再開
シンタたちは馬車の修理をしつつ、ソノが料理を作っていた
「おー。やっぱ空きれいだなぁ星がすっげえ」
「そうじゃのー主殿。あの街では夜も雲があってよく見えなかったからのう」
「あー都会の空はダメだ。やっぱ田舎だよ田舎!」
俺とミオがそんな会話をしていると
「えーーーここは結構都会なんですよ?あの街だって、この国で1、2を争う規模でさらに最先端魔術研究院もあるんですよ!」
ソノが田舎と言われたことに不服そうに街自慢を始めたので、あわてて俺は
「や、悪い、そういうわけじゃないんだ。俺らのいた世界では魔法はないけど、科学ってのが発展しててその科学のせいで、空が曇ってたんだ。だから科学のないこの世界の空は、俺たちの世界の田舎の空とよく似ているんだ」
そう、決して馬鹿にしたわけじゃない。それに純粋にこの星空は感動ものなんだから
「うーん。よく分かりませんけど・・わかりました。それより馬車直りそうですか?」
「ああ、大丈夫だ。修理道具があってよかったよ」
馬車の荷台には修理につかえる木や釘が常備してある
俺はその中でつかえそうな木をつかって、痛んだ車輪を補強していた
慣れない事だが、俺の32年の経験の中には色々役立つことも多い
これくらいのDIYは任せてくれ
「よし、できたぞ。不恰好だけど大丈夫だろ」
「こっちも出来ました。簡単なスープですけど、飲んでから進みましょうか、酔い止め効果の薬草を入れておきましたし」
「あー・・・助かる」
さっきの悪夢を思い出してしまった
本当はもう疲労でクタクタなんだが、妙な緊張感でまだまだ大丈夫そうだ
「主殿!魔力感知じゃ!転移してくるぞ!」
ミオが叫ぶ
俺は、始めての戦闘行為があるかも知れないと思うとそんな緊張感で胃がキュっとする
俺は腰にさした剣を抜き放ち構える
ヴンっと言う音とともに一瞬空間が歪む。
そしてそこに現れたのは一人の女性剣士のようだった
「何者だアンタ」
俺はゴクリと喉を鳴らす
剣を握る手にギュっと力を込める
「それはこっちのセリフ。あなたたち何しているの?この先には吸血鬼がいるのよ?見たところ冒険者に見えないしって!!??」
彼女は何かに気づいたように目を見開く
そして
「シンタ・・・君?」
俺はゾクりとした。この辺に俺の名前を知っている奴などいないはずだからだ
「そうだけど、何者だアンタ・・・・名乗ってもらえるか?」
「やっぱり、シンタ君!久しぶり!ミツキよ!」
は?
「ミツキ?なのか?」
1ヶ月ぶりに見る彼女はまるで以前の雰囲気はなく、鋭い気配、そして綺麗な金髪になっていた
「いや、ちょっとまてよ。ミツキは金髪なんかじゃなかったぞ?」
「あのねぇ、私だってこっちきてから色々あったのよ。ちなみにこの髪の色は妖精の女王に会ったときにかえられちゃったから」
「よ、妖精の女王!?」
「そうよ。そういえばシンタ君はいつこっちにきたの?」
「俺は1週間前くらいかな・・・」
「そっか、それじゃまだほとんど何も知らないんだね。こっちの世界は凄いんだから!」
ミツキと久しぶりに言葉を交わす、
今までのこと、そしてこれからのこと
なぜ異世界に来たのかその理由は教えもらえなかったが
彼女の今までの冒険は俺を熱くさせるには充分だった
魔力を得るための聖域への冒険
俺たちと違い、神山への登頂だったらしい
そしてアウラ地下遺跡での「古の武器」入手
天空遺跡では固有能力を手に入れ、魔犬の討伐
とどめは国王の御前試合優勝にての褒美の数々
色々と国をあげてのサポートが得られるらしい
だがわずか数ヶ月での冒険にしてはハードすぎないか?
「へぇ、ミオちゃんはシンタ君の使い魔なんだ」
「そうじゃよ、使い魔、と言うよりは恋人じゃがの」
誰が恋人だ!!
ミオとミツキはすっかり打ち解けて話をしている
その間俺とソノは馬車の準備を終えていた
少し先にいるミツキの仲間を紹介してくれると言い、合流するために出発した
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ー魔女アリスの家ー
「さてっと、あいつら寄り道してないだろうね、ソノも流されやすい子だからね・・」
今夜は一人きりの食事だ
ソノはあいつらに貸し出してやった
あの子がいれば、大概の不運からは逃れられるだろう
ソノの固有スキル「幸運の使い」があるからね
アリスは無造作に取り出した煙草に火をつけ、煙を吸い込む
ふぅ、と吐きはす
それを数度繰り返して
「で、何の用なんだい?」
虚空に向け話かけた
「あははははッ。久しぶりアリスちゃーん。元気してたァー?」
いつの間にかそこには一人の少女。赤い髪、赤い瞳、褐色の肌に赤い服
「うるさいね、あんたは相変わらずだねマイア」
マイアと呼ばれたその少女は、無表情に笑う
「やだァー、ちょっとババくさいんじゃないその言い方。おばあちゃんって、呼ばれちゃうよ?」
けらけらと無表情で笑う
「で、本題はなんなんだい?アンタがわざわざ来るってことは相当大きなことがあったんだろう?」
「そうよぉー。アレなに、あの異世界から来た少年。アリスちゃんまだ異世界者に優しくしてたんだー?」
「うるさいね、いいだろ、好きなんだ」
「ウッソ、ほんとはあの男が帰ってくるかもーって優しくしてるんでしょー」
アリスの顔がカァっと赤くなった
「いいじゃないか別に!あいつはもう帰ってこない!それはわかってる!」
自分でもびっくりするくらいの大声が出てハっとする
「あちゃーごめんごめん、そんなに怒らないでぇー」
けらけらと、手を振る。謝っている素振りを見せたかと思うと、
急に怒ったような表情になる
真っ赤な瞳が、まるで本当に燃えているような
「アリス、魔王が復活した。」
真剣な声。先ほどとはまったくといって良いほど違う声色で
「なんだって・・・?そんなバカな、魔王が現れるのはあと100年は先のハズだ」
「アリス、これは私とアンタを除く魔七星と聖七星、全員が確認した。」
「そんな・・ばかな・・・」
アリスの持っていた煙草が、ジジジッと音を立てて燃え尽きる
灰が零れ落ちた
「この聖域の結界の外に出てみるがいい、その存在が確認できるはずだ」
太古の森には結界敷いてある、だがそれは外敵を弾くとともに、アリスの感知スキルをも外界とある程度阻害させている
「いや、いいさマイアが言うんだ、本当だろう」
コクリ、とマイアがうなずく
「だが正確には復活ではない。二代目、魔王と言った所だ」
「どういうことだい、アレ以外は魔王とは呼べないだろう?」
「ややこしい話になるかもしれないが、二代目なのだ。だがその力は本物だ。あの魔王に匹敵する力を持っていると思われる」
「確認したのかい?てことは魔七星のアスタか?」
「ああ、そしてその結果、魔七星のアスタと、聖七星のガストが死んだ。」
「なっ!・・・・・・」
魔七星のアスタは、その中にあって最大の防御力を誇る
聖七星のガストは、その中にあって最強の魔法使いだ
その死ににくさの相性の良さから、二人は先行していつも情報収集していたのだ
その二人が死んだ
これはかつての魔王討伐の時でさえなかったことだ
「かなりの異常事態のようだね・・・」
「元老院は新たな魔七星と聖七星の補充、そして二代目魔王を倒すための勇者作りを始めた」
ふむ、とアリスは考える
シンタが言っていた異世界の知り合い・・・が、来ていると言っていた事を
「それで勇者召還が行われたか」
「それは知っていたか。そうだ、勇者召還が行われたのだ」
「分かった、で、私に何をしろと言ってきたんだ。元老院は」
「今回は手を出すな。だそうだ」
チッっと舌打ちをするアリス
「奴らなにをたくらんでる」
ふう、っと空気が軽くなる
怒りの炎に燃えていた少女から怒気が消える
「キャハ、そういうことだから、よろしくねー♪」
そういい残して彼女はその場から消えた
「何もするな、か。シンタに手助けしたのがバレてたってことかい」
ふう、と気を抜くといつのまにか立ち上がっていたアリスは椅子に座りなおし、
また、煙草を取り出して火をつける
「すまないね・・・ソノ、シンタ・・・なんかあったらあたしが・・今度こそ・・」
そう消え入るような声でつぶやいたかとおもうと
ポタポタと
涙が床をたたいた
「キャハハっ」
空を飛ぶように跳ねる、赤い少女
「あれで良かったのですかな?」
その少女の横に暗闇から一人の老執事が現れた
「うん、いいのよぉー。ああいっとけばアリスちゃん動いてくれるでしょ?」
「さすがですなマイア様」
「そう、いい加減、元老院のおじいちゃんたちには退場してもらいたしねぇー」
にやりと、無表情で笑う
「ですが魔王はどうしますか?アレはやっかいですぞ」
「そうねぇ。ま、人造勇者の「ミツキ」ちゃんがなんとかしてくれるでしょ♪」
そう言いながら二人は虚空に消えていく
「早く強く、なってもらわないとね「ミツキ」ちゃん♪」
そう、つぶやいて。
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ガラガラと馬車が進む
あと少し、向こうにはキャンプが見える
明るいのだが、なぜか認識できるような、出来ないような変な疎外感を感じる
ミツキによるとあれが結界の効果だといっていた
結界とは2種類あり、ひとつは認識阻害の結界、もうひとつは物理結界
そして認識阻害の結界は高等魔法だと
「ほら、もうつくよシンタ君。みんなに紹介してあげるからね」
心なしか、出会った瞬間よりもテンションが高いな
久々に知り合いに会うとこんなるのも仕方ない、か。俺はたかだか一週間前まではあちらにいたし
ミツキこっちに来たのはもう10ヶ月前になる
「ふぁ・・・眠いです」
「大丈夫かソノ?」
「大丈夫です、まだしばらくは起きておけます」
もう深夜・・だからな
ガララ、と馬車が止まった
「マリー、ただいまー」
「おかえりなさいミツキさん。どうでしたか?」
「えっへー。知り合いに会っちゃったよ」
「お知り合い、ですか?」
「うん、異世界のね。私と同郷の」
「え、そうなんですか!?凄いです!」
そう話す二人をみて俺は思った
あれがミツキの仲間か・・
マリーと呼ばれる女性。すごく綺麗だ
まるで人形の様に。だがその表情はコロコロと変わり、とても可愛い印象を受ける
「あれ?ドルファーは?」
「ああ、ドルファーさんなら今ダグルさんを呼びにいくといって出て行ってます」
ふぅん、とミツキ
ドルファーはここに来る道中に説明を受けた剣士かな?筋肉が思考しているとか言ってたな
「マリー、俺はシンタ。よろしく」
「我はミオじゃ。よろしくのぅ」
「えっと、ソノです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。ミツキさんの仲間で、マリーといいます」
ニコリ、と笑った彼女はとても可愛い
「あれ?ミツキさん・・・あの・・・ミオさん・・って・・」
「あ、使い魔みたいよ。シンタの」
「いえ、そうではなくてその・・・・尋常じゃない魔力が・・・・」
マリーさんの綺麗なお顔が引きつっている。
美人は引きつってても綺麗ですな!
「あ、あー強いよね彼女!もーびっくりしちゃった!」
あっけらかんと話すミツキにマリーは、
「いや、強いですむレベルじゃないでしゅよぅ・・・」
「でしゅよう・・・」
なんか泣きそうになってるし。美人は泣きそうな顔も綺麗です。色気あるわ
「ふむ、我などまだまだだと思うぞ。マリーよ、気にしないでくれ」
ミオが手を振りながら
「それでまだまだってぇー・・・私って・・教会トップレベルのはずですのに・・・」
あ、なんか自信はあったんだねそこ
つか教会ってなんだ
俺の感知スキルで見てみると確かにマリーも強かった
魔力はミツキの倍くらいだ。だけど相手がミオではお話にならない
そんなことをしていると突如、ぐぐもった声と血の臭いが漂ってくる
「がはっ・・・・・・・・・まず・・い!逃げるんだ!」
振り向けばそこには血まみれの・・・・ドルファーがいた