彼がしてくれたものだと直感的に感じました。しかしゴン助はお佳代の質問にそっけなく『襲われていたのを助けただけで、金は自分ではない』と答えました。何度も執拗に問うお佳代でしたが、ゴン助はそっけなく言い返します。盗人である身分と、恋焦がれる自分の両方に悩んでいたのでしょう。結局何も言えず、半兵衛の死体を担いで川にいきました」


ゴン助、本当は言いたいのに、男だね。


「ゴン助は半兵衛の死体を夜の内に川辺に流すと、何も言わずにお佳代の元を去っていきました。しかし翌日、河の手にあがった半兵衛の死体を役人が見つけてしまい。凶器の短刀と長屋の血の跡から、犯人はお佳代ということになってしまいました」


冤罪だな…。


「お佳代は奉行所の白州に出されましたが、何を聞かれても何も言いませんでした。縄目にあいながらも、助けてくれたゴン助の事をかばっていたのです」


健気だなぁ…。


「ゴン助はそのことも知らずに、いつもどおりの『お勤め』をしていました。金をもってまた影ながらお佳代を助けよう、そうすれば何時の日かお佳代に告白できる日がくるさ、それまでは我慢するんだと自分を言い聞かせていました。そして、その頃、奉行所で裁きを受けるお佳代の罪が決まりました。3両以上の盗みと半兵衛を殺した殺人の罪で張り付けの極刑、死罪です」


ああああああ…


「ゴン助がお佳代の処刑に気づいたのは、処刑当日の朝でした。ゴン助は今まで盗んだ金を全て風呂敷にいれると、刑場まで急ぎました。遠い刑場まで、ひたすら思い荷物を持って走るゴン助の額から流れる汗は、そのうち枯れ。不安定な砂利道に何度も躓き、すでに草履は剥ぎ取られ、裸足で砂利を走るゴン助の足はいたるところ流血していました。しかしゴン助は走りました。まだ自分の名も心も告げていない女のもとへ」


……。


「ゴン助がついに刑場にくると、十字の張り付け台にくくりつけられたお佳代の姿がそこにありました。ゴン助は倒れながら顔を向けて言いました『盗みも殺しも、私がやりました!その娘につみはありません!裁くならどうか私を!』と」


…。


「奉行が驚いた目で立ち上がり、張り付けになっているお佳代に言いました。『あの男の話。本当か?』と」



「しかしお佳代は首を横に振りこう言いました。『会った事も、見たこともない男です。どこぞの遊女と間違えているか、どうせ私のやったことを愚かにも笑いに来た偏屈なやつでしょうよ』と」


…ああ…!


「奉行は訝しげにお佳代を見ていたが、表情も変えず胸を張って言うお佳代の態度は嘘をついているようには思えませんでした。何度も大声を張り上げるゴン助でしたが、ついに声は届かず。お佳代は処刑されてしまいました」


…なんという不運。


「ゴン助は川原に手を何度もうちつけて泣きました。自分の優しさのせいで好きな女が死ぬ。悔しくて悔しくて、皮が破れ、血が出て、風呂敷に包んだ金があたりにばら撒かれても、ゴン助は一度も顔をあげることなく泣きました」


…無念としか言いようがないな。


「ゴン助は刑場の近くにあった綺麗な花を見て、お佳代の事を思い出し。亡骸の近くに小さな墓をたててやりました。花をそえて、小石を積み上げて、ゴン助は何度も何度も謝って拝みました。生前のお佳代を憎み、その墓を倒す人もいましたが、ゴン助は毎日同じ所に来ては墓を建て直し、泣いて謝るしかありませんでした」


………


「その3年後、ゴン助は盗人家業から足を洗って、町で立派に飾り職の職人家業を始めました。ゴン助は手先が器用でしたからメキメキと腕をあげ、街一番の飾り職人となりました。その一生懸命さから、器量良しの娘との縁談もありましたが、ゴン助は全て断りました。お佳代の影が見えたからかもしれません」


…えらくなったな


「そして四十を迎えたゴン助は、町に捨てられた赤ん坊を養子に迎えました。赤ん坊は女の子でした。ゴン助は、血色良く色艶が整ったその赤ん坊と添えられた艶やかな産布を見て、この赤ん坊に名をつけました。『お佳代』と…」




パチ…パチパチ


「おやおや、子ども達は、とうに居ないのに大人が拍手をしちゃあいけませんよ」


「いや良かったよ。ゴン助。心にしみる話だった」


「そりゃいけませんね。心にしみるなんてのは古傷のある人の言い方ですよ。もしかしてお客さんはすねに傷持つ人なのかい?」


「昔ちょっとね…どうだい、種になるかどうかはわからないが、俺の話を聞いてくれないか?」


「そりゃ結構。私も話は大好きでね。どうです?酒でも酌み交わしながら」


「いいねえ…ゴン助の話の続きを聞こうじゃないか」



こうしてひょんなことで出会った紙芝居屋と俺は

寒空の中、赤提灯を目指して歩き始めた…。



=====あとがき=======


最初は童話のゴン狐の現代版を書きたかったのですが、

救われないはずのゴンが助かって生き延びちゃったり

嫌な気分になる最期の部分をちょい幸せで終わらせたりと

いつの間にか、ごんぎつね+大岡越前+メロスという

感じになってしまいました。


原作のゴンぎつねの主人公に撃たれて死ぬのは

最期の火縄銃の演出と供になんとも切ないです…


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